Chapter 1-2

科学

[ 原書 第1部 第2章 科学 ]

語数 16 / 節 9 / 1節 約1015

原書の導入

科学とは何か

現代と科学

入試では、「科学」に関する文章がしばしば出題される。その理由は、多くの受験生が「科学とは何か」を知らないからだ。

こう言うと、「現代社会が科学の成果によって成り立っていることも、科学技術が環境破壊や戦争兵器を生み出したことも、クローンや臓器移植などで科学技術が新たな倫理的な問題を引き起こしたことも知っている」と思う人がいるかもしれない。

しかし、入試の「科学論」では、もっと本質的なことが問われる。つまり、「そもそも科学とはいったい何なのか」ということだ。これがわからないと、なぜ科学とその応用としての科学技術が現在のように発展し、そして多くの問題を引き起こしたのかが理解できない。そのため、「科学とは何か」が出題されるのである。

近代科学の特徴

それでは「科学とは何か」について学んでいこう。科学の最大の特徴は、「機械論」という考え方だ。機械論とは、「自然も生物も、すべて物質からできた機械である。すべての物体は機械だから、一つ一つの部品から成り立っている。分解して細かく調べれば、対象を完全に理解できるはずだ」というものである。

現在のような科学を、古代や中世の科学と区別して「近代科学」と言う。近代以前の人々は、物体に魂があると考えたり、神の力によって世界が成り立っていると考えたりしていた。科学が今のような客観的な学問として発達したのは、近代に入り、宗教の力が弱まるにつれて、次第に機械論的な見方が強まっていったためだ。

近代科学の研究方法

近代以降の科学の驚くべき発展は、その研究の方法に理由がある。第一に、「実際に証明や検証ができることだけを研究する」という態度〈=実証主義〉が挙げられる。したがって、証明や検証・実験ができない領域の事柄は、研究の対象外とされた。

第二に、実験の結果から原因を考え、その因果関係を法則として導くという方法を取る。その法則化には数学が使われ、実験結果を数値データとして処理する。それによって、客観的で正確な科学的知識が得られる。

第三に近代科学は、物事をそれ以上分けられない要素にまで細かく分けて(還元して)分析し、それらを再構成して対象を理解する。これを要素(還元)主義と言う。部分部分を理解すれば全体を理解できるというこの考え方は、現代では限界も指摘されているものの、近代科学を強力に推し進めた原理の一つである。

科学の制度化

十九世紀に入り、科学技術の発達が産業の発展に不可欠なものとなると、科学の基礎研究や科学技術開発が国家や企業の支援で行われるようになっていった。すなわち、科学技術に関する研究・開発が個人的な知的探求を目的としたものではなく、企業や国家によって制度化され、大規模かつ組織的に行われるようになったのだ。その結果、科学や科学技術が社会に及ぼす影響はきわめて大きくなり、一面では科学や科学技術は人々の生活を便利で豊かにしたが、反面では地球的規模の環境破壊や世界的な大戦争を引き起こすようになっていった。

問い直される近代科学

二十世紀以降、近代科学は多くの批判にさらされ、そのあり方が問い直されている。たとえば、「科学は時代が進めば進むほど、新たな真理を発見して進歩する」という従来の科学観がくつがえされ、「科学もまた時代や社会の知的状況、科学者たちの物の見方などに拘束される」という考え方が出てきた。これに従えば、近代科学は真理追究の一本道を歩んできたわけではなく、ある特定の「考え方の枠組み」の中で発展してきたものであることがわかる。

また、近代科学の特徴である「機械論的自然観」や「要素主義」は自然を操作・支配の対象としてとらえるため、結果として自然破壊につながってしまった。その反省もあり、自然環境や生態系を有機的・全体的にとらえようとするエコロジーの思想も強まってきている。今後は、高度な科学技術を自然環境や生態系を保護するために用いていくような、人間と自然との共生のあり方が求められていると言えよう。

今まで見てきたように、科学も万能ではない。科学とはどのようなものかを理解した上で、科学と人間のよりよい関係について考えることが必要だ。

Macro — 科学論の地図

一本の流れが、正と負を生んだ

科学論の全体地図近代科学の四つの特徴が技術への応用と制度化を経て、正の遺産と負の遺産に分かれる流れを示した図。 近代科学の特徴 機械論的自然観 実証主義 因果関係の法則化 要素還元主義 コントロール可能な自然 自然の数値化・法則化 技術への応用 科学技術の制度化 正の遺産 食糧増産 医療の発展 生活水準の向上 負の遺産 環境問題 大量殺戮兵器開発 生命倫理問題 同じ一本の流れが、正と負の両方を生んだ
近代科学の特徴 → 技術への応用 → 制度化 → 二つの遺産

この章の語は、ばらばらの用語集ではない。機械論・実証主義・因果の法則化・要素還元主義という四つの特徴が、自然を操作可能なものに変え、技術へ応用され、国家と企業によって制度化された。食糧増産も環境破壊も、同じ一本の流れから出ている。個々の語は、この流れのどこかに位置している。

近代以前の科学と近代科学近代以前は神が創造した魂ある自然として分解不可能、近代科学では自然は部品からできた物体として分解可能とする対比図。 近代以前の科学 あらゆる物に魂があり、分解不可能 神の創造 自然(魂) 近代科学 自然は部品からできている 自然(物体) 分解 ABC DEF 分解できない 法則を見出す発想がない 分解できる 操作・支配の対象になる 宗教の力が弱まるにつれて機械論的な見方が強まった
近代以前の科学と、近代科学

転換点は「分けられるかどうか」にある。近代以前、自然は魂を持ち神が創ったものだったから、分解して調べるという発想が成り立たなかった。宗教の力が弱まり、自然が部品の集まりとみなされた瞬間に、自然は操作の対象になった。

Index — 16 sections

  1. 01テクノロジー
  2. 02機械論
  3. 03要素論
  4. 04複雑系
  5. 05仮説/検証
  6. 06科学主義
  7. 07パラダイム
  8. 08科学の中立性/科学の制度化/因果/実証
  9. 09帰納/演繹/有機/無機
Section 01

テクノロジー

41★★★

テクノロジー

テクノロジー[3]中高型

語構成

語源はギリシア語のテクネー。テクニック(技法)と同語源である。

定義

技術。中でも科学技術のこと。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑41
原書の解説

テクノロジーの語源はギリシア語の「テクネー」だが、その意味は〈よく生き得るための術〉で、道具を用いた技術だけではなく、詩や絵画などの芸術的要素も含んでいた。必ずしも技術=科学技術ではなかったのである。

ところが、近代に入り、国家が先導する軍事産業などの発達の影響を受けて、技術は急速に科学と結びつくようになった。そして、今日の巨大な科学技術の誕生は人々の暮らしを豊かにする反面、ブラックボックス(=仕組みのわからないもの)化して、原発事故で見られたような恐怖と不安を人々にもたらすようにもなった。

コラム

原子・分子レベルの物質を扱うナノテクノロジーや遺伝子操作を含むバイオテクノロジー(生命工学)など、科学技術の発達はめざましい。しかし、科学や科学技術自体には、〈こうすべきだ〉〈こうしてはならない〉といった倫理的な判断や方向性は含まれていない。これを、〈科学や科学技術の価値中立性〉と言う。

使用の境界

科学と結びついた技術を指す。個人の身体に宿る「技」は含まない。複製できるかどうかが線になる。

用法

評論文では「科学技術」とほぼ同義で使われ、多くは近代批判の文脈に置かれる。中心にあるのはブラックボックス化という論点で、使う側が仕組みを理解できないまま依存する状態を指す。原発・遺伝子操作・AIがその例として挙がる。もう一つの論点が〈複製可能性〉で、ダ・ヴィンチの絵や名選手の技は複製できないが、機械技術は複製できる。この差が「技」と「テクノロジー」を分ける。

用例
  • テクノロジーはブラックボックス化している。仕組みが分からないまま使っている状態。恐怖と不安の源になるという文脈で使う。
  • 身体技法はテクノロジーではない。個人の訓練と不可分で複製できないため。原書の入試文がこの区別を扱う。
  • ×職人のテクノロジーが失われる。個人の身体に宿る技なら「技」「技術」。テクノロジーは体系化・複製可能なものを指す。
原書の反意語・関連語

123

コロケーション
  • 先端テクノロジー
  • テクノロジーの進展
  • バイオテクノロジー

書き言葉・会話の両方で使える。

類語と差
  • 技術わざ全般日本語の「技術」は身体の技も含む。「職人の技術」は複製できない。テクノロジーは複製可能な体系を指すことが多い。
  • テクネーギリシア語の原義〈よく生き得るための術〉。道具の技術だけでなく詩や絵画も含んだ。現在の技術より広い。
  • 工学技術を体系化した学問学問分野の名。テクノロジーは実践と産物を含む。
  • 技法作品をつくる手つき芸術・工芸の語。個人に属し、伝授はできても複製はできない。

ENtechnology
ZH技术(技術, jìshù)

テクネーから技とテクノロジーへギリシア語テクネーが個人の身体に宿る技と、複製可能な近代的機械技術に分かれた経緯を示した図。 テクネー よく生き得るための術 個人の身体から離れない 身体の訓練と不可分 複製できない テクノロジー 科学と結びついた技術 身体から切り離される 複製できる ダ・ヴィンチの名画/達人の技 機械/原発/遺伝子操作 分かれ目は、複製できるかどうかにある
テクネーから、技とテクノロジーへ
入試文

テクネーという言葉は近代語のテクニック(技法)やテクノロジー(技術)の語源になっている。そういう観点から言えば、太古の石器から現代の科学技術に至るまで、すべての道具・機械類はテクネーの産物だと言うこともできる。しかし近代以前の伝統的技術は、現代のテクノロジーと違って、個人の身体から離れない「技」である。レオナルド・ダ・ヴィンチの名画は二度と現われないし、天才的俳優の名演技は二度と見られない。スポーツの名選手や武術の達人の技にしても同じことである。人間は老いと死を運命づけられた存在である以上、身体の訓練と結びついて生まれる「技」は本来個人的な手作りのものであって、機械的に複製することはできない。つまり、同じテクネーの産物であっても、近代的機械的技術と身体技法とは根本的に性質が違っており、後者は個々人の精神的努力と不可分なのである。

出典 湯浅泰雄『哲学の誕生 男性性と女性性の心理学』 / 出題 関西大学・商学部・政策創造学部・経済学部など

読解のポイント
  • テクネー(テクニックやテクノロジーの語源)
  • 近代以前=個人の身体から離れない「技」
  • - 身体の訓練と結びついて生まれる
  • - 個々人の精神的努力と不可分
  • 近代的機械的技術=複製可能
要約

近代以前の伝統的技術は、複製が可能な近代的機械的技術と異なり、個人の身体から離れない「技」であり、個々人の精神的努力と不可分なものだ。

語法の観察

テクネーという語が、複製できない「技」と複製できる技術に分かれた経緯が示される。「しかし」以降が主張。

本文中のキーワード

41テクノロジー123個人

Section 02

機械論

42★★★

機械論きかいろん

きかいろん[0]平板型

語構成
機械からくり・しかけ説き方・立場
定義

物事を、精密に組み立てられた機械のようにみなす考え方。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑42
原書の解説

機械は部品と部品との組み合わせでできている。機械がどのように動くかは、それぞれの部品を調べて、それを再び組み合わせれば理解できる。このように、ある現象を機械であるかのようにみなし、原因と結果からなる法則で説明しようとする考え方を機械論と言う。

機械論を自然の理解に応用し、自然現象を原因と結果の因果関係で説明できると考えるのが機械論的自然観である。こうした自然観は、自然を操作・支配する態度につながっていた。それに対して近代以前の自然観は、自然を一つの生命体だと考えたり、自然の中に神の意思を読み取ったりしていたため、近代科学のように、自然の中に法則を発見したり数学的な処理をするという発想がなかった。

ちなみに、イギリスの哲学者・政治思想家のホッブズ(一五八八〜一六七九年)は、はじめて国家を機械としてみなし、個人を国家の最小単位の部品だと考えた。そして、その個人が自分の利益だけを考えると人々は殺し合ってしまうため、国家が必要だと説いた。

使用の境界

物事を部品の組み合わせとみなし、原因と結果の法則で説明する立場。単に「機械のようだ」という比喩ではない。

用法

評論文では単独より「機械論的自然観」という結びつきで現れる。要点は、自然を〈分解できる部品の集まり〉と見た結果、自然が操作・支配の対象になったという因果である。近代批判の文章はほぼこの流れをたどる。近代以前の自然観(自然は生命体、自然に神の意思が宿る)との対比で出るので、必ず対の側を探す。ホッブズが国家を機械、個人を部品とみなした例が挙げられることも多い。

用例
  • 機械論的自然観は自然を操作・支配の対象とした。分解できる部品と見たから操作できる。この因果が近代批判の骨格。
  • 近代以前は自然を一つの生命体だと考えた。機械論の対極。法則を発見したり数学で処理する発想がなかった。
  • ホッブズは国家を機械、個人をその部品とみなした。機械論が自然だけでなく社会にも適用された例。
原書の反意語・関連語

43 要素論

派生形
  • 機械論的きかいろんてき[0]
  • 機械論的自然観きかいろんてきしぜんかん[0]
コロケーション
  • 機械論的自然観
  • 機械論に立つ
  • 機械論と生気論
硬・学術

論文・評論でのみ使う。会話では不自然。

類語と差
  • 要素論部分に分けて全体を理解する機械論の方法面。機械論が〈世界観〉、要素論が〈手続き〉と分けると整理できる。
  • 生気論生命には固有の力があるとする機械論の対立立場。生命を物質だけでは説明できないとする。
  • 目的論物事は目的に向かうとする近代以前の説明様式。機械論は目的を認めず、原因だけで説明する。
  • 有機体論全体が部分を規定する部分の総和では全体を説明できないとする立場。機械論の逆。

ENmechanism
ZH机械论(機械論, jīxièlùn)

二つの自然観自然を一つの生命体とみる近代以前の自然観と、部品の組み合わせとみる機械論的自然観の対比図。 近代以前の自然観 自然は一つの生命体 分けられない。神の意思が宿る。 機械論的自然観 自然は部品の組み合わせ 分けられる。因果の法則で説明する。 分けられるとみなした瞬間、自然は操作の対象になった
二つの自然観 ── 分けられるか
入試文

私たち近・現代人は、近代科学の分析的な知、機械論的な自然観にもとづく知によって、事物や自然をひたすら対象化し、事物や自然の法則を知ってそれを支配し、それに働きかけようとしてきた。そうすることによって、人間の支配圏と自由を拡大しようとしてきた。そしてたしかに、そのような近代科学の知にのっとった技術文明は、世界的な規模で衣・食・住にわたって人類の生活に大きな変革をもたらしたといえるだろう。
しかも近代科学の知と技術文明は、それらのもたらしたものが大きかっただけではなく、人間の営みのなかで、ただ一つ永続的かつ無限に発展するものと見なされてきた。したがって現在未解決な問題も、やがては必ず科学によって解決されるものと考えられた。近代生理学や医学はまさにそのような能動的で楽観的な科学的知の所産であり、そこでは痛みや苦しみをなくし、病を排除することができると確信された。

出典 中村雄二郎『術語集』 / 出題 中央大学・商学部

読解のポイント
近代科学の知と技術文明
↓
機械論的自然観
↓
事物や自然をひたすら対象化・法則化
↓
支配
↓
永続的かつ無限に発展
→ 未解決の問題も未来には解決
要約

機械論的自然観にもとづく近代科学・技術文明は、人間の生活を便利にした。そして社会は永続的、無限に発展するものと見なされ、すべての問題が科学によって解決するものと考えられた。

語法の観察

「〜てきた」「〜と見なされてきた」という完了の反復が、近代という一つの時代を一括りにして対象化している。

本文中のキーワード

42機械論的な自然観9対象化74文明

Section 03

要素論

43★★★

要素論ようそろん

ようそろん[0]平板型

語構成
要素もとになる一つ一つ説き方・立場
定義

要素=それ以上簡単なものに分析できないもの、を調べることで全体を理解しようとする考え方。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑43
原書の解説

要素論は要素還元論、要素主義とも言い、対象を最小の構成単位にまで分解し、それらの構成要素のもつ性質や関係を明らかにすることによって、全体を理解しようとする考え方を指す。

要素論は科学の発展を主導してきたが、他方でその限界も指摘されている。それは、要素論の考え方では全体を理解できないこともあるからだ。

たとえば、複雑系という学問分野では、部分が集まって複雑化したものは新しい性質を帯びることが指摘されている。このような、「全体」になることで獲得される新しい性質は、各要素を足し合わせるだけでは理解できないのである。

たとえば

水について調べる際に、水(H₂O)を水素(H)と酸素(O)とに分け、さらに水素原子と酸素原子がどのようなものから成り立っているかを調べていく方法が要素論である。

使用の境界

分解して調べれば全体が分かるとする立場。分解すること自体ではなく、それで全体が説明できるという主張が中身。

用法

「要素還元主義」「要素主義」とも呼ばれ、評論文ではほぼ批判の対象として現れる。批判の型は決まっていて、〈分解すると、全体になって初めて生じる性質が消える〉というものである。水を水素と酸素に分けると水の性質は消える、という例が定番。この批判の受け皿が複雑系とエコロジーになる。「〜に還元できない」という否定形とセットで覚えると、文章中で見つけやすい。

用例
  • 要素還元的な方法論が極端に押し進められた。分解して法則を見出す手続きが行きすぎたという批判。
  • 全体になることで獲得される性質は、各要素の足し算では理解できない。要素論の限界を述べる定型。複雑系につながる。
  • 水をHとOに分けて調べるのが要素論である。分解して構成単位の性質を明らかにする手続き。
原書の反意語・関連語

27 還元42 機械論

派生形
  • 要素還元論ようそかんげんろん[0]
  • 要素主義ようそしゅぎ[0]
  • 要素還元的ようそかんげんてき[0]
コロケーション
  • 要素還元的な方法
  • 要素論の限界
  • 要素に還元する
硬・学術

論文・評論でのみ使う。会話では不自然。

類語と差
  • 還元もとに戻す・分解する操作の名。要素論はその操作を方法の中心に据える立場の名。
  • 機械論世界を部品の集まりと見る世界観。要素論はその世界観が採る手続き。
  • 分析分けて調べる中立の作業。要素論は〈分析すれば全体が分かる〉という前提まで含む。
  • 全体論全体は部分の総和を超える要素論の対立立場。ホーリズム。複雑系はこちらに近い。

ENreductionism
ZH要素论(要素論, yàosùlùn)

要素論とその限界全体を要素に分解して再構成する要素論の手続きと、分解によって失われる創発的性質を示した図。 全体 水 H₂O 分解 H O 再構成 全体を理解 要素論の主張 しかし 全体になって初めて 現れる性質 分解すると消える → 複雑系へ 要素の足し算では、全体を取り戻せないことがある
分解して再構成する ── そして漏れるもの
入試文

西洋近代に発達した自然科学は、デカルトやベーコンらに代表される無機的な機械論的自然観に基づいている。二〇世紀の科学・技術を振り返ると、この自然観に基づく帰納法的・要素還元的な方法論があまりにも極端に押し進められたきらいがある。それは、自然を徹底して人間と対立する外界の物質とみなして、客観的に観察し、一定の法則性を見出すとともに、実験や数式などによって理論化し、その理論を利用してモノをつくっていくという方法論である。
そこでは同一条件の下では必ず同一の現象が起きるという再現性のあることが大前提となった。逆に言えば、再現性のないものは自然科学の対象から除外してしまったのである。
概念や法則性を自然の事実からのみ構築しようという自然科学の方法論は、確かに世界の聖書的解釈からの決別という意味では画期的なことだった。しかし、それによって捕捉できる自然界が部分的となり、自然を全体として理解しようという態度を失わせてしまったことは否定できない。

出典 常盤文克『「知の経営」を深める』 / 出題 大阪産業大学・経営学部

読解のポイント
機械論的自然観に基づく帰納法的・要素還元的な方法論
=自然を客観的に観察して得られる法則、理論を利用してモノをつくる
- + 聖書的解釈からの決別
- − 自然を全体として理解する態度の喪失
要約

機械論的自然観に基づく科学・技術は、帰納法的・要素還元的な方法論を極端に押し進めたために、自然を全体として理解しようとする態度を失わせてしまった。

語法の観察

「確かに〜。しかし〜」の譲歩構文で、方法論の功績を認めたうえで限界を述べる。譲歩の後に主張が来る。

本文中のキーワード

56無機42機械論的自然観53帰納法的43要素27還元的90客観的69同一95現象9対象22概念

Section 04

複雑系

44★★

複雑系ふくざつけい

ふくざつけい[0]平板型

語構成
複雑入り組んでいるつながりをもつまとまり
定義

ある物事が多くの要素からなり、それらの要素が相互に影響し合っていて、個々の要素からは全体が明らかにならないもの。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑44
原書の解説

従来の要素論に基づく近代科学が、物事を要素に分解した上で、それぞれの要素がもつ性質で物事の本質をとらえようとしたのに対し、複雑なシステムそのものを研究の対象にするのが複雑系の科学である。複雑系の特徴として、非線形性〈=単なる足し算の効果ではなく、相乗効果を生み出すような性質〉や自己組織性〈=さまざまな外部環境に適応するために、多様な変化や組織が自律的に起こる性質〉といったものがある。

たとえば

海岸線の複雑な地形は、数限りない波の浸食作用によって形成されたもので、その形状を単純な方程式で計算することはできない。そうした地形をまるごと理解しようとするのが複雑系の思考方法である。

使用の境界

多数の要素が相互に影響し合い、個々の要素からは全体が読めない系。単に複雑なだけのものは含まない。

用法

要素論への反措定として置かれる語である。評論文では「人間は複雑系である」という形で、科学の限界を示すために使われることが多い。同じ薬が同じように効くとは限らない、同じ放射線量でも発症する人としない人がいる、といった例がそこに続く。「複雑」という日常語と混同しないことが要点で、複雑系は〈要素の相互作用によって全体が予測できなくなる〉という構造を指す。単に要素が多いだけでは複雑系ではない。

用例
  • 人間は複雑系であり、体質や体調が個々に異なる。一律の因果が成り立たないという主張。科学の限界の論拠になる。
  • 海岸線の形状を単純な方程式で計算することはできない。無数の相互作用の結果なので分解して説明できない。
  • ×部品が多いから複雑系だ。数の多さではなく相互作用が要件。「複雑」で足りる。
原書の反意語・関連語

43 要素論

派生形
  • 複雑系科学ふくざつけいかがく[0]
コロケーション
  • 複雑系の科学
  • 人間は複雑系である
  • 複雑系として捉える
硬・学術

論文・評論でのみ使う。会話では不自然。

類語と差
  • 非線形足し算では効果が出ない複雑系の性質の一つ。入力を2倍にしても出力が2倍にならない関係を指す。
  • 自己組織性自律的に秩序が生まれる外から設計されずに構造ができる性質。複雑系のもう一つの柱。
  • 創発全体になって初めて現れる性質部分の性質からは予測できない。要素論が捉えそこねる当のもの。
  • カオス初期値のわずかな差が結果を大きく変える決定論的でありながら予測できない振る舞い。複雑系の一部をなす。

ENcomplex system
ZH复杂系统(複雑系, fùzá xìtǒng)

複雑系の二つの性質入力に比例しない非線形性と、外部から設計されずに秩序が生まれる自己組織性という複雑系の性質を示した図。 非線形性 線形 実際 入力 二倍にしても二倍にならない 相乗効果が生まれる 自己組織性 外から設計されずに秩序ができる 環境に適応して自律的に変化する この二つがあるかぎり、分解しても全体は読めない
非線形性と自己組織性
入試文

経済論理や人間の欲望が科学を侵犯し始めている。そこにおいて、科学は人間が希求するものに応えるという目的が付加される。現代人が求めている健康や長寿や新しい能力(再生医療、人体改造、生殖治療、デザイナーベビーなど)への渇望である。それらは、(時期尚早であるにもかかわらず)いかにも実現可能かのように喧伝され、生命科学への投資が増加している。科学が人間の役に立つという役割を過剰に背負わされているのである。
しかし、人間は複雑系であり、個々の人ごとに体質や体調が異なっている。他の人に効いた薬が同じように効くとは限らないし、同じ放射線量を浴びても病気が発症する人もいれば発症しない人もいる。誰にでも等しく同じ反応が起こるわけではないのである。人間を相手にする科学の限界と言えるだろうか。

出典 池内了『科学の限界』 / 出題 中央大学・文学部・法学部・経済学部など

読解のポイント
経済論理や人間の欲望が科学を侵犯
- 科学は人間が希求するものに応えるという目的が付加
- 科学が人間の役に立つ役割を過剰に背負わされる
↔
人間は複雑系=科学には限界がある
要約

経済論理や人間の欲望が科学を侵犯し始めている。科学は人間の役に立つという役割を過剰に背負わされているが、人間は複雑系のため、人間を扱う科学には限界がある。

語法の観察

「〜と言えるだろうか」で結ぶ。断定を避けた問いかけだが、直前までの記述が答えを一方に寄せている。

本文中のキーワード

44複雑系

Section 05

仮説/検証

45★★★

仮説かせつ

かせつ[0]平板型

語構成
かりにとく・のべる
定義

ある現象を説明するために、仮に立てる説。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑45
使用の境界

現象を説明するために仮に立てる説。まだ確かめられていないことが前提。確かめ終わったら法則・理論と呼ぶ。

用法

「仮説を立てる」「仮説を検証する」という動詞の組み合わせが固定している。評論文では、二十世紀以降の科学観を述べる箇所で「理論は仮説にすぎない」という形で現れる。ここでの含意は、理論が永遠の真理ではなく、実験と合わなければ捨てられる暫定物だということ。「仮説にすぎない」は日常では相手の主張を退ける言い方になるが、科学論の文脈では科学の性格そのものの記述なので、否定の意味に読まないこと。

用例
  • データに基づいて仮説を立てる。観察から説明を組み立てる段階。検証はこの次に来る。
  • 理論は実験のための仮説にすぎない。二十世紀の科学観。永遠の真理ではないという記述であって、価値を下げる言い方ではない。
  • ×実験で確かめた仮説を発表する。確かめ終われば「法則」「理論」。仮説は未確認の段階を指す。
原書の反意語・関連語

46 検証

派生形
  • 仮説的かせつてき[0]
  • 作業仮説さぎょうかせつ[4]
コロケーション
  • 仮説を立てる
  • 仮説を検証する
  • 仮説にすぎない

書き言葉・会話の両方で使える。

類語と差
  • 推測たぶんこうだろうと考える日常語。検証にかけることを前提としない。仮説は検証の手続きとセット。
  • 理論体系化された説明検証を経て受け入れられた段階。仮説はその手前。
  • 前提議論の出発点に置くもの疑わずに置く。仮説は疑って確かめる対象。
  • モデル単純化した写し現象を扱いやすくした図式。仮説は真偽を問える主張であるのに対し、モデルは道具。

ENhypothesis
ZH假说(仮説, jiǎshuō)

46★★★

検証けんしょう

けんしょう[0]平板型

語構成
しらべるあかす
定義

実際に調べて証明すること。実験や事実の観察によって、仮説の真偽を確かめること。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑46
使用の境界

実験や観察によって仮説の真偽を確かめること。確かめる手続きを踏まないものは検証と呼ばない。

用法

「検証」は近年、行政やメディアで「事後の点検」の意でも広く使われる(政策の検証、事故の検証)。科学論の文脈ではあくまで〈仮説の真偽を実験で確かめる手続き〉であり、この二層を読み分ける。あわせて反証を押さえておく。検証は正しいことを示し、反証は誤りを示す。二十世紀の科学哲学は、検証できることではなく反証できることを科学の条件とした点で、原書の記述より一歩先に進んでいる。

用例
  • 仮説を検証して法則として受け入れる。実験が成功した場合。失敗すれば仮説は却下され、修正される。
  • 反証とは、仮説や法則が誤りであると証明することである。検証の対概念。あわせて覚える。
  • 政策の効果を検証する。事後の点検という日常・行政の用法。科学論の用法とは層が違う。
原書の反意語・関連語

関 反証/45 仮説

派生形
  • 検証可能性けんしょうかのうせい[0]
  • 追検証ついけんしょう[0]
コロケーション
  • 仮説を検証する
  • 検証に耐える
  • 実証的な検証

書き言葉・会話の両方で使える。

類語と差
  • 実証事実にもとづいて証明する根拠を経験的事実に置くこと。検証は仮説を確かめる手続きそのもの。
  • 反証誤りであることを示す検証と対をなす。ポパー以降、科学の要件は反証できることだとされる。
  • 論証論理によって示す三段論法のように理屈で導く。検証は事実に当てる。
  • 確認そのとおりだと確かめる日常語。真偽を問う構えを含まない。

ENverification
ZH检验(検証, jiǎnyàn)

解説 ── 仮説・検証

近代の科学は、まず何らかのデータに基づいて仮説を立て、仮説を確かめるために、観察・計算・実験などによって検証する。検証されて正しければ、仮説は法則や理論として受け入れられるようになるが、実験や証明が失敗すると、その仮説は却下され、修正を加えられて新しい仮説が立てられる。客観的な法則や理論を見つけ出そうとするこのような研究の方法は、近代科学によって確立され、その後、科学以外の学問にも広く影響を与えた。

また、「反証」という言葉も合わせて覚えておこう。これは、仮説や法則が虚偽・誤りであることを証明することを言う。

対立の軸

仮説/検証 の軸 = 確かめる前か後か

仮説現象を説明するために仮に立てる説。
確かめる前か後か
検証実験や観察で仮説の真偽を確かめる手続き。
科学研究のプロセス観察とデータの蓄積から仮説を立て、検証を経て法則化に至る流れと、検証に失敗した場合に仮説へ戻る循環を示した図。 観察 データの蓄積 仮説 仮に立てる説 検証 実験・観察 法則 理論 失敗すれば却下し、修正して立て直す 実証主義 確かめられることだけを研究する。証明・検証・実験ができない領域は対象外に置かれた。 この切り捨てが、のちの批判を招く
科学研究のプロセス ── 検証に失敗したら戻る
入試文

十九世紀には、理論の樹立こそ科学の目的であり、実験はその検証であって、検証された理論は自然の永遠の真理であると信じられていたが、二十世紀には、実験結果こそが信じられるものであって、理論は実験のための仮説に過ぎず、実験と合わない理論は捨てられるだけでなく、別の理論も可能であり、要するに理論は近似的なものに過ぎないと考えられるようになった。
ある現象をどのように理解するかは「解釈」の問題なのであって、どのように解釈されようと、実験において得られたインプットとアウトプットとの関係こそが信じられるものであるということになると、科学とは一定の条件のもとで、どのように働きかけるとどのように応答するかという、操作とその効果の間の関係を見出す仕事になる。

出典 坂本賢三『先端技術のゆくえ』 / 出題 法政大学・経営学部

読解のポイント
  • 十九世紀の科学=実験によって検証された理論は永遠の真理
  • 二十世紀の科学=理論は実験のための仮説に過ぎない
要約

十九世紀には、理論の樹立が科学の目的であり、実験はその検証の手段に過ぎなかったが、二十世紀には、理論は仮説に過ぎず、実験の操作とその効果の関係を見出すことが科学の仕事となった。

語法の観察

十九世紀と二十世紀を対比する構文が一文の中で完結している。「〜が、〜」の逆接が時代の切れ目になっている。

本文中のキーワード

46検証45仮説95現象

Section 06

科学主義

47★★

科学主義かがくしゅぎ

かがくしゅぎ[0]平板型

語構成
科学たしかめられる知主義立場・考え方
定義

科学を万能とみなし、科学によって世の中の問題を解決できるとする考え方。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑47
原書の解説

科学の力によって、あらゆる自然現象が解明でき、人類が直面している問題も解決できると考えるのが科学主義(科学至上主義、科学万能主義とも言う)である。そのため、現在は未解決の問題があったとしても、それはやがて科学が発達すれば解決されるだろうと考えられる。

こうした科学主義と対立する立場として、反科学主義というものがある。反科学主義は、公害、環境破壊やエネルギー問題の原因を科学技術に求め、科学そのものの存在を否定する。

どちらも行き過ぎた考え方であるが、現在、危機的状態にある問題の解決に対して科学技術が一定の貢献をしていることは確かであり、科学を全否定することは得策ではない。環境問題にせよ、エネルギー問題にせよ、現代社会が抱える問題は、科学技術以外の複雑な要因も絡まっており、その解決には科学も含めた多分野の知の連携と総合が必要だろう。

使用の境界

科学を万能とみなし、あらゆる問題が科学で解決できるとする立場。科学を重んじることそのものは科学主義ではない。

用法

必ず批判語として使われる。要点は、科学を信じることではなく、〈科学以外の方法は存在しえない〉と主張する点にある。原書の入試文は、この排他性ゆえに科学至上主義は宗教と変わらないと論じる。ここが読解の急所で、科学と宗教を対立させる常識を反転させている。対立語の「反科学主義」も同じく行き過ぎとして退けられ、評論文は多くの場合その中間に着地する。

用例
  • 科学至上主義は宗教とまったく変わらない。他の方法を認めない点で同型だという指摘。常識を反転させる論法。
  • 反科学主義は科学そのものの存在を否定する。科学主義の対極。公害や環境問題の責任を科学に帰す。
  • △科学を尊重する態度は科学主義だ。尊重するだけでは足りない。万能とみなすところから科学主義になる。
原書の反意語・関連語

反 反科学主義 / 関 49 科学の中立性

派生形
  • 科学至上主義かがくしじょうしゅぎ[0]
  • 科学万能主義かがくばんのうしゅぎ[0]
コロケーション
  • 科学至上主義に陥る
  • 科学主義への批判
  • 反科学主義
硬・学術

論文・評論でのみ使う。会話では不自然。

類語と差
  • 実証主義確かめられることだけを扱う方法の限定。科学主義は科学の適用範囲を無限だと主張する点で一歩踏み込む。
  • 合理主義理性を判断の基準とするより広い立場。科学主義はその一形態。
  • 反科学主義科学そのものを否定する科学主義の対立立場。公害や環境破壊の原因を科学に求める。
  • 技術決定論技術が社会を決めるとする社会の側の説明。科学主義は認識の側の主張。

ENscientism
ZH科学主义(科学主義, kēxué zhǔyì)

科学主義と反科学主義科学を万能とみなす科学主義と科学そのものを否定する反科学主義を両端に置き、その中間に多分野の知の連携を置いた図。 科学主義 科学は万能である 反科学主義 科学の存在を否定する 科学も含めた多分野の知の連携 評論文の多くはここに着地する 他の方法を認めない 科学の貢献を認めない 排他的である点で、科学至上主義は宗教と同型になる
両極と、その中間
入試文

「大きさ」とか「速さ」というものはある観察方法によるものであって、方法を変えれば、まったくその基準も変わってしまうものなのだ。アインシュタインの相対性原理は、そのことを明確に関係づけたものといえるだろう。だから、旧来の方法論、時間的、空間的概念は、一つの方法であって、それ自身をまったく自由に見られる立場こそが要求されているのである。一人より十人のほうが価値があるとする基準、十分より一日のほうが大切だとする基準、それはある一定の方法論にもとづく価値なのであって、合理主義、客観主義は、まさにそのことを見ずして、その方法以外は存在しえないとするがゆえに、その科学至上主義は宗教とはまったく変わらないとせねばならない。

出典 藤本敏夫の文章 / 出題 早稲田大学・教育学部

読解のポイント
科学至上主義
=合理主義、客観主義以外の方法は存在しないとする
↓
宗教と変わらない
要約

方法が変われば、価値基準も変わるのだから、旧来の方法を自由に見られる立場が求められている。しかし、科学至上主義は、合理主義や客観主義以外の方法は存在しえないとする点で、宗教とまったく変わらない。

語法の観察

「〜とせねばならない」という当為で結ぶ。記述から規範へ移る箇所が、筆者の主張の位置を示している。

本文中のキーワード

26相対性22概念12合理主義90客観主義47科学至上主義

Section 07

パラダイム

48★★

パラダイム

パラダイム[3]中高型

定義

ある時代の科学者たちに共有されている物の見方や考え方のこと。転じて、一時代に支配的な思考の枠組み。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑48
原書の解説

科学は連続的、直線的にだんだんと進歩するものだと考えられていたが、パラダイムという考え方は、科学は進歩するのではなく、革命のように非連続的に変化することを主張した。これをパラダイムシフト(パラダイム変換)と言う。

パラダイムが異なれば、物の見方が根本的に異なる。たとえば、天動説の延長上に地動説はない。天動説から地動説に移行される時、革命的なパラダイムシフトが起きたのである。

コラム

近代科学では、観察データは「事実」であり、客観的なものだとされた。したがって、観察データから導き出される理論や法則も同様に、客観性を備えていると考えられた。こうした考えに基づけば、観察データが蓄積すればするほど、理論は精緻となり、科学は進歩していくことになる。

しかし新しい科学論では、このような実証主義的な見方は見直されている。きっかけとなった議論の一つが、科学哲学者ハンソン(一九二四〜一九六七年)が唱えた「観察の理論負荷性」だ。

ハンソンの主張では、たとえば、同じように顕微鏡で細胞を観察しても、子どもと科学者とでは見方が異なる。子どもには「細胞」という概念がないので、その像は「単なる模様」にしか見えないが、科学者はそこにさまざまな科学的知見を読み込むことができる。つまり、「観察する」「見る」という単純な行為も、観察する人間がもつ先入観や知識・理論の影響を受ける、というのだ。

使用の境界

ある時代の科学者が共有する見方の枠組み。個人の考えではなく、共有されていることが要件。

用法

クーンの用語で、評論文ではパラダイムシフトという形が最も多い。要点は、科学が連続的に進歩するのではなく非連続に転換するという主張である。天動説から地動説への移行が定番の例で、地動説は天動説の延長上にはない。もう一つの含意が、新旧どちらの支持者も自分の正しさを論理だけでは相手に示せない、という点。ここから〈科学も時代や社会に拘束される〉という近代科学批判につながる。日常では「発想の大転換」程度の軽い意味でも使われる。

用例
  • 天動説から地動説への移行はパラダイムシフトである。延長上にないから革命的な転換になる。
  • パラダイムが変わると、重要だった問題が無意味に見えてくる。問い自体が入れ替わる。データの意味も変わる。
  • △彼のパラダイムは古い。個人の考えなら「発想」「見方」。パラダイムは共有された枠を指す。
原書の反意語・関連語

9522 概念

コロケーション
  • パラダイムシフト
  • パラダイムが変わる
  • 支配的なパラダイム
硬・学術

論文・評論でのみ使う。会話では不自然。

類語と差
  • 枠組み考えを支える構え日本語の言い換え。パラダイムは共有されている点と、変わるときに一挙に変わる点を含む。
  • 世界観世界の捉え方全体個人にも使える。パラダイムは専門家集団に共有されるもの。
  • 常識当然とされている事柄社会一般。パラダイムは学問共同体の内側の枠。
  • イデオロギー行動を根底で制限する信念政治的・集団的。パラダイムは認識の枠であり、政治的含みを持たない。

ENparadigm
ZH范式(パラダイム, fànshì)

科学の進歩観とパラダイムシフト科学が連続的に進歩するという従来の見方と、非連続に枠組みが転換するというパラダイム論の対比図。 従来の科学観 ── 連続的な進歩 データが積もるほど真理に近づく パラダイム論 ── 非連続な転換 革命 枠組みが入れ替わり、問いも変わる 帰結 重要だった問題やデータが、まったく無意味に見えてくることがある。 新旧どちらの支持者も、自分の正しさを論理だけでは相手に示せない。 天動説の延長上に地動説はない
連続的な進歩か、非連続な転換か
入試文

常識的科学観によると、科学革命とは、ある一定した観察や実験のデータに対する解釈が変わることである。しかしこのような見方では、科学革命の性質を十分に表わせない。科学革命によって一つの分野のパラダイムが変わると、同じ現象を見ても、それを取り扱う見方、考え方が変わり、その現象について取り上げる問題が変わる。パラダイムが変わると、今まで重要であった問題やデータが、まったく無意味なように見えてくることもある。その問題を解くためには、新しい概念組織や用語や、観察や実験の新しい方法を使うようになる。結局、その現象を見る見方が変わり、その意味でパラダイムは一つの自然観を含んでいる。
古いパラダイムを支持する人も、新しいパラダイムを支持する人も、どちらも自分のパラダイムの方が正しいことを論理的に完全な証明によって相手に示すことはできない。

出典 都城秋穂『科学革命とは何か』 / 出題 上智大学・文学部

読解のポイント
パラダイムの変化
↓
同じ現象を見ても、それを取り扱う見方、考え方が変わる
↓
新しい概念組織や用語や、観察や実験の新しい方法を使うようになる
要約

科学革命とはパラダイムが変わることであり、それによってそれまでの現象の見方・考え方が大きく変わる。

語法の観察

「しかしこのような見方では〜十分に表わせない」で常識的科学観を退け、そこから自説を立てる。否定が起点になる型。

本文中のキーワード

48パラダイム95現象22概念

Section 08

科学の中立性/科学の制度化/因果/実証

49★★

科学の中立性かがくのちゅうりつせい

かがくのちゅうりつせい[0]平板型

語構成
中立どちらにも属さないそのような性質
定義

科学そのものは善でも悪でもないという考え方。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑49
原書の解説

科学の中立性とは、科学それ自体は価値的に中立であるということ。たとえば、科学が大規模な戦争に利用されたとしても、それは利用する人間の問題であり、科学自体に罪はないという考え方である。

しかし、科学の成果が人類規模の生活や生死を左右する現在、科学者は研究成果の負の影響まで考える倫理観が必要だという意見も多い。

使用の境界

科学それ自体は善でも悪でもないとする立場。使う人間の責任だという主張とセットで現れる。

用法

「科学に罪はない、悪いのは使う人間だ」という主張の名前である。評論文ではこの主張を紹介したうえで疑うという運びがほとんどで、そのまま肯定されることは少ない。疑いの根拠は、研究の方向そのものが軍事や経済の要請で決まっている(=科学の制度化)という事実である。したがって中立性と制度化は必ず対で読む。原発・核兵器・遺伝子操作が具体例として続くことが多い。

用例
  • 科学が戦争に利用されても科学自体に罪はない。中立性の主張そのもの。評論文ではこの後に反論が来る。
  • 科学者は研究成果の負の影響まで考える倫理観が必要だ。中立性への異議。制度化の議論と接続する。
  • 科学や科学技術には〈こうすべきだ〉という方向性が含まれていない。中立性の中身。倫理は科学の外から与えるしかない。
原書の反意語・関連語

47 科学主義

派生形
  • 価値中立性かちちゅうりつせい[0]
  • 中立的ちゅうりつてき[0]
コロケーション
  • 科学の価値中立性
  • 中立性を疑う
  • 価値中立的な知
硬・学術

論文・評論でのみ使う。会話では不自然。

類語と差
  • 価値自由価値判断を持ち込まないウェーバーの語。研究者の態度についての要請。中立性は知そのものの性格についての主張。
  • 客観性主観から独立している認識の性質。中立性は倫理的な善悪についての性質。別の軸。
  • 公平どちらにも偏らない日常語。人の扱いについて言う。
  • 無色透明色がついていない比喩的な言い換え。学術文では使わない。

ENvalue-neutrality of science
ZH科学的中立性(科学の中立性, kēxué de zhōnglìxìng)

50★★

科学の制度化かがくのせいどか

かがくのせいどか[0]平板型

語構成
制度定められたしくみそうなる
定義

科学研究が専門化し、大学や企業で組織的に研究が行われるようになること。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑50
原書の解説

科学はもともと個人の興味に従って探究される営みであった。それが本格的に制度化されたのは、十九世紀以降においてである。科学者が専門職業になり、大学や企業の組織によって科学研究が大規模に行われるようになった。

科学が制度化されるようになった背景には、二十世紀になって技術革新が資本主義の存続に不可欠となったこと、科学研究が高度化・複雑化したため研究設備に多額の費用がかかり、組織的な研究が求められるようになったことなどが挙げられる。

使用の境界

研究が個人の探究から離れ、大学や企業で組織的に行われるようになること。研究者が職業になった点が要点。

用法

十九世紀以降の変化を指す歴史的な語である。含意は二つあり、①研究の高度化で設備に多額の費用がかかり個人では担えなくなった、②国家と企業が研究を支えるため、研究の方向が国家と企業の利益に従うようになった。②が科学の中立性への反論になる。評論文では「科学が社会に及ぼす影響が巨大になった」という記述に続けて、環境破壊と大戦争が挙げられる。制度化は中立でいられなくなる過程だと読むと、章全体がつながる。

用例
  • 十九世紀以降、科学研究は国家や企業の支援で行われるようになった。制度化の中身。個人的な知的探求から離れた。
  • 研究設備に多額の費用がかかるため、組織的な研究が求められた。制度化の原因。高度化・複雑化が背景にある。
  • 制度化された科学は、もはや価値中立ではいられない。中立性への反論。二つの語は対で読む。
原書の反意語・関連語

78

派生形
  • 制度化せいどか[0]
コロケーション
  • 科学の制度化が進む
  • 研究の制度化
  • 制度化された知
硬・学術

論文・評論でのみ使う。会話では不自然。

類語と差
  • 組織化まとまりを作る形の話。制度化は社会の仕組みに組み込まれることまで含む。
  • 職業化生業になる制度化の一側面。科学者が専門職になった。
  • 産業化産業として成り立つ経済の側。制度化は国家の支援も含む。
  • 官僚化手続きが自己目的になる制度化の弊害を言う語。ここで☑16 自己目的化と接続する。

ENinstitutionalisation of science
ZH科学的制度化(科学の制度化, kēxué de zhìdùhuà)

51★★

因果いんが

いんが[1]頭高型

語構成
もと・原因み・結果
定義

原因と結果。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑51
原書の解説

近代科学は自然の事象を因果関係としてとらえるが、その根底には、「世の中の事象にはすべて原因と結果がある」という考え方〈=因果律〉がある。

たとえば

喫煙と肺ガンには因果関係がある、という指摘がある。

使用の境界

原因と結果の結びつき。前後して起きただけでは因果ではない。一方が他方を生じさせている必要がある。

用法

評論文では単独より「因果関係」「因果律」の形で現れる。近代科学の根底に〈世の中の事象にはすべて原因と結果がある〉という前提があり、これを因果律と呼ぶ。この前提があるからこそ自然が法則化でき、操作できるようになった。仏教語の「因果」(因果応報)とは系統が違うので、文脈で見分ける。読解上の急所は相関との混同で、「喫煙と肺ガンには因果関係がある」と「相関がある」は主張の強さが違う。

用例
  • 近代科学は自然の事象を因果関係としてとらえる。法則化の前提。ここから数値化と操作が可能になる。
  • 喫煙と肺ガンには因果関係がある。一方が他方を生じさせているという主張。相関より強い。
  • ×アイスの売上と水難事故には因果関係がある。両方とも気温が原因。これは相関であって因果ではない。
原書の反意語・関連語

42 機械論

派生形
  • 因果関係いんがかんけい[4]
  • 因果律いんがりつ[2]
  • 因果的いんがてき[0]
コロケーション
  • 因果関係を明らかにする
  • 因果律
  • 因果を取り違える

書き言葉・会話の両方で使える。

類語と差
  • 相関一緒に変動する統計の語。因果と混同されやすい最大の相手。相関があっても因果があるとは限らない。
  • 因縁前世からの結びつき仏教語。人の力を超えた結びつきを指し、科学の因果とは別系統。
  • 必然法則によってそうなる因果があれば必然になる。因果は関係、必然は様態を言う。
  • 要因結果に関わる要素複数ありうる。因果は原因と結果を一対一に結ぶ言い方。

ENcausality
ZH因果(因果・報い, yīnguǒ)

日中のズレ

中国語の 因果(yīnguǒ)は仏教語としての因果応報の含みが強く、日常では「因果報应」の形で使われる。

科学の文脈で「原因と結果」を言うときは 因果关系(yīnguǒ guānxì) と関係の語を伴うのが通例。

52

実証じっしょう

じっしょう[0]平板型

語構成
まこと・じっさいあかす
定義

経験的な事実に基づいて、理論や主張を証明したり説明したりすること。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑52
原書の解説

主張の根拠を事実に求めるのが、実証である。それに対して、三段論法のように論理的に説明することは論証と言う。

近代科学は実験と観察を重んじ、理論や知識の根拠をもっぱら経験的事実に限定した。こうした立場を実証主義と言い、他の学問分野に大きな影響を与えた。社会科学の分野でも、統計データに基づいた研究は実証主義の立場と言える。

使用の境界

経験的な事実にもとづいて証明すること。論理だけで導くのは論証であって実証ではない。

用法

「実証主義」という立場名で出ることが多い。中身は確かめられることだけを研究するという態度で、その結果、証明も実験もできない領域は研究の対象外に置かれた。この切り捨てが後の批判を招く。統計データにもとづく社会科学の研究も実証主義の系列にある。読解では、論証との対をつかんでおくと設問に強い。実証は事実、論証は論理。「実証的」は肯定的な評価語として使えるが、「実証主義的」と書くと限界を指摘する含みが出やすい。

用例
  • 近代科学は理論の根拠をもっぱら経験的事実に限定した。実証主義の中身。証明できない領域は対象外になった。
  • 統計データに基づいた研究は実証主義の立場と言える。社会科学への波及。実証主義は科学以外にも影響した。
  • 三段論法で示すのは論証であって実証ではない。論理と事実の区別。実証の境界がここにある。
原書の反意語・関連語

関 論証/実証主義

派生形
  • 実証的じっしょうてき[0]
  • 実証主義じっしょうしゅぎ[0]
  • 実証性じっしょうせい[0]
コロケーション
  • 実証的な研究
  • 実証主義
  • データで実証する

書き言葉。会話では不自然。

類語と差
  • 論証論理によって示す三段論法のように筋道で導く。実証は事実に当てる。この対が要点。
  • 検証仮説の真偽を確かめる手続き。実証は根拠の置き方を指す。
  • 立証証拠を挙げて示す法律で多く使う。実証は学術・研究の語。
  • 例証例を挙げて示す一例では足りない。実証は反復可能な事実を要求する。

ENempirical proof / positivism
ZH实证(実証, shízhèng)

中立性と制度化科学は善でも悪でもないとする中立性の主張に対し、制度化によって研究の方向が国家と企業に決められるという反論を示した図。 科学の中立性 科学それ自体は善でも悪でもない 悪いのは使う人間である 反論 科学の制度化 国家と企業が研究を支える 研究の方向そのものが決められる もはや中立ではいられない 制度化の背景 研究が高度化・複雑化し、設備に多額の費用がかかる 技術革新が資本主義の存続に不可欠になる 二つの語は、必ず対で読む
中立性の主張と、制度化による反論
Section 09

帰納/演繹/有機/無機

53

帰納きのう

きのう[1]頭高型

語構成
かえる・おさまるおさめる
定義

個々の具体的な事実から、一般的な知識や法則を導き出すこと。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑53
原書の解説

たとえば、リンゴが木から地面に落ちた、ミカンも木から落ちた、さらにはサルも木から落ちた! このように、いくつかの具体的・個別的な事実から一般的・普遍的な法則(この場合は「万有引力の法則」)を導き出していくことを帰納と言う。いわば、下から上へのボトムアップの方法だ。

使用の境界

個々の事実から一般法則を導くこと。事例を集めただけでは足りず、法則の形にまとめる段階が要る。

用法

「帰納法」の形で出ることが多く、演繹と必ず対で扱われる。ボトムアップという言い換えを持っておくと図式化しやすい。リンゴが落ちた、ミカンも落ちた、サルも落ちた──だから万有引力の法則がある、という説明が定番。急所は、帰納が絶対に確実ではないことで、次の一例が反例になりうる。この不確実さが「理論は仮説にすぎない」という科学観につながる。原書の要素論の入試文にも「帰納法的・要素還元的な方法論」という形で現れる。

用例
  • いくつもの事実から万有引力の法則を導くのが帰納である。個別から一般へ。ボトムアップの方法。
  • 帰納法的・要素還元的な方法論が押し進められた。近代科学の手続き。原書の入試文に現れる結びつき。
  • ×定理から角度を求めるのは帰納だ。一般から個別なので演繹。向きを取り違えている。
原書の反意語・関連語

54 演繹

派生形
  • 帰納的きのうてき[0]
  • 帰納法きのうほう[0]
コロケーション
  • 帰納的に導く
  • 帰納法
  • 帰納と演繹
硬・学術

論文・評論でのみ使う。会話では不自然。

類語と差
  • 演繹一般から個別を導く向きが逆。帰納はボトムアップ、演繹はトップダウン。この対で覚える。
  • 一般化適用範囲を広げる結論の扱い。帰納はその結論に至る手続き。
  • 類推似た事例から推す一対一の推論。帰納は多数の事例から法則を作る。
  • 統計的推論標本から母集団を推す帰納の数学的な形。確からしさを数値で示す。

ENinduction
ZH归纳(帰納, guīnà)

54

演繹えんえき

えんえき[0]平板型

語構成
のべる・おしひろげる糸口をひきだす

「演」も「繹」も〈引き出す・押し広げる〉を表す。読みが問われる語である。

定義

一般的な理論から個々の具体的な事例に説明を与えること。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑54
原書の解説

演繹は、帰納とは逆の方法を考えればよい。たとえば私たちは、三角形の内角の和は一八〇度であることを法則(定理や公理)として知っている。そのため、もし三角形の内角のうち二つの角度がわかれば、もう一つの角度を、計算だけで導き出すことができるわけだ。このように、演繹は上から下へのトップダウンの方法だ。

使用の境界

一般法則から個別の事例を説明すること。前提が正しければ結論も必ず正しい点が帰納と違う。

用法

読みが問われる語である。トップダウンと言い換えると帰納との対がつかめる。三角形の内角の和が一八〇度という定理があるから、二つの角が分かれば残りが計算で出る──これが演繹の典型。急所は確実性で、前提が正しければ結論も必ず正しい。ただし新しい知識は生まれない。帰納は新しい知識を生むが確実ではない。この非対称が科学方法論の基本構図になる。「演繹する」という動詞形も学術文で使う。

用例
  • 定理から未知の角度を計算で導くのが演繹である。一般から個別へ。前提が正しければ結論も必ず正しい。
  • 公理系から定理を演繹する。数学の標準的な言い方。動詞形で使う。
  • ×具体例を集めて法則を演繹する。それは帰納。演繹は法則が先にある。
原書の反意語・関連語

53 帰納

派生形
  • 演繹的えんえきてき[0]
  • 演繹法えんえきほう[0]
コロケーション
  • 演繹的に導く
  • 演繹法
  • 公理から演繹する
硬・学術

論文・評論でのみ使う。会話では不自然。

類語と差
  • 帰納個別から一般を導く向きが逆。演繹はトップダウン。
  • 敷衍意味を押し広げて説明する字面が似るが別語。敷衍は説明を広げること、演繹は法則から結論を導くこと。
  • 適用規則を当てはめる実務語。演繹は論理の手続きとしての名。
  • 三段論法二つの前提から結論を導く演繹の代表的な形式。

ENdeduction
ZH演绎(演繹, yǎnyì)

55

有機ゆうき

ゆうき[1]頭高型

語構成
あるはたらき・からくり
定義

① 生命力のある様子。 ② 各部分が密接につながり、調和が保たれている様子。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑55
原書の解説

各部分が互いに密接に関連し合って全体を形づくっている生物は有機体ともよばれる。

また、有機体のように、全体を構成している部分が互いに密接につながり、調和を保っている様子を有機的と言う。

使用の境界

各部分が密接につながり、切り離せないこと。単に関係があるだけでは足りず、切り離すと成り立たないことを含む。

用法

化学の「有機化合物」とは層が違う。評論文で使うのはほぼ「有機的」という形容動詞で、〈部分が密接につながり、切り離せない〉状態を指す。要素論・機械論への対抗概念として置かれ、エコロジーの思想と結びつく。「有機的なつながり」「有機的に結合する」が定型。肯定的な評価を伴うことが多く、「無機的」が冷たさを含意するのと対をなす。自然環境や生態系を有機的・全体的にとらえる、という言い方が近代科学批判の締めくくりによく現れる。

用例
  • 自然環境や生態系を有機的にとらえる。切り離せない全体として見る。要素論への対抗。
  • 各部分が密接に関連し合って全体を形づくる生物は有機体とよばれる。有機の原義。ここから比喩的な用法が広がった。
  • 組織を有機的に結合させる。部分が切り離せない形でつながっているということ。
原書の反意語・関連語

56 無機

派生形
  • 有機的ゆうきてき[0]
  • 有機体ゆうきたい[0]
  • 有機性ゆうきせい[0]
コロケーション
  • 有機的なつながり
  • 有機体
  • 有機的に結びつく

書き言葉・会話の両方で使える。

類語と差
  • 無機生命が感じられない対語。部分と全体を切り離せるかどうかで分かれる。
  • 全体論全体は部分の総和を超える立場名。有機はその性質を表す語。
  • 複雑系相互作用で全体が決まる現代科学の語。有機的という古い語の内容を精密にしたもの。
  • 生態系生物と環境のまとまり具体的な対象。有機的な関係の代表例として挙げられる。

ENorganic
ZH有机(有機, yǒujī)

56

無機むき

むき[1]頭高型

語構成
ないはたらき・からくり
定義

生命が感じられない様子。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑56
原書の解説

機械などの非生命体は、部分を組み合わせたものが全体であり、バラバラに解体したあとで再構成すればもとどおりにすることができる。また、機械のように、部分と全体とを切り離せる様子を無機的と言う。「無機的なデザイン」というように、あたたかみがないという意味でも用いられる。

使用の境界

部分と全体を切り離せること。転じて、あたたかみが感じられないこと。二つの用法が同居する。

用法

二つの層がある。①部分と全体を切り離せる性質(機械などの非生命体)、②あたたかみがない(「無機的なデザイン」「無機質な部屋」)。評論文では①が本義で、機械論的自然観を「無機的な機械論的自然観」と形容する用法が原書の入試文に現れる。日常では②が優勢で、こちらは感覚的な評価語になる。読解では、対語の「有機」が近くにあれば①、感想を述べる文脈なら②と判断できる。

用例
  • 無機的な機械論的自然観に基づいている。部分に分解できる自然観という意味。①の用法。
  • 機械は解体したあと再構成すればもとどおりになる。無機の中身。有機体にはこれができない。
  • 無機質な空間だ。あたたかみがないという感覚的な評価。②の用法。
原書の反意語・関連語

55 有機

派生形
  • 無機的むきてき[0]
  • 無機質むきしつ[0]
コロケーション
  • 無機的なデザイン
  • 無機質な空間
  • 無機的な自然観

書き言葉・会話の両方で使える。

類語と差
  • 有機切り離せないつながり対語。分解して再構成できるかどうかで分かれる。
  • 機械的部品の組み合わせとして扱う方法の語。無機は性質の語。
  • 即物的感情を交えず物として扱う態度の語。無機は対象の性質。
  • 画一的すべて同じ形にそろえる多様性の欠如。無機とは別の軸。

ENinorganic
ZH无机(無機, wújī)

対立の軸

帰納/演繹 の軸 = 推論の向き

帰納個々の事実から一般法則を導く。
推論の向き
演繹一般法則から個々の事例を導く。

有機/無機 の軸 = 切り離せるか

有機各部分が密接につながり、分けられない。
切り離せるか
無機部分と全体を切り離し、再構成できる。
帰納と演繹個別の事実から一般法則を導く帰納と、一般法則から個別を導く演繹を上下の向きで対比した図。 帰納 ── ボトムアップ 一般法則 リンゴミカンサル 個別の事実 新しい知識が生まれるが、確実ではない 演繹 ── トップダウン 内角の和は一八〇度 残り一つの角を計算で出す 個別の事例 確実だが、新しい知識は生まれない
ボトムアップとトップダウン
有機と無機分解すると成り立たない有機体と、分解して再構成できる無機的なものの対比図。 有機 切り離せない 分解すると全体が失われる 生態系・生物・組織 無機 切り離せる 再構成すればもとどおりになる 機械・非生命体 要素論が扱えるのは、右側だけである
切り離せるか、切り離せないか
Meta — 俯瞰

十六語を上から見る

この章の語は、近代科学という一つの対象を別々の角度から切ったものである。対立の軸と、語の格を一枚ずつ図にしておく。

本章の対立の軸一覧本章に現れる対立語のペアと、それを分ける軸を並べた一覧図。 PAIR AXIS 仮説 検証 確かめる前か後か 帰納 演繹 推論の向き 有機 無機 切り離せるか 評論文は対立で動く ── 軸が分かれば片方から他方が読める
本章に現れる対立と、それを分ける軸
格による16語の分布硬・学術、硬、中の三段階に本章の16語を振り分けた図。 硬・学術 9 機械論 要素論 複雑系 科学主義 パラダイム 科学の中立性 科学の制度化 帰納 演繹 1 実証 6 テクノロジー 仮説 検証 因果 有機 無機 語は意味ではなく格で選ぶ
格による十六語の分布

硬・学術に属する語は、会話で使うと不自然に響く。中に属する語は両方で使える。この区別は意味の理解とは別の層にあり、書く段階で効いてくる。

Output

産出

やるなら ── 自分の関心領域から一つ選び、次のいずれかを一段落で書く。

  • その領域で、要素に還元できないものは何か
  • その領域が前提にしているパラダイムは何か。それが変わるとしたら、何が無意味になるか
Blank

科学が中立であるためには、何を研究するかを誰が決めているかを問わずにおく必要がある。では、それを問うた瞬間に、中立性は何に変わるのか。