序章じょしょう その数かず センチ下した に
足あし の裏うら は、いつも何なに かの上うえ にある。コンクリート、タイル、アスファルト——現代げんだい の生活せいかつ は、その下した にあるものを見み ないで済す むように設計せっけい されている。
この稿こう は、その一いち 枚まい を剥は がすところから始はじ まる。
今朝けさ 、あなたは家いえ を出で た。アスファルトの下した 、街路樹がいろじゅ の根元ねもと 、公園こうえん の芝しば の下した ——その数かず センチから数かず メートルの厚あつ みの中なか に、ある物質ぶっしつ が横よこ たわっている。
その物質ぶっしつ は、太陽系たいようけい の他ほか のどの天体てんたい からも見み つかっていない。人類じんるい の全ぜん 技術ぎじゅつ を投とう じても製造せいぞう できない。そして一度いちど 失うしな えば、取と り戻もど すのに数百すうひゃく 年ねん から千せん 年ねん を要よう する。
土つち である。
土壌断面と、この記事の章の対応
空
O層 落葉が積もる
第1章
A層 腐植を含む黒い土
第2〜4章
白い点は微生物の暗示
B層 養分が溜まる
第5章
C層 風化の途中
第6章
母岩
第7章
地下水
終章
0 cm
10 cm
40 cm
1 m
2 m
母岩
深さの目盛は等間隔ではない。層の厚みは土壌によって大きく変わる
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図ず 01 この記事きじ の構造こうぞう は、土つち の構造こうぞう である。
これから置お く三みっ つの数字すうじ は、どれも足あし の裏うら の話はなし である。
にわかには信しん じがたい主張しゅちょう だと思おも う。だから、最初さいしょ に数字すうじ だけを置お いておく。スプーン1杯いっぱい の土つち に棲す む生物せいぶつ の数かず は、地球ちきゅう の全人口ぜんじんこう より多おお い事実じじつ [8] 。人類じんるい が食た べるカロリーの98.8%は土壌どじょう に由来ゆらい する事実じじつ [9] 。そして土つち が1cm育そだ つには100年ねん から1000年ねん かかるが事実じじつ [8] [26] 、耕たがや された畑はたけ では、ひどい場合ばあい その10倍じゅうばい 以上いじょう の速はや さで失うしな われていく事実じじつ [17] 。
三みっ つとも、遠とお い話はなし のように聞き こえる。人類じんるい より多おお い住人じゅうにん 、九きゅう 割わり 八分はちぶん の食卓しょくたく 、千せん 年ねん で一いち センチ。だが遠とお いのは距離きょり ではない。これらはすべて、今朝けさ あなたが靴くつ を履は いた場所ばしょ の、真下ました で起お きていることである。
本稿ほんこう はこの三みっ つの奇妙きみょう さ——宇宙うちゅう のどこにもない・作つく れない・失うしな うのは速はや い ——を、一ひと つずつ検証けんしょう していく。あらかじめ方法ほうほう を宣言せんげん しておきたい。本稿ほんこう は、すべての定量的ていりょうてき 主張しゅちょう に出典しゅってん を付ふ し、事実じじつ (事实, fact)・学説がくせつ (学说, hypothesis)・推論すいろん (推论, inference)・証言しょうげん (证言, testimony)を区別くべつ して表示ひょうじ する。そして誇張こちょう は用もち いない。
用もち いる必要ひつよう がないほど、事実じじつ が既すで に驚異的きょういてき だからである。
驚異きょうい という語ご を、ここでは正確せいかく に使つか いたい。理解りかい できないから驚おどろ くのではない。一通ひととお り理解りかい したのに、それでもまだ何なに かが釣つ り合あ っていない気き がする——その釣つ り合あ わなさのことを、本稿ほんこう では驚異きょうい と呼よ ぶ。
ただし「土つち は宇宙うちゅう にない」と言い うためには、その前まえ に片かた づけるべき仕事しごと がある。「土つち 」を定義ていぎ すること だ。定義ていぎ なしにこの主張しゅちょう を口くち にすれば、それはただの詩し になってしまう。
第だい 1章いっしょう 土つち の解剖学かいぼうがく ——「泥どろ 」と呼よ ぶには、あまりに精密せいみつ
泥どろ 、という言葉ことば には侮あなど りが混ま じっている。汚よご れたもの、片かた づけるべきもの、靴くつ で持も ち込こ んではいけないもの。
その侮あなど りを一度いちど だけ預あず けて、中なか を覗のぞ いてみる。
用語集ようごしゅう (日本語にほんご ・简体中文・English 対照たいしょう )
日本語にほんご 简体中文 English
腐植ふしょく 腐殖质 humus
風化ふうか 风化作用 weathering
孔隙こうげき 孔隙こうげき pore space
粘土ねんど 鉱物こうぶつ 黏土矿物 clay minerals
陽よう イオン交換こうかん 容量ようりょう 阳离子交换量 cation exchange capacity (CEC)
レゴリス 风化层/月壤 regolith
過か 塩素酸えんそさん 塩しお 高氯酸盐 perchlorate
大だい 酸化さんか イベント大氧化事件 Great Oxidation Event (GOE)
プレートテクトニクス 板块构造 plate tectonics
停滞ていたい リッド停滞盖构造 stagnant lid
シアノバクテリア 蓝细菌 cyanobacteria
地衣類ちいるい 地衣ちい lichens
維管いかん 束たば 植物しょくぶつ 维管植物 vascular plants
黒くろ ボク土つち 火山灰かざんばい 土つち Andosols
チェルノーゼム 黑钙土 Chernozem
ボーキサイト 铝土矿 bauxite
塩類えんるい 集積しゅうせき 盐渍化 salinization
土壌どじょう 侵食しんしょく 土壤侵蚀 soil erosion
不ふ 耕起こうき 栽培さいばい 免めん 耕こう no-till farming
平板へいばん 計数けいすう の大だい 異常いじょう 平板计数大异常 great plate count anomaly
系統けいとう 型がた 系统型 phylotype
門もん (分類ぶんるい 階級かいきゅう )门 phylum
担体たんたい 载体 carrier
合成ごうせい /触媒しょくばい 合成ごうせい /催もよおし 化か synthesis / catalysis
自己じこ 組織化そしきか 自组织 self-organization
自然しぜん 知能ちのう 自然しぜん 智能ちのう natural intelligence
目的論もくてきろん 目的论 teleology
バイオシグネチャー 生物印记 biosignature
1-1 半分はんぶん は、すきま
土つち とは何なに か。多おお くの人ひと の直感ちょっかん は「細こま かく砕くだ けた岩いわ 」だろう。この直感ちょっかん は半分はんぶん だけ正ただ しく、そして決定的けっていてき に不足ふそく している。
まず物理ぶつり 構造こうぞう から見み よう。健全けんぜん な土つち は、体積たいせき の約やく 半分はんぶん が固体こたい ですらない事実じじつ [8] 。砂すな や粘土ねんど の粒子りゅうし が積つ み木き のように組く み合あ わさり、その間かん に無数むすう の孔隙こうげき (孔隙こうげき , pore space)——水みず と空気くうき の通とお り道みち ——が走はし っている。雨あめ が降ふ れば水みず を蓄たくわ え、晴は れれば空気くうき を通とお す。根ね はこの通路つうろ を伝つた って伸の び、微生物びせいぶつ はこの通路つうろ の壁面へきめん に暮く らす。
土つち は物質ぶっしつ というより、建築けんちく である。
土の三要素と孔隙
空気(背景の色のまま)
水
砂
粘土鉱物
腐植
水
空気
半分は、すきま。
100%
50%
0%
割合は代表値(実際の土壌により変動する)
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図ず 02土つち は物質ぶっしつ というより、建築けんちく である。
構成要素こうせいようそ は大おお きく三みっ つ。①砂すな (岩石がんせき の物理的ぶつりてき な破片はへん )、②粘土ねんど 鉱物こうぶつ (黏土矿物, clay minerals)——風化ふうか (风化作用, weathering)の過程かてい で化学的かがくてき に再結晶さいけっしょう した、板いた 状じょう の微細びさい な鉱物こうぶつ ——、そして③腐植ふしょく (腐殖质, humus)である事実じじつ [26] 。
三さん 要素ようそ の役割やくわり (本稿ほんこう による整理せいり 。数値すうち ではなく働はたら きで並なら べた)
要素ようそ どこから来き たか 何なに を持も つか失うしな うとどうなるか
砂すな 岩いわ が砕くだ けたもの骨格こっかく と、大おお きな隙間すきま 水みず はけを失うしな い、根ね が息いき をできなくなる
粘土ねんど 鉱物こうぶつ 岩いわ が水みず に変か えられたもの板いた 状じょう の面めん と、表面ひょうめん のマイナス電荷でんか 養分ようぶん を留と める面めん がなくなる
腐植ふしょく 生い きていたものの残のこ り電荷でんか と、微生物びせいぶつ の住処すみか 土つち は色いろ を失うしな い、更新こうしん が止と まる
この三みっ つ目め が、月つき にも火星かせい にもない成分せいぶん だ。腐植ふしょく とは、落お ち葉ば や生物せいぶつ の遺骸いがい が微生物びせいぶつ によって分解ぶんかい され尽つ くした後あと に残のこ る、黒くろ くて複雑ふくざつ な有機物ゆうきぶつ の総称そうしょう である。土つち が黒くろ いのは腐植ふしょく のせいであり、土つち が「生い きている」のも腐植ふしょく のせいである。
言い い換か えれば、砂すな は岩いわ の記憶きおく であり、粘土ねんど は水みず の記憶きおく であり、腐植ふしょく は生い きていたものの記憶きおく である。土つち を掘ほ るというのは、三さん 種類しゅるい の記憶きおく が層そう になって重かさ なっているところへ、手て を入い れる行為こうい にほかならない。
孔隙の太さと、水の運命
×
太い隙間
中くらいの隙間
細い隙間
水は落ちる
=空気の通り道になる
水が留まる
=根が吸える
水は強く保たれる
=根には吸えない
同じ「水を含む」でも、太さが変われば意味が変わる
粒の大きさは三つとも同じに描いてある。変えたのは、あいだの太さだけ
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図ず 03 すきまは、ただの空白くうはく ではない。太ふと さごとに別べつ の仕事しごと をしている。
1-2 栄養えいよう の冷蔵庫れいぞうこ
腐植ふしょく には、構造的こうぞうてき な特技とくぎ がある。表面ひょうめん がマイナスの電荷でんか を帯お びているのだ事実じじつ [26] 。
植物しょくぶつ の必須ひっす 養分ようぶん ——カルシウムイオン(Ca²⁺)、カリウムイオン(K⁺)、マグネシウムイオン(Mg²⁺)——はすべてプラスの電荷でんか を持も つ。だから腐植ふしょく と粘土ねんど 鉱物こうぶつ の表面ひょうめん は、これらの養分ようぶん を静電気せいでんき 力りょく で吸着きゅうちゃく し、雨あめ に流なが されないよう保持ほじ する。この能力のうりょく を陽よう イオン交換こうかん 容量ようりょう (阳离子交换量, cation exchange capacity; CEC)と呼よ ぶ。
土つち は栄養えいよう の冷蔵庫れいぞうこ であり、その扉とびら は静電気せいでんき でできている。
腐植の静電吸着モデル
− − −
− − −
− − −
− − −
腐植粒子(表面はマイナス)
Ca K Mg
吸着されて残る
NO₃
雨
マイナス同士は反発する
ので、保持されない
流亡
イオンの大きさは見やすさのための誇張(実寸比ではない)
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図ず 04扉とびら は静電気せいでんき でできている。
静電せいでん 気力きりょく は目め に見み えない。それでも、雨あめ のあがった畑はたけ がまだ肥こ えている、という形かたち で、その働はたら きはいつも見み えている。見み えていたのに、名前なまえ を知し らなかっただけである。
冷蔵庫れいぞうこ のない地面じめん がどうなるかは、後あと の章しょう で金星きんせい や火星かせい が教おし えてくれる。養分ようぶん は保持ほじ されず、水みず は涵養かんよう されず、生命せいめい の連鎖れんさ は始点してん を持も てない。
1-3 では、月つき の「土つち 」は土つち なのか——定義ていぎ の戦争せんそう
ここで、賢明けんめい な読者どくしゃ はすでに気き づいているはずだ。「土つち がない」かどうかは、定義ていぎ に依存いぞん する 。
実際じっさい 、この点てん には現役げんえき の論争ろんそう がある。NASAは月つき や火星かせい の表層ひょうそう 物質ぶっしつ を、しばしば lunar soil / Martian soil と呼よ ぶ。いつか人類じんるい が耕たがや すかもしれないものとして、である。一方いっぽう 、土壌学どじょうがく 者しゃ の藤井一至ふじいかずみち は「腐植ふしょく を含ふく まない以上いじょう 、あれはまだ土つち ではない」という立場たちば を取と る証言しょうげん [26] 。NASA自身じしん も学術的がくじゅつてき な文書ぶんしょ では区別くべつ を認みと めており、地球ちきゅう の土壌どじょう が「植物しょくぶつ 遺体いたい などの有機物ゆうきぶつ から化学的かがくてき ・生物学せいぶつがく 的てき 過程かてい を経へ て形成けいせい される」のに対たい し、月つき の表層ひょうそう は「有機物ゆうきぶつ を一切いっさい 含ふく まず、隕石いんせき の機械的きかいてき 粉砕ふんさい と太陽風たいようふう などの荷電かでん 粒子りゅうし との相互作用そうごさよう のみで形成けいせい された」と明記めいき している事実じじつ [1] [2] 。
定義ていぎ とは規約きやく (约定, convention)である。だから本稿ほんこう は、以降いこう の全ぜん 議論ぎろん の前提ぜんてい として、次つぎ の定義ていぎ を採用さいよう することを宣言せんげん する。
土つち =砂すな ・粘土ねんど 鉱物こうぶつ ・腐植ふしょく が混ま ざり合あ い、生物せいぶつ の活動かつどう によって今いま まさに更新こうしん され続つづ けている系けい 。
定義ていぎ を一ひと つ置お くというのは、退屈たいくつ な手続てつづ きに見み えて、実じつ のところ覚悟かくご の表明ひょうめい である。この一行いちぎょう を書か いた時点じてん で、本稿ほんこう は月つき の表層ひょうそう を土つち と呼よ ぶ人々ひとびと と袂たもと を分わ かった。分わ かったうえで、なぜそこで分わ けるのかを最後さいご まで説明せつめい する義務ぎむ を負お う。
腐植ふしょく を含ふく まない表層ひょうそう 物質ぶっしつ は、この定義ていぎ の下もと では土つち ではなく、レゴリス(风化层/月壤, regolith)——「岩いわ の毛布もうふ 」を意味いみ する地質学ちしつがく 用語ようご ——と呼よ ぶ。以降いこう の「土つち は地球ちきゅう にしかない」「土つち は作つく れない」という主張しゅちょう は、すべてこの定義ていぎ の下もと でのみ成立せいりつ する。定義ていぎ を変か えれば結論けつろん も変か わる。それを隠かく さないことが、この種しゅ の議論ぎろん の最低限さいていげん の作法さほう だと考かんが える。
では、この定義ていぎ を満み たす物質ぶっしつ は、宇宙うちゅう のどこにあるのか。
第だい 2章にしょう 月つき にも火星かせい にも、地面じめん はあるが土つち はない
月つき には、風かぜ がない。風かぜ がないということは、角かど が丸まる くならないということである。
誰だれ にも触さわ られなかった破片はへん が、割わ れた日ひ の形かたち のまま、そこにある。
2-1 45億よんじゅうごおく 年間ねんかん 、鋭利えいり なまま
アポロ計画けいかく の宇宙うちゅう 飛行士ひこうし たちを悩なや ませたのは、無重力むじゅうりょく でも放射線ほうしゃせん でもなく、砂埃すなぼこり だった。月面げつめん の塵ちり は宇宙服うちゅうふく の繊維せんい に食く い込こ み、外層がいそう を摩耗まもう させ、関節かんせつ 部ぶ の気密きみつ を脅おびや かした。船内せんない に持も ち込こ まれた塵ちり は火薬かやく のような匂にお いがしたと報告ほうこく されている。
なぜ月つき の塵ちり はそれほど攻撃的こうげきてき なのか。答こた えは単純たんじゅん で、風化ふうか を知し らないから である。月つき には水みず も大気たいき もない。隕石いんせき の衝突しょうとつ で砕くだ かれた粒子りゅうし は、丸まる められることも、化学的かがくてき に変質へんしつ することもなく、割わ れたときの断面だんめん のまま留と まる事実じじつ [2] 。
風化ふうか を知し らない粒子りゅうし は、45億よんじゅうごおく 年間ねんかん 、鋭利えいり なままだ。
風化ふうか とは、要よう するに、世界せかい に撫な でられることである。
雨あめ に打う たれ、凍こお って割わ れ、根ね に押お し広ひろ げられ、微生物びせいぶつ に齧かじ られる。撫な でられた石いし は、何なに 億おく 年ねん かけて角かど を失うしな っていく。砂浜すなはま の砂すな が手て のひらに優やさ しいのは、それが撫な でられ続つづ けてきたからだ。月つき の塵ちり が宇宙服うちゅうふく を削けず るのは、それが一度いちど も撫な でられていないからである。
撫でられた石と、撫でられない石
地球
月
雨
凍結
根
微生物
角が落ちる
触れるものが、何もない
割れた日の断面のまま
粒子の形は模式。地球側の四つは、風化を進める主な働きを並べたもの
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図ず 05風化ふうか とは、世界せかい に撫な でられることである。
2-2 太陽系たいようけい の表層ひょうそう 物質ぶっしつ 、総当そうあ たり
四天体の表層比較と、土の四条件
月
均質・鋭利
金星
460℃
90 気圧
液体の水なし
火星
ClO₄⁻
0.5 wt%
生物に毒性
地球
層構造を持つ
表層の断面
(模式・深さは同縮尺)
液体の水
大気
生命
プレートテクトニクス
× ×
× ×
×
× ×
×
× ×
● ●
● ●
● ●
全条件の連言は、ここだけ
プレートテクトニクスの必要性には論争がある(本文2-3参照)
火星の水は過去のもの。表に示したのは現在の状態である
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図ず 06地面じめん はどこにでもある。土つち は、ここにしかない。
太陽系たいようけい の主おも な天体てんたい の「地面じめん 」を順じゅん に検分けんぶん しよう。
月つき 。前述ぜんじゅつ の通とお り、有機物ゆうきぶつ ゼロの機械的きかいてき 粉砕ふんさい 物ぶつ 事実じじつ [2] 。
金星きんせい 。表面ひょうめん 温度おんど は約やく 460℃、気圧きあつ は約やく 90気圧きあつ 。液体えきたい の水みず が存在そんざい できないため、化学的かがくてき 風化ふうか ——水みず を溶媒ようばい とする岩石がんせき の変質へんしつ ——がそもそも成立せいりつ しない事実じじつ 。
火星かせい 。かつて磁場じば を失うしな い、太陽風たいようふう に大気たいき を剥は ぎ取と られ、液体えきたい の水みず を喪失そうしつ した。現在げんざい のレゴリスには過か 塩素酸えんそさん 塩しお (高氯酸盐, perchlorate)が約やく 0.5重量じゅうりょう %含ふく まれ、これは生物せいぶつ にとって毒性どくせい を持も つ事実じじつ [3] 。最初さいしょ にこれを検出けんしゅつ したのは2008年ねん のフェニックス着陸ちゃくりく 機き であり、後あと の探査車たんさしゃ が追認ついにん した事実じじつ [3] 。
小惑星しょうわくせい 。リュウグウやベンヌのサンプルからは有機ゆうき 分子ぶんし が見み つかった。しかしこれらは非ひ 生物せいぶつ 的てき な化学かがく 合成ごうせい の産物さんぶつ であり、生物せいぶつ 遺体いたい の分解ぶんかい 物ぶつ である腐植ふしょく とは、由来ゆらい がまったく異こと なる事実じじつ 。有機物ゆうきぶつ の存在そんざい は、土つち の存在そんざい を意味いみ しない。
材料ざいりょう が揃そろ っていることと、料理りょうり ができていることは違ちが う。炭素たんそ も、水みず も、鉱物こうぶつ も、宇宙うちゅう にはいくらでも散ち らばっている。それでも厨房ちゅうぼう は、いまのところ一ひと つしか見み つかっていない。
こうして総当そうあ たりすると、第だい 1章いっしょう の定義ていぎ を満み たす物質ぶっしつ は、太陽系たいようけい では地球ちきゅう の表面ひょうめん にしか確認かくにん されていない、という結論けつろん が残のこ る事実じじつ [1] [2] 。
2-3 土つち の4条件よんじょうけん ——そして、条件じょうけん をめぐる論争ろんそう
なぜ地球ちきゅう だけなのか。整理せいり すると、土つち の成立せいりつ には少すく なくとも四よっ つの要素ようそ が絡から んでいる。①液体えきたい の水みず (化学的かがくてき 風化ふうか の溶媒ようばい )、②大気たいき (水みず 循環じゅんかん と、炭酸たんさん による風化ふうか )、③生命せいめい (腐植ふしょく の供給者きょうきゅうしゃ にして風化ふうか の加速かそく 者しゃ )、④プレートテクトニクス(板块构造, plate tectonics)——新鮮しんせん な鉱物こうぶつ を地表ちひょう へ供給きょうきゅう し続つづ け、炭素たんそ 循環じゅんかん を通つう じて気候きこう を長期ちょうき 安定あんてい させる、惑星わくせい 規模きぼ のベルトコンベア——である学説がくせつ [6] 。
このうち④は、現在げんざい の太陽系たいようけい で地球ちきゅう だけが持も つ。水星すいせい も金星きんせい も火星かせい も月つき も、地殻ちかく が一枚岩いちまいいわ のまま動うご かない停滞ていたい リッド(停滞盖构造, stagnant lid)状態じょうたい にある事実じじつ [6] 。
四よっ つ並なら べると、地球ちきゅう がいかに幸運こううん かという話はなし に聞き こえる。だが幸運こううん という語ご は、ここでは少すこ し違ちが う。条件じょうけん が揃そろ ったから土つち ができたのではなく、条件じょうけん が揃そろ った場所ばしょ でだけ、土つち という現象げんしょう が起お こり得とく た——それだけのことだ。宇宙うちゅう は地球ちきゅう をひいきしていない。ひいきなしでも、ここでは起お きた。
ただし、論理ろんり に厳密げんみつ な読者どくしゃ のために付記ふき しておく。「プレートテクトニクスは生命せいめい と土つち の必要条件ひつようじょうけん か」は、未解決みかいけつ の問と いである。生命せいめい が誕生たんじょう した約やく 40億よんじゅうおく 年前ねんまえ の地球ちきゅう は、まだ停滞ていたい リッド状態じょうたい だった可能性かのうせい があり、それでも生命せいめい の起源きげん に足た る地球ちきゅう 化学的かがくてき 循環じゅんかん は成立せいりつ していた、とする研究けんきゅう がある学説がくせつ [7] 。つまり④は、土つち と生命せいめい の「発生はっせい 」の条件じょうけん というより「維持いじ と更新こうしん 」の条件じょうけん である可能性かのうせい が高たか い。四よっ つの条件じょうけん は対等たいとう ではなく、必要性ひつようせい の強度きょうど に濃淡のうたん がある——この解像度かいぞうど は、図ず のチェックマークだけでは伝つた わらないので、本文ほんぶん に書か いておく。
地球ちきゅう だけが持も つ。ならば地球ちきゅう は、いつからそれを持も ったのか。
第だい 3章さんしょう 46億よんじゅうろくおく 年ねん の地球史ちきゅうし で、土つち は最後さいご の5億ごおく 年ねん しかない
46億よんじゅうろくおく 年ねん を1年いちねん に縮ちぢ めると、人ひと が読よ める長なが さになる。
縮ちぢ めてみて初はじ めて、土つち がどれほど遅おく れてきた客きゃく かが分わ かる。
3-1 11月じゅういちがつ 21日にじゅういちにち まで、陸りく は裸はだか の岩いわ だった
地球ちきゅう の46億よんじゅうろくおく 年ねん を1年いちねん のカレンダーに圧縮あっしゅく してみる。1月いちがつ 1日ついたち に地球ちきゅう が誕生たんじょう し、大晦日おおみそか の除夜じょや の鐘かね とともに現在げんざい を迎むか える暦こよみ だ。この暦こよみ で、陸地りくち に土つち が現あらわ れるのはいつか。
計算けいさん すると、11月じゅういちがつ 21日にじゅういちにち 前後ぜんご である。5億ごおく 年ねん は46億よんじゅうろくおく 年ねん の約やく 11%——1年いちねん の暦こよみ では約やく 40日よんじゅうにち 分ぶん にしかならない。
46億年を1年に縮めた暦
11月21日 土が現れる
3月 海に生命
1月1日 地球が生まれる
46億年
=1年
刻みは月の変わり目
最後の40日を、同じ幅まで引き伸ばすと
12月26日 恐竜が滅ぶ
11月21日 土
12月31日 いま
12月26日・12月31日の位置は、同じ圧縮率での換算(本稿の計算・推論)
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図ず 07土つち は、この星ほし の一いち 年ねん でいえば十一月下旬じゅういちがつげじゅん に着つ いた客きゃく である。
1月いちがつ から11月じゅういちがつ 下旬げじゅん まで、この惑星わくせい の陸りく は裸はだか の岩いわ だった。生命せいめい は3月さんがつ には海うみ に現あらわ れていたのに学説がくせつ 、陸りく が緑みどり になるまで、そこからさらに30億さんじゅうおく 年ねん 以上いじょう を要よう した。土つち の歴史れきし は、地球史ちきゅうし の最後さいご の1割いちわり 強きょう しかない事実じじつ [26] 。
この暦こよみ をもう少すこ し続つづ けてみる。土つち が生う まれるのが11月じゅういちがつ 21日にじゅういちにち なら、恐竜きょうりゅう が滅ほろ ぶのは12月じゅうにがつ 26日にじゅうろくにち 、人類じんるい の祖先そせん が現あらわ れるのは大晦日おおみそか の夕方ゆうがた である推論すいろん (同おな じ圧縮率あっしゅくりつ での換算かんさん )。土つち は地球史ちきゅうし の遅おそ い到着とうちゃく 物ぶつ であり、私わたし たちはその、さらに遅おそ い利用者りようしゃ にすぎない。
一いち 年ねん のうち十一じゅういち か月げつ と二十日はつか 、この星ほし に土つち はなかった。
46億年タイムライン——酸素・オゾン・土壌
酸素
退屈な20億年(boring billion を含む)
GOE
現在の水準へ
オゾン
有効遮蔽の成立時期は未確定(数億年の幅)
土壌
陸は裸の岩
ここから土
46億年前
24億年前
5億年前
現在
1年に圧縮した暦 1月1日
12月31日
土の誕生=11月21日頃
横軸は線形。酸素濃度の縦位置は模式で、目盛は付けていない
タップで拡大かくだい
図ず 08土つち の歴史れきし は、地球史ちきゅうし の最後さいご の1割いちわり 強きょう しかない。
3-2 酸素さんそ 、20億にじゅうおく 年ねん の停滞ていたい ——教科書きょうかしょ が省略しょうりゃく しがちな中間ちゅうかん 章しょう
なぜ生命せいめい の上陸じょうりく はそれほど遅おく れたのか。鍵かぎ は大気たいき にある。
約やく 24億にじゅうよんおく 年前ねんまえ 、シアノバクテリア(蓝细菌, cyanobacteria)の光ひかり 合成ごうせい によって、大気たいき に酸素さんそ が蓄積ちくせき し始はじ めた。大だい 酸化さんか イベント(大氧化事件, Great Oxidation Event; GOE)である事実じじつ [4] 。
ここで多おお くの解説かいせつ は「そして酸素さんそ からオゾン層そう ができ、紫外線しがいせん が遮さえぎ られ、生命せいめい が上陸じょうりく した」と一足ひとあし 飛と びに語かた る。しかし実際じっさい の地球史ちきゅうし には、省略しょうりゃく できない中間ちゅうかん 章しょう がある。GOE後あと の酸素さんそ 濃度のうど は、現在げんざい の1〜10%程度ていど という低てい 水準すいじゅん のまま、約やく 20億にじゅうおく 年ねん にわたって停滞ていたい した のである事実じじつ [5] 。研究者けんきゅうしゃ が「退屈たいくつ な10億じゅうおく 年ねん (boring billion)」と呼よ ぶ時代じだい を含ふく む、長なが い長なが い足踏あしぶ みだ。酸素さんそ が現在げんざい の水準すいじゅん まで上あ がるのは、約やく 5億ごおく 年前ねんまえ 、陸上りくじょう 植物しょくぶつ の登場とうじょう 以降いこう である事実じじつ [5] 。
ではオゾン層そう による有効ゆうこう な紫外線しがいせん 遮蔽しゃへい ——DNAを守まも れる水準すいじゅん の遮蔽しゃへい ——は、正確せいかく にはいつ成立せいりつ したのか。正直しょうじき に言い えば、数億すうおく 年ねん の幅はば でしか分わ かっていない学説がくせつ 。オゾンの蓄積ちくせき 開始かいし はGOE以降いこう だが、「陸上りくじょう 生物せいぶつ を保護ほご するに足た る濃度のうど 」への到達とうたつ 時期じき は、原生代げんせいだい 末まつ (約やく 8〜6億ろくおく 年前ねんまえ )とする記述きじゅつ から、より早期そうき とする研究けんきゅう まで併存へいそん する。ある解説かいせつ が「24億にじゅうよんおく 年前ねんまえ にオゾンができた」と言い い、別べつ の解説かいせつ が「8億はちおく 年前ねんまえ にようやくできた」と言い うとき、両者りょうしゃ は矛盾むじゅん しているのではなく、「蓄積ちくせき の開始かいし 」と「有効ゆうこう 水準すいじゅん への到達とうたつ 」という別べつ の時点じてん を指さ している。単一たんいつ の年代ねんだい で断定だんてい する語かた りのほうが、むしろ不正確ふせいかく なのだ。
知し らない、と書か ける文章ぶんしょう は強つよ い。数億すうおく 年ねん の幅はば がある、と正直しょうじき に書か いた瞬間しゅんかん 、記述きじゅつ は頼たよ りなく見み える。だが頼たよ りなく見み えることと、間違まちが っていることは違ちが う。幅はば を持も ったまま差さ し出だ された知識ちしき のほうが、一点いってん に丸まる められた知識ちしき より、ずっと遠とお くまで運はこ べる。この違ちが いは、第だい 7章ななしょう でもう一度いちど 、もっと厳きび しい形かたち で問と われることになる。
3-3 岩いわ が土つち になるまで——5億ごおく 年ねん 分ぶん の反復はんぷく
紫外線しがいせん の脅威きょうい が引ひ いた陸りく へ、最初さいしょ に上あ がったのはコケと地衣類ちいるい (地衣ちい , lichens)だった。彼かれ らは酸さん を分泌ぶんぴつ して鉱物こうぶつ を溶と かす——生物せいぶつ 風化ふうか のパイオニアである事実じじつ [26] 。続つづ いて維管いかん 束たば 植物しょくぶつ (维管植物, vascular plants)が根ね で岩盤がんばん を砕くだ き、深部しんぶ へ風化ふうか を押お し広ひろ げた。
プロセスを一巡いちじゅん 分ぶん だけ描えが くと、こうなる。昼夜ちゅうや の温度おんど 差さ で鉱物こうぶつ の膨張率ぼうちょうりつ に差さ が生しょう じ、岩いわ が崩くず れる。そこにコケと微生物びせいぶつ が定着ていちゃく する。彼かれ らが死し ぬ。遺骸いがい の大半たいはん は分解ぶんかい されてCO₂として大気たいき へ還かえ り 、数かず %だけが腐植ふしょく として残のこ る。環境かんきょう が変か わり、別べつ の生物せいぶつ が定着ていちゃく する。また死し ぬ。また数かず %が残のこ る——。
この反復はんぷく を、5億ごおく 年ねん 。
岩から土への円環プロセスと、生成の速度
①物理風化
②コケ・地衣類の定着
(酸を分泌する)
③生物の死
④数%が腐植として残る
⑤別の生物へ
大半はCO₂として大気へ還る
反復
速い
遅い
日本
≈100年/cm
アフリカ
≈1000年/cm
初期条件次第では10年/cmの可能性も(仮説)
目盛は対数的な配置。針の位置は代表値であって測定の分布ではない
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図ず 09反復はんぷく 、また反復はんぷく 。5億ごおく 年ねん 分ぶん の。
速度そくど も測はか られている。火山灰かざんばい の供給きょうきゅう が多おお い日本にほん ではおよそ100年ねん で1cm、アフリカではおよそ1000年ねん で1cm事実じじつ [8] [26] 。ただしこれは平均値へいきんち であり、初期しょき 条件じょうけん が良よ ければ最初さいしょ の千せん 年ねん で土壌どじょう 化か の大勢おおぜい が決けっ する——「本当ほんとう は10年じゅうねん で1cmかもしれない」——という仮説かせつ が、現在げんざい の土壌学どじょうがく の希望きぼう として研究けんきゅう されている学説がくせつ [26] 。この希望きぼう の話はなし は第だい 6章ろくしょう でもう一度いちど 出で てくる。
この速はや さを、体からだ の側がわ で測はか り直なお してみる。三十さんじゅう 年生ねんせい きた人ひと なら、その一生いっしょう ぶんで、日本にほん の森もり の土つち は3mmほど厚あつ くなった推論すいろん (100年ねん で1cmからの換算かんさん )。爪つめ を一度いちど 切き るくらいの厚あつ みである。しかもそれは、世界せかい でも速はや い部類ぶるい に入はい る。
5億ごおく 年ねん かかった。では、実験室じっけんしつ でショートカットできないのか。ここからが、本稿ほんこう の核心かくしん である。
第だい 4章よんしょう スプーン1杯いっぱい に100億おく の住人じゅうにん ——工場こうじょう で作つく れない4つの理由りゆう
1グラムの土つち を手て に取と る。その中なか に、名前なまえ のある住人じゅうにん は100人にん にひとりもいない。
残のこ りは、まだ誰だれ にも呼よ ばれたことがない。
4-1 細菌さいきん たちの町まち では、隣家りんか まで12マイクロメートル
まず、土つち の中なか の「人口密度じんこうみつど 」を実感じっかん するところから始はじ めたい。
土壌どじょう の薄片はくへん を顕微鏡けんびきょう で観察かんさつ し、細菌さいきん の位置いち を統計とうけい 解析かいせき した研究けんきゅう がある。744枚まい の画像がぞう から得とく られた、細菌さいきん どうしの平均へいきん 距離きょり ——12.46マイクロメートル 事実じじつ [12] 。細菌さいきん の体長たいちょう はおよそ1マイクロメートルだから、体長たいちょう の約やく 12倍じゅうにばい 。ヒトの身長しんちょう に無理むり やり換算かんさん すれば、隣家りんか まで20メートルほどの、密集みっしゅう でも孤立こりつ でもない絶妙ぜつみょう な間合まあ いの町まち である推論すいろん (換算かんさん は体長たいちょう 比ひ による概算がいさん )。地表ちひょう 近ちか くでは町まち は密みつ になり(10.38μm)、深部しんぶ では過疎かそ になる(18μm超ちょう )事実じじつ [12] 。
細菌たちの町——隣人距離
実スケール
12.46 μm(平均)[12]
細菌 = 長さ約1μm
ヒトの身長に換算すると
約 20 m
換算は体長比による概算
地表付近 10.38 μm
深部 18 μm 超
密になるほど、代謝の受け渡しが起きやすい
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図ず 10密集みっしゅう ではなく、点在てんざい 。それでも系けい は繋つな がっている。
この町まち の総人口そうじんこう はどうか。肥沃ひよく な土壌どじょう 1グラムに、細菌さいきん はおよそ10⁸〜10⁹個体こたい 、種数しゅすう にして数千すうせん から1万いちまん のオーダーで暮く らしている事実じじつ [11] 。大おお さじ1杯いっぱい (約やく 15g)なら、およそ1万いちまん 種しゅ ・100億おく 個体こたい ——地球ちきゅう の全人口ぜんじんこう 8×10⁹人ひと を、スプーンの上うえ の細菌さいきん が上回うわまわ る計算けいさん になる事実じじつ [8] [11] 。
スプーン1杯の3段ズーム
スプーン1杯(約15g)
約1万種・100億個体
1グラムの土
10⁸〜10⁹個体・10³〜10⁴種 [11]
1立方ミリメートル
点は全面ではなく、粒子の表面に偏る
地球の人口
8×10⁹
スプーン1杯の細菌
1×10¹⁰
個体数は肥沃な土壌の代表値からの換算。土壌の状態により桁で変わる
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図ず 11 あなたの匙さじ の上うえ に、人類じんるい より多おお い。
あなたの匙さじ の上うえ に、人類じんるい より多おお い。
この文ぶん を書か くのに使つか った匙さじ は、たぶんいまも台所だいどころ にある。人類じんるい の総数そうすう を上回うわまわ る生い きものを、私わたし たちは毎日まいにち 、無意識むいしき に持も ち上あ げたり、洗あら い流なが したりしている。
4-2 作つく れない理由りゆう 、4つの独立どくりつ した障壁しょうへき
さて、本章ほんしょう の主張しゅちょう は「人類じんるい は土つち を製造せいぞう できない」である。単一たんいつ の理由りゆう ではなく、互たが いに独立どくりつ した四よっ つの障壁しょうへき として提示ていじ したい。独立どくりつ している、というのが重要じゅうよう だ。どれか一ひと つが将来しょうらい 突破とっぱ されても、残のこ りが立た ちはだかる構造こうぞう になっている。
障壁しょうへき 1:多た 成分せいぶん 複合ふくごう 系けい 。単一たんいつ の化合物かごうぶつ なら人類じんるい は合成ごうせい できる。しかし土つち は、砂すな ・粘土ねんど 鉱物こうぶつ ・腐植ふしょく ・水みず ・空気くうき ・生物せいぶつ が「混ま ざり合あ いながら、今いま まさに変化へんか し続つづ けている」動的どうてき な系けい である。腐植ふしょく ひとつ取と っても、その化学かがく 構造こうぞう は完全かんぜん には記述きじゅつ できていない。1万いちまん 種しゅ の微生物びせいぶつ が落お ち葉ば を「各自かくじ 勝手かって に」分解ぶんかい した産物さんぶつ の構造こうぞう は、単一たんいつ 酵素こうそ の反応はんのう 生成せいせい 物ぶつ とは複雑ふくざつ さの次元じげん が違ちが う証言しょうげん [26] 。
障壁しょうへき 2:超ちょう 多種たしゅ 系けい 。1グラムに数千すうせん 種しゅ 事実じじつ [11] 。1種いっしゅ の納豆菌なっとうきん を純粋じゅんすい 培養ばいよう して制御せいぎょ する工業こうぎょう 発酵はっこう と、数千すうせん 種しゅ の相互作用そうごさよう 系けい を制御せいぎょ することは、質的しつてき に別べつ の課題かだい である。
障壁しょうへき 3:単離たんり 不能ふのう 性せい 。ここが最もっと も重要じゅうよう な障壁しょうへき なので、次節じせつ で独立どくりつ に扱あつか う。
障壁しょうへき 4:自己じこ 再生産さいせいさん 性せい 。土つち は、外そと から誰だれ かが作つく らなくても、自分じぶん で自分じぶん を作つく り続つづ ける。落お ち葉ば が供給きょうきゅう され、微生物びせいぶつ が分解ぶんかい し、腐植ふしょく が蓄積ちくせき し、その腐植ふしょく がまた微生物びせいぶつ の住処すみか になる——土つち は自己じこ 組織化そしきか システム(自组织系统, self-organizing system)であり、この自律性じりつせい こそ第だい 1章いっしょう の定義ていぎ の末尾まつび に置お いた「今いま まさに更新こうしん され続つづ けている系けい 」の意味いみ である。そして「自己じこ を再生産さいせいさん する系けい を外部がいぶ から合成ごうせい する」という課題かだい は、生命せいめい の合成ごうせい と同おな じ困難こんなん を共有きょうゆう している。
四つの障壁——一つ越えても、次がある
工業的な再現
障壁 1
障壁 2
障壁 3
障壁 4
多成分
複合系
超多種系
1gに数千種
単離不能性
出すと死ぬ
自己
再生産性
最も重い
四つは互いに独立している。一つ越えても、次が立っている
並びは説明の順であって、突破の難しさの順ではない
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図ず 12単一たんいつ の理由りゆう なら、いつか崩くず せる。四よっ つが独立どくりつ していると、そうはいかない。
サッカーに喩たと えた土壌学どじょうがく 者しゃ がいる。メッシはバルセロナでは輝かがや き、代表だいひょう チームでは長なが く苦くる しんだ。選手せんしゅ の能力のうりょく は、パスを出だ すイニエスタがいて初はじ めて発現はつげん する。土壌どじょう 微生物びせいぶつ も同おな じで、1種いっしゅ だけ連つ れてくると死し ぬ。ミミズすら、1匹いっぴき だけ新あたら しい土つち に移うつ すと死し ぬ。機能きのう はシステムの中なか にしかない証言しょうげん [26] 。
単離たんり すると死し ぬ、というのは、生物学せいぶつがく の事実じじつ であると同時どうじ に、ひとつの構造こうぞう の話はなし でもある。能力のうりょく は個体こたい に属ぞく していない。関係かんけい に属ぞく している。土つち はその命題めいだい を、五億ごおく 年ねん かけて実演じつえん し続つづ けてきた装置そうち なのだ。
4-3 「1%しか培養ばいよう できない」の、1%とは何なに か
障壁しょうへき 3を数字すうじ で見み よう。土つち から微生物びせいぶつ を取と り出だ してシャーレで培養ばいよう しようとすると、コロニーを形成けいせい するのは全ぜん 細胞さいぼう の1%未満みまん である。顕微鏡けんびきょう で見み えている細胞さいぼう 数すう と、培養ばいよう できる細胞さいぼう 数すう の間あいだ の巨大きょだい な乖離かいり ——微生物びせいぶつ 学がく ではこれを「平板へいばん 計数けいすう の大だい 異常いじょう (great plate count anomaly)」と呼よ ぶ。1985年ねん に命名めいめい されて以来いらい 事実じじつ [13] 、微生物びせいぶつ 学がく の最もっと も有名ゆうめい な未解決みかいけつ 問題もんだい であり続つづ けている。
培養できない住人たち——細胞ベースと分類群ベース
細胞ベース
シャーレでコロニーを作れる細胞:1%未満(GPCA, 1985)
着色=コロニーを作れた4個(400個中)
分類群ベース
属以上で未培養の細胞
門レベルで未培養
土壌配列で科レベルに培養近縁株あり
81%
約25%
約30%
[14]
「1%」の意味は、数え方で変わる
——どちらの数え方でも、大半は未知のまま
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図ず 13名前なまえ を知し っている隣人りんじん は、ほとんどいない。
ここで、定義ていぎ にうるさい読者どくしゃ は当然とうぜん こう問と うはずだ。「その1%は、細胞さいぼう 数すう の話はなし か、種数しゅすう の話はなし か」。
良よ い問と いである。答こた えを分わ けて書か く。細胞さいぼう ベース では、コロニー形成けいせい 率りつ は1%未満みまん 事実じじつ [13] 。分類ぶんるい 群ぐん ベース では話はなし が変か わり、2018年ねん の推定すいてい によれば、地球ちきゅう 上じょう の全ぜん 微生物びせいぶつ 細胞さいぼう の81%が「培養ばいよう された代表だいひょう 株かぶ を一ひと つも持も たない属ぞく 以上いじょう の分類ぶんるい 群ぐん 」に属ぞく し、約やく 25%は門もん (门, phylum)のレベルで未み 培養ばいよう である事実じじつ [14] 。土壌どじょう のメタゲノム配列はいれつ のうち、科か のレベルで培養ばいよう 近縁きんえん 株かぶ を持も つのは約やく 30%事実じじつ [14] 。
つまり、どの数かぞ え方かた を選えら んでも結論けつろん は動うご かない。私わたし たちが名前なまえ を知し っている住人じゅうにん は、100人にん にひとりもいない。 土つち とは、構成員こうせいいん の大半たいはん が単離たんり すらできない超ちょう 並列へいれつ システムであり、これが工業的こうぎょうてき な再現さいげん を根本こんぽん から阻はば んでいる。
未知みち という語ご を、私わたし たちはたいてい遠とお い場所ばしょ のために取と っておく。深海しんかい 、系けい 外惑星がいわくせい 、脳のう の奥おく 。だが濃度のうど でいえば、最もっと も濃こ い未知みち は駐車場ちゅうしゃじょう の隅すみ の土つち の中なか にある。行い くのに費用ひよう はかからない。それでも、そこに住す む者もの の名前なまえ を、私わたし たちは知し らない。
最もっと も濃こ い未知みち は、たぶん、いちばん近ちか くにある。
4-4 無秩序むちつじょ ではない——2%が半分はんぶん を占し める町まち
ただし、この1万いちまん 種しゅ の町まち を「カオス」と想像そうぞう すると、それも間違まちが いになる。2018年ねん 、6大陸たいりく 237地点ちてん の土壌どじょう を解析かいせき した研究けんきゅう が、意外いがい な秩序ちつじょ を発見はっけん した。全ぜん 系統けいとう 型がた (系统型, phylotype)のわずか2%——約やく 500系統けいとう 型がた ——が、世界中せかいじゅう の土壌どじょう 細菌さいきん 群集ぐんしゅう の約やく 半分はんぶん を占し めていた のである事実じじつ [11] 。
優占度カーブ——2%が半分を占める
0%
50%
100%
1
約500
約25,000
累積存在比
系統型のランク(存在量順・対数目盛)
上位2%(約500系統型)で群集の半分
残り98%の低頻度系統型
=環境変動への保険(本稿の解釈:推論)
横軸は対数。線形で描くと、上位2%は縦線一本に潰れて見えなくなる
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図ず 14秩序ちつじょ ある多様性たようせい 。これが5億ごおく 年ねん の運用実績うんようじっせき である。
少数しょうすう の優占ゆうせん ジェネラリストが日常業務にちじょうぎょうむ の半分はんぶん を回まわ し、その背後はいご に、数万すうまん の低てい 頻度ひんど スペシャリストの膨大ぼうだい な控ひか えが待機たいき している。この構造こうぞう は、環境かんきょう が激変げきへん したとき——乾燥かんそう 、酸性さんせい 化か 、汚染おせん ——控ひか えの中なか から適任者てきにんしゃ が台頭たいとう することを可能かのう にする、進化しんか 的てき なリスク分散ぶんさん になっている推論すいろん (本稿ほんこう の解釈かいしゃく )。
無秩序むちつじょ な多様性たようせい なら、いつか総当そうあ たりで再現さいげん できるかもしれない。だが土つち の多様性たようせい は構造こうぞう を持も った多様性たようせい であり、その構造こうぞう 自体じたい が5億ごおく 年ねん の淘汰とうた の産物さんぶつ である。ホームセンターで売う られる「バイオ配合はいごう の土つち 」の正体しょうたい は、森もり の腐葉土ふようど と火山かざん 噴出ふんしゅつ 物ぶつ (鹿沼土かぬまつち は約やく 4.5万まん 年前ねんまえ の軽石かるいし 、赤玉土あかだまつち は約やく 1.6万まん 年前ねんまえ の関東かんとう の噴出ふんしゅつ 物ぶつ )の混合こんごう ——つまり「既すで に土つち であるもの」の寄よ せ集あつ めである証言しょうげん [26] 。有力ゆうりょく 選手せんしゅ を買か い集あつ めて「俺おれ がチームを作つく った」と言い うことはできない。
袋ふくろ を持も ち上あ げるとき、私わたし たちが買か っているのは製品せいひん ではない。どこかの森もり が数千すうせん 年ねん かけて溜た めたものを、切き り分わ けてもらっているのである。値段ねだん はついている。作つく り方かた は、ついていない。
作つく れない。しかも次章じしょう で見み るように、失うしな うのは速はや い。
第だい 5章ごしょう 文明ぶんめい は、土つち の残高ざんだか で滅ほろ びる
地図ちず の上うえ で、黒くろ く肥こ えた土つち は三本さんぼん の帯おび にしかならない。その三本さんぼん をめぐって、人ひと は何度なんど も戦争せんそう をしてきた。
石油せきゆ の話はなし ではない。ずっと前まえ からの話はなし である。
5-1 石油せきゆ の前まえ に、土つち だった
国家こっか が戦争せんそう をしてでも欲ほ しがる地面じめん 、と聞き いて現代人げんだいじん が思おも い浮う かべるのは油田ゆでん だろう。だが歴史れきし を遡さかのぼ ると、人類じんるい は石油せきゆ の前まえ に、土つち を奪うば い合あ ってきた。
ウクライナからロシア南部なんぶ 、北米ほくべい プレーリー、南米なんべい パンパ。世界地図せかいちず の上うえ で三さん 箇所かしょ だけ、黒くろ く肥こ えた土つち ——チェルノーゼム(黑钙土, Chernozem)——がベルト状じょう に横よこ たわる。FAO(国連こくれん 食糧しょくりょう 農業のうぎょう 機関きかん )によれば、この黒くろ い土つち は世界せかい のヒマワリの約やく 3さん 分ぶん の2、小麦こむぎ の30%、ジャガイモの26%を生産せいさん している事実じじつ [16] 。陸地りくち の1割いちわり ほどの肥沃ひよく な土つち が世界せかい 人口じんこう の8割はちわり を養やしな っている、という推計すいけい もある推論すいろん [26] (著者ちょしゃ 推計すいけい 。FAOの統計とうけい と方向ほうこう は整合せいごう するが係数けいすう は独立どくりつ 検証けんしょう されていない)。ウクライナが歴史上れきしじょう くり返かえ し侵略しんりゃく の対象たいしょう となってきた背景はいけい に、この土つち がある学説がくせつ [26] 。
黒くろ い、というのは腐植ふしょく の色いろ である。あの帯おび が黒くろ いのは、そこに生い きたものが、長なが いあいだ持も ち出だ されずに積つ もり続つづ けたからだ。逆ぎゃく に、赤あか い土つち や白しろ い土つち は、雨あめ や熱ねつ に何なに かを持も ち去さ られた跡あと である。
土つち の色いろ は、その土地とち の会計かいけい の履歴りれき である。
世界土壌図——偏在という運命
北米プレーリー
ウクライナ〜ロシア南部
南米パンパ
日本列島
チェルノーゼム(黒く肥えた土)
黒ボク土(火山灰由来)
帯の色分けは上から 寒冷帯/乾燥帯/熱帯(ラテライト)/乾燥帯
世界の土は大分類で12種(USDA Soil Taxonomy)。本図は主要帯のみ表示
大陸の輪郭は簡略化した正距円筒図法。面積は正確ではない
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図ず 15肥沃ひよく は、平等びょうどう に配くば られなかった。
肥沃ひよく は、平等びょうどう に配くば られなかった。そして日本にほん 列島れっとう の読者どくしゃ には、もう一ひと つの偏在へんざい を見み てほしい。
黒ボク土——世界の0.84%、日本の30%
世界の陸地にしめる黒ボク土
0.84%
この線の細さは誇張ではない
日本の国土にしめる黒ボク土
約30%
約36倍
二本の帯は同じ縮尺(全幅720px=100%)
出典 [15]
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図ず 16世界せかい の例外れいがい が、この国くに の標準ひょうじゅん である。
日本人にほんじん が「土つち 」と聞き いて思おも い浮う かべる、あの黒くろ くて柔やわ らかい土つち ——黒くろ ボク土つち (火山灰かざんばい 土つち , Andosols)——は、世界せかい の陸地りくち のわずか0.84%にしか存在そんざい しない特殊とくしゅ な土つち である。それが日本にほん では国土こくど の約やく 30%を覆おお う事実じじつ [15] 。世界せかい の例外れいがい が、この国くに の標準ひょうじゅん なのだ。「土つち =黒くろ い」という感覚かんかく は、アフリカの赤あか い大地だいち でも、北欧ほくおう の白しろ い土つち でも通用つうよう しない。
5-2 食卓しょくたく とポケットの中なか の土つち
偏在へんざい した土つち に、人類じんるい はどれほど依存いぞん しているか。会計かいけい をしてみよう。
FAOは「食料しょくりょう の95%は土壌どじょう で生産せいさん される」と公表こうひょう している事実じじつ [8] 。ところが査読さどく 論文ろんぶん でカロリー収支しゅうし を精算せいさん すると、この有名ゆうめい な数字すうじ はむしろ控ひか えめ だったことが分わ かる。人類じんるい が土壌どじょう 由来ゆらい の食料しょくりょう から得え るカロリーは1日ついたち あたり23×10¹²kcal。水圏すいけん (漁業ぎょぎょう ・養殖ようしょく )由来ゆらい は0.11×10¹²kcal。比率ひりつ にして約やく 200対つい 1、土壌どじょう のシェアは98.8% である事実じじつ [9] [10] 。魚さかな をよく食た べる文化圏ぶんかけん の直感ちょっかん ——「海うみ の寄与きよ はもっと大おお きいはずだ」——は、重量じゅうりょう の直感ちょっかん であって、カロリーの会計かいけい ではない。
人類の1日のカロリー・サンキー図
土壌
水圏
人類の食卓
23×10¹² kcal/日
0.11×10¹² kcal/日
98.8%
水圏の帯は誇張して細くしたのではない。比率通りに描くとこうなる
出典 [9][10]
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図ず 17海うみ は偉大いだい な脇役わきやく であり、主役しゅやく は一度いちど も交代こうたい していない。
海うみ は偉大いだい な脇役わきやく であり、主役しゅやく は一度いちど も交代こうたい していない。
魚さかな が主役しゅやく に見み えるのは、魚さかな が皿さら の上うえ で存在感そんざいかん を持も つからである。カロリーは存在感そんざいかん を持も たない。毎日まいにち 、目め に映うつ らない側がわ から、私わたし たちの体からだ は組く み上あ げられている。
そして依存いぞん は食卓しょくたく にとどまらない。いまポケットの中なか にある機械きかい を分解ぶんかい してみるといい。筐体きょうたい のアルミニウムの原料げんりょう ボーキサイト(铝土矿, bauxite)は、熱帯ねったい の赤あか い土つち (ラテライト)が長なが い年月としつき をかけて濃縮のうしゅく された、いわば「土つち の化石かせき 」である。半導体はんどうたい のシリコンは珪砂けいしゃ に由来ゆらい する事実じじつ [26] 。
スマートフォン分解図——由来をさかのぼる
いま手の中にあるもの
筐体のアルミニウム
ボーキサイト
熱帯の赤い土の化石
チップのシリコン
珪砂
石英の砂が濃縮したもの
電池のリチウム
塩湖の堆積物
由来は主要なもののみ。実際の端末は数十元素からなる
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図ず 18文明ぶんめい を分解ぶんかい すると、最後さいご はいつも土つち が出で てくる。
文明ぶんめい を分解ぶんかい すると、最後さいご はいつも土つち が出で てくる。
手て の中なか の機械きかい は、掘ほ り返かえ された土つち の別べつ の姿すがた である。通知つうち を確たし かめるたび、私わたし たちは熱帯ねったい のどこかの斜面しゃめん を、ポケットに入い れて持も ち歩ある いている。
5-3 家計簿かけいぼ ——収入しゅうにゅう は世紀せいき 単位たんい 、支出ししゅつ は年とし 単位たんい
では、その土つち の収支しゅうし はどうなっているか。
収入しゅうにゅう (形成けいせい )は第だい 3章さんしょう で見み た。100年ねん から1000年ねん で1cm事実じじつ [8] [26] 。支出ししゅつ (侵食しんしょく )については、201の研究けんきゅう ・1,673の測定値そくていち を集計しゅうけい した決定的けっていてき な論文ろんぶん がある。慣行かんこう 的てき に耕起こうき された農地のうち の侵食しんしょく 速度そくど は平均へいきん しておよそ毎年まいとし 1mm ——土壌どじょう の生成せいせい 速度そくど 、自然しぜん 植生しょくせい 下した の侵食しんしょく 速度そくど 、地質学ちしつがく 的てき な長期ちょうき 侵食しんしょく 速度そくど のいずれと比くら べても、1〜2桁にけた (10〜100倍ばい )速はや い 事実じじつ [17] 。論文ろんぶん の著者ちょしゃ モンゴメリーは、この速度そくど が「主要しゅよう な文明ぶんめい の寿命じゅみょう に匹敵ひってき する時間じかん スケールで、丘陵きゅうりょう の土壌どじょう 断面だんめん を掘ほ り抜ぬ いてしまう」ことを指摘してき している事実じじつ [17] 。
土の家計簿——生成と侵食の収支(対数目盛)
0.001 0.01 0.1
1 10
mm/年(対数目盛)
地質学的な侵食
≈0.017
土壌の生成
0.001〜0.1
慣行耕起の農地の侵食
≈1
10〜100倍
横軸は対数。線形で描けば耕起バーは紙面の外へ出る
出典 [8][17][26]
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図ず 19収入しゅうにゅう は世紀せいき 単位たんい 、支出ししゅつ は年とし 単位たんい 。
メソポタミアは、その最古さいこ の実例じつれい だったのかもしれない。森林しんりん 伐採ばっさい と灌漑かんがい の果は てに塩類えんるい 集積しゅうせき (盐渍化, salinization)が進すす み、穀物こくもつ 生産せいさん が衰おとろ えて王朝おうちょう が傾かたむ いた——という仮説かせつ は1958年ねん に提出ていしゅつ された古典こてん であり学説がくせつ [24] 、単一たんいつ 原因げんいん 説せつ には異論いろん もあるが、土つち の劣化れっか と文明ぶんめい の衰退すいたい の連動れんどう を示しめ す事例じれい として今いま も参照さんしょう され続つづ けている。
ちなみに、この分野ぶんや で最初さいしょ に「土つち の生産者せいさんしゃ 」の重要性じゅうようせい を見抜みぬ いた一人ひとり はダーウィンである。進化論しんかろん の巨人きょじん が人生じんせい の最後さいご に選えら んだ研究けんきゅう 対象たいしょう は、進化論しんかろん の続編ぞくへん ではなく、ミミズだった事実じじつ [25] 。ミミズの糞ふん こそが土つち であり、彼かれ らは4億よんおく 年ねん 、生産者せいさんしゃ として生い き延の びてきた。ゴミを出だ すだけで土つち を作つく れない人類じんるい は、この家計簿かけいぼ の赤字あかじ を構造的こうぞうてき に抱かか えている証言しょうげん [26] 。
ダーウィンは晩年ばんねん 、庭にわ に石いし を置お き、それが年々ねんねん 沈しず んでいくのを測はか り続つづ けた。正確せいかく には、石いし が沈しず んだのではない。ミミズが土つち を下した から上うえ へ運はこ び続つづ け、石いし の下した に新あたら しい地面じめん が生う まれていたのである事実じじつ [25] 。生涯しょうがい の最後さいご に彼かれ が見み つめていたのは、進化しんか の壮大そうだい な樹き ではなく、庭にわ の下もと で静しず かに回まわ り続つづ ける、小ちい さな会計かいけい だった。
ダーウィンの庭石——沈んだのは石ではない
置いた日
十数年後
置いた日の地面
ミミズが土を上へ運ぶ
石の高さは変わっていない
上がったのは、地面のほうである
模式図。ダーウィンが庭で続けた観測(1881)の要点だけを描いた [25]
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図ず 20進化論しんかろん の巨人きょじん が最後さいご に測はか っていたのは、庭にわ の下した の会計かいけい だった。
もう一ひと つ、この家計簿かけいぼ には気候きこう という項目こうもく もある。腐植ふしょく の分解ぶんかい はCO₂の放出ほうしゅつ であり、逆ぎゃく に土壌どじょう への炭素たんそ 蓄積ちくせき は大気たいき からの回収かいしゅう である。農業のうぎょう ・林業りんぎょう ・土地とち 利用りよう (AFOLU)は人為じんい 起源きげん 温室おんしつ 効果こうか ガス排出はいしゅつ の約やく 2割にわり を占し め事実じじつ [27] 、土つち は炭素たんそ 収支しゅうし の巨大きょだい なスイッチとして、温暖化おんだんか の加害者かがいしゃ にも緩和かんわ 策さく にもなり得う る。
最後さいご に、完璧かんぺき な土つち がなぜ存在そんざい しないかも記しる しておく。雨あめ が多おお ければ、養分ようぶん は溶と けて流なが れ去さ り、土つち は酸性さんせい 化か する(日本型にほんがた )。雨あめ が少すく なければ、養分ようぶん は残のこ るが水みず がない(チェルノーゼム型かた ・砂漠さばく 型がた )。水みず と養分ようぶん はトレードオフの関係かんけい にあり事実じじつ [26] 、完璧かんぺき な土つち は、物理ぶつり 法則ほうそく によって禁きん じられている。
完璧かんぺき な土つち がない、というのは、悲かな しい話はなし ではない。どの土地とち にも、その土地とち なりの限界げんかい があり、限界げんかい の内側うちがわ にその土地とち なりの豊ゆた かさがある。日本にほん の土つち が酸性さんせい なのは雨あめ が多おお いからで、雨あめ が多おお いということは、少すく なくとも水みず には困こま らないということでもある。
赤字あかじ は構造的こうぞうてき である。人類じんるい はこの赤字あかじ に、どう立た ち向む かっているのか。
第だい 6章ろくしょう 「作つく る」のではなく「急せ かす」——土壌どじょう 工学こうがく の最前線さいぜんせん
40年前ねんまえ 、誰だれ かがストッキングに火山灰かざんばい を詰つ めて土つち に埋う めた。いつか誰だれ かが掘ほ り返かえ すことだけを当あ てにした実験じっけん である。
科学かがく には、そういう、手紙てがみ のような仕事しごと がある。
6-1 40年前ねんまえ のストッキング
1980年代ねんだい 、桜島さくらじま の火山灰かざんばい をストッキングに詰つ めて、土つち の中なか に埋う めた研究者けんきゅうしゃ たちがいた。火山灰かざんばい が土つち に変か わる過程かてい を、将来しょうらい の誰だれ かが検証けんしょう できるように、である。
40年後ねんご 、その「誰だれ か」——土壌学どじょうがく 者しゃ の藤井一至ふじいかずみち ——が掘ほ り出だ した。周囲しゅうい の土つち の混入こんにゅう を元素げんそ 分析ぶんせき で除外じょがい してもなお、ストッキングの中なか の火山灰かざんばい は、土つち 的てき なものへと変質へんしつ し始はじ めていた。1年いちねん 目め ・2年にねん 目め ・5年ごねん 目め に埋う めた追つい 実験じっけん の試料しりょう でも、早はや い段階だんかい から良好りょうこう な変化へんか を示しめ す材料ざいりょう が確認かくにん されているという証言しょうげん [26] 。
この実験じっけん の美うつく しさは、結果けっか ではなく形式けいしき にある。埋う めた本人ほんにん が結果けっか を見み られるとは限かぎ らない設計せっけい になっている。40年後ねんご に掘ほ る人ひと がいるかどうかは、埋う めた時点じてん では分わ からない。それでも埋う めた。土つち の研究けんきゅう は、しばしばこの時間じかん の単位たんい で行おこな われる。
ここで本稿ほんこう の表示ひょうじ 規則きそく が意味いみ を持も つ。この40年よんじゅうねん 実験じっけん は、査読さどく 論文ろんぶん としては公刊こうかん されておらず、研究者けんきゅうしゃ 本人ほんにん の直接ちょくせつ 証言しょうげん である。だから本稿ほんこう はこれを証言しょうげん と表示ひょうじ する。証言しょうげん は嘘うそ という意味いみ ではない。検証けんしょう の階梯かいてい (一次いちじ データ→査読さどく →追試ついし )のどこにいるかの表示ひょうじ である。読者どくしゃ には、この等級とうきゅう 表示ひょうじ ごと情報じょうほう を受う け取と ってほしい。
6-2 ぬか漬づ け方式ほうしき ——移住いじゅう には、家いえ ごと
「土つち を早はや く作つく る」試こころ みの最大さいだい の敵てき は、皮肉ひにく なことに土着どちゃく の微生物びせいぶつ である。有用ゆうよう な微生物びせいぶつ を液体えきたい 培養ばいよう して撒ま いても、その土地とち に既すで に住す む微生物びせいぶつ 群ぐん に競せ り負ま けて、定着ていちゃく せずに消き えてしまう証言しょうげん [26] 。
そこで考案こうあん されたのが、いわば「ぬか漬づ け方式ほうしき 」である。微生物びせいぶつ を単体たんたい で送おく り込こ むのではなく、火山灰かざんばい などの担体たんたい (载体, carrier)に馴染なじ ませ、居場所いばしょ ごと土つち に埋う め込こ む。さらに、その微生物びせいぶつ と共生きょうせい 関係かんけい にある苗木なえぎ をセットで植う える。するとようやく定着ていちゃく し、周囲しゅうい へ広ひろ がり始はじ める。インドネシアの劣化れっか 地ち で実践じっせん が進すす んでいる証言しょうげん [26] 。
ぬか床どこ を分わ けてもらうとき、私わたし たちは菌きん をもらっているのではない。床ゆか をもらっている。糠ぬか と塩しお と水みず と、そこに住す み着つ いた無数むすう のものを、まとめて一ひと つの居場所いばしょ として受う け取と る。土つち に微生物びせいぶつ を移うつ すときの作法さほう も、結局けっきょく そこへ帰かえ ってきた。
ぬか漬け方式——定着の条件
単体で撒く
消える
緑=送り込んだ微生物 灰=その土地の土着菌
居場所ごと埋める
担体(火山灰)
苗木は微生物と共生する種を選ぶ
単体では負ける。居場所ごとなら、根づく。
模式図。定着の成否は土地の条件にも依存する
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図ず 21移住いじゅう には、家いえ ごと運はこ ぶこと。
第だい 4章よんしょう の障壁しょうへき 3(単離たんり 不能ふのう 性せい )を思おも い出だ してほしい。単離たんり すると死し ぬのなら、単離たんり せずに運はこ べばよい——この方式ほうしき は、障壁しょうへき を突破とっぱ したのではなく、障壁しょうへき の形かたち に沿そ って迂回うかい した のである。
そしてもう一ひと つ、突破とっぱ ではなく迂回うかい の成功せいこう 例れい が既すで に大規模だいきぼ に存在そんざい する。不ふ 耕起こうき 栽培さいばい (免めん 耕こう , no-till farming)である。耕たがや さない農法のうほう は土壌どじょう の侵食しんしょく 速度そくど を劇的げきてき に下さ げ、生成せいせい 速度そくど に近ちか い水準すいじゅん ——つまり収支しゅうし の均衡きんこう 点てん 近ちか く——まで戻もど せることが、第だい 5章ごしょう で引ひ いたモンゴメリーの集計しゅうけい で示しめ されている事実じじつ [17] 。
天秤は戻せる——不耕起という選択
慣行耕起
侵食
≈1 mm/年
生成
不耕起
侵食と生成が釣り合いに近づく
出典 [17]。皿の大きさは模式で、比率を表すものではない
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図ず 22土つち は作つく れない。だが、赤字あかじ を止と める技術ぎじゅつ は既すで にある。
土つち は作つく れない。だが、赤字あかじ を止と める技術ぎじゅつ は既すで にある。
耕たがや さない、というのは、何なに かを足た す技術ぎじゅつ ではない。手て を止と めるという技術ぎじゅつ である。人類じんるい が土つち に対たい してできる最もっと も効果こうか の大おお きい行為こうい が、いまのところ「やりすぎない」ことだというのは、覚おぼ えておいてよい皮肉ひにく だと思おも う。
6-3 火星かせい でいちばん最初さいしょ に緑みどり になる生物せいぶつ
視線しせん を上あ げよう。月つき や火星かせい のレゴリスを土つち に変か える——人類じんるい が宇宙うちゅう に出で るなら避さ けて通とお れないこの課題かだい の、一番いちばん 手て の候補こうほ は誰だれ か。
コケである。2024年ねん 、中国ちゅうごく 科学かがく 院いん のチームが、砂漠さばく に生い きるコケ Syntrichia caninervis (齿肋赤藓)の耐性たいせい 試験しけん の結果けっか を発表はっぴょう した。液体えきたい 窒素ちっそ (−196℃)での凍結とうけつ から、再生さいせい 。ガンマ線せん 500グレイの照射しょうしゃ から、再生さいせい (ヒトの半数はんすう 致死ちし 線量せんりょう は4〜5グレイである)。95%CO₂・低圧ていあつ ・強紫外線きょうしがいせん の火星かせい 模擬もぎ 環境かんきょう から、再生さいせい 事実じじつ [20] 。
あるコケの履歴書
Syntrichia caninervis(齿肋赤藓)
凍結
−196℃(液体窒素)
→ 生還
ガンマ線
500 Gy
→ 生還
火星模擬環境
95%CO₂・低圧・強紫外線
→ 生還
乾燥
完全な脱水から復活
→ 生還
ヒトの半数致死線量:約4〜5 Gy [20]
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図ず 23火星かせい でいちばん最初さいしょ に緑みどり になるのは、おそらくこの生物せいぶつ である。
5億ごおく 年前ねんまえ 、地球ちきゅう の裸はだか の岩いわ に最初さいしょ に取と りついたのがコケと地衣類ちいるい だった(第だい 3章さんしょう )。もし火星かせい の地面じめん がいつか緑みどり になるなら、その最初さいしょ の緑みどり も、おそらくコケである。現在げんざい の研究けんきゅう は、コケの働はたら きを支ささ える「最小限さいしょうげん の微生物びせいぶつ セット」の絞しぼ り込こ みに向む かっている。持も ち込こ む種数しゅすう は、宇宙うちゅう 外来種がいらいしゅ 問題もんだい の観点かんてん から最小化さいしょうか が求もと められる証言しょうげん [26] 。
5億ごおく 年前ねんまえ に採用さいよう された解かい が、いま、別べつ の惑星わくせい の入札にゅうさつ に呼よ ばれている。
コケは進化しんか の主役しゅやく になったことが一度いちど もない。大おお きくならず、速はや くもならず、目立めだ つ器官きかん も持も たなかった。その代か わりに、ほとんど何なん にも殺ころ されないという一点いってん を、5億ごおく 年ねん かけて磨みが き続つづ けた。宇宙うちゅう へ最初さいしょ に持も っていく生物せいぶつ としてこれ以上いじょう の履歴書りれきしょ は、たぶんない。
6-4 精密せいみつ 化か ——「合成ごうせい 」と「触媒しょくばい 」
さて、本章ほんしょう の三みっ つの事例じれい ——ストッキング、ぬか漬づ け方式ほうしき 、宇宙うちゅう のコケ——は、第だい 4章よんしょう の主張しゅちょう 「土つち は作つく れない」への反例はんれい に見み えるかもしれない。実際じっさい 、藤井ふじい 自身じしん が40年よんじゅうねん 実験じっけん を前まえ に「土つち の定義ていぎ 次第しだい では、作つく れなくもない」と立場たちば を柔やわ らかくしている証言しょうげん [26] 。
ここで概念がいねん を精密せいみつ にしておきたい。化学かがく における合成ごうせい (合成ごうせい , synthesis)とは、目的物もくてきぶつ を構成要素こうせいようそ から人為的じんいてき に組く み上あ げることである。触媒しょくばい (催もよおし 化か , catalysis)とは、反応はんのう の主体しゅたい は別べつ にいて、その速度そくど を上あ げることである。
本章ほんしょう の全ぜん 事例じれい は、後者こうしゃ である。土つち を作つく っている主体しゅたい は、依然いぜん として微生物びせいぶつ と植物しょくぶつ だ。人類じんるい がしているのは、材料ざいりょう と居場所いばしょ を整ととの えて「急いそ いでください」とお願ねが いすること——5億ごおく 年ねん の反応はんのう の、触媒しょくばい になることである。だから第だい 4章よんしょう の主張しゅちょう は、正確せいかく にはこう書か き直なお される。
人類じんるい は土つち を合成ごうせい できない。しかし、生物せいぶつ による土壌どじょう 形成けいせい を触媒しょくばい することは、できはじめている。
触媒しょくばい という語ご には、少すこ し寂さび しい響ひび きがある。主役しゅやく ではない、ということだからだ。だが化学かがく において触媒しょくばい は、無な ければ反応はんのう が起お きないもののことである。脇わき にいて、しかし不可欠ふかけつ 。人類じんるい が土つち に対たい して持も てる最良さいりょう の関係かんけい は、たぶんその位置いち にある。
合成と触媒——人類にできるのはどちらか
岩・落ち葉・生きもの
土
越えるべき山
触媒なし=5億年
触媒あり=もっと速く
終点は同じ
合成
目的物を、構成要素から人為的に組み上げる
できない
触媒
主体は別にいて、その速度を上げる
できはじめている
土を作っている主体は、いまも微生物と植物である
上の曲線は化学の反応座標を借りた模式。縦軸に目盛はない
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図ず 24脇わき にいて、しかし無な ければ起お きない。それが触媒しょくばい という位置いち である。
この区別くべつ は言葉遊ことばあそ びではない。合成ごうせい できないからこそ、今いま ある土つち の保全ほぜん が、いかなる製造せいぞう 計画けいかく よりも優先ゆうせん される——という実践的じっせんてき な帰結きけつ が、ここから直接ちょくせつ 導みちび かれるからである。人工じんこう 土壌どじょう の技術ぎじゅつ は、医療いりょう に喩たと えれば対症療法たいしょうりょうほう の薬くすり であり、基本きほん はあくまで生活習慣せいかつしゅうかん ——持続じぞく 可能かのう な土地とち 利用りよう ——の改善かいぜん なのだ証言しょうげん [26] 。
では、その「危機きき 」の言説げんせつ は、すべて信用しんよう してよいのか。——1つ、世界的せかいてき に有名ゆうめい な嘘うそ の話はなし をしなければならない。
第だい 7章ななしょう 「残のこ り60年ろくじゅうねん 」は嘘うそ だった。それでも危機きき は、本物ほんもの である
嘘うそ は、たいてい親切しんせつ な顔かお をして現あらわ れる。覚おぼ えやすく、言い いやすく、引用いんよう しやすい。
この章しょう では、そういう嘘うそ を一ひと つ、解剖かいぼう する。
7-1 出典しゅってん のない黙示録もくしろく
「世界せかい の土壌どじょう は、あと60年ろくじゅうねん で尽つ きる」。
この数字すうじ を、あなたはどこかで見み たことがあるはずだ。2014年ねん に国際こくさい 会議かいぎ の場ば で発言はつげん されて以来いらい 、報道ほうどう され、講演こうえん で引用いんよう され、書籍しょせき に載の り、動画どうが で語かた られ、世界せかい で最もっと も有名ゆうめい な環境かんきょう の警句けいく の一ひと つになった。
データ科学者かがくしゃ のハンナ・リッチーらがこの数字すうじ の出典しゅってん を遡さかのぼ ったとき、発見はっけん されたのは驚おどろ くべきことだった。遡さかのぼ れる一次いちじ 資料しりょう が、存在そんざい しなかった のである事実じじつ [19] 。単一たんいつ の研究けんきゅう も、単一たんいつ のデータセットも、この「60年ろくじゅうねん 」を支ささ えていない。世界せかい の全土壌ぜんどじょう に単一たんいつ の寿命じゅみょう を語かた ること自体じたい が「不正確ふせいかく でありナンセンス」——それが追跡ついせき 調査ちょうさ の結論けつろん だった事実じじつ [19] 。
出典しゅってん を遡さかのぼ るという作業さぎょう は、地味じみ で、ほとんど報むく われない。ある発言はつげん を、その人ひと が読よ んだ記事きじ へ、記事きじ が引ひ いた講演こうえん へ、講演こうえん が参照さんしょう した報告ほうこく へ、と辿たど っていく。たいていはどこかで足跡あしあと が消き える。消き えた場所ばしょ こそが、その主張しゅちょう の本当ほんとう の産地さんち である。
「60年」神話の系譜と、実データの構造
神話の系譜
実データの構造
2014年・国際会議での発言
一次根拠:未発見
報道 講演
書籍 動画
実線のノードをいくつ遡っても
最後は破線に行き着く
Evans et al. 2020
査読済み・全球推定
255地点 38カ国 10,030
プロット年
結論を、測定が下から支えている
引用の数は、根拠の量ではない。
枝の本数は模式。実際の引用はこれよりはるかに多い
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図ず 25系譜けいふ を遡さかのぼ れ。破線はせん に行い き着つ いたら、それは知識ちしき ではない。
引用いんよう の数かず は、根拠こんきょ の量りょう ではない。何千なんぜん 回かい 引用いんよう されても、系譜けいふ を遡さかのぼ って破線はせん ——実体じったい のないノード——に行い き着つ くなら、それは知識ちしき ではない。
7-2 では、実じつ データは何なに と言い っているか
嘘うそ を壊こわ しただけでは、科学かがく にならない。実測じっそく を見み よう。
2020年ねん 、ランカスター大学だいがく ・長安大学ちょうあんだいがく ・ルーヴェン大学だいがく の共同きょうどう チームが、38カ国こく 255地点ちてん ・のべ10,030プロット年とし という土壌どじょう 侵食しんしょく データの世界的せかいてき 集成しゅうせい を発表はっぴょう した。表土ひょうど 30cmが侵食しんしょく で失うしな われるまでの時間じかん を「土壌どじょう の寿命じゅみょう 」と定義ていぎ して計算けいさん した、初はつ の証拠しょうこ に基もと づく全球ぜんきゅう 推定すいてい である事実じじつ [18] 。
結果けっか は、単一たんいつ の数字すうじ ではなく、分布ぶんぷ だった。
慣行かんこう 農法のうほう の下もと では、調査対象ちょうさたいしょう の90%以上いじょう の土壌どじょう が薄うす 化か しつつあり、16%は寿命じゅみょう 100年ねん 未満みまん 、およそ3さん 分ぶん の1が200年ねん 未満みまん 。薄うす 化か している土壌どじょう の寿命じゅみょう の中央値ちゅうおうち は491年ねん 事実じじつ [18] 。寿命じゅみょう 100年ねん 未満みまん の土壌どじょう は、貧まず しい国くに の問題もんだい ではなく、オーストラリア・中国ちゅうごく ・イギリス・アメリカを含ふく む世界中せかいじゅう に分布ぶんぷ していた事実じじつ [18] 。
そして決定的けっていてき なのは、次つぎ の数字すうじ である。保全ほぜん 的てき な農法のうほう の下もと では、39%の土壌どじょう が寿命じゅみょう 1万いちまん 年ねん を超こ え、土壌どじょう が厚あつ くなっていく事例じれい さえ存在そんざい した事実じじつ [18] 。
寿命は分布である——慣行農法と保全農法
慣行農法
寿命100年未満
16%
かつて語られた「一律60年」
薄化している土壌の中央値 491年
同じ地球、違う農法
<100年
100〜200
200〜1000
1000〜10000
>10000年
保全農法
39%
寿命1万年超
バーの高さは概形。ラベルを付けた値(16%・39%・中央値491年)だけが文献の確定値である [18]
横軸のビンは対数。「一律60年」は実在しない値なので、実在する分布の上に破線で重ねた
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図ず 26未来みらい は1つの数字すうじ ではなく、選択せんたく の関数かんすう である。
同おな じ地球ちきゅう で、である。運命うんめい を分わ けているのは土壌どじょう の側がわ ではなく、農法のうほう ——人間にんげん の選択せんたく ——の側がわ なのだ。
この一文いちぶん は、責任せきにん の話はなし であると同時どうじ に、余地よち の話はなし でもある。土つち が薄うす くなるか厚あつ くなるかを決き めているのは、気候きこう でも国境こっきょう でも運うん でもなく、その畑はたけ を今年ことし どう扱あつか ったかである。責任せきにん があるということは、まだ手て が届とど くということだ。
7-3 分布ぶんぷ を単一たんいつ の数かず に潰つぶ すことは、嘘うそ をつくもっとも上品じょうひん な方法ほうほう である
「60年ろくじゅうねん 」神話しんわ の解剖かいぼう から、二ふた つの教訓きょうくん を取と り出だ したい。
第一だいいち に、認知にんち の教訓きょうくん 。491年ねん 、16%、39%、1万いちまん 年ねん ——分布ぶんぷ は覚おぼ えにくく、伝つた わりにくい。「あと60年ろくじゅうねん 」は覚おぼ えやすく、伝つた わりやすい。誤ご 情報じょうほう は、内容ないよう が過激かげき だから広ひろ まるのではない。認知にんち 的てき に安価あんか だから広ひろ まる。分布ぶんぷ を単一たんいつ の数かず に潰つぶ すことは、嘘うそ をつくもっとも上品じょうひん な方法ほうほう である。
安価あんか 、という語ご は比喩ひゆ ではない。覚おぼ えるのに要よう する労力ろうりょく 、伝つた えるのに要よう する時間じかん 、疑うたが うのに要よう する知識ちしき ——どれも支払しはら われる費用ひよう である。正確せいかく な情報じょうほう は、たいてい高たか い。
高たか い情報じょうほう を、それでも運はこ ぼうとするのが、書か くという仕事しごと の中身なかみ なのだと思おも う。
第だい 二に に、構造こうぞう の教訓きょうくん 。「60年ろくじゅうねん 」は誇張こちょう だったが、では危機きき も虚構きょこう だったのか。否いな である。90%以上いじょう の耕地こうち 土壌どじょう が現げん に薄うす 化か しており事実じじつ [18] 、慣行かんこう 耕起こうき の侵食しんしょく が生成せいせい の10〜100倍ばい であることは、1,673の測定値そくていち が支ささ えている事実じじつ [17] 。誇張こちょう を注意ちゅうい 深ふか く取と り除のぞ いた後あと に残のこ る事実じじつ だけで、結論けつろん には十分じゅうぶん すぎる。むしろ「60年ろくじゅうねん で終お わる」という終末しゅうまつ 時計とけい は、「60年ろくじゅうねん は大丈夫だいじょうぶ 」という誤読ごどく と、「どうせ間ま に合あ わない」という諦観ていかん の両方りょうほう を生う む点てん で、実じつ データの示しめ す「選択せんたく 次第しだい で1万いちまん 年ねん 」よりも行動こうどう を導みちび く力ちから が弱よわ い。
正確せいかく さは、悲観ひかん よりも、よほど人ひと を動うご かす。
終章しゅうしょう 足元あしもと の土つち は、5億ごおく 年ねん 分ぶん の計算結果けいさんけっか である
掘ほ り下さ げてきた穴あな を、そろそろ埋う め戻もど す。
埋う め戻もど すときには、掘ほ る前まえ とは違ちが うものが見み えている。
8-1 三みっ つの独占どくせん
冒頭ぼうとう の朝あさ に戻もど ろう。あなたが今朝けさ 踏ふ んだ数かず センチの下した の物質ぶっしつ について、本稿ほんこう が検証けんしょう してきたことを重かさ ねると、三重さんじゅう の円えん になる。
宇宙うちゅう 的てき 希少性きしょうせい (第だい 2章にしょう )——第だい 1章いっしょう の定義ていぎ を満み たす物質ぶっしつ は、太陽系たいようけい で地球ちきゅう 表面ひょうめん にしか確認かくにん されていない。
工学こうがく 的てき 再現さいげん 不能ふのう 性せい (第だい 4章よんしょう )——それは1万いちまん 種しゅ ・大半たいはん が単離たんり 不能ふのう な微生物びせいぶつ による自己じこ 再生産さいせいさん 系けい であり、人類じんるい に合成ごうせい できるのは触媒しょくばい 的てき な加速かそく までである(第だい 6章ろくしょう )。
経済的けいざいてき 不可逆性ふかぎゃくせい (第だい 5章ごしょう )——形成けいせい は世紀せいき 単位たんい 、喪失そうしつ は年とし 単位たんい 。ただし収支しゅうし は農法のうほう という変数へんすう に依存いぞん する(第だい 7章ななしょう )。
統合——三重の独占
土
宇宙的希少性
太陽系で地球のみ|第2章
工学的再現不能性
4つの障壁|第4章
経済的不可逆性
形成は世紀、喪失は年|第5章
三つは論理的に独立で、それぞれ別の一次文献群に支えられている
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図ず 27三みっ つの意味いみ で、これは生命せいめい だけの技術ぎじゅつ である。
三みっ つの性質せいしつ は論理的ろんりてき に独立どくりつ で、それぞれ別べつ の一次いちじ 文献ぶんけん 群ぐん に支ささ えられ、そして三みっ つ重かさ なる物質ぶっしつ は、知し られている限かぎ り宇宙うちゅう にこれ一ひと つしかない。「土つち は生命せいめい の独占どくせん 技術ぎじゅつ である」という本稿ほんこう の標語ひょうご は、比喩ひゆ である。だが、三みっ つの検証けんしょう を通過つうか した今いま 、この比喩ひゆ は字義じぎ のすぐ隣となり まで来き ているはずだ。
一ひと つだけ、哲学的てつがくてき な注意ちゅうい を払はら っておく。「生命せいめい が5億ごおく 年ねん かけて土つち を作つく り上あ げた」という言い い方かた には、目的論もくてきろん (目的论, teleology)の匂にお いがある。進化しんか に目的もくてき はない。正確せいかく には、淘汰圧とうたあつ の下もと での反復はんぷく の結果けっか を、私わたし たちが事後じご 的てき に「最適化さいてきか 」と呼よ んでいるにすぎない推論すいろん 。それでも——目的もくてき なき反復はんぷく が5億ごおく 年ねん 続つづ いた末すえ の系けい が、目的もくてき を持も った人類じんるい の全ぜん 技術ぎじゅつ の手て に負お えない、という非対称ひたいしょう は残のこ る。この非対称ひたいしょう こそが、本稿ほんこう がたどってきた驚異きょうい の正体しょうたい である。
進化しんか に目的もくてき はない、と書か いた同おな じ手て で、私わたし はこの稿こう を書か いている。目的もくてき を持も った側がわ が、目的もくてき を持も たない過程かてい の産物さんぶつ に及およ ばない——その事実じじつ には、少すこ しだけ救すく われるところがある。世界せかい には、誰だれ の意図いと とも無関係むかんけい に、うまくできてしまったものがある。
8-2 自然しぜん 知能ちのう ——培養ばいよう できない99%のノイズの中なか に
生成せいせい AIの時代じだい に、土壌どじょう 研究者けんきゅうしゃ は面白おもしろ い逆転ぎゃくてん を語かた っている。AIは土壌どじょう 研究けんきゅう の武器ぶき になる。多様たよう な条件下じょうけんか で「よく育そだ つ土つち 」に共通きょうつう する微生物びせいぶつ パターンを学習がくしゅう させれば、農家のうか の勘かん と経験けいけん を形式知けいしきち に変換へんかん できるだろう証言しょうげん [26] 。
だが土つち それ自体じたい が、5億ごおく 年ねん の反復はんぷく 計算けいさん の末すえ に環境かんきょう 変動へんどう への解かい を保持ほじ し続つづ けてきた系けい ——いわば自然しぜん 知能ちのう (自然しぜん 智能ちのう , natural intelligence)である証言しょうげん [26] 。人工知能じんこうちのう は訓練くんれん 分布ぶんぷ の外そと に弱よわ い。土壌どじょう の微生物びせいぶつ 系けい は、第だい 4章よんしょう で見み た「2%の優占ゆうせん 者しゃ と98%の控ひか え」というポートフォリオによって、分布ぶんぷ 外がい の環境かんきょう 変動へんどう を何度なんど も乗の り越こ えてきた推論すいろん (この対比たいひ は思想しそう 的てき な主張しゅちょう であり、定量ていりょう 比較ひかく ではない)。培養ばいよう できない99%——現在げんざい の科学かがく にとってのノイズ——の中なか にこそ、新あたら しい抗生こうせい 物質ぶっしつ を含ふく む未知みち の可能性かのうせい が眠ねむ っている、と研究者けんきゅうしゃ たちは考かんが えている証言しょうげん [26] 。
知能ちのう という語ご を土つち に使つか うのは、おそらく比喩ひゆ である。だが比喩ひゆ でしかないと言い い切き るには、土つち はあまりに多おお くの問題もんだい を解と いてきた。乾燥かんそう 、酸性さんせい 化か 、汚染おせん 、氷期ひょうき 、間氷期かんぴょうき 。答こた えは論文ろんぶん の形かたち ではなく、群集ぐんしゅう の組成そせい として保存ほぞん されている。
読よ めていないのは、こちらの側がわ である。
道具どうぐ ではなく、まだ読よ み終お えていない書物しょもつ 。土つち への正ただ しい距離感きょりかん は、その辺あた りにある。
8-3 開ひら いた窓まど
最後さいご に、時間じかん の両端りょうたん を見み て終お わる。
未来みらい 側がわ 。約やく 2.5億おく 年後ねんご に形成けいせい されると予測よそく される超ちょう 大陸たいりく パンゲア・ウルティマ(终极盘古大陆, Pangaea Ultima)では、内陸ないりく の気温きおん が40〜70℃に達たっ し、哺乳類ほにゅうるい の可住かじゅう 域いき は陸地りくち の8〜16%に縮ちぢ むというモデル計算けいさん がある事実じじつ [21] (モデル予測よそく としての事実じじつ )。約やく 10億じゅうおく 年後ねんご 、太陽光たいようこう 度ど が10%増ま すと海洋かいよう の蒸発じょうはつ が始はじ まり、水みず を溶媒ようばい とする風化ふうか ——土つち の生産せいさん ライン——は停止ていし へ向む かう事実じじつ [22] 。土つち は、宇宙論うちゅうろん 的てき にも有限ゆうげん である。46億よんじゅうろくおく 年ねん の惑星わくせい 史し の中なか で、土つち が存在そんざい できる時代じだい は、開ひら いた窓まど のような一いち 区間くかん にすぎない。私わたし たちはその窓まど の内側うちがわ に生う まれた。
窓まど 、という言い い方かた をしたのは、閉し まることが決き まっているからだ。開ひら いている時間じかん は長なが い。だが無限むげん ではない。そしてこの窓まど は、開あ けた者もの がいるわけでもない。ただ、条件じょうけん が重かさ なったあいだだけ、開ひら いている。
開いた窓——土が存在できる区間
地球の誕生
5億年前
いま
約10億年後
陸は裸の岩
土が現れる
海洋の蒸発が始まる
土が存在できる区間
46億年のうち、窓が開いているのはここだけである
未来側はモデル予測 [21][22]。横軸は線形で、左端が地球の誕生、右端はそこから約56億年後にあたる
窓の幅は、土が「あり得る」区間であって、あり続けることを保証しない
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図ず 28私わたし たちは、たまたま開ひら いている側がわ に生う まれた。
そして宇宙うちゅう 側がわ 。この検証けんしょう をすべて裏返うらがえ すと、一ひと つの探査たんさ 指針ししん が得とく られる。もし系けい 外惑星がいわくせい の表面ひょうめん に真しん の土壌どじょう ——腐植ふしょく を含ふく み、自己じこ 再生産さいせいさん する表層ひょうそう ——が見み つかったなら、それは生命せいめい の決定的けっていてき な証拠しょうこ 、バイオシグネチャー(生物印记, biosignature)となる推論すいろん 。土つち を探さが すことは、生命せいめい を探さが すことと同義どうぎ なのだ。
そう考かんが えると、この稿こう がしてきたのは、地球ちきゅう の表層ひょうそう を宇宙うちゅう 生物学せいぶつがく の対象たいしょう として見直みなお す練習れんしゅう でもあった。遠とお くを見み るための道具どうぐ として、足元あしもと を使つか ったのである。
明日あす の朝あさ 、家いえ を出で るとき、足あし の下した を一度いちど だけ思おも い出だ してほしい。
そこにあるのは、地球ちきゅう という惑星わくせい の履歴書りれきしょ であり、まだ誰だれ も読よ み終お えていない、5億ごおく 年ねん 分ぶん の計算結果けいさんけっか である。
参考文献さんこうぶんけん
本稿ほんこう の情報じょうほう 等級とうきゅう :事実じじつ =一次いちじ 文献ぶんけん または公的機関こうてききかん の公式こうしき 資料しりょう で検証けんしょう 済ずみ /学説がくせつ =査読さどく 研究けんきゅう があるが論争ろんそう または未確定みかくてい /推論すいろん =本稿ほんこう または引用元いんようもと による解釈かいしゃく /証言しょうげん =研究者けんきゅうしゃ の直接ちょくせつ 証言しょうげん (査読さどく 未了みりょう )
惑星わくせい 科学かがく ・地球史ちきゅうし
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