原書の導入
科学とは何か
現代と科学
入試では、「科学」に関する文章がしばしば出題される。その理由は、多くの受験生が「科学とは何か」を知らないからだ。
こう言うと、「現代社会が科学の成果によって成り立っていることも、科学技術が環境破壊や戦争兵器を生み出したことも、クローンや臓器移植などで科学技術が新たな倫理的な問題を引き起こしたことも知っている」と思う人がいるかもしれない。
しかし、入試の「科学論」では、もっと本質的なことが問われる。つまり、「そもそも科学とはいったい何なのか」ということだ。これがわからないと、なぜ科学とその応用としての科学技術が現在のように発展し、そして多くの問題を引き起こしたのかが理解できない。そのため、「科学とは何か」が出題されるのである。
近代科学の特徴
それでは「科学とは何か」について学んでいこう。科学の最大の特徴は、「機械論」という考え方だ。機械論とは、「自然も生物も、すべて物質からできた機械である。すべての物体は機械だから、一つ一つの部品から成り立っている。分解して細かく調べれば、対象を完全に理解できるはずだ」というものである。
現在のような科学を、古代や中世の科学と区別して「近代科学」と言う。近代以前の人々は、物体に魂があると考えたり、神の力によって世界が成り立っていると考えたりしていた。科学が今のような客観的な学問として発達したのは、近代に入り、宗教の力が弱まるにつれて、次第に機械論的な見方が強まっていったためだ。
近代科学の研究方法
近代以降の科学の驚くべき発展は、その研究の方法に理由がある。第一に、「実際に証明や検証ができることだけを研究する」という態度〈=実証主義〉が挙げられる。したがって、証明や検証・実験ができない領域の事柄は、研究の対象外とされた。
第二に、実験の結果から原因を考え、その因果関係を法則として導くという方法を取る。その法則化には数学が使われ、実験結果を数値データとして処理する。それによって、客観的で正確な科学的知識が得られる。
第三に近代科学は、物事をそれ以上分けられない要素にまで細かく分けて(還元して)分析し、それらを再構成して対象を理解する。これを要素(還元)主義と言う。部分部分を理解すれば全体を理解できるというこの考え方は、現代では限界も指摘されているものの、近代科学を強力に推し進めた原理の一つである。
科学の制度化
十九世紀に入り、科学技術の発達が産業の発展に不可欠なものとなると、科学の基礎研究や科学技術開発が国家や企業の支援で行われるようになっていった。すなわち、科学技術に関する研究・開発が個人的な知的探求を目的としたものではなく、企業や国家によって制度化され、大規模かつ組織的に行われるようになったのだ。その結果、科学や科学技術が社会に及ぼす影響はきわめて大きくなり、一面では科学や科学技術は人々の生活を便利で豊かにしたが、反面では地球的規模の環境破壊や世界的な大戦争を引き起こすようになっていった。
問い直される近代科学
二十世紀以降、近代科学は多くの批判にさらされ、そのあり方が問い直されている。たとえば、「科学は時代が進めば進むほど、新たな真理を発見して進歩する」という従来の科学観がくつがえされ、「科学もまた時代や社会の知的状況、科学者たちの物の見方などに拘束される」という考え方が出てきた。これに従えば、近代科学は真理追究の一本道を歩んできたわけではなく、ある特定の「考え方の枠組み」の中で発展してきたものであることがわかる。
また、近代科学の特徴である「機械論的自然観」や「要素主義」は自然を操作・支配の対象としてとらえるため、結果として自然破壊につながってしまった。その反省もあり、自然環境や生態系を有機的・全体的にとらえようとするエコロジーの思想も強まってきている。今後は、高度な科学技術を自然環境や生態系を保護するために用いていくような、人間と自然との共生のあり方が求められていると言えよう。
今まで見てきたように、科学も万能ではない。科学とはどのようなものかを理解した上で、科学と人間のよりよい関係について考えることが必要だ。
Section 05
仮説/検証
45★★★
仮説
かせつ[0]かせつ平板型
定義
ある現象を説明するために、仮に立てる説。
『現代文キーワード読解』1-1 ☑45
使用の境界現象を説明するために仮に立てる説。まだ確かめられていないことが前提。確かめ終わったら法則・理論と呼ぶ。
用法「仮説を立てる」「仮説を検証する」という動詞の組み合わせが固定している。評論文では、二十世紀以降の科学観を述べる箇所で「理論は仮説にすぎない」という形で現れる。ここでの含意は、理論が永遠の真理ではなく、実験と合わなければ捨てられる暫定物だということ。「仮説にすぎない」は日常では相手の主張を退ける言い方になるが、科学論の文脈では科学の性格そのものの記述なので、否定の意味に読まないこと。
用例
- データに基づいて仮説を立てる。観察から説明を組み立てる段階。検証はこの次に来る。
- 理論は実験のための仮説にすぎない。二十世紀の科学観。永遠の真理ではないという記述であって、価値を下げる言い方ではない。
- ×実験で確かめた仮説を発表する。確かめ終われば「法則」「理論」。仮説は未確認の段階を指す。
派生形
- 仮説的[0]
- 作業仮説[4]
類語と差
- 推測たぶんこうだろうと考える日常語。検証にかけることを前提としない。仮説は検証の手続きとセット。
- 理論体系化された説明検証を経て受け入れられた段階。仮説はその手前。
- 前提議論の出発点に置くもの疑わずに置く。仮説は疑って確かめる対象。
- モデル単純化した写し現象を扱いやすくした図式。仮説は真偽を問える主張であるのに対し、モデルは道具。
ENhypothesis
ZH假说(仮説, jiǎshuō)
46★★★
検証
けんしょう[0]けんしょう平板型
定義
実際に調べて証明すること。実験や事実の観察によって、仮説の真偽を確かめること。
『現代文キーワード読解』1-1 ☑46
使用の境界実験や観察によって仮説の真偽を確かめること。確かめる手続きを踏まないものは検証と呼ばない。
用法「検証」は近年、行政やメディアで「事後の点検」の意でも広く使われる(政策の検証、事故の検証)。科学論の文脈ではあくまで〈仮説の真偽を実験で確かめる手続き〉であり、この二層を読み分ける。あわせて反証を押さえておく。検証は正しいことを示し、反証は誤りを示す。二十世紀の科学哲学は、検証できることではなく反証できることを科学の条件とした点で、原書の記述より一歩先に進んでいる。
用例
- 仮説を検証して法則として受け入れる。実験が成功した場合。失敗すれば仮説は却下され、修正される。
- 反証とは、仮説や法則が誤りであると証明することである。検証の対概念。あわせて覚える。
- 政策の効果を検証する。事後の点検という日常・行政の用法。科学論の用法とは層が違う。
派生形
- 検証可能性[0]
- 追検証[0]
類語と差
- 実証事実にもとづいて証明する根拠を経験的事実に置くこと。検証は仮説を確かめる手続きそのもの。
- 反証誤りであることを示す検証と対をなす。ポパー以降、科学の要件は反証できることだとされる。
- 論証論理によって示す三段論法のように理屈で導く。検証は事実に当てる。
- 確認そのとおりだと確かめる日常語。真偽を問う構えを含まない。
ENverification
ZH检验(検証, jiǎnyàn)
解説 ── 仮説・検証
近代の科学は、まず何らかのデータに基づいて仮説を立て、仮説を確かめるために、観察・計算・実験などによって検証する。検証されて正しければ、仮説は法則や理論として受け入れられるようになるが、実験や証明が失敗すると、その仮説は却下され、修正を加えられて新しい仮説が立てられる。客観的な法則や理論を見つけ出そうとするこのような研究の方法は、近代科学によって確立され、その後、科学以外の学問にも広く影響を与えた。
また、「反証」という言葉も合わせて覚えておこう。これは、仮説や法則が虚偽・誤りであることを証明することを言う。
対立の軸
仮説/検証 の軸 = 確かめる前か後か
仮説現象を説明するために仮に立てる説。
確かめる前か後か
検証実験や観察で仮説の真偽を確かめる手続き。
科学研究のプロセス ── 検証に失敗したら戻る
入試文
十九世紀には、理論の樹立こそ科学の目的であり、実験はその検証であって、検証された理論は自然の永遠の真理であると信じられていたが、二十世紀には、実験結果こそが信じられるものであって、理論は実験のための仮説に過ぎず、実験と合わない理論は捨てられるだけでなく、別の理論も可能であり、要するに理論は近似的なものに過ぎないと考えられるようになった。
ある現象をどのように理解するかは「解釈」の問題なのであって、どのように解釈されようと、実験において得られたインプットとアウトプットとの関係こそが信じられるものであるということになると、科学とは一定の条件のもとで、どのように働きかけるとどのように応答するかという、操作とその効果の間の関係を見出す仕事になる。
出典 坂本賢三『先端技術のゆくえ』 / 出題 法政大学・経営学部
読解のポイント- 十九世紀の科学=実験によって検証された理論は永遠の真理
- 二十世紀の科学=理論は実験のための仮説に過ぎない
要約十九世紀には、理論の樹立が科学の目的であり、実験はその検証の手段に過ぎなかったが、二十世紀には、理論は仮説に過ぎず、実験の操作とその効果の関係を見出すことが科学の仕事となった。
語法の観察十九世紀と二十世紀を対比する構文が一文の中で完結している。「〜が、〜」の逆接が時代の切れ目になっている。
Section 08
科学の中立性/科学の制度化/因果/実証
49★★
科学の中立性
かがくのちゅうりつせい[0]かがくのちゅうりつせい平板型
定義
科学そのものは善でも悪でもないという考え方。
『現代文キーワード読解』1-1 ☑49
原書の解説
科学の中立性とは、科学それ自体は価値的に中立であるということ。たとえば、科学が大規模な戦争に利用されたとしても、それは利用する人間の問題であり、科学自体に罪はないという考え方である。
しかし、科学の成果が人類規模の生活や生死を左右する現在、科学者は研究成果の負の影響まで考える倫理観が必要だという意見も多い。
使用の境界科学それ自体は善でも悪でもないとする立場。使う人間の責任だという主張とセットで現れる。
用法「科学に罪はない、悪いのは使う人間だ」という主張の名前である。評論文ではこの主張を紹介したうえで疑うという運びがほとんどで、そのまま肯定されることは少ない。疑いの根拠は、研究の方向そのものが軍事や経済の要請で決まっている(=科学の制度化)という事実である。したがって中立性と制度化は必ず対で読む。原発・核兵器・遺伝子操作が具体例として続くことが多い。
用例
- 科学が戦争に利用されても科学自体に罪はない。中立性の主張そのもの。評論文ではこの後に反論が来る。
- 科学者は研究成果の負の影響まで考える倫理観が必要だ。中立性への異議。制度化の議論と接続する。
- 科学や科学技術には〈こうすべきだ〉という方向性が含まれていない。中立性の中身。倫理は科学の外から与えるしかない。
派生形
- 価値中立性[0]
- 中立的[0]
類語と差
- 価値自由価値判断を持ち込まないウェーバーの語。研究者の態度についての要請。中立性は知そのものの性格についての主張。
- 客観性主観から独立している認識の性質。中立性は倫理的な善悪についての性質。別の軸。
- 公平どちらにも偏らない日常語。人の扱いについて言う。
- 無色透明色がついていない比喩的な言い換え。学術文では使わない。
ENvalue-neutrality of science
ZH科学的中立性(科学の中立性, kēxué de zhōnglìxìng)
50★★
科学の制度化
かがくのせいどか[0]かがくのせいどか平板型
定義
科学研究が専門化し、大学や企業で組織的に研究が行われるようになること。
『現代文キーワード読解』1-1 ☑50
原書の解説
科学はもともと個人の興味に従って探究される営みであった。それが本格的に制度化されたのは、十九世紀以降においてである。科学者が専門職業になり、大学や企業の組織によって科学研究が大規模に行われるようになった。
科学が制度化されるようになった背景には、二十世紀になって技術革新が資本主義の存続に不可欠となったこと、科学研究が高度化・複雑化したため研究設備に多額の費用がかかり、組織的な研究が求められるようになったことなどが挙げられる。
使用の境界研究が個人の探究から離れ、大学や企業で組織的に行われるようになること。研究者が職業になった点が要点。
用法十九世紀以降の変化を指す歴史的な語である。含意は二つあり、①研究の高度化で設備に多額の費用がかかり個人では担えなくなった、②国家と企業が研究を支えるため、研究の方向が国家と企業の利益に従うようになった。②が科学の中立性への反論になる。評論文では「科学が社会に及ぼす影響が巨大になった」という記述に続けて、環境破壊と大戦争が挙げられる。制度化は中立でいられなくなる過程だと読むと、章全体がつながる。
用例
- 十九世紀以降、科学研究は国家や企業の支援で行われるようになった。制度化の中身。個人的な知的探求から離れた。
- 研究設備に多額の費用がかかるため、組織的な研究が求められた。制度化の原因。高度化・複雑化が背景にある。
- 制度化された科学は、もはや価値中立ではいられない。中立性への反論。二つの語は対で読む。
類語と差
- 組織化まとまりを作る形の話。制度化は社会の仕組みに組み込まれることまで含む。
- 職業化生業になる制度化の一側面。科学者が専門職になった。
- 産業化産業として成り立つ経済の側。制度化は国家の支援も含む。
- 官僚化手続きが自己目的になる制度化の弊害を言う語。ここで☑16 自己目的化と接続する。
ENinstitutionalisation of science
ZH科学的制度化(科学の制度化, kēxué de zhìdùhuà)
51★★
因果⚠
いんが[1]いんが頭高型
定義
原因と結果。
『現代文キーワード読解』1-1 ☑51
原書の解説
近代科学は自然の事象を因果関係としてとらえるが、その根底には、「世の中の事象にはすべて原因と結果がある」という考え方〈=因果律〉がある。
たとえば
喫煙と肺ガンには因果関係がある、という指摘がある。
使用の境界原因と結果の結びつき。前後して起きただけでは因果ではない。一方が他方を生じさせている必要がある。
用法評論文では単独より「因果関係」「因果律」の形で現れる。近代科学の根底に〈世の中の事象にはすべて原因と結果がある〉という前提があり、これを因果律と呼ぶ。この前提があるからこそ自然が法則化でき、操作できるようになった。仏教語の「因果」(因果応報)とは系統が違うので、文脈で見分ける。読解上の急所は相関との混同で、「喫煙と肺ガンには因果関係がある」と「相関がある」は主張の強さが違う。
用例
- 近代科学は自然の事象を因果関係としてとらえる。法則化の前提。ここから数値化と操作が可能になる。
- 喫煙と肺ガンには因果関係がある。一方が他方を生じさせているという主張。相関より強い。
- ×アイスの売上と水難事故には因果関係がある。両方とも気温が原因。これは相関であって因果ではない。
派生形
- 因果関係[4]
- 因果律[2]
- 因果的[0]
類語と差
- 相関一緒に変動する統計の語。因果と混同されやすい最大の相手。相関があっても因果があるとは限らない。
- 因縁前世からの結びつき仏教語。人の力を超えた結びつきを指し、科学の因果とは別系統。
- 必然法則によってそうなる因果があれば必然になる。因果は関係、必然は様態を言う。
- 要因結果に関わる要素複数ありうる。因果は原因と結果を一対一に結ぶ言い方。
ENcausality
ZH因果(因果・報い, yīnguǒ)
日中のズレ
中国語の 因果(yīnguǒ)は仏教語としての因果応報の含みが強く、日常では「因果報应」の形で使われる。
科学の文脈で「原因と結果」を言うときは 因果关系(yīnguǒ guānxì) と関係の語を伴うのが通例。
52★
実証
じっしょう[0]じっしょう平板型
定義
経験的な事実に基づいて、理論や主張を証明したり説明したりすること。
『現代文キーワード読解』1-1 ☑52
原書の解説
主張の根拠を事実に求めるのが、実証である。それに対して、三段論法のように論理的に説明することは論証と言う。
近代科学は実験と観察を重んじ、理論や知識の根拠をもっぱら経験的事実に限定した。こうした立場を実証主義と言い、他の学問分野に大きな影響を与えた。社会科学の分野でも、統計データに基づいた研究は実証主義の立場と言える。
使用の境界経験的な事実にもとづいて証明すること。論理だけで導くのは論証であって実証ではない。
用法「実証主義」という立場名で出ることが多い。中身は確かめられることだけを研究するという態度で、その結果、証明も実験もできない領域は研究の対象外に置かれた。この切り捨てが後の批判を招く。統計データにもとづく社会科学の研究も実証主義の系列にある。読解では、論証との対をつかんでおくと設問に強い。実証は事実、論証は論理。「実証的」は肯定的な評価語として使えるが、「実証主義的」と書くと限界を指摘する含みが出やすい。
用例
- 近代科学は理論の根拠をもっぱら経験的事実に限定した。実証主義の中身。証明できない領域は対象外になった。
- 統計データに基づいた研究は実証主義の立場と言える。社会科学への波及。実証主義は科学以外にも影響した。
- 三段論法で示すのは論証であって実証ではない。論理と事実の区別。実証の境界がここにある。
派生形
- 実証的[0]
- 実証主義[0]
- 実証性[0]
類語と差
- 論証論理によって示す三段論法のように筋道で導く。実証は事実に当てる。この対が要点。
- 検証仮説の真偽を確かめる手続き。実証は根拠の置き方を指す。
- 立証証拠を挙げて示す法律で多く使う。実証は学術・研究の語。
- 例証例を挙げて示す一例では足りない。実証は反復可能な事実を要求する。
ENempirical proof / positivism
ZH实证(実証, shízhèng)
中立性の主張と、制度化による反論