Chapter 1-3

言語

[ 原書 第1部 第3章 言語 ]

語数 16 / 節 9 / 1節 約1015

原書の導入

新しい言語観

新しい言語観

言語をテーマとする入試現代文は、大きく二つのタイプに分けることができる。表現としての言語を主題としているものと、記号としての言語を主題としているものという二つである。

表現としての言語については、レトリックの役割を再評価する内容の文章が目立っている。レトリックの主たる役割は、古代ギリシア以来、弁論における説得力を高めたり、文章を装飾したりすることだとされてきた。しかし近年、既存の言葉では名づけることのできない現実をあるがままに表現するという、レトリックの創造的な機能に着目した研究が進み、そうした事情が現代文にも反映されている。

レトリックと並んで出題されやすいのが、言語の多義性や解釈の多様性を肯定的に評価する文章だ。こうした文章では、テクスト(=表現されているもの)の意味や評価はコンテクスト(=文脈)に依存するということを前提とした内容のものが多い。レトリックにせよ、言語の多義性にせよ、どちらにも言えることは、言語と事物とは一対一の対応関係にはないということであるが、こうした新しい言語観をもたらしたのが「記号としての言語」という考え方である。

記号という概念

記号作用とは、「あるもの」が、それ以外の何かを意味することを言う。

たとえば〈イヌ〉という言葉は、声に出した時にはただの音声である。だが、この音声は、四本足のイヌという動物を指している。このように考えると、言語とは、「ある内容」を指し示している記号だと言えよう。

また、記号は言葉に限ったものではない。信号機もそれ自体はただの物体だが、〈赤信号〉は「止まれ」を、〈青信号〉は「進め」を意味する記号だと考えられる。

さらに、〈白いハト〉が「平和」を表すような場合は、記号であると同時に象徴でもある。このように見ると、言語だけでなくさまざまなものを、意味をもった記号とみなすことができる。

モノが先か、コトバが先か

「記号としての言語」という考え方に基づいて、もう少し具体的に言語の役割を考えてみよう。

日本では、虹は「赤橙黄緑青藍紫」の七色に分けられる。しかし、外国では六色や五色に分けるところが多い。もちろん、虹の色そのものが国によって異なっているわけではない。ところが、見る人の属している文化によって、虹の色の数が異なってくるのである。ここで鍵を握っているのが「言葉」だ。

日本では「藍色」と「青色」が言葉によって区別できるが、ある国ではその区別がなく、「藍色」を指す言葉がないとする。すると、虹は六色に見えるのである。つまり、虹は最初から七色で、それに七つの名前をつけているのではない。色の名前を知っているからこそ、虹が七色に見えるのだ。通常、我々は、物が先にあって、それに名前をつけていると考えている。しかし、名前があるからこそ、はじめて物が認識できるようになる、とも言える。我々の認識は、言葉によって成り立っているのである。

言語の恣意性

次に、「水」という言葉について考えてみる。あの無色透明な液体を、なぜ「みず」とよぶのか。答えは「たまたまそう名づけられたから」である。

あの液体を「みず」とよばなければいけない理由がないことは、まったく同じものを英語では「water」と別の言葉でよぶことが示している。モノとコトバとの間には必然的な結びつきがないことを、言語の恣意性と言う。

恣意的であるのは、モノとコトバとの関係だけではない。虹の例で見たように、分節も恣意的であると言える。

言葉を通して文化を見る―言語学の広がり

「分節」や「言語の恣意性」などから何がわかるのか。

ここまで確認してきたように、我々の認識は言葉によって成立しており、言葉が異なれば世界の見え方が変わってくる。ある言語の単語や文法構造などを分析することによって、その文化の構造や価値体系がわかるのだ。

例を挙げよう。日本語では普通、「兄」と「弟」とを区別して使うことが多い。これに対して、英語ではだいたい「brother」とひとくくりにする。これは、日本では儒教などの影響によって、年長者に敬意を表す文化をもっていることと関係している。家族の呼び方に限らず、あらゆる言葉から、その文化の特徴を読み取ることができるのである。

Macro — 言語論の地図

二つの入り口

言語論の全体地図表現としての言語と記号としての言語という二つの主題、および混沌から分節を経て秩序に至る流れを示した図。 表現としての言語 レトリック 装飾ではなく、発見と創造の機能 解釈の多様性 テクストはコンテクストに依存 記号としての言語 混沌 言語による恣意的な分節 秩序 差異があるから区別ができる 言語と事物は一対一で対応していない これが新しい言語観の出発点である 名があるから物が見える 意味は文脈が決める 言語が世界を作り、文脈が意味を作る
表現としての言語と、記号としての言語

言語を主題とする文章は二つに分かれる。表現としての言語を扱うものと、記号としての言語を扱うものである。前者ではレトリックの創造機能と解釈の多様性が、後者では分節と差異が焦点になる。ただし行き着く先は同じで、言語と事物は一対一で対応していないという一点に集まる。この章の十六語は、その一点を別々の角度から言い当てている。

言葉による分節言葉がないときは連続して見える帯が、色名を持つことで区切られて見えるようになる過程を示した図。 言葉がないとき 連続していて、切れ目が見えない 言語による分節 言葉があるとき 「藍」を指す言葉がない文化では、虹は六色に見える。虹そのものは変わっていない。 物が先にあるのではない。名があるから物が見える。
言葉による分節 ── 虹の色数は文化によって変わる

虹そのものは、どこの国でも同じように出ている。それでも七色に見える文化と六色に見える文化がある。分かれ目は色名の数にある。物が先にあって名がつくのではなく、名があるから物が見える。この反転が章全体の背骨になる。

Index — 16 sections

  1. 01メタファー/レトリック(修辞)
  2. 02テクスト(テキスト)/コンテクスト(コンテキスト)
  3. 03アナロジー
  4. 04記号
  5. 05コード
  6. 06象徴(シンボル)/表象
  7. 07アレゴリー(寓意)
  8. 08分節
  9. 09差異/同一/一義(的)/両義(的)/多義(的・性)
Section 01

メタファー/レトリック(修辞)

57

メタファー

メタファー[1]頭高型

語構成

漢語形は「隠喩」「暗喩」。対する「シミリ」は「直喩」「明喩」。

定義

形式上はたとえの形をとらない比喩。「……のようだ」と言わないたとえのこと。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑57
原書の解説

「彼は『歩く辞書』だ」のように、「……のようだ」と言わずにたとえる比喩をメタファーと言う。また、「彼は歩く辞書のようだ」のように、「……のようだ」とたとえるのはシミリ(直喩・明喩)と言う。メタファーはレトリックの一つである。

メタファーは、文章を美しく表現するためにも使われるが、メタファーの役割はそれだけではない。メタファーには、既存の言葉ではうまく表現できない事柄を、たとえによって表現できるようにするという創造的な役割もある。

使用の境界

「のようだ」を使わない比喩。使えばシミリ(直喩)になる。形式で分かれるので判定は迷わない。

用法

評論文で問われるのは装飾ではなく創造的な役割のほうである。既存の語では言い表せない現実に、別の領域の語を持ち込んで名を与える働きを指す。山の下部を着物の「裾」と呼び、机の支えを「脚」と呼ぶ。この転用が定着すると、その語が新しい意味を獲得する。したがってメタファーは言語を豊かにする装置であって、飾りではない。「隠喩」「暗喩」が漢語形。日常語では「たとえ」でよいが、評論文では技法名として使う。

用例
  • 彼は「歩く辞書」だ。「のようだ」がない。断定の形をとることで、たとえが強く働く。
  • 机の「脚」は人間の脚からの転用である。名のないものに名を与えた例。定着して新しい意味になった。
  • ×彼は歩く辞書のようだ、というメタファー。「のようだ」があるのでシミリ(直喩)。形式で分かれる。
原書の反意語・関連語

関 シミリ/直喩/明喩/64 象徴(シンボル)66 アレゴリー(寓意)

コロケーション
  • メタファーとして用いる
  • メタファーの創造性
  • 死んだメタファー

書き言葉・会話の両方で使える。

類語と差
  • シミリ「のようだ」を使う比喩直喩・明喩。「彼は歩く辞書のようだ」。メタファーは「彼は歩く辞書だ」。形式だけの違いに見えて、断定の強さが変わる。
  • 象徴抽象を具体で示し続ける一対一で置き換えるのではなく、意味が汲み尽くせない。メタファーは置き換えが効く。
  • アレゴリー物語全体で別の意味を語る長さが違う。メタファーは語や句の単位、アレゴリーは作品の単位。
  • 換喩近さで置き換える「赤ペンを入れる」で添削を指すような、隣接関係による置換。メタファーは類似関係による置換。

ENmetaphor
ZH隐喻(隠喩, yǐnyù)

58

レトリック(修辞)しゅうじ

しゅうじ[1]頭高型

語構成
おさめる・ととのえることば
定義

文章を飾るための表現(技法)のこと。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑58
原書の解説

文章を美しくしたり、わかりやすくしたりするための表現技法をレトリックと言う。レトリックには、比喩や倒置、擬人法などがある。また、レトリックは、そのままレトリックを研究する学問の名前でもあり、修辞学と訳す。

修辞学の起源は、相手を説得するための弁論術であったため、修辞学は、言葉を巧みに飾って相手を強引に説得するテクニックとしてしばしば誤解されてきた。しかし、レトリックは、有限の言葉で無限の事柄を表現する可能性をもっている。我々の認識や思考を広げる役割を果たしているのだ。

使用の境界

言葉を効果的に用いる技法の総称。比喩・倒置・擬人法などを含む。装飾に限らない。

用法

日常語の「レトリック」は批判語で、「レトリックにすぎない」は中身のない言葉の飾りという意味になる。評論文はこの通念を退けるところから始まることが多い。近年の研究が着目したのは、既存の言葉で名づけられない現実をあるがままに表現するという創造・発見の機能である。有限の言葉で無限の事柄を表現し、認識と思考の幅を広げる。読解では、この語が肯定的に使われているか否定的に使われているかを最初に判定する。「修辞」「修辞学」が訳語。

用例
  • レトリックは我々の認識や思考を広げる役割を果たしている。評論文での肯定的な用法。装飾ではなく発見の装置と見る。
  • それは単なるレトリックだ。日常の否定的な用法。中身がないという批判。
  • 修辞学の起源は説得のための弁論術であった。古代ギリシア。ここから「巧みに飾る技術」という誤解が生まれた。
原書の反意語・関連語

57 メタファー

派生形
  • 修辞学しゅうじがく[3]
  • 修辞的しゅうじてき[0]
  • レトリカル
コロケーション
  • レトリックを凝らす
  • レトリックにすぎない
  • レトリックの創造機能

書き言葉・会話の両方で使える。

類語と差
  • 比喩たとえる技法レトリックの一種。レトリックはより広い上位概念で、倒置や反復も含む。
  • 弁論術説得のための話術修辞学の起源。相手を動かすことが目的で、表現の美しさは手段だった。
  • 文体書きぶりの全体作品全体の質。レトリックは個々の技法。
  • 詭弁筋の通らない論法中身を欠いた言いくるめ。レトリックを否定的に使うときの言い換えだが、本義ではない。

ENrhetoric
ZH修辞(修辞, xiūcí)

比喩の四類型形式と対応の決まり方という二つの軸で、シミリ、メタファー、アレゴリー、象徴を分けた図。 語・句の単位 シミリ(直喩) 「彼は歩く辞書のようだ」 「のようだ」がある メタファー(隠喩) 「彼は歩く辞書だ」 「のようだ」がない 作品・全体の単位 アレゴリー(寓意) 物語全体が別の話を語る 対応が一対一で決まる 象徴(シンボル) 具体が抽象を担い続ける 対応が開かれている 縦は単位の大きさ、横は言い切れるかどうか
比喩の四類型 ── 単位と、言い切れるかどうか
入試文

「名状しがたいもの」が目の前に現れたとき、どう表現したらよいのか。言い表すべき言葉がないとき、どう対処するのか。たとえば美しい山の姿を前にして、その下の方をなんと表現したらよいかと言葉に詰まる。そのとき人はたとえばメタファーに頼ることになる。着物の裾になぞらえて「山裾」と呼ぶ。
あるいは机の「脚」。机の「脚」を表す固有の言葉がなかったとする。そこで本来は人間や動物のそれに使われる「脚」をメタファー的な意味の拡張によって物に転用することになる。この種の表現法は目立たないけれども、しばしば日常生活で必要になる。いろいろな工夫がなされ、その一部は国語に取り込まれる。この種の言葉の工夫を伝統的レトリックでは「濫喩」と呼ぶが、濫喩は言語表現の彫琢というレトリックの本来の狙いをはみ出して、もっと基本的な言語的要請に応えていると言えようか。これはある語が新しい意味(従来の言い方では「比喩的な意味」)を獲得するプロセスでもある。

出典 野内良三『レトリックと認識』 / 出題 駒澤大学・経済学部

読解のポイント
  • 山「裾」 =着物の裾をメタファーとして転用
  • 机の「脚」 =人間や動物の脚をメタファーとして転用
  • 「裾」「脚」が新しい意味を獲得
  • ※濫喩=代わりの言葉を用いるレトリックのこと
要約

メタファーは、既存の言葉ではうまく表現できないことを表現可能にする。そして、そのメタファーが日常生活に取り込まれると、その語の新しい意味として定着する。

語法の観察

「〜たとする」という仮定を挟んで、語がなかった場合を想像させる。ここから転用の必然性を導いている。

Section 02

テクスト(テキスト)/コンテクスト(コンテキスト)

59

テクスト(テキスト)

テクスト[1]頭高型

定義

言葉によって書かれたもの。文章表現。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑59
原書の解説

書き手がテクストに込めたメッセージは、テクストが読まれる時に、読み手によって自由に解釈される。このため、テクストの読み方に「一つだけの正解」はない。

一方、近代の「作者」「作品」という概念は、作者の意図が正解としてまずあって、それが作品を通じて読者に伝達されるという単線的・一方的な図式が前提とされてきた。「テクスト」は、こうした近代的な「作品」「作者」という考え方を退け、自由で多様な解釈を肯定する概念として提唱された。

使用の境界

解釈の対象として置かれた表現。作者の意図から切り離して扱う構えを含む。単なる「文章」ではない。

用法

日本語では「テキスト」=教科書という日常語が強いので、評論文の「テクスト」と読み分ける必要がある。表記も揺れるが、批評用語としては「テクスト」が定着している。要点は、意味がテクストの内側で完結しないという主張にある。同じ文でも置かれた文脈が変われば意味が変わる。ここから「作者の意図が唯一の正解ではない」という読みの複数性が導かれ、コンテクストとセットで論じられる。

用例
  • テクストの意味はコンテクストに依存する。内側で完結しないという主張。読みの複数性の根拠になる。
  • 作者の意図から切り離してテクストを読む。批評の態度。作品ではなくテクストと呼ぶ理由がここにある。
  • △英語のテキストを買う。これは教科書の意。評論文の用法とは層が違う。
原書の反意語・関連語

60 コンテクスト(コンテキスト)

コロケーション
  • テクストとして読む
  • テクストの多義性
  • テクスト分析

書き言葉・会話の両方で使える。

類語と差
  • 文章書かれたもの中立の語。テクストは〈解釈の対象として立てられたもの〉という視点を含む。
  • 作品創作された成果作者に帰属する。テクストは作者から切り離して読む態度と結びつく。
  • 原典もとの文献文献学の語。校訂の対象としての本文を指す。
  • 言説社会の中で流通する語りフーコー以降の語。誰が語りうるかという権力の問題を含む。テクストは解釈の問題。

ENtext
ZH文本(テクスト, wénběn)

60

コンテクスト(コンテキスト)

コンテクスト[3]中高型

定義

① 一般には文脈のこと。文章の流れの中にある意味のつながり具合。 ② 1が転じて、ある事柄の背景やまわりの状況のこと。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑60
原書の解説

テクストは単独で意味をもつのではなく、他の言葉や文との関係の中で文脈(=コンテクスト)をつくり、その文脈の中で意味をもつ。会話であれば、その言葉が発せられた状況や背景にも依存する。さらに、歴史や文化も大きなコンテクストとなる。

使用の境界

表現の意味を決める周囲の条件。前後の文だけでなく、場面・関係・文化も含む。

用法

「文脈」と訳されるが、評論文では訳語より原語のほうが広く使われる。理由は、日本語の「文脈」が文章内の前後関係に読まれやすいのに対し、コンテクストが場面・人間関係・文化的背景まで含むためである。異文化コミュニケーション論では、言葉に依らず場に頼る文化を「ハイコンテクスト」、言葉で明示する文化を「ローコンテクスト」と呼ぶ。読解では、同じ表現が別の意味になる例が続いたら、この語が背後にあると考えてよい。

用例
  • 同じ「大丈夫です」も、コンテクストによって承諾にも辞退にもなる。意味が表現の内側で決まらない例。
  • 日本語はハイコンテクストな言語だと言われる。言葉にせず場に委ねる度合いが高いという意味。
  • コンテクストを共有していない相手には通じない。解釈の枠が共有されて初めて意味が成立する。
原書の反意語・関連語

59 テクスト(テキスト)

コロケーション
  • コンテクストに依存する
  • コンテクストを読む
  • ハイコンテクスト

書き言葉・会話の両方で使える。

類語と差
  • 文脈前後のつながり訳語。日本語の「文脈」は文章の中の前後関係に寄るが、コンテクストは場面や文化まで含む。
  • 状況そのときの様子出来事の側。コンテクストは意味を決める枠として働く点が違う。
  • 背景後ろにある事情説明のための補足。コンテクストは意味そのものを左右する。
  • 前提議論の出発点論理の話。コンテクストは解釈の話。

ENcontext
ZH语境(文脈・場面, yǔjìng)

テクストとコンテクスト同一のテクストが置かれた文脈によって別の意味になることを示した図。 テクスト 「大丈夫です」 コンテクスト A 手伝いましょうか = 辞退 コンテクスト B これで進めますか = 承諾 意味はテクストの内側では完結しない
同じテクストが、別の意味になる
入試文

近代は久しきにわたって正しい意味、唯一絶対の意味に欺かれてきた。ことば、表現は読む人ひとりひとりのコンテクストの差異を反映して十人十色の異同を示すのが実際である。それではしかし、同一のテクストについて無数の異本的解釈が生じることになって、収拾すべからざる混乱をまねくおそれがある。その混乱を未然に防ぐには、ただ書き手の意図だけを、正真正銘の意味とすればよいという政治が介入した。それを無力な読者は唯々諾々うけ入れたのである。

出典 外山滋比古『意味の弁証法』 / 出題 学習院大学・法学部

読解のポイント
  • 著者 テクスト(言葉・表現)は読む人のコンテクストによって受け取る意味が異なる。
  • 近代 書き手の意図だけを正真の意味とすればよい。 (無数の解釈が生じる混乱を防ぐため)
要約

言葉や表現から受け取るものは、読む人のコンテクストにより異なるはずなのに、近代はそれがまねく混乱を防ぐために、書き手の意図だけを唯一の正解とした。

語法の観察

同じ表現を並べて意味の差を示す構成。例の提示が論証そのものになっている型。

Section 03

アナロジー

61

アナロジー

アナロジー[2]中高型

定義

類推・類比。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑61
原書の解説

木にとまる鳥、枝をめぐる鳥の様子を子どもが見て、木は鳥にとって「椅子」になるのではないかと考えたり、遊ぶための「庭」だと考えたりしたとする。子どもは、鳥にとっての木というものを、なじみのある人間の日常世界に置き換えたり、想像したりして、理解しようとするわけだ。いずれもアナロジー的思考の産物である。

なお、アナロジーに基づいた表現方法を比喩という。

などの表現ができる。

使用の境界

既知の事柄との構造の似かたを手がかりに、未知を推し量ること。単なる「似ている」ではなく、関係の対応が要る。

用法

「類推」と訳す。要点は属性ではなく関係が似ていることにある。「原子は太陽系のようだ」というとき、大きさも材質も似ていない。似ているのは〈中心の周りを回る〉という関係である。だからアナロジーは未知の領域を既知の構造で捉える強力な道具になるが、同時にずれを見落とす危険も伴う。評論文では、ある分野の説明を別の分野に持ち込むことの功罪として論じられることが多い。メタファーと隣接するが、こちらは表現ではなく思考の手続きである。

用例
  • 原子の構造を太陽系とのアナロジーで理解する。関係の対応にもとづく推論。属性は似ていない。
  • 社会を生物にたとえるアナロジーには限界がある。構造の対応が途中で切れる。ずれの見落としが批判される。
  • ×色が似ているからアナロジーだ。属性の類似だけでは足りない。関係の対応が要件。
原書の反意語・関連語

関 比喩

コロケーション
  • アナロジーで理解する
  • アナロジーが働く
  • 生物学とのアナロジー

書き言葉・会話の両方で使える。

類語と差
  • 類推似た事例から推す訳語。同義に使われる。アナロジーのほうが〈構造の対応〉という含みが強い。
  • 比喩たとえて示す表現の技法。アナロジーは推論の方法。目的が違う。
  • 帰納多数の事実から法則を導く一般化。アナロジーは一対一の対応から推す。確実さは低い。
  • モデル単純化した写し対象を扱いやすくした図式。アナロジーはその図式を別の領域から借りてくる操作。

ENanalogy
ZH类比(類比, lèibǐ)

アナロジーの構造太陽系と原子の間に成り立つ、中心の周りを回るという関係の対応を示した図。 既知 太陽系 太陽の周りを惑星が回る 関係が対応 既知 未知 原子 核の周りを電子が回る 似ているのは大きさでも材質でもなく、関係である
似ているのは属性ではなく関係である
入試文

同じ人間がいとなむ機能であっても、身体的な機能のほうは、力学的な機械からのアナロジーで、理解は急速に進んだ。ところが、「知」のはたらきをつかさどっていると思われる脳には、どこにも可動部分がない。したがって、力学的な機械のアナロジーはまったく通用しない。
そこで、二〇世紀前半の心理学を支配していた行動主義は、生理学者が発見した条件反射の原理をアナロジーとして用いた。しかし、ネズミの単純な行動を相手にしていたあいだこそ、ある程度の成功をおさめはしたものの、人間の「知」が生み出す複雑きわまりない行動に標的を移すやいなや、このアナロジーは壁に突きあたってしまった。
一方、行動主義を批判したゲシュタルト心理学は、電磁場理論からの類推で心理学的な現象を説明しようと試みた。だが、このアナロジーも、「知」のはたらきを理解するという点では、ついに有効には機能しなかったのである。
壁を突き破ったのは、コンピュータの登場であった。
コンピュータは、脳と同じく、その本体のどこにも可動部分がない。にもかかわらず、計算という、まさしく知的な作業をやってのけるのである。

出典 大津由紀雄編『認知心理学3 言語』 / 出題 滋賀県立大学

読解のポイント
  • 人間の身体的な機能 =力学的な機械からのアナロジーが可能
  • 人間の「知」をつかさどる脳 =力学的な機械のアナロジーが適用されない
  • コンピュータ =脳と同じく可動部分がないが、知的な作業を行う
要約

人間の身体的機能と異なり、「知」をつかさどる脳には力学的な機械のアナロジーは適用されない。しかし、コンピュータは、脳と同じく可動部分がないが知的な作業をすることができ、「知」のはたらきを理解するのに有効である。

語法の観察

「たとえば」で始まる例示が長く続く。抽象的な定義を先に置かず、例から構造を取り出させている。

Section 04

記号

62

記号きごう

きごう[0]平板型

語構成
しるすしるし・よびな
定義

一定の意味内容を表すもの。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑62
原書の解説

言葉に限らず、「意味」をもっているものはすべて記号である。たとえば、信号の「青」は〈進め〉、「赤」は〈止まれ〉を意味する記号であり、「おじぎ」も〈挨拶・感謝〉を表す記号である。

このように解釈の範囲を拡張していけば、身振り・服装・商品・建物・動植物……ありとあらゆるものを記号ととらえることができる。これが、記号論が他の学問に大きな影響を与えることになった理由の一つである。我々の生活の中にあふれている記号を研究することによって、言語だけでなく文化や社会などについて、多くのことがわかる。

たとえば

「タキシード」や「ドレス」という服装は、そこがフォーマルな場であることを示している。この時、「タキシード」「ドレス」は〈フォーマル〉を表す記号として解釈することができる。

使用の境界

それ自体とは別の何かを意味するもの。言葉に限らない。意味しているという関係が成り立てば記号になる。

用法

評論文の「記号」は言語だけを指さない。信号の赤、おじぎ、タキシード、建物、商品──意味を担うものはすべて記号として扱える。この拡張が記号論を文化論・社会論に接続させた。ここが読解の急所で、「記号」と出たら言葉の話に限定せずに読む。もう一つの要点が恣意性で、音と意味の結びつきに必然的な理由はない。だから同じ対象が言語ごとに違う分け方をされる。☑35 恣意・☑67 分節と一体で読む。

用例
  • 身振り・服装・商品・建物、ありとあらゆるものを記号ととらえることができる。記号論の拡張。文化研究に道を開いた。
  • 〈イヌ〉という音声は、四本足の動物を指す記号である。あるものが別の何かを意味する関係。これが記号作用。
  • タキシードは〈フォーマル〉を表す記号として解釈できる。規約ではなく慣習による対応。記号は言葉に限らない。
原書の反意語・関連語

63 コード35 恣意

派生形
  • 記号論きごうろん[0]
  • 記号化きごうか[0]
  • 記号的きごうてき[0]
コロケーション
  • 記号としてとらえる
  • 記号論
  • 記号の体系

書き言葉。会話では不自然。

類語と差
  • 象徴抽象を具体で表す記号の一種。象徴は意味が汲み尽くせない点で、一対一の記号と区別される。
  • 符号定められた印規約で決められた対応。記号はもっと広く、慣習や文化による対応も含む。
  • 表徴表に現れたしるし古い訳語。現在はあまり使わない。
  • シニフィアン/シニフィエ記号の音と意味ソシュールの用語。記号を音の側と意味の側に分けて分析する枠組み。

ENsign
ZH符号(記号, fúhào)

日中のズレ

記号論の「記号」は、中国語では 符号(fúhào)。記号論は 符号学(fúhàoxué)。

中国語の 记号(jìhao)は「目印」「マーク」の意で、日常語である。学術語としては使わない。

記号作用と記号の広がりあるものが別の何かを意味する記号作用と、言葉以外にも記号とみなせるものの広がりを示した図。 〈イヌ〉という音声 意味する 四本足のあの動物 この関係が成り立てば、それは記号である。両者の結びつきに必然的な理由はない。 記号とみなせるもの 言葉身振り服装商品 建物動植物信号 この拡張が、記号論を文化と社会の研究へ開いた
記号作用と、記号の広がり
入試文

私たちが会話するときは、言語という記号体系(コード)を使って意思疎通を図ろうとしている。自分の伝えたいこと(メッセージ)を言語化するのは「記号化」の一方法である。
言語だけが記号ではない。国旗や花などの「物」にも私たちは意味を見出している。例えば、ある国の国旗を焼く行為はテーブルクロスを焼くのとはまるで違うし、人に花をあげる場合でもカーネーションと菊では意味が違ってくる。握手や礼といった非言語行動もシンボルである。敬意を表するために礼をすることも「記号化」であり、非言語も立派な記号体系である。
これらの記号と意味の関係は「恣意的」なものだとよく説明される。記号がある意味を必然的に「持つ」のではなく、私たち人間が記号に「意味付け」を行う、つまり記号を解釈・解読するということだ。相手に意図が伝わらないという原因の一つは、私たちがコミュニケーションで使っているシンボルの「恣意性」によるものとも考えられる。

出典 八代京子他著『異文化トレーニング ボーダレス社会を生きる』所収「コミュニケーションとは何か」 / 出題 愛知教育大学・教育学部

読解のポイント
〈記号―意味〉の結びつき
=恣意的(意味付け・解釈・解読)
↓ 記号を使ったコミュニケーション
相手に意図が伝わらない
要約

私たちはさまざまな記号を用いて意思疎通を図るが、記号と意味の関係は恣意的であるため、自分の意図が相手に伝わらないということがある。

語法の観察

「〜と言えよう」「〜と考えられる」で段階的に適用範囲を広げる。拡張の手つきが文体に出ている。

Section 05

コード

63

コード

コード[1]頭高型

定義

特定の文化の中での、規則や慣例。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑63
原書の解説

コードは暗号や符号などを意味する場合もあるが、入試現代文では、文化的な意味で用いられることが多い。

我々の行動や態度には我々が存在する社会の文化に規定された一定のルールがあるはずで、国や地域によって異なる伝統や習俗、さらに法律も道徳も宗教も、人間の行動や考えを拘束するコードとなる。

たとえば

手話や手旗信号の規則は、〈コミュニケーションのためのコード〉である。一方、レストランやホテルで決められているフォーマルな衣装や、国や地域の慣習に従った結婚式・葬儀の服装は、〈ドレスコード〉とよばれている。

使用の境界

記号と意味を結びつける約束事の体系。共有されて初めて働く。個人が勝手に決めたものはコードではない。

用法

日常語では「規約」「暗号」「番号」の意で使うが、記号論の「コード」は記号を意味に翻訳する約束事を指す。同じ黒い服が、葬儀では喪、パーティーでは正装になるのはコードが違うからである。要点は共有にあり、送り手と受け手が同じコードを持っていなければ意味は成立しない。異文化間の齟齬はコードの不一致として説明される。原書がコードを記号・制度・規範と関連づけているのは、コードが社会的に維持されるものだからである。

用例
  • 送り手と受け手がコードを共有していなければ意味は伝わらない。コードの要件。共有されて初めて働く。
  • 文化が異なればコードも異なる。同じ振る舞いが別の意味になる理由。異文化摩擦の説明。
  • 既存のコードを読み替える。同じ記号に別の意味を与え直すこと。表現の戦略として論じられる。
原書の反意語・関連語

62 記号/制度/規範

コロケーション
  • コードを共有する
  • 文化のコード
  • コードを読み替える

書き言葉・会話の両方で使える。

類語と差
  • 規則従うべき定め行為を縛る。コードは意味を成り立たせる枠で、守る守らないの話ではない。
  • 制度社会に定着したしくみより大きく、組織や法を含む。コードは解読の鍵という側面が強い。
  • 規範こうあるべきという基準当為を含む。コードは記述的で、当為を含まない。
  • 文法言語の組み立ての規則言語に限る。コードは服装・作法・映像など非言語にも及ぶ。

ENcode
ZH符码(コード, fúmǎ)

コードの働き同じ記号が異なるコードのもとで別の意味になることを、黒い服の例で示した図。 黒い服 葬儀のコード 式典のコード = 喪 = 正装 送り手と受け手が同じコードを持たなければ、意味は成立しない
同じ記号が、コードによって別の意味になる
入試文

ある社会Aと他の社会Bとの差異は、この時、それぞれの社会における行為と関係を意味づけるコードの差異によって与えられる。このようなコードの例として、もっとも分かりやすいものは近代における実定法であろう。異なる法に服する集団は、法という共同の行為と関係の規則に関して異なる社会を構成している。
社会の「内部」と「外部」とは、同一の意味に媒介された行為と関係の体系を受けいれている領域とそうでない領域によって、差異づけられるのである。
ただし、人びとの行為や関係を秩序づけるコードは多様なので、たとえば法というコードに関しては異なる社会――たとえば国家――に帰属する人びとも、市場経済という別のコードに関しては同一の社会――国際的な市場経済社会――に属しているということが、日常的に生じうる。人びとの社会への帰属は多元的であり、したがって人間にとっての社会の広がりもまた多元的なのだ。

出典 若林幹夫『地図の想像力』 / 出題 一橋大学

読解のポイント
  • ある社会Aと他の社会Bとの差異 =社会における行為と関係を意味づけるコードの差異 例:「法」
  • コードは多様なので、人びとの社会への帰属や社会の広がりも多元的
要約

ある社会と他の社会との差異は、法のような、社会における行為と関係を意味づけるコードの差異によって与えられる。こうしたコードは多様であるため、人びとの社会への帰属や社会の広がりも多元的である。

語法の観察

定義を述べたあと「たとえば」で場面を変えて反復する。同一の記号が別の意味になることを実演している。

Section 06

象徴(シンボル)/表象

64

象徴(シンボル)しょうちょう

しょうちょう[0]平板型

語構成
かたち・すがたしるし・きざし
定義

抽象的な事柄を、具体的で理解しやすい形で表すこと。また、その表現に用いられたもの。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑64
原書の解説

たとえば、「平和」は目に見えない抽象的な概念だが、その平和のイメージを「白いハト」で表すとわかりやすい。これが象徴である。

また、象徴するものとされるものとの間には、本物の「山」と漢字の〈山〉というような形の類似も、「火」と「煙」のような因果的なつながりもない。

使用の境界

抽象的なものを具体的なもので表すこと。意味が一つに決まらず、汲み尽くせないことを含む。

用法

ハトが平和を、鳩が反戦を、というように、具体物が抽象を担う関係である。要点は、その対応が説明し尽くせない点にある。アレゴリーなら「この人物は正義を表す」と一対一で言えるが、象徴は言い切れない残りを持つ。だから象徴は解釈を呼び込み、文学・宗教・政治で強く働く。日本国憲法の「日本国民統合の象徴」もこの語で、権力を持たずに意味だけを担う位置を指している。「象徴的な出来事」は、その出来事が時代全体を映しているという評価語。

用例
  • 白いハトは平和の象徴である。具体物が抽象を担う。対応は慣習によって成り立っている。
  • それは時代を象徴する出来事だった。一つの出来事が全体を映しているという評価。
  • 天皇は日本国民統合の象徴である。権力ではなく意味を担う位置。憲法の用法。
原書の反意語・関連語

57 メタファー66 アレゴリー(寓意)

派生形
  • 象徴的しょうちょうてき[0]
  • 象徴性しょうちょうせい[0]
  • 象徴主義しょうちょうしゅぎ[0]
コロケーション
  • 平和の象徴
  • 象徴的な出来事
  • 国民統合の象徴

書き言葉・会話の両方で使える。

類語と差
  • 記号意味を担うもの一般上位概念。象徴は記号のうち、意味が一意に定まらないもの。
  • メタファー類似による置き換え語や句の単位で、置き換えが効く。象徴は置き換えても意味が残る。
  • アレゴリー一対一で対応する寓意対応が決まっている。象徴は対応が開かれている。この差が要点。
  • 表象心に思い浮かぶ像内側の像。象徴は外にあるものが内側の何かを指す関係。

ENsymbol
ZH象征(象徴, xiàngzhēng)

65

表象ひょうしょう

ひょうしょう[0]平板型

語構成
あらわす・おもてかたち・すがた
定義

① 意識の中に現れる像。イメージ。 ② 記号の意味内容のこと。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑65
原書の解説

普段聞きなれない言葉だが、ほとんどの評論文ではイメージという語に置き換えて理解すればよい。たとえば「知覚表象」は、人間が知覚しているイメージのことだ。

ただし、右の例文のように、最近では記号の意味内容を表すという意で用いることもある。これは、`representation` の訳語である〈再現・代行〉という意での表象の使い方であるが、「……を表す(もの)」と理解しておこう。

使用の境界

心に思い浮かべられた像。外にある物そのものではなく、意識の側に立ち現れたものを指す。

用法

二つの層で使われる。①哲学・心理学で心に思い浮かべられた像(☑23 観念と隣接)。②文化研究である対象がどう描かれてきたか(「他者の表象」「女性の表象」)。②では、描き方が対象を作り出すという批判的な含みが強く、権力の問題と結びつく。「表象文化論」という学科名もこの層にある。日常語ではほとんど使わないので、出てきたらどちらの層かを文脈で判定する。中国語の「表象」とは意味がずれるので注意を要する。

用例
  • 外界の対象は、意識の中に表象として立ち現れる。①の用法。認識論の枠組み。
  • 西洋における東洋の表象を問い直す。②の用法。描き方が対象を作るという批判。
  • 表象文化論は、絵画・映像・演劇を横断して扱う。学問領域の名。②の系列。
原書の反意語・関連語

23 観念

派生形
  • 表象的ひょうしょうてき[0]
  • 表象作用ひょうしょうさよう[0]
  • 表象文化論ひょうしょうぶんかろん[0]
コロケーション
  • 心に表象する
  • 他者の表象
  • 表象文化論
硬・学術

論文・評論でのみ使う。会話では不自然。

類語と差
  • 観念頭の中にある考え判断や信念も含む。表象は像であることに重心がある。
  • イメージ思い浮かぶ姿日常語。表象は哲学・心理学の術語で、認識論の枠組みを背負う。
  • 印象感覚に強く残った形受けた側の感覚に寄る。表象は認識の成果としての像。
  • 再現前もう一度目の前に立たせるrepresentation の直訳的な理解。表象が〈代わりに立てる〉働きであることを示す。

ENrepresentation
ZH表象(うわべ・表面現象, biǎoxiàng)

日中のズレ

中国語の 表象(biǎoxiàng)は「うわべ」「表面にあらわれた現象」の意で、本質(本质)と対になる。

日本語の哲学語「表象」は心に思い浮かべられた像で、中国語では 表象 のほか 心象・再现 が対応する。

象徴と表象の向き外にある具体物が抽象を担う象徴と、外の対象が意識の内に像として立ち現れる表象の、向きの違いを示した図。 象徴 ── 外から外へ 白いハト 平和 具体物が抽象を担う。対応は言い尽くせない。 表象 ── 外から内へ 対象 意識 心に思い浮かべられた像。☑23 観念と隣接する。 もう一つの表象 文化研究では「ある対象がどう描かれてきたか」を指す(他者の表象、女性の表象)。 この層では、描き方が対象を作り出すという批判的な含みを持つ。 同じ語が、認識論と文化研究で別の層に立っている
外へ向かう象徴、内へ向かう表象
入試文

人は象徴をつくりだす。木片をもって遊んでいる子どもにとり、木片は単なる木片でなく、たとえば自動車なり、飛行機なりを象徴している。それがいわゆるシンボル遊びである。
子どもは木片を通して、自動車なり飛行機なりを「表象」しているのである。つまり具体的なものを通して、それ以外のものを表現、表象するところに、象徴作用が存する。
フロイトの『快感原則の彼岸』には、有名な子どもの遊戯が述べられている。すなわち、母親不在の淋しさを無意識にまぎらそうと、子どもはある遊戯にふける。その遊戯は糸巻きにひもをつけて、ベッドの向う側に投げては、ひもでひっぱり出すことをくりかえすもので、糸巻きが姿を消し、また現われるのは、母親の不在と現前を象徴していた。

出典 久米博『象徴と解釈』 / 出題 日本大学・国際関係学部

読解のポイント
| 象徴するもの | 象徴されるもの |
|---|---|
| 木片 | 自動車や飛行機 |
| 糸巻き遊び | 母親の不在と現前 |
※「表象」の関係。
要約

人は象徴をつくりだす。木片で遊ぶ子どもにとって、木片は自動車なり飛行機なりを象徴し、糸巻きの遊戯は、母親の不在と現前を象徴している。

語法の観察

「〜ではない。〜である」という否定を挟んだ定義。まず誤解を退けてから内容を置く型。

Section 07

アレゴリー(寓意)

66

アレゴリー(寓意)ぐうい

ぐうい[1]頭高型

語構成
かこつける・よせるこころ・おもい
定義

抽象的な概念や思想を具体的なものによって暗示する表現方法。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑66
原書の解説

イソップ童話のアリとキリギリスの話では、勤勉実直な人間が〈アリ〉として、その場限りのいい加減な人間が〈キリギリス〉としてそれぞれ暗示されている。

こうしたアレゴリーは、イソップ童話では多く登場し、道徳上の教訓や風刺(=社会や人物の愚かさを遠回しに批判すること)を含んでいて、寓話とよばれる。

なお、アレゴリーは、語源的には〈他の話し方で話すこと〉を意味する。たとえば、ずる賢く油断のならない人間の様子を〈キツネ〉〈タヌキ〉で表したり、公平な裁判のあり方を〈天秤〉で示したりするため、アレゴリーはメタファー(隠喩)や象徴の一種とみることもできる。

使用の境界

物語や絵の全体で別の意味を語ること。対応が一対一で決まっている点が象徴と違う。

用法

「寓意」と訳す。要点は作品全体が別の話になっていることで、局所的なたとえであるメタファーとは単位が違う。動物たちの物語が実は革命の経過を語っている、という構造がその典型。検閲や弾圧のもとで直接語れないことを語る手段になるため、政治との結びつきが強い。象徴との差は対応の決まり方にある。アレゴリーは解読すれば答えが出るが、象徴は解読し尽くせない。この対比が設問になりやすい。

用例
  • この寓話は当時の政治体制のアレゴリーである。物語全体が別の話を語っている。解読すれば対応が出る。
  • 寓意を込めて書く。直接言えないことを別の話に託す。検閲下で発達した。
  • △ハトは平和のアレゴリーだ。対応が開かれているので「象徴」。アレゴリーは一対一。
原書の反意語・関連語

57 メタファー64 象徴(シンボル)

派生形
  • 寓意的ぐういてき[0]
  • 寓話ぐうわ[0]
コロケーション
  • アレゴリーとして読む
  • 寓意を込める
  • 政治的なアレゴリー

書き言葉。会話では不自然。

類語と差
  • 象徴対応が開かれている言い尽くせない残りを持つ。アレゴリーは「これはこれを表す」と説明できる。
  • 寓話教訓を含む短い物語イソップ物語など。アレゴリーの代表的な形式。
  • 風刺社会の欠点を突く目的の話。アレゴリーは表現の構造。風刺の手段としてよく使われる。
  • メタファー語や句の単位の比喩単位が違う。アレゴリーは作品全体を覆う。

ENallegory
ZH寓言(寓話・寓意, yùyán)

入試文

日野啓三の小説『夢の島』など一連の小説には都市が作りだすモチーフが語られているとして、都市は「高度に発達した都市工学や建築工学の技術によって彩られる華麗さとうらはらに、精神的にはひどく脆く稀薄な印象をあたえる」という。
主人公は最後に「埋め立て地の一画で逆さ吊りになって死を遂げる」。
「その背後に夢かうつつか浮かびでる焼跡の情景、裸の木々の幹、燃えている市街電車といったシーンが、主人公の死のイメージに重ね合わされ、やがて大都市は終末を遂げる」。
このアレゴリーは、あるいは常識的であるかもしれない。多かれ少なかれ、誰の目にも近代文明の絶望的な終焉が見えている。まるで水虫のように、うようよと繁殖していって緑を食べつくし、地球の表皮にはびこる人間。絶望的な自己嫌悪は現代人の誰しもが持っているだろう。

出典 中西進『都市と人間』 / 出題 専修大学

読解のポイント
小説『夢の島』
- 主人公の死
- 大都市の終末
=アレゴリー
→ 近代文明の絶望的な終焉
要約

小説『夢の島』にあるアレゴリーには、近代文明の絶望的な終焉が見られる。

語法の観察

具体的な作品名を挙げてから一般化する。事例が先、定義が後という順序になっている。

Section 08

分節

67

分節ぶんせつ

ぶんせつ[0]平板型

語構成
わけるふし・くぎり
定義

切れ目を入れて分割すること。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑67
原書の解説

言語のはたらきの一つに分節という機能がある。これは、連続的な対象に切れ目を入れ、意味づけるということである。

言語による分節化がなければ、世界は完全な〈混沌〉であり、そこにモノの区別はない。我々は、言語によって混沌に切れ目を入れて、世界を秩序あるものとして認識しているのである。

たとえば

名づけることは分節の典型的な例だ。森の木を見ても、樹木の名前を知らなければ、我々は「木がいっぱいある」という印象しかもたないが、名前を知っていれば、それぞれの樹木を個別に認識できる。

使用の境界

連続したものに言語で切れ目を入れ、区別を成り立たせること。切れ目は対象の側にあるのではない。

用法

この章で最も重い語である。物が先にあって名がつくのではなく、名があるから物が見えるという主張を担う。虹の色数が文化によって違うのがその証拠として挙げられる。虹そのものは変わらないのに、色名の数だけ色が見える。切れ目は自然の側にはなく、言語が入れている。ここから☑35 恣意性と☑5 秩序/☑6 混沌がつながる。分節される前の世界が混沌で、分節されたあとが秩序である。赤ん坊に世界が混沌として映るという説明はここに接続する。

用例
  • 言語は連続した世界に切れ目を入れて分節する。切れ目は対象の側にない。認識が言語に支えられている。
  • 虹が七色に見えるのは、七つの色名を知っているからである。分節の証拠として最も使われる例。
  • 分節される前の世界が混沌であり、分節されたあとが秩序である。☑5 ☑6 との接続。章をまたいで効く。
原書の反意語・関連語

5 秩序35 恣意62 記号

派生形
  • 分節化ぶんせつか[0]
  • 分節的ぶんせつてき[0]
  • 非分節ひぶんせつ[0]
コロケーション
  • 世界を分節する
  • 言語による分節
  • 分節化された世界
硬・学術

論文・評論でのみ使う。会話では不自然。

類語と差
  • 区別違いを見分ける結果。分節はその区別を作り出す働き。順序が逆であることが要点。
  • 分類既にあるものを仲間分けする対象が先にある前提。分節は対象そのものを言語が切り出す。
  • カテゴリー化枠に入れる認知科学の語。分節は言語学・記号論の語で、恣意性を含意する。
  • 秩序整った状態分節の結果として得られる状態。混沌の反対側にある。

ENarticulation
ZH分节(分節, fēnjié)

言葉による分節言葉がないときは連続して見える帯が、色名を持つことで区切られて見えるようになる過程を示した図。 言葉がないとき 連続していて、切れ目が見えない 言語による分節 言葉があるとき 「藍」を指す言葉がない文化では、虹は六色に見える。虹そのものは変わっていない。 物が先にあるのではない。名があるから物が見える。
言葉が世界に切れ目を入れる
入試文

例えば白い犬が走っているという事実を、われわれは、〈白い〉という性質と〈一匹のあの犬〉という対象と〈走っている〉という動作といった要素から構成されるものとして捉えている。こうした構成要素を取り出すことを「分節化」と言う。
われわれはすでに分節化された世界に生きている。分節化されていない世界とは、いわば徹底的な抽象画の世界にも喩えられるだろう。そこでは、あらゆる対象の輪郭が失われ、それら対象がもっていた意味も消え去る。そんな世界。他方、われわれが生きている世界はそうではない。
われわれは、〈あの犬は白い〉という事実から、〈あの犬〉という対象と〈白い〉という性質を分節化し、あるいはまた〈机の上にパソコンがある〉という事実から、〈その机〉〈そのパソコン〉という対象と〈…の上に…がある〉という関係を、その事実を構成する要素として分節化している。
あまり細かい区別をしてもしょうがないので、性質と関係をあわせて「概念」と呼ぶことにしよう。われわれは世界をさまざまな対象とさまざまな概念に分節化して捉えている。

出典 野矢茂樹『語りえぬものを語る』 / 出題 福島大学

読解のポイント
われわれは分節化された世界に生きている。
- 〈犬、机、パソコン〉という対象
- 〈白い〉という性質
- 〈…の上に…がある〉という関係
→ 世界をさまざまな対象・概念に分節化して捉えている。
要約

われわれは分節化された世界に生きている。事実から〈犬、机、パソコン〉などの対象と、〈白い〉という性質、〈…の上に…がある〉という関係をあわせた概念というように、世界を、対象と概念とに分節化して捉えている。

語法の観察

常識(物が先にあって名がつく)を提示し、それを反転させる。反転の型は本章の主題そのものでもある。

Section 09

差異/同一/一義(的)/両義(的)/多義(的・性)

68

差異さい

さい[1]頭高型

語構成
ちがいことなる
定義

ある物事について、他と比較した時に見られる違い。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑68
原書の解説

近代の言語観では、言葉はそれ自体で意味をもっていると考えられていた。しかし現代では、言語は他の言葉との差異によって意味をもつという考えが主流になっている。

なお、言語から離れるが、商品の価値も、商品のもつ情報の差異によってもたらされるという考え方もできる。

たとえば

「兄」という語は、「弟」という語との差異によって、はじめて意味をもつ。

使用の境界

他と比較したときに見られる違い。比較の相手を前提とする点が要点で、単独では成り立たない。

用法

現代言語論の中核をなす。近代の言語観では語がそれ自体で意味を持つとされたが、現代では語は他の語との差異によって意味を持つとされる。「兄」は「弟」との差があって初めて意味を持ち、単独では成り立たない。この考えは言語を超えて広がり、商品の価値も他商品との情報の差異によって生まれるという議論(差異化)に接続する。広告論・消費社会論で頻出するので、言語の話に限定せずに読む。

用例
  • 言語は他の言葉との差異によって意味をもつ。現代言語観の中核。語は単独では意味を持たない。
  • 「兄」は「弟」との差異によってはじめて意味をもつ。比較の相手がなければ成立しない。
  • 商品は機能ではなく差異によって売れる。消費社会論への展開。差異化が価値を生む。
原書の反意語・関連語

69 同一

派生形
  • 差異化さいか[0]
  • 差異的さいてき[0]
  • 微差びさ[1]
コロケーション
  • 差異によって意味をもつ
  • 差異化する
  • 微細な差異

書き言葉。会話では不自然。

類語と差
  • 違い異なっていること日常語。差異は〈意味を生む違い〉という理論的な含みを持つ。
  • 区別見分けて分ける認識する側の働き。差異は関係そのものの性質。
  • 個性そのものらしさ内側に備わったものとして語る。差異は関係の中でしか出てこない。
  • 同一区別できないこと対語。どちらも比較を前提とする点では同じ構造をもつ。

ENdifference
ZH差异(差異, chāyì)

69

同一どういつ

どういつ[0]平板型

語構成
おなじひとつ
定義

二つ以上の物事の性質が同じで、区別ができないこと。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑69
原書の解説

〈明けの明星も宵の明星も同じ金星だ〉という時、〈明けの明星〉〈宵の明星〉は、土星などの他の星との比較で、同一の性質をもつものとみなされている。

また、〈今日の私は、昨日の私と変わりのない私だ〉という時には、昨日と今日とを比較した上で、変化しない同一の〈私〉の性質が言われている。

このように、差異と同じく、同一も何かとの比較を前提としている概念だと考えられる。なお、自己の人格についての同一性(自己同一性)は、アイデンティティとよばれている。

使用の境界

二つ以上のものが同じ性質を持ち、区別できないこと。差異と同じく比較を前提とする。

用法

要点は、同一もまた比較を前提とする概念だという点にある。明けの明星と宵の明星が「同一だ」と言えるのは、他の星と比べたうえでのことである。昨日の私と今日の私が同じだと言えるのも、昨日と今日を比べているからである。したがって差異と同一は反対語でありながら、構造は同じ。この指摘が読解の急所になる。自己についての同一性はアイデンティティと呼ばれ、近代論・現代社会論に接続する。

用例
  • 明けの明星と宵の明星は同一の金星である。他の星との比較を経て同一だと言える。
  • 同一も差異と同じく、比較を前提とした概念である。反対語だが構造は同型。ここが要点。
  • 自己の同一性はアイデンティティとよばれる。近代論・現代社会論への接続点。
原書の反意語・関連語

68 差異 / 関 アイデンティティ

派生形
  • 同一性どういつせい[0]
  • 同一化どういつか[0]
  • 自己同一性じこどういつせい[0]
コロケーション
  • 同一の性質
  • 自己同一性
  • 同一視する

書き言葉。会話では不自然。

類語と差
  • 同じ違いがない日常語。同一は〈何との比較において同じか〉を含意する。
  • 等価価値が等しい交換の話。同一は性質の話。
  • アイデンティティ自己の同一性自分が自分であり続けること。同一性の一用法。
  • 差異比較して見られる違い対語。両者は反対でありながら、比較を前提とする点では同型。

ENidentity
ZH同一(同一, tóngyī)

70

一義(的)いちぎ

いちぎ[1]頭高型

語構成
ひとつ意味
定義

① 意味や解釈が一つしかないこと。 ② 最も大切なこと。根本。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑70
使用の境界

①意味や解釈が一つしかないこと。②最も大切なこと、根本。二つの用法が同居する。

用法

二つの用法があり、混同すると設問を落とす。①意味が一つしかない(一義的な解釈)。②第一に、根本的に(一義的には政府の責任だ)。②は行政・報道でよく使われ、こちらのほうが日常では頻度が高い。評論文では①が中心で、言語の多義性を論じる文脈で対比項として置かれる。「一義的に決まる」は、解釈の余地がないという意味。「義」は〈意味〉であることを押さえておくと、一義・両義・多義が一列に並ぶ。

用例
  • 法の条文は一義的に解釈できるとは限らない。①の用法。解釈の幅があるという主張。
  • 一義的には、これは行政の責任である。②の用法。第一には、という意味。
  • 「義」は〈意味〉のこと。一義・両義・多義を並べて理解する鍵。
原書の反意語・関連語

72 多義(的・性)

派生形
  • 一義的いちぎてき[0]
  • 一義性いちぎせい[0]
コロケーション
  • 一義的に決まる
  • 一義的な解釈
  • 一義的には

書き言葉。会話では不自然。

類語と差
  • 多義多くの意味を持つ対語。解釈の幅の有無で分かれる。
  • 明確はっきりしている分かりやすさの話。一義は解釈の数の話。
  • 一意ただ一つに定まる数学・情報の語。日本語の日常文では使わない。
  • 第一義最も重要な意味②の系列。「第一義的には」の形で使う。

ENunivocal
ZH单义(一義, dānyì)

71

両義(的)りょうぎ

りょうぎ[1]頭高型

語構成
ふたつ意味
定義

正反対となる二つの意味をもち、どちらの意味にも取れること。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑71
使用の境界

正反対の二つの意味を同時に持ち、どちらにも取れること。単に意味が二つあるだけでは両義ではない。

用法

最も誤りやすい語である。「二つの意味」ではなく「対照的な二つの意味」が要件になる。原書が挙げる例は身体で、自分の意のままになる主体的な側面と、単なる物体という客観的な側面を同時に持つ。この二つは正反対だから両義的と言える。評論文では、近代が切り捨ててきた〈どちらとも決まらないもの〉を救い上げる文脈で使われることが多く、肯定的な評価を伴う。「曖昧」と訳すと誤りになるので、必ず〈対照的な二つ〉と押さえる。

用例
  • 身体は主体でも物体でもあるという点で両義的である。正反対の二側面を同時に持つ。原書の例。
  • 聖なるものは、清浄と不浄という両義性を帯びる。対照的な二つの意味が同居する典型。
  • ×意味が二つあるから両義的だ。対照的でなければ「多義」。ここが設問になる。
原書の反意語・関連語

72 多義(的・性)

派生形
  • 両義的りょうぎてき[0]
  • 両義性りょうぎせい[0]
コロケーション
  • 両義的な存在
  • 両義性を帯びる
  • 両義的な感情
硬・学術

論文・評論でのみ使う。会話では不自然。

類語と差
  • 多義多くの意味を持つ数の話。両義は〈対照的な二つ〉という条件が付く。
  • 曖昧はっきりしない欠点として言う。両義はその構造自体が対象の性質だと述べる。
  • アンビバレント相反する感情を同時に抱く心理の語。両義は対象や概念についても言う。
  • ディレンマ二つとも選べない選択の場面。両義は意味の構造。

ENambivalent
ZH两义(両義, liǎngyì)

72

多義(的・性)たぎ

たぎ[1]頭高型

語構成
おおい意味
定義

多くの意味をもっていること。または、いくつもの意味に解釈できること。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑72
使用の境界

多くの意味を持ち、いくつもの解釈が成り立つこと。対照的である必要はない点が両義と違う。

用法

評論文では肯定的に扱われる。言語が多義であるからこそ、テクストは複数の読みに開かれ、コンテクストによって意味が変わる。この主張が「作者の意図が唯一の正解ではない」という読解観を支える。日常では多義性は不便さとして扱われるが、評論文でそう読むと逆になる。両義との差が設問になりやすく、多義は数だけ、両義は対照的な二つという線で分ける。「一義」との対で置かれることが多い。

用例
  • 言語の多義性が解釈の多様性を支えている。評論文での肯定的な用法。読みの複数性の根拠。
  • この詩は多義的に読める。複数の解釈が成り立つ。優劣をつけない言い方。
  • 多義と両義は別語である。多義は数、両義は対照性。混同が設問になる。
原書の反意語・関連語

70 一義(的) / 関 71 両義(的)

派生形
  • 多義的たぎてき[0]
  • 多義性たぎせい[0]
コロケーション
  • 言語の多義性
  • 多義的に読む
  • 多義性を肯定する

書き言葉。会話では不自然。

類語と差
  • 一義意味が一つしかない対語。解釈の幅の有無で分かれる。
  • 両義対照的な二つの意味を持つ条件が厳しい。多義は数だけを言う。
  • 曖昧はっきりしない否定的な評価。多義は評論文では肯定的に扱われる。
  • 含蓄言外に意味を含む味わいの話。多義は解釈が複数成り立つという構造。

ENpolysemy / multivocal
ZH多义(多義, duōyì)

解説 ── 一義・両義・多義

「義」は〈意味〉のこと。したがって、一義とは一つの意味しかないことであり、多義とはさまざまな意味をもち得ることを言う。ちなみに「一義的」には、〈第一には〉という意もあることを覚えておこう。

注意が必要なのは両義だ。両義は、単なる「二つの意味」ではなく、「対照的な二つの意味」がある場合に用いられる。たとえば我々の身体は、自分の意のままになる主体的な側面と、単なる物体という客観的な側面とがあるという点で、両義的な存在である。

対立の軸

差異/同一 の軸 = 比較の結果が違いか同じか

差異他と比べたときに見られる違い。
比較の結果が違いか同じか
同一二つ以上の性質が同じで区別できないこと。

一義(的)/多義(的・性) の軸 = 意味の数

一義(的)意味や解釈が一つしかない。
意味の数
多義(的・性)多くの意味をもち、複数の解釈が成り立つ。
差異と同一語が単独では意味を持たず、他の語との差異によって意味を持つことと、同一もまた比較を前提とすることを示した図。 単独では意味をもたない 差異があって、はじめて意味をもつ 同一もまた比較を前提とする 明けの明星 宵の明星 同一の金星 他の星と比べたうえで「同一だ」と言える ── 構造は差異と同型
差異が意味をつくり、同一もまた比較を前提とする
一義・両義・多義意味の数と、対照的であるかどうかによって一義、両義、多義を分けた図。 一義 意味は一つ 両義 対照的な二つ 多義 数が多い 身体は、意のままになる主体でもあり、単なる物体でもある。この二つは正反対だから両義的である。 意味が二つあるだけでは両義ではない。対照的であることが条件になる。 「義」は〈意味〉── 一・両・多は、その数と質を言い分けている
一義・両義・多義 ── 数と質
Meta — 俯瞰

十六語を上から見る

この章の語は、言語という一つの対象を表現の側と記号の側から切ったものである。対立の軸と、語の格を一枚ずつ図にしておく。

本章の対立の軸一覧本章に現れる対立語のペアと、それを分ける軸を並べた一覧図。 PAIR AXIS 差異 同一 比較の結果が違いか同じか 一義 多義 意味の数 評論文は対立で動く ── 軸が分かれば片方から他方が読める
本章に現れる対立と、それを分ける軸
格による16語の分布硬・学術、硬、中の三段階に本章の16語を振り分けた図。 硬・学術 3 表象 分節 両義 6 記号 アレゴリー 差異 同一 一義 多義 7 メタファー レトリック テクスト コンテクスト アナロジー コード 象徴 語は意味ではなく格で選ぶ
格による十六語の分布

硬・学術に属する語は、会話で使うと不自然に響く。中に属する語は両方で使える。この区別は意味の理解とは別の層にあり、書く段階で効いてくる。

Output

産出

やるなら ── 自分の関心領域から一つ選び、次のいずれかを一段落で書く。

  • 自分の関心領域で使われているメタファーを一つ挙げ、それが何を見えるようにし、何を見えなくしているかを書く
  • 自分の母語では分節されているが、日本語では分節されていない区別を一つ挙げる
Blank

名があるから物が見えるのだとすれば、まだ名を持たないものを、人はどうやって名づけるのか。