Note 03 — 第だい7話ななわ

『チ。』第だい7話ななわの研究けんきゅうノート [ 真理しんりのためなら ]

第だい7話ななわの題名だいめいは、二人ふたりの口くちから出でている。片方かたほうは、真理しんりのためなら引ひきたくないと言いった少女しょうじょ。もう片方かたほうは、真理しんりのためなら継承けいしょうも約束やくそくも切きると決きめた男おとこ。同おなじ言葉ことばが、奪うばわれる側がわと奪うばう側がわの両方りょうほうにある。

全ぜん 18 節せつ図版ずはん 21出典しゅってん 0初出しょしゅつ 2026-08-14更新こうしん 2026-08-15
第7話の扉の星 支給の画の上に、星を重ねただけの層である。

上うえ:軽かるく・清きよく・不変ふへん

下した:重おもく・濁にごり・腐敗ふはい

一ひとつの論文ろんぶんがある。

誰だれが書かいても、中身なかみは同おなじである。数式すうしきも、論証ろんしょうも、結論けつろんも変かわらない。

変かわるのは、表紙ひょうしに載のる名前なまえだけだ。

そして十五じゅうご世紀せいきにおいて、その名前なまえは、書かいた人ひとの名前なまえではなかった。載のせられる名前なまえと、載のせられない名前なまえがあった。どちらであるかは、能力のうりょくではなく、生うまれで決きまっていた。

この回かいの主人公しゅじんこうは十四歳じゅうよんさいである。試験しけんに合格ごうかくして職しょくを得とくて、他ほかの誰だれよりも早はやく論文ろんぶんを書かき上あげ、そして、その論文ろんぶんを自分じぶんの口くちで否認ひにんする。

「私わたしのものではないです」

誰だれも彼女かのじょを脅おどしていない。剣けんも、鎖くさりも、審問しんもん官かんも出でてこない。あるのは、正確せいかくな情報じょうほうと、本物ほんものの善意ぜんいと、深ふかい愛情あいじょうだけである。

それだけで足たりる。それだけで、人ひとから名前なまえを奪うばうことができる。

第だい7話ななわには悪人あくにんが一人ひとりもいない。全員ぜんいんがそれぞれの位置いちで、それぞれに正ただしい。その正ただしさの総和そうわとして、一人ひとりの少女しょうじょが自分じぶんの書かいたものを手放てばなす。

これは、そういう回かいである。

星図目次 ── 十章 一本の星の連なり。番号の星を選ぶと該当の章へ跳ぶ。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
名前の付き方 ── 中身は変わらず、名前だけが変わる 書いた紙と、発表された紙。あいだにあるのは、発表できる立場という一段だけである。
図ず 01名前なまえの付つき方ほう。発見はっけんと発表はっぴょうのあいだに一段いちだんの立場たちばが挟はさまると、名前なまえはそこで乗のり換かわる。
補遺ほい・世よ

世よの章しょう 時代じだいの常識じょうしきと、現代げんだいの非常識ひじょうしき

今回こんかい外はずしてもらう常識じょうしきは、これである。「良よい仕事しごとをすれば、名前なまえが残のこる」。

私わたしたちはこれを、公正こうせいさの最低さいていラインだと思おもっている。報酬ほうしゅうは不平等ふびょうどうでも、せめて誰だれがやったかくらいは記録きろくされるだろう、と。

十五じゅうご世紀せいきでは、その最低さいていラインが存在そんざいしない。

論文ろんぶんに載のる名前なまえは、書かいた人ひとの名なではなく、発表はっぴょうできる立場たちばの人ひとの名なである。そして発表はっぴょうできる立場たちばは、大学だいがくの門もんと同おなじく、生うまれによって配くばられていた。

さらに、この時代じだいには固有こゆうの危険きけんがある。女性じょせいが自分じぶんの名なで学術的がくじゅつてきな主張しゅちょうをすることは、読よまれないだけでは済すまない。内容ないように問題もんだいがあると見みなされれば、魔女まじょの嫌疑けんぎに接続せつぞくされうる。一四八七年せんよんひゃくはちじゅうしちねんの『魔女まじょに与あたえる鉄槌てっつい』以降いこう、その嫌疑けんぎには理論りろんの裏うらづけができていた。

だからこの回かいで、彼女かのじょを守まもる人ひとの言いうことは、全部ぜんぶ本当ほんとうである。

そして本当ほんとうだからこそ、彼女かのじょは反論はんろんできない。

結論けつろん:第だい7話ななわを読よみ違ちがえないために外はずしておくべき現代げんだいの常識じょうしきは、「良よい仕事しごとをすれば、その人ひとの名なが残のこる」という前提ぜんていである。十五じゅうご世紀せいきにおいて、業績ぎょうせきに付つく名前なまえは発見はっけんした者ものの名なではなく、発表はっぴょうできる立場たちばの者ものの名なだった。そして発表はっぴょうできる立場たちばは、能力のうりょくではなく身分みぶんと性別せいべつによって配くばられていた。

導入どうにゅう

一ひとつの論文ろんぶんがある。中身なかみは誰だれが書かいても同おなじ内容ないようである。

だが、その表紙ひょうしにどの名前なまえが載のるかは、中身なかみでは決きまらない。載のせられる名前なまえと、載のせられない名前なまえがあった。

大学だいがく(大学/university)は聖職者せいしょくしゃ(神职人员/cleric)の養成ようせい機関きかんとして発足ほっそくしており、その構造上こうぞうじょう、女性じょせいは入学にゅうがくの対象たいしょうではなかったC史実しじつ定説ていせつ。学術がくじゅつの場ばは身分みぶん・性別せいべつ・年齢ねんれいによって編成へんせいされており、能力のうりょくによる選抜せんばつは、その編成へんせいの内側うちがわでしか作動さどうしない。

そしてもう一ひとつ、この時代じだいに固有こゆうの危険きけんがある。一四八七年せんよんひゃくはちじゅうしちねんに刊行かんこうされた『魔女まじょに与あたえる鉄槌てっつい』(《女巫之锤》/Malleus Maleficarum)以降いこう、女性じょせいへの嫌疑けんぎは体系化たいけいかされた理論りろんを持もつようになる。魔女まじょ狩かり(猎巫/witch-hunt)が最もっとも激化げきかするのは十六じゅうろく世紀せいき後半こうはんから十七じゅうなな世紀せいき前半ぜんはんだが、その理論的りろんてき基盤きばんが整ととのうのは、まさに作品さくひんの想定そうてい時代じだいである定説ていせつ。

つまり、女性じょせいが自分じぶんの名前なまえで学術的がくじゅつてきな主張しゅちょうを発表はっぴょうすることは、単たんに読よまれないだけではなく、内容ないように不適切ふてきせつな箇所かしょがあった場合ばあい、命いのちに関かかわりうる。

第だい7話ななわでコルベが述のべる警告けいこくは、彼かれの偏見へんけんではない。彼かれが生いきている社会しゃかいの、正確せいかくな記述きじゅつである。

そしてここに、この回かいの最もっとも苦くるしい構造こうぞうがある。彼女かのじょを守まもる行為こういと、彼女かのじょから奪うばう行為こういが、同おなじ一ひとつの行為こういである。 どちらか一方いっぽうだけを取とり出だすことはできない。

対比たいひ表ひょう

現代げんだいの常識じょうしき 十五じゅうご世紀せいきの常識じょうしき そうなる背景はいけい
業績ぎょうせきには、それを成なした人ひとの名なが付つく 業績ぎょうせきには、それを発表はっぴょうできる立場たちばの人ひとの名なが付つく 発表はっぴょうの場ば(学会がっかい・出版しゅっぱん・宮廷きゅうてい)へのアクセスが身分みぶんと性別せいべつで制限せいげんされ、資格しかくのない者ものの名なでは流通りゅうつうしない
学問がくもんの場ばは能力のうりょくで選抜せんばつされる 学問がくもんの場ばは身分みぶん・性別せいべつ・年齢ねんれいで編成へんせいされ、能力のうりょくはその内側うちがわでのみ働はたらく 大学だいがくは聖職者せいしょくしゃ養成ようせいの制度せいどとして発足ほっそくし、女性じょせいは制度せいど上じょうの対象外たいしょうがいだった
異論いろんは議論ぎろんによって処理しょりされる 女性じょせいの異論いろんは、魔女まじょの嫌疑けんぎに接続せつぞくされうる 一四八七年せんよんひゃくはちじゅうしちねんの『魔女まじょに与あたえる鉄槌てっつい』以降いこう、嫌疑けんぎは体系的たいけいてきな理論りろんを持もち、告発こくはつの敷居しきいが下さがった
名前なまえは個人こじんに属ぞくする権利けんりである 名前なまえは保証人ほしょうにんと後見こうけんの体系たいけいの一部いちぶである 女性じょせいの法的ほうてきな行為こうい能力のうりょくは、しばしば父ちちや夫おっとを介かいして行使こうしされた
助言者じょげんしゃは、複数ふくすういる支援者しえんしゃの一人ひとりである 助言者じょげんしゃは、しばしば生存せいぞんの唯一ゆいいつの経路けいろである 庇護ひご者しゃなしに学術がくじゅつ活動かつどうは成立せいりつせず、関係かんけいを失うしなうことは職しょくと身分みぶんの喪失そうしつを意味いみした
十四歳じゅうよんさいは子供こどもであり、保護ほごの対象たいしょうである 十四歳じゅうよんさいは労働ろうどうと婚姻こんいんの年齢ねんれいに達たっしつつある 徒弟とてい・奉公ほうこう・婚姻こんいんの慣行かんこうが、現代げんだいよりずっと早はやい年齢ねんれいから始はじまっていた
観測かんそくデータは公共財こうきょうざいであり、共有きょうゆうされるべきである 観測かんそく記録きろく(观测记录/observational record)は「持もてる者もの」の資産しさんであり、私有しゆうされる 記録きろくは写本しゃほん(手抄本/manuscript)として稀少きしょうであり、蓄積ちくせきそのものが権力けんりょくと収入しゅうにゅうの源泉げんせんだった
私わたしたちは、名前なまえが正ただしく付つく社会しゃかいに生いきている ── ここが現代げんだい側がわの非合理ひごうり。女性じょせいの業績ぎょうせきが男性だんせいの同僚どうりょうに帰属きぞく(归属/署名权/credit/attribution)される現象げんしょうには、いまも名前なまえが付ついている。マーガレット・ロシター(罗西特/Margaret Rossiter)が一九九三年せんきゅうひゃくきゅうじゅうさんねんに「マチルダ効果こうか(玛蒂尔达效应/the Matilda effect)」と名なづけたこの偏かたよりは、歴史れきしの記述きじゅつとしてだけでなく、現在げんざいの実証じっしょう研究けんきゅうの対象たいしょうである。私わたしたちが失うしなった過去形かこけいは、まだ現在げんざい形けいかもしれない

図ず

図ずE7-世よ「名前なまえの付つき方ほう」。発見者はっけんしゃと発表者はっぴょうしゃが分離ぶんりする構造こうぞう図ず。仕様しようは D3-E7 に記しるす。

二百五十年 ── 同じ構造が、二度くり返される 作中の十五世紀と、史実の一七〇二年。あいだの二百五十年で、構造は変わらなかった。 作品の想定時代(十五世紀) 一七〇二年 ベルリン 名前が載らない 名前が載らない 約二百五十年、同じ構造 そしていま、 この現象には名前が付いている
図ず 02二百五十年にひゃくごじゅうねん。作中さくちゅうの出来事できごとと、史実しじつの記録きろくの欠落けつらくは、同おなじ形かたちをしている。

結むすび

歴史れきしには、ヨレンタと同おなじ場所ばしょに立たった人ひとが実在じつざいする。

マリア・ヴィンケルマン。一七〇二年せんななひゃくにねん四月しがつ、ベルリン(柏林/Berlin)で彗星すいせい(彗星/comet)を発見はっけんした最初さいしょの女性じょせいである。だがその発見はっけんは、天文台てんもんだい(天文台/observatory)の職しょくにあった夫おっとの名なで報告ほうこくされた。彼女かのじょの名なは報告書ほうこくしょから落おちている。夫おっとが真実しんじつを明あかしたのは、彼かれの死しの直前ちょくぜんだったC史実しじつ定説ていせつ。夫おっとの死後しご、彼女かのじょは同おなじ職しょくを求もとめたが、女性じょせいであることを理由りゆうに断ことわられている定説ていせつ。

彼女かのじょの物語ものがたりは、第だい7話ななわより二百五十年にひゃくごじゅうねんほど後あとの出来事できごとである。つまりこの構造こうぞうは、作品さくひんの時代じだいから少すくなくとも二百五十年にひゃくごじゅうねん、変かわらなかった。

いつか誰だれかが、この表ひょうの左ひだり列れつを右列うれつへ書かき写うつす。そのとき「名前なまえが正ただしく付つく社会しゃかい」という私わたしたちの自己じこ像ぞうには、どんな背景はいけい欄らんが付つくのだろうか。

歴史れきしには、この表ひょうの右側みぎがわに立たった人ひとが実在じつざいする。

マリア・ヴィンケルマン。一七〇二年せんななひゃくにねんの春はる、ベルリンで彗星すいせいを見みつけた。女性じょせいとして最初さいしょの彗星すいせい発見者はっけんしゃである。だがその報告ほうこくは、天文台てんもんだいの職しょくにあった夫おっとの名なで出だされた。彼女かのじょの名なは、報告書ほうこくしょに載のらなかった。夫おっとがそれを認みとめたのは、自分じぶんが死しぬ直前ちょくぜんである。

そして夫おっとの死後しご、彼女かのじょがその職しょくを望のぞんだとき──女性じょせいであることを理由りゆうに、断ことわられた。

作品さくひんの時代じだいから、二百五十年にひゃくごじゅうねんほど後あとの話はなしである。つまりこの構造こうぞうは、少すくなくとも二百五十年にひゃくごじゅうねん、変かわらなかった。

表ひょうの最後さいごの行ぎょうに、私わたしたちの自己じこ像ぞうを置おいた。名前なまえが正ただしく付つく社会しゃかいに生いきている、という。

だが、この現象げんしょうにはいまも名前なまえが付ついている。マチルダ効果こうかという。一九九三年せんきゅうひゃくきゅうじゅうさんねんに、歴史家れきしかがそう名なづけた。名前なまえが要いるということは、まだ起おきているということである。

私わたしたちが過去形かこけいで語かたっているものは、現在げんざい形けいかもしれない。

良よい仕事しごとをすれば名前なまえが残のこる。この最低さいていラインが、当時とうじは存在そんざいしなかった。

油彩の口絵。板張りの部屋で、若い人物が綴じられた紙束を胸の高さに掲げ、こちらを見ている。表紙に文字は見えない。

口絵くちえ ── 同おなじ紙かみが、別べつの名なで世よに出でる

凡例はんれい

読よみ方かた ── 四よん冊さつを貫つらぬく同おなじ作法さほうで

Layer A–D 分析フレーム 四層の帯。各層の色が、本文のバッジの色と対応する。 A 作品世界 C 史実 B 作品が用いる歴史イメージ D 現代からの評価 考察の順番 AB CD 四つの層を混ぜないこと。それがこのノート全体の作法である
図ず 03四よっつの層そうを混まぜないことが、この分析ぶんせき全体ぜんたいの作法さほうである。

本文ほんぶんの主張しゅちょうにはA作品さくひん世界せかい・B歴史れきしイメージ・C史実しじつ・D現代げんだい評価ひょうか の層そうの札ふだと、定説ていせつ有力ゆうりょく説せつ議論ぎろんあり俗説ぞくせつの確度かくどの札ふだが付つく。難度なんどは基礎きそ発展はってん大学院だいがくいんの三さん段だんで、下したの帯おびからいつでも絞しぼれる。

読よみ方かたの例れい ── C史実しじつ「この司祭しさいの説明せつめいは、当時とうじの宇宙論うちゅうろんとして正確せいかくである」定説ていせつ ── 文頭ぶんとうの札ふだがどの層そうの話はなしかを、文末ぶんまつの札ふだが学界がっかいでどれくらい確たしかかを示しめす。

第だい3章さんしょうは八節はっせつ。各節かくせつは第だい7話ななわの一行いちぎょうから始はじまり、話者わしゃと経過けいか時間じかんを添そえてある。節せつと節せつのあいだの細ほそい一行いちぎょうは、文学ぶんがく層そうの小しょう経過けいか句くである。

この頁ページの図ずには、描えがかないと決きめたものがある。決闘けっとう・斬撃ざんげき・流血りゅうけつ・遺体いたい・武器ぶき、自死じしを示唆しさする図像ずぞう、拷問ごうもんの器具きぐ、そして人ひとのかたち ── シルエットも含ふくめて描えがいていない。この回かいは人ひとの内面ないめんが主題しゅだいであり、姿すがたを与あたえると解釈かいしゃくが固かたまるためである。人ひとが要いる場所ばしょには、標ひょうや結節けっせつ点てんといった抽象ちゅうしょうの記号きごうを置おいた。

このノートは第だい7話ななわ終了しゅうりょう時点じてんまでしか扱あつかわない。移送いそうされた異端いたん者しゃの氏名しめいも、終幕しゅうまくで何なにが起おきたかも、書かいていない。字幕じまく書かき起おこしから確定かくていできないことは、空欄くうらんのままにしてある。

語学ごがくの手引てびき ── 本文ほんぶんの学術がくじゅつ語ごと固有名こゆうめいには種類しゅるいごとの下線かせんを引ひいた。天文てんもんの語ごは金かね、哲学てつがく・思想しそうの語ごは青あお、宗教しゅうきょう・制度せいどの語ごは緋ひ、人物じんぶつ・地名ちめいは藤ふじ、書物しょもつは青緑あおみどり。頁ページで最初さいしょに現あらわれた場所ばしょには(中文ちゅうぶん/English)を添そえた。学術がくじゅつ語ごの一覧いちらんは付録ふろく1にある。人物じんぶつと書物しょもつの名なは初出しょしゅつの注記ちゅうきにとどめ、一覧いちらんには入いれていない ── 一覧いちらんは原稿げんこうの付録ふろくそのものだからである。中文ちゅうぶんの定訳ていやくを確認かくにんできなかった語ごは、English だけを添そえてある。作品さくひん固有こゆうの語ご(代だい闘士とうし・民間みんかん警備けいび組合くみあい・上級じょうきゅう市民しみん・下級かきゅう市民しみん)に下線かせんは引ひかない。

Ⅰ

第だい1章いっしょう 第だい7話ななわで何なにが起おきたか

結論けつろん:第だい7話ななわは、二ふたつの場所ばしょで同時どうじに進すすむ。片方かたほうでは、名前なまえを持もつ男おとこが「後進こうしんは作つくらない」と宣言せんげんする。もう片方かたほうでは、名前なまえを持もてない少女しょうじょが、自分じぶんの論文ろんぶんを「私わたしのものではない」と否認ひにんする。同おなじ回かいに、名前なまえを捨すてる者ものと、名前なまえを奪うばわれる者ものが並ならんでいる。

A作品さくひん世界せかい確定かくてい事項じこう(字幕じまく書かき起おこしにより裏付うらづけ。付録ふろく3に全ぜん引用いんようの経過けいか時間じかん):

  1. 締しめ出だされる朝あさ。研究所けんきゅうしょで、ヨレンタは研究会けんきゅうかいへの参加さんかを認みとめられない。彼女かのじょは職員しょくいんの目めを盗ぬすんで会場かいじょうへ潜もぐり込こみ、隠かくれて聴講ちょうこうする。神かみ様さまバレませんように、と唱となえながら。この日ひの題目だいもくは、中東ちゅうとうの異教徒いきょうとによる古代こだいギリシア天文学てんもんがくの修正しゅうせいであり、彼女かのじょは他ほかでは聞きけない内容ないようだと喜よろこぶ。
  2. ピャスト伯はく。研究所けんきゅうしょに現あらわれた老人ろうじんピャストは、挨拶あいさつを退しりぞけ、つまらない論文ろんぶんのせいで自分じぶんの寿命じゅみょうを無駄むだにした、と職員しょくいんを叱責しっせきする。
  3. 参加さんかの拒否きょひ。会かいの後あと、ヨレンタは研究会けんきゅうかいへの参加さんかを改あらためて願ねがい出でるが、この仕事しごとに向むいているか判断はんだんしかねる、と断ことわられる。職員しょくいんは続つづける──何なにとは言いわないが、君きみは我々われわれとは明あきらかに違ちがうから、と。
  4. コルベの励はげまし。上司じょうしのコルベが現あらわれ、ヨレンタを優秀ゆうしゅうな助手じょしゅ(助手/assistant)と呼よぶ。そして語かたる。これから先さきの人生じんせい、本質ほんしつと無関係むかんけいなところで全すべてを否定ひていする者ものに出会であうかもしれない、そのたび心こころが折おれそうになるかもしれない、だが自分じぶんのやっていることを信しんじて進すすめ、いざという時ときに引ひいたら終おわりだ、可能かのうな限かぎり支援しえんする、と。
  5. 論文ろんぶんの提出ていしゅつ。ヨレンタが完成かんせいさせた論文ろんぶんを、コルベは面白おもしろい、よくできている、と評価ひょうかし、自分じぶんからピャスト伯はくに提出ていしゅつすると告つげる。査読さどく(同行评审/peer review)の間あいだは休暇きゅうかにするから実家じっかに顔かおを出だすといい、これが評価ひょうかされれば図書館としょかんから天文台てんもんだい勤務きんむになる、と。
  6. バデーニ(Badeni)の読解どっかい。一方いっぽう、バデーニは石箱いしばこの書物しょもつの主張しゅちょうを三さん点てんにまとめる。一いち、惑星わくせい(行星/planet)の中心ちゅうしんは太陽たいようである。二に、軌道きどうは真円しんえんである。三さん、惑星わくせいは一定いっていの速度そくどで運行うんこうする。これが真理しんりかと問とうオクジー(Oczy)に、彼かれは答こたえる──いや、限界げんかいだ、と。著者ちょしゃは相当そうとう優秀ゆうしゅうで、この三みっつの発想はっそうでやれることは達成たっせいしている。だが発表はっぴょうできる完成度かんせいどには達たっしておらず、何なにかを見落みおとしている。反論はんろんの余地よちはかなりある。加くわえて、言葉選ことばえらびの思慮しりょ深ふかさに比くらべ、根底こんていに幼稚ようちなほどの純粋じゅんすいさを感かんじる、不思議ふしぎな著者ちょしゃだ、と評ひょうす。
  7. 三みっつの決きまり。バデーニは仕事しごとを引ひき受うけるにあたり、三みっつの取とり決きめを出だす。一ひとつ目め、後進こうしんは作つくらない。死しぬまでに自分じぶんが証明しょうめいできなかったら、関かかわった書物しょもつを全すべて燃もやす。重要じゅうようなのは自分じぶんがこれを完成かんせい・発表はっぴょうすることであり、他ほかの誰だれかの踏ふみ台だいにされるのはごめんだから、と。二ふたつ目め、オクジーは観測手かんそくしゅとして参加さんかする。代かわりに食事しょくじと寝床ねどこを教会きょうかいから提供ていきょうする。三みっつ目め、利益りえきが生しょうじた場合ばあいの分わけ前まえは九きゅう対たい一いち、もちろん自分じぶんが九きゅう、と。
  8. 一いち割わりの抹消まっしょう。オクジーは、受うけ取とれるのは九きゅう割わりまでだと訂正ていせいする。手紙てがみに、利益りえきの一いち割わりをポトツキ(波托茨基/Potocki)に渡わたすよう書かかれているからである。共同研究者きょうどうけんきゅうしゃかと問とうバデーニは、その記述きじゅつを消けし去さり、これでもう書かいていない、と告つげる。
  9. オクジーの抗議こうぎ。帰路きろ、オクジーは守まもれないかと申もうし出でる。もう消きえたと言いうバデーニに、自分じぶんがまだ覚おぼえている、あの手紙てがみを残のこした人ひとは箱はこを開あけて読よむ人ひとを信しんじてああ書かいた気きがする、今いまここにいない人ひとの思おもいを無視むししたら何なにかが決定的けっていてきに失うしなわれる気きがする、と述のべる。何なにかとは何なにかと問とわれ、歴史れきしというか、と答こたえる。バデーニは、聖書せいしょ以外いがいの歴史れきしなど気きにしない、どうしても払はらいたいなら君きみの一いち割わりを譲ゆずればいい、と応おうじる。
  10. 天界てんかいの入いり口ぐち。オクジーは最後さいごに問とう。聖職者せいしょくしゃとして、あれに触ふれた今いまの我々われわれは地獄じごくの入いり口ぐちに立たったと思おもうか、と。バデーニは答こたえる──入いり口ぐちには立たっている、だが天界てんかいのだ、と。
  11. ヨレンタの実家じっか。父ちちとの団だんらんの席せきで、仕事しごとの悩なやみを問とわれたヨレンタは、周まわりとの差さを感かんじると答こたえる。ついていけないのではなく、それ以前いぜんに研究けんきゅうに参加さんかさせてもらえず、図書館としょかんの雑用ざつようばかりだ、と。父ちちは、今いまの仕事しごとでも十分じゅうぶんだ、働はたらけているだけで大たいしたものだ、と諭さとす。ヨレンタは、他ほかの人ひとと同おなじ試験しけんに合格ごうかくしているのに扱あつかいが違ちがう、と訴うったえる。
  12. 父ちちの助言じょげん。父ちちは答こたえる。しょうがないことだ、お前まえはまだ十四歳じゅうよんさいで、あそこで働はたらくただ一人ひとりの女おんなで、しかも優秀ゆうしゅうときた、これがどれほど周囲しゅういの不安ふあんをあおるか分わかるか、と。ヨレンタが、それと学術がくじゅつ研究けんきゅうは無関係むかんけいのはずだと反論はんろんすると、父ちちは職場しょくばですべきことを三みっつ挙あげる──何なにもするな。目立めだつな。栄光えいこうを目指めざすな。 日々ひびを粛々しゅくしゅくとつつましやかに暮くらせば、いつか家族かぞくで天国てんごく(天堂/Heaven)へ行いける、と。
  13. ヨレンタの反論はんろん。彼女かのじょは、冬ふゆでも勉強べんきょうできるようにと父ちちから手袋てぶくろを贈おくられた時ときから自分じぶんの心こころは学者がくしゃである、だから神かみと真理しんりのためなら引ひきたくない、と答こたえる。彼女かのじょの内心ないしんでは、コルベの言葉ことば(いざという時ときに引ひいたら終おわりだ)が反復はんぷくする。父ちちは理解りかいを示しめし、立派りっぱに自立じりつしている、心配しんぱいで出ですぎた真似まねをした、応援おうえんする、と述のべる。
  14. 貧民ひんみんと施ほどこし。町まちで物乞ものごいに囲かこまれたバデーニは、施ほどこしは無意味むいみだと言いう。貧民ひんみんに施ほどこしを与あたえれば天国てんごくに行いけるとは信しんじない、平気へいきで罪つみを犯おかす者ものたちだ、と。聖職者せいしょくしゃがそんなことを言いうのかと驚おどろくオクジーに、神かみが彼かれらに与あたえた運命うんめいがあれなのだ、と答こたえる。そして目的もくてきは、彼かれらとは真逆まぎゃくの持もてる者ものとの接触せっしょくだと告つげる。
  15. 難問なんもんという罠わな。バデーニは、箱はこの中なかの記録きろくだけでは箱はこの中なかの結論けつろんを超こえられない、もっと多おおくの記録きろくを持もつ者ものに会あわなければならない、と説明せつめいする。ツテはないので、あちらから出向でむいてもらう、と。彼かれが用意よういしたのは掲示板けいじばんに貼はる難問なんもんである。暇ひまな上級じょうきゅう市民しみんが出題者しゅつだいしゃや解答かいとう者しゃになって腕うでを競きそっており、彼かれらは難問なんもんを求もとめている。この問題もんだいは天体てんたいの記録きろくと優すぐれた知性ちせいがないと解とけない、と彼かれは言いう。手分てわけして貼はり、解答かいとう者しゃが出でるまで待まつ。現あらわれるかと問とわれ、そこは運うんだ、と答こたえる。
  16. 名義めいぎの発覚はっかく。休暇きゅうかから戻もどったヨレンタに、コルベは論文ろんぶんがピャスト伯はくに褒ほめられたと伝つたえる。新鮮しんせんで興味深きょうみぶかい、新あらたな才能さいのうの誕生たんじょうだ、と。礼れいを述のべるヨレンタに、コルベは言いう──名義めいぎは自分じぶんで出だしているが、あれは君きみの実力じつりょくだ、と。ヨレンタが問とい返かえすと、コルベは当然とうぜんだと答こたえる。女性じょせいの論文ろんぶんなんて誰だれが読よむのか、と。
  17. コルベの論理ろんり。彼かれは続つづける。女性じょせいの名前なまえでの発表はっぴょうは危険きけんすぎる、内容ないように不適切ふてきせつな箇所かしょがあれば一いち大事だいじで、すぐ魔女まじょ扱あつかいされ、最悪さいあくは異端いたん(异端/heresy)として殺ころされる。だが安心あんしんしてほしい、そんなことは絶対ぜったいに起おこさせない。君きみには才能さいのうがあるから、君きみが書かいて私わたしが発表はっぴょうする。それで自分じぶんが評価ひょうかされれば、助手じょしゅの君きみを安全あんぜんに天文台てんもんだいへ引ひき抜ぬけるかもしれない。自分じぶんなら君きみを正ただしいほうへ導みちびける、この世界せかいでのうまい動うごき方ほうを教おしえられる、と。その世界せかいに自分じぶんの名前なまえはあるのかと問とうヨレンタに、彼かれは答こたえる──ないよ、もう諦あきらめて。この世よはそういうものだから。名前なまえが残のこらなくても、自分じぶんの書かいたものを発表はっぴょうできるだけましだろう。君きみがそんなに純粋じゅんすいでは心配しんぱいだ、変へんに目立めだって目めをつけられたら最後さいご、君きみの人生じんせいは軽かるく終おわる、と。
  18. 否認ひにん。立たち去さろうとした二人ふたりをピャストが呼よび止とめる。今いま、この前まえの論文ろんぶんを君きみが書かいたと言いったか、と問とわれ、ヨレンタは答こたえられない。彼女かのじょの中なかでコルベと父ちちの言葉ことばが反響はんきょうする。そして彼女かのじょは言いう──私わたしのものではないです、と。ピャストは、そうか、とだけ答こたえて去さる。すれ違ちがいざま、コルベは彼女かのじょに一言ひとこと残のこす──賢かしこいよ、と。
  19. ヨレンタの独白どくはく。彼女かのじょは自分じぶんをはめられたのだと考かんがえようとする。これまでの言葉ことばは全部ぜんぶ嘘うそで、コルベは悪わるい人ひとだったのだ、と。だが続つづけて思おもう──もしそうであってくれたらどれだけよかったか。けれど違ちがう、彼かれは善人ぜんにんだ。本当ほんとうに自分じぶんをかばったのだ。きっとここが自分じぶんの見みられる最上さいじょうの景色けしきで、これが自分じぶんの現実げんじつなのだ、と。
  20. 合理化ごうりかと涙なみだ。彼女かのじょは冷静れいせいになろうとする。研究けんきゅうが安全あんぜんに続つづけられるならこれでいい、そもそも名前なまえなんて本質ほんしつではない、考かんがえが幼稚ようちすぎた、世界せかいがこうならうまい動うごき方ほうが重要じゅうようだ、次つぎは何なにを書かこう──そこで涙なみだが出でる。なぜ泣なく、そんな必要ひつようはない、泣ないたらまるで敗者はいしゃではないか、泣ないたらまるで問題もんだいがあるみたいではないか、と彼女かのじょは自分じぶんを叱しかる。
  21. 掲示板けいじばん。新あたらしい題材だいざいを探さがす彼女かのじょは、掲示板けいじばんの張はり紙がみを見みつける。解答かいとう者しゃへ、宇宙論うちゅうろんについて用件ようけんあり、連絡れんらくされたし、と。問題もんだいは本格的ほんかくてきで、惑星わくせいの記録きろくがないと解とけないと彼女かのじょは気きづく。
  22. 記録きろくをあさる。コルベが留守るすであることを確認かくにんし、彼女かのじょは記録きろくを探さがす。火星かせい(火星/Mars)、木星もくせい(木星/Jupiter)の記録きろくを見みつけ、みんなはこんなに自由じゆうに大量たいりょうの記録きろくを閲覧えつらんできるのか、と呟つぶやく。彼女かのじょは自分じぶんがよくないことをしていると自覚じかくし、やめようとする。だが最後さいごにこう言いう──悪わるいとかどうでもいいから、あれの答こたえが気きになる。解といてから考かんがえよう、と。
  23. 邂逅かいこう。問題もんだいを貼はり終おえたオクジーが、掲示板けいじばんの前まえに人ひとがいると報告ほうこくする。今朝けさ貼はったばかりだと驚おどろくバデーニ。一方いっぽうヨレンタは、解答かいとうしてしまった、男性名だんせいめいにしたから大丈夫だいじょうぶなはずだが、ここで誰だれかに見みられたら、と不安ふあんになり、退散たいさんしようとする。そこにバデーニが声こえをかけたところで第だい7話ななわは終おわる。

省略しょうりゃくされた文脈ぶんみゃくの開示かいじ①(D6 §2.7)——なぜバデーニは「持もてる者もの」に会あう必要ひつようがあるのか。当時とうじ、天体てんたいの観測かんそく記録きろくは写本しゃほんとして蓄積ちくせきされ、その量りょうそのものが希少きしょうな資産しさんだった(E5 世よの章しょう)。理論りろんの検証けんしょうには長期ちょうきの観測かんそく系列けいれつが要いり、それを持もてるのは宮廷きゅうてい・大学だいがく・裕福ゆうふくな後援こうえん者しゃに接続せつぞくされた者ものだけである。バデーニが箱はこの中身なかみを超こえるにはデータが要いり、データを持もつのは彼かれが軽蔑けいべつした「持もてる者もの」である。この一段いちだんを外はずすと、彼かれの貧民ひんみんへの冷淡れいたんさと上級じょうきゅう市民しみんへの接近せっきんが、単たんなる性格せいかくの悪わるさに見みえる。実際じっさいには、彼かれの研究けんきゅう計画けいかくそのものが、階層かいそう構造こうぞうへの依存いぞんを前提ぜんていとしている。

同おなじ回かいに、名前なまえを捨すてる男おとこと、名前なまえを奪うばわれる少女しょうじょがいる。

起おきたことを並ならべ終おえて気きづくのは、この回かいが二ふたつの場所ばしょで同時どうじに進すすむことだ。片方かたほうでは名前なまえを持もつ男おとこが「自分じぶんの名前なまえだけで終おわらせる」と言いい、もう片方かたほうでは名前なまえを持もてない少女しょうじょが「これは私わたしのものではない」と言いう。だから第だい7話ななわの問といは、すべて名前なまえをめぐって立たつ。

Ⅱ

第だい2章にしょう この話はなしで提示ていじされた問とい

結論けつろん:第だい6話ろくわが「読よめたら何なにが起おきるか」を問とうたなら、第だい7話ななわは「名前なまえとは何なにか」を問とう。少すくなくとも12問じゅうにもん。

  1. 良よい仕事しごとをした者ものの名なが残のこらないとき、失うしなわれたのは名誉めいよか、それとも別べつの何なにかか。
  2. 守まもることと奪うばうことが同おなじ行為こういであるとき、その行為こういをどう呼よべばよいのか。
  3. 善意ぜんいから行おこなわれた剥奪はくだつは、悪意あくいによるそれと、何なにが違ちがうのか。
  4. 「この世よはそういうものだ」という説明せつめいは、記述きじゅつなのか、それとも命令めいれいなのか。
  5. うまい動うごき方ほうを教おしえることは、助たすけなのか、飼かい慣ならしなのか。
  6. 引ひかないと決きめていた人ひとが引ひいてしまったとき、それは裏切うらぎりなのか、生存せいぞんなのか。
  7. 泣なくことは、なぜ敗北はいぼくの証拠しょうこのように感かんじられるのか。
  8. 後進こうしんを作つくらないという選択せんたくは、許ゆるされるのか。
  9. 死者ししゃとの約束やくそくを消けすことは、何なにを消けすことなのか。
  10. 「聖書せいしょ以外いがいの歴史れきし」を気きにしないという態度たいどは、何なにを切きり捨すてているのか。
  11. 記録きろくを私有しゆうする権利けんりは、真理しんりの探究たんきゅうの前まえで、どこまで有効ゆうこうなのか。
  12. 真理しんりのためなら、人ひとは何なにを差さし出だしてよいのか。自分じぶんの名前なまえは。他人たにんの名前なまえは。

第だい6話ろくわは「読よめたら何なにが起おきるか」を問とうた。第だい7話ななわは「名前なまえとは何なにか」を問とう。

十二じゅうにの問といは、どれも一ひとつの語ごの周まわりを回まわっている。名前なまえ。それが何なにであり、なぜ必要ひつようで、失うしなうと何なにが起おきるのか。八やっつの短みじかい言葉ことばから辿たどり直なおす。

Ⅲ

第だい3章さんしょう 名場面めいばめんの解剖かいぼう

結論けつろん:第だい7話ななわの台詞せりふは、名前なまえ・継承けいしょう・善意ぜんいという三みっつの主題しゅだいを通とおって、題名だいめいの二に重じゅう性せいに到達とうたつする。八やっつの短たん句くを解剖かいぼうする。

3-1

君きみは我々われわれとは明あきらかに違ちがうからね
── 第だい7話ななわ 所員しょいん 03:57

A作品さくひん世界せかい研究会けんきゅうかいへの参加さんかを断ことわる理由りゆうとして、所員しょいんはこう述のべる。直前ちょくぜんに「何なにとは言いわんが」と置おいて。

D現代げんだい評価ひょうかこの言いい方かたの構造こうぞうに注目ちゅうもくしたい。 排除はいじょの理由りゆうは最後さいごまで名指なざしされない。名指なざししないことで、反論はんろんの的まとが消きえる。性別せいべつを理由りゆうに断ことわったのなら、性別せいべつと学術がくじゅつ能力のうりょくの無関係むかんけいを論ろんじることができる。だが「明あきらかに違ちがう」としか言いわれなければ、何なにを反駁はんばくすればよいかが分わからない。

C史実しじつD現代げんだい評価ひょうか制度せいど上じょうの排除はいじょ(大学だいがくが女性じょせいを入学にゅうがく対象たいしょうとしないこと)は明文めいぶんであり、明文めいぶんである分ぶんだけ争あらそえる。だが日常的にちじょうてきな締しめ出だしは、しばしば明文めいぶんを持もたない。第だい7話ななわが描えがくのはこの後者こうしゃであり、明文化めいぶんかされない排除はいじょのほうが、抗議こうぎを困難こんなんにするという構造こうぞうである。

D現代げんだい評価ひょうかなお、この時点じてんでヨレンタは試験しけんに合格ごうかくして職しょくを得とくている。つまり制度せいどの入口いりぐちは通過つうかしている。彼女かのじょが阻はばまれているのは入口いりぐちではなく、その先さきの実質的じっしつてきな参加さんかである。現代げんだいの労働ろうどう研究けんきゅうで扱あつかわれる問題もんだいと構造こうぞうが同型どうけいであることは指摘してきしてよいが、時代錯誤じだいさくごを明記めいきした上うえでの比較ひかくに留とめる。

名指されない壁 ── 明文の排除と、不文の排除 制度の入口は通過できる。阻まれているのは、その先である。 制度上の排除 明文であるぶん、 争える 日常的な締め出し 名指されないぶん、 反駁の的が消える 彼女は制度の入口を通過している。阻まれているのは、その先である
図ず 04名指なざされない壁かべ。明文めいぶんの禁止きんしは争あらそえるが、不文ふぶんの締しめ出だしには、抗議こうぎの宛先あてさきがない。

締しめ出だされた部屋へやの外そとで、別べつの場所ばしょでは、男おとこが書物しょもつの限界げんかいを診断しんだんしていた。

3-2

2 軌道きどうは真円しんえんである
── 第だい7話ななわ バデーニ 06:33

A作品さくひん世界せかいバデーニは書物しょもつの主張しゅちょうを三さん点てんに整理せいりし、真理しんりかと問とわれて、限界げんかいだ、と答こたえる。著者ちょしゃは優秀ゆうしゅうで、この三みっつでやれることは達成たっせいしている。だが発表はっぴょうできる完成度かんせいどにはなく、何なにかを見落みおとしている、と。

C史実しじつこの診断しんだんは、天文学てんもんがく史しの実際じっさいの経緯けいいと一致いっちする。 太陽たいよう中心ちゅうしん・真円しんえん軌道きどう(正圆轨道/circular orbit)・等速とうそく運動うんどう(匀速运动/uniform motion)という三みっつの前提ぜんていは、コペルニクス(哥白尼/Copernicus)の体系たいけいが保持ほじしたものであり、そしてまさにこの二ふたつ目めと三みっつ目めが精度せいどの壁かべになった〔E3 3-1節いっせつ〕定説ていせつ。ケプラー(开普勒/Kepler)が第一だいいち法則ほうそく(楕円だえん軌道きどう〔椭圆轨道/elliptical orbit〕)と第だい二に法則ほうそく(面積めんせき速度そくど一定いってい)に到達とうたつするのは一六〇九年せんろっぴゃくくねんであり、真円しんえんと等速とうそくの前提ぜんていを破やぶることによって初はじめて精度せいどが得とくられた定説ていせつ。

D現代げんだい評価ひょうかしたがってバデーニの「何なにかを見落みおとしている」は正ただしい。彼かれはまだ何なにを見落みおとしているかを知しらないが、見落みおとしがあることは検出けんしゅつできている。これは科学かがくにおける重要じゅうような能力のうりょくである──答こたえを知しらないまま、答こたえが足たりないことを判定はんていする力ちから。彼かれが数学者すうがくしゃとしての訓練くんれんを受うけていることの、最もっとも具体的ぐたいてきな表あらわれがここにある。

D現代げんだい評価ひょうかそして皮肉ひにくがある。第だい6話ろくわで彼かれを圧倒あっとうした書物しょもつの「合理性ごうりせい」は、第だい7話ななわでは「限界げんかい」と呼よばれる。同おなじ書物しょもつが、読よみ手ての理解りかいが深ふかまるにつれ、完成かんせい品ひんから未完成みかんせい品ひんへ変かわる。理解りかいするとは、欠陥けっかんが見みえるようになることでもある。

三つの前提と、その壁 ── 何が残り、何が壁になったか 太陽中心は残り、真円と等速が精度の壁になった。 一 中心は太陽 二 軌道は真円 三 速度は一定 これは残る この二つが、壁になる 達成できる範囲は、ここまで 約百五十年 壁を破るのは、真円と等速を捨てたとき(一六〇九年)
図ず 05三みっつの前提ぜんていと、その壁かべ。彼かれが捨すてられなかった二ふたつが、そのまま精度せいどの限界げんかいになった。

欠陥けっかんが見みえるようになった男おとこは、次つぎに、自分じぶんの後あとに続つづく者ものについて決きめる。

3-3

1つ目め 後進こうしんは作つくらない
── 第だい7話ななわ バデーニ 07:47

A作品さくひん世界せかい彼かれは続つづける。死しぬまでに自分じぶんが証明しょうめいできなかったら、関かかわった書物しょもつを全すべて燃もやす。重要じゅうようなのは自分じぶんが完成かんせい・発表はっぴょうすることであり、他ほかの誰だれかの踏ふみ台だいにされるのはごめんだ、と(08:03)。

D現代げんだい評価ひょうかこれは、シリーズ全体ぜんたいへの正面しょうめんからの反逆はんぎゃくである。 第だい1話いちわから第だい6話ろくわまで、この物語ものがたりを動うごかしてきたのは継承けいしょうだった。フベルト(胡贝尔特/Hubert)はラファウ(拉法乌/Rafal)に託たくし、ラファウは箱はこに託たくし、占星術せんせいじゅつ師しは計算けいさんを直なおして置おき、異端いたん者ものは場所ばしょを教おしえ、グラス(Gras)は死しの直前ちょくぜんに「託たくしてる」と言いった(E5 3-7節ななせつ)。バデーニは、その全部ぜんぶを拒否きょひする。

D現代げんだい評価ひょうか注意ちゅういすべきは、彼かれの拒否きょひが継承けいしょうの価値かちを理解りかいしていないからではないことである。彼かれは理解りかいしている。理解りかいした上うえで、自分じぶんが踏ふみ台だいになることを拒こばむ。第だい6話ろくわで見みたとおり、彼かれの動機どうきは自分じぶんを偉大いだいにすることであり(E6 3-2節にせつ)、その動機どうきに照てらせば、後進こうしんを作つくらないことは一貫いっかんしている。

大学院だいがくいん

D現代げんだい評価ひょうか科学かがく社会学しゃかいがく(科学社会学/sociology of science)的てきには、優先権ゆうせんけん(优先权/priority)への執着しゅうちゃくとして記述きじゅつできる(E6 3-2節にせつ)。だが第だい7話ななわは、それを個人こじんの欠陥けっかんとしてだけ描えがいていない。この宣言せんげんは、彼かれが受うけ取とった書物しょもつそのものへの裏切うらぎりでもある。 箱はこの中なかの書物しょもつは、名なも残のこさぬ者ものたちの手てを経へてここまで来きた(E5 3-3節さんせつ)。その到着とうちゃく点てんで、受うけ取とった者ものが「自分じぶんで終おわりにする」と言いう。系譜けいふは、こういう形かたちでも切きれうる。

切れる系譜 ── 後進は作らない、という宣言 五つ目までは結ばれている。六つ目の先だけが、意図的に断たれている。 受け取った者 後進は作らない ここまでの全員が、 次へ渡した 五つ目と六つ目のあいだに、線はない
図ず 06切きれる系譜けいふ。受うけ取とることは選えらべても、渡わたさないことは選えらべてしまう。

後進こうしんを切きった同おなじ口くちが、死者ししゃとの約束やくそくも切きる。

3-4

聖書せいしょ以外いがいの歴史れきしなど 私わたしは気きにしない
── 第だい7話ななわ バデーニ 09:57

A作品さくひん世界せかいポトツキへの一いち割わりの記述きじゅつを消けしたことに抗議こうぎするオクジーは、今いまここにいない人ひとの思おもいを無視むししたら何なにかが決定的けっていてきに失うしなわれる気きがする、それは歴史れきしというか、と述のべる(09:40、09:49)。バデーニの返答へんとうがこれである。

D現代げんだい評価ひょうかオクジーの言葉ことばは素朴そぼくだが、内容ないようは精確せいかくである。彼かれが「歴史れきし」と呼よんでいるのは、不在ふざいの他者たしゃとの約束やくそくが拘束力こうそくりょくを持もつという感覚かんかくである。契約けいやくでも法ほうでもない。死者ししゃは訴うったえられない。それでも守まもるべきものがある、という感覚かんかく。

C史実しじつこの感覚かんかくは、遺言ゆいごん(遗嘱/will/testament)や寄進きしんの履行りこうを支ささえていた実際じっさいの社会しゃかい規範きはんと対応たいおうする。遠隔地えんかくちへの履行りこうを強制きょうせいする仕組しくみが弱よわかった時代じだい(E5 第だい4章よんしょう)、遺言ゆいごんが機能きのうしたのは、法ほうよりも受うけ取とった者ものの良心りょうしんと共同体きょうどうたいの記憶きおくによってである有力ゆうりょく説せつ。

D現代げんだい評価ひょうかそしてバデーニの拒否きょひは、彼かれの信仰しんこうの内部ないぶでは一貫いっかんしている。彼かれにとって意味いみのある時間じかんは救済きゅうさい(救赎/salvation)史しであり、それ以外いがいの人間にんげんの連つらなりは付随物ふずいぶつである。信仰しんこうが探究たんきゅうを推進すいしんする(E6 3-3節さんせつ)のと同おなじ構造こうぞうが、ここでは継承けいしょうの否定ひていとして働はたらいている。 同おなじ信仰しんこうが、片方かたほうでは動機どうきになり、片方かたほうでは切断せつだんになる。

D現代げんだい評価ひょうかなお、第だい5話ごわでラファウの手紙てがみが凍結とうけつしていた誤解ごかい──ポトツキへの感謝かんしゃ──は、ここで別べつの形かたちで処理しょりされる。第だい5話ごわでは真実しんじつを知しらない読者どくしゃの目めの前まえで誤解ごかいが運はこばれた(E5 3-5節ごせつ)。第だい7話ななわでは、その誤解ごかいごと記述きじゅつが消けされる。誤解ごかいを訂正ていせいしたのではなく、記述きじゅつを抹消まっしょうしたのである。 そしてオクジーは、自分じぶんの取とり分ぶんから払はらうと申もうし出でる。約束やくそくは、制度せいどから個人こじんの負担ふたんへ移うつされた。

歴史れきしを気きにしないと言いう男おとこの隣となりで、少女しょうじょは、家族かぞくの食卓しょくたくで歴史れきしを教おそわっていた。

3-5

何なにもするな
── 第だい7話ななわ ヨレンタの父ちち 12:00

A作品さくひん世界せかい職場しょくばですべきことは一ひとつだと前置まえおきし、父ちちは三みっつの禁止きんしを並ならべる。粛々しゅくしゅくとつつましやかに暮くらせば、いつか家族かぞくで天国てんごくへ行いける、と続つづける。

D現代げんだい評価ひょうかこれは冷酷れいこくな父ちちの言葉ことばではない。生存せいぞんの技術ぎじゅつの伝授でんじゅである。 彼かれが挙あげる条件じょうけんは正確せいかくである──十四歳じゅうよんさいであること、そこで働はたらくただ一人ひとりの女おんなであること、しかも優秀ゆうしゅうであること。この三みっつが重かさなると、周囲しゅういの不安ふあんが高たかまる。不安ふあんが高たかまった先さきに何なにがあるかを、彼かれは言いわない。だがコルベが後あとに明言めいげんする(3-6節ろくせつ)。魔女まじょの嫌疑けんぎである。

C史実しじつ『魔女まじょに与あたえる鉄槌てっつい』(一四八七せんよんひゃくはちじゅうしち)以降いこう、女性じょせいへの嫌疑けんぎは理論的りろんてきな体系たいけいを得とくた定説ていせつ。告発こくはつは共同体きょうどうたいの不安ふあんから始はじまることが多おおく、目立めだつこと自体じたいがリスクだった定説ていせつ。父ちちの助言じょげんは、この危険きけんを織おり込こんだ最適化さいてきかである。

D現代げんだい評価ひょうか第だい4話よんわでオクジーの悲観ひかんを「環境かんきょうに最適化さいてきかされた適応てきおう」と分析ぶんせきした(E4 第だい6章ろくしょう)。父ちちの助言じょげんは、その適応てきおうを娘むすめに教育きょういくとして手渡てわたす行為こういである。適応てきおうは、こうして世代せだいを越こえて再生産さいせいさんされる。そして再生産さいせいさんする側がわは、たいてい、愛情あいじょうから行おこなっている。

D現代げんだい評価ひょうかヨレンタの反論はんろんも見みておきたい。彼女かのじょは、冬ふゆでも勉強べんきょうできるようにと父ちちから手袋てぶくろを贈おくられた時ときから自分じぶんの心こころは学者がくしゃだと述のべる(12:22)。手袋てぶくろを贈おくったのは、目立めだつなと言いうのと同おなじ人ひとである。 探究たんきゅうへの道みちを開ひらいたのも、閉とじようとするのも、同おなじ手てだった。

目立めだつな、と父ちちは言いった。そして職場しょくばでは、もっと具体的ぐたいてきな理由りゆうが告つげられる。

3-6

女性じょせいの論文ろんぶんなんて誰だれが読よむの?
── 第だい7話ななわ コルベ 16:19

A作品さくひん世界せかいなぜ自分じぶんの名義めいぎで出だしたのかと問とわれ、コルベは当然とうぜんだと答こたえ、この一言ひとことを放はなつ。

C史実しじつこの状況じょうきょうには、歴史上れきしじょうの実例じつれいがある。 一七〇二年せんななひゃくにねん、マリア・ヴィンケルマンはベルリンで彗星すいせいを発見はっけんしたが、報告ほうこくは天文台てんもんだいの職しょくにあった夫おっとの名なで行おこなわれ、彼女かのじょの名なは落おちた。夫おっとが真実しんじつを明あかしたのは死しの直前ちょくぜんであり、その後ごに彼女かのじょが同おなじ職しょくを求もとめたとき、女性じょせいであることを理由りゆうに断ことわられている定説ていせつ。作品さくひんの時代じだいから二百五十年にひゃくごじゅうねん後ごの出来事できごとである。

D現代げんだい評価ひょうかこの種しゅの帰属きぞくの偏かたよりには名前なまえが付ついている。マーガレット・ロシターが一九九三年せんきゅうひゃくきゅうじゅうさんねんに提唱ていしょうした「マチルダ効果こうか」であり、女性じょせいの業績ぎょうせきが男性だんせいの同僚どうりょうに帰属きぞくされる現象げんしょうを指さす。ロシターは、マートン(默顿/Robert K. Merton)の「マタイ効果こうか(马太效应/the Matthew effect)」(既すでに持もつ者ものがさらに得える)に対応たいおうさせてこの語ごを作つくった定説ていせつ(概念がいねんとして広ひろく受容じゅよう)。

D現代げんだい評価ひょうかコルベの発言はつげんで決定的けっていてきなのは、それが事実じじつとして正ただしいことである。当時とうじ、女性じょせい名義めいぎの論文ろんぶんは流通りゅうつうしない。彼かれは市場しじょうの記述きじゅつをしている。だからヨレンタは反論はんろんできない。事実じじつに反論はんろんすることはできないからである。

大学院だいがくいん

D現代げんだい評価ひょうかここで問とうべきは、事実じじつの記述きじゅつがいつ規範きはんに転てんじるかである。「読よまれない」は記述きじゅつだが、「だから名前なまえを外はずすのが当然とうぜんだ」は規範きはんである。この移行いこうは論理的ろんりてきには正当化せいとうかされていない。 にもかかわらず、二ふたつは一続ひとつづきの言葉ことばとして発話はつわされる。第だい2章にしょうの問とい四よんが扱あつかうのは、この移行いこうである。

帰属の落ち先 ── マタイ効果とマチルダ効果 同じ業績が、名を持つ側へ集まり、名を持てない側から落ちる。 業績 既に名を持つ者 帰属が集まる 名を持てない者 帰属が落ちる マタイ効果 マチルダ効果 内容は同じ。落ち先だけが違う
図ず 07帰属きぞくの落おち先さき。線せんの太ふとさが、そのまま名なの集あつまりやすさである。

反論はんろんできない事実じじつを告つげられた少女しょうじょは、数時間すうじかん後ご、それを自分じぶんの口くちで実行じっこうする。

3-7

私わたしのものではないです
── 第だい7話ななわ ヨレンタ 18:53

A作品さくひん世界せかいピャストに直接ちょくせつ問とわれた彼女かのじょは、コルベの警告けいこくと父ちちの助言じょげんが反響はんきょうするなか、自分じぶんの論文ろんぶんを否認ひにんする。すれ違ちがいざま、コルベは一言ひとこと残のこす──賢かしこいよ、と(19:12)。

D現代げんだい評価ひょうかこの場面ばめんは、第だい7話ななわの中心ちゅうしんである。 直前ちょくぜんまで彼女かのじょは「神かみと真理しんりのためなら引ひきたくない」と父ちちに宣言せんげんしていた(12:25)。そして引ひいた。しかも、引ひくことを教おしえたコルベ本人ほんにんから、引ひいたことを褒ほめられる。

D現代げんだい評価ひょうか注意ちゅうい深ふかく見みると、彼女かのじょを止とめたのは強制きょうせいではない。誰だれも彼女かのじょの口くちをふさいでいない。彼女かのじょの中なかで反響はんきょうしたのは、コルベの警告けいこく(殺ころされうる)と父ちちの助言じょげん(目立めだつな)である。言葉ことばだけで、彼女かのじょは自分じぶんに沈黙ちんもくを科かした。 外的がいてきな検閲けんえつが内面化ないめんか(内化/internalization)される過程かていが、数秒すうびょうの沈黙ちんもくとして描えがかれている。

C史実しじつD現代げんだい評価ひょうかこの構造こうぞうは、第だい3話さんわでラファウが偽誓ぎせいを選えらんだこと(E3 3-2節にせつ)と対たいをなす。ラファウは嘘うそをつくことで研究けんきゅうを続つづけようとし、ヨレンタは真実しんじつを否認ひにんすることで研究けんきゅうを続つづけようとする。どちらも、生いき延のびるために言葉ことばを犠牲ぎせいにしている。 違ちがいは、ラファウが自分じぶんの意志いしで選えらんだのに対たいし、ヨレンタには他ほかの選択肢せんたくしが事実上じじつじょうなかったことである。

D現代げんだい評価ひょうかそして「賢かしこいよ」という一言ひとこと。これは第だい1話いちわノート第だい6章ろくしょう以来いらいの主題しゅだい──賢かしこい人間にんげんとは、正ただしい答こたえを知しる者ものか、社会しゃかいの中なかで損そんをしない答こたえを選えらべる者ものか(E1 第だい2章にしょう1問いちもん)──への、最もっとも苦にがい回答かいとうである。彼女かのじょは後者こうしゃの意味いみで賢かしこかった。そしてそれを、褒ほめられた。

奪うばった相手あいてを悪人あくにんだと思おもえれば、まだ楽らくだった。

3-8

けど違ちがう 彼かれは善人ぜんにんだ
── 第だい7話ななわ ヨレンタ 19:44

A作品さくひん世界せかい独白どくはくのなかで、彼女かのじょはまず「はめられた」と考かんがえようとする。これまでの言葉ことばは全部ぜんぶ嘘うそで、コルベは悪わるい人ひとだったのだ、と。だが続つづけて思おもう──もしそうであってくれたらどれだけよかったか、けれど違ちがう、彼かれは善人ぜんにんだ、本当ほんとうに自分じぶんをかばったのだ、と。

D現代げんだい評価ひょうかこれが第だい7話ななわの最もっとも高度こうどな認識にんしきである。 加害者かがいしゃを悪人あくにんと認定にんていできれば、話はなしは単純たんじゅんになる。悪人あくにんに奪うばわれたのなら、悪人あくにんを倒たおせば取とり戻もどせる。だが奪うばったのが善人ぜんにんであり、しかも本当ほんとうに守まもってくれているのなら、取とり戻もどす方法ほうほうが存在そんざいしない。

D現代げんだい評価ひょうかコルベは嘘うそをついていない。彼女かのじょの才能さいのうを認みとめ、リスクを正確せいかくに把握はあくし、実際じっさいに危険きけんから遠とおざけ、天文台てんもんだいへの道筋みちすじまで用意よういしている。彼かれの行為こういは、彼かれが生いきる社会しゃかいの内部ないぶでは、最善さいぜんの親切しんせつである。にもかかわらず、その親切しんせつが彼女かのじょから名前なまえを奪うばう。

大学院だいがくいん

D現代げんだい評価ひょうか倫理学りんりがくの語彙ごいでは、これは構造的こうぞうてきな問題もんだいである。悪意あくいある個人こじんを特定とくていできない害悪がいあくであり、責任せきにんの所在しょざいが分散ぶんさんしている。第だい2話にわのノヴァク(善ぜんの局所性きょくしょせい、E2 第だい6章ろくしょう)、第だい3話さんわのポトツキ(正当化せいとうか可能かのうな密告みっこく、E3 3-3節さんせつ)に続つづく系譜けいふであり、本作ほんさくが繰くり返かえし描えがいてきた主題しゅだいの、最もっとも精密せいみつな事例じれいである。この作品さくひんにおいて、最もっとも深ふかい害がいは、いつも善意ぜんいの手てで行おこなわれる。

D現代げんだい評価ひょうかそして彼女かのじょの結論けつろん──ここが自分じぶんの見みられる最上さいじょうの景色けしきで、これが自分じぶんの現実げんじつだ(19:58)──は、諦あきらめであると同時どうじに、正確せいかくな状況じょうきょう認識にんしきでもある。だから彼女かのじょは泣なき、泣ないたことを自分じぶんで咎とがめる(20:32)。泣ないたら敗者はいしゃに見みえる、問題もんだいがあるように見みえる、と。感情かんじょうの表出ひょうしゅつすら、彼女かのじょの立場たちばでは危険きけんなのである。

悪人のいない害 ── 正しい行為だけで、損失は起きる 四つの行為はどれも正当である。それでも、的の位置に損失が集まる。 どれも、それ自体は正しい 危険を正確に伝える 守ろうとする 生き延び方を教える 秩序を維持する 起きた損失 悪意ある個人が特定できない だから、抗議の相手がいない
図ず 08悪人あくにんのいない害がい。加害者かがいしゃを名指なざせないとき、損失そんしつだけが誰だれの責任せきにんでもなく残のこる。

理解りかいするとは、欠陥けっかんが見みえるようになることでもある。

八やっつの言葉ことばが示しめしたのは、この回かいが名前なまえ・継承けいしょう・善意ぜんいという三みっつの主題しゅだいを通とおって、題名だいめいの二に重じゅう性せいに着地ちゃくちすることだった。では、その足場あしばは史実しじつのどこまで届とどいているのか。今回こんかいの測量そくりょうは、学術がくじゅつ制度せいどと女性じょせいの位置いちについて、高たかい妥当性だとうせいを示しめす。

Ⅳ

第だい4章よんしょう 作中さくちゅう×史実しじつ 照合表しょうごうひょう(第だい7話ななわ 新規しんき分ぶん)

結論けつろん:第だい7話ななわは、学術がくじゅつ制度せいどと女性じょせいの位置いちに関かんする考証こうしょうが精密せいみつである。一点いってん、掲示板けいじばんの難問なんもんについては時代じだいの特定とくていに留保りゅうほが要いる。

作中さくちゅう表現ひょうげんA作品さくひん世界せかい 史実しじつC史実しじつ 妥当性だとうせい 補足ほそく
女性じょせいが学術がくじゅつの場ばから実質的じっしつてきに締しめ出だされる 大学だいがくは聖職者せいしょくしゃ養成ようせいとして発足ほっそくし、女性じょせいは制度せいど上じょうの対象外たいしょうがい。学術がくじゅつ共同体きょうどうたいへの参加さんかも限定的げんていてき 高高こう 定説ていせつ
女性じょせい名義めいぎの論文ろんぶんが流通りゅうつうしないという判断はんだん 女性じょせいの著作ちょさくが男性名義だんせいめいぎまたは匿名とくめいで流通りゅうつうした事例じれいは多おおい。マリア・ヴィンケルマンの彗星すいせい発見はっけん(1702)が代表だいひょう例れい 高高こう 作品さくひんより後代こうだいの事例じれいだが、構造こうぞうは同型どうけい定説ていせつ
女性じょせいの異論いろんが魔女まじょの嫌疑けんぎに接続せつぞくされうる 『魔女まじょに与あたえる鉄槌てっつい』(1487)以降いこう、嫌疑けんぎは体系化たいけいか。激化げきかは16世紀じゅうろくせいき後半こうはん以降いこう 高高こう 時代じだい設定せっていは理論的りろんてき基盤きばんの成立せいりつ期きと重かさなる定説ていせつ
中東ちゅうとうの異教徒いきょうとによる古代こだいギリシア天文学てんもんがくの修正しゅうせいが研究会けんきゅうかいの題目だいもくになる マラーガ学派がくは(马拉加学派/the Maragha School)によるプトレマイオス(托勒密/Ptolemy)批判ひはんと修正しゅうせいは実在じつざい。西欧せいおうへの伝播でんぱは論争ろんそう的てき(E1 第だい8章はっしょう) 高高こう 題目だいもくとしての妥当性だとうせいは高たかい定説ていせつ。伝播でんぱ経路けいろは議論ぎろんあり
太陽たいよう中心ちゅうしん・真円しんえん・等速とうそくという三さん前提ぜんていと、その限界げんかい コペルニクス体系たいけいの前提ぜんていであり、精度せいどの壁かべ。解決かいけつはケプラー(1609) 高高こう 本話ほんわの考証こうしょうの白眉はくび定説ていせつ
観測かんそく記録きろくが私有しゆうされ、閲覧えつらんが制限せいげんされる 記録きろくは稀少きしょうな資産しさんであり、蓄積ちくせきは権力けんりょくと収入しゅうにゅうの源泉げんせん 高高こう 定説ていせつ
掲示板けいじばんに難問なんもんを貼はり、解答かいとう者しゃを募つのる文化ぶんか 公開こうかいの数学的すうがくてき挑戦ちょうせんは実在じつざいの慣行かんこう。ただし最もっともよく知しられる例れいは16世紀じゅうろくせいきイタリアの数学すうがく決闘けっとう(タルタリアとフィオール、1535年ねんほか)であり、15世紀じゅうごせいきの掲示板けいじばん文化ぶんかとしての実在じつざいは確認かくにんできず 中中なか 慣行かんこうの存在そんざいは有力ゆうりょく説せつ、作中さくちゅうの具体的ぐたいてき形式けいしきは作品さくひん固有こゆう
14歳じゅうよんさいで研究職けんきゅうしょくに就ついている 徒弟とてい・奉公ほうこうの開始年齢かいしねんれいは現代げんだいより早はやく、若年じゃくねんでの就業しゅうぎょうは一般的いっぱんてき。ただし学術がくじゅつ職しょくの例れいは限定的げんていてき 中中なか 年齢ねんれい設定せっていの一般的いっぱんてき妥当性だとうせいは高たかいが、学術がくじゅつ職しょくとしては例外的れいがいてき
貴族きぞく(伯はく)が学術がくじゅつのパトロンとして査読さどく・評価ひょうかに関与かんよする 宮廷きゅうていや貴族きぞくの後援こうえんは学術がくじゅつ活動かつどうの基盤きばん。評価者ひょうかしゃとしての関与かんよも実在じつざい 高高こう 定説ていせつ
施ほどこしへの否定的ひていてき態度たいどを聖職者せいしょくしゃが示しめす 施与せよ(caritas)は救済きゅうさいに資しする徳とくとされており、これを否定ひていするのは正統せいとうから外はずれる 低低てい〜中なか バデーニ個人こじんの異端いたん性せいを示しめす造形ぞうけい定説ていせつ(施与せよの徳とくとしての位置いちづけ)
十五じゅうご世紀せいきに地動説ちどうせつ(日心说/heliocentrism)の資料しりょうが研究けんきゅうされている 意図的いとてき仮構かこうの継続けいぞく 意図的虚構低てい(意図的いとてき虚構きょこう) シリーズの中核ちゅうかく設定せってい

二百五十年にひゃくごじゅうねん後ご、同おなじことが起おきた。彗星すいせいを見みつけた女性じょせいの名なは、報告書ほうこくしょに載のらなかった。

考証こうしょうが正確せいかくであるほど、問といは重おもくなる。内容ないようが同おなじでも名前なまえが変かわれば何なにかが失うしなわれる──その何なにかとは、いったい何なになのか。名誉めいよなのか、それとももっと実務じつむ的てきなものなのか。

Ⅴ

第だい5章ごしょう 科学かがく哲学てつがく・知識ちしき社会学しゃかいがく —— 誰だれの名前なまえが、知識ちしきに付つくのか

結論けつろん:第だい7話ななわは、知識ちしきの正ただしさとは別べつの次元じげん──帰属きぞくの問題もんだいを扱あつかう。誰だれがそれを言いったことになるかは、内容ないようとは独立どくりつに決きまる。

基礎きそ
  • ヨレンタの論文ろんぶんの内容ないようは、名義めいぎが変かわっても一文字いちもじも変かわらない。それでも、名義めいぎが変かわることで何なにかが失うしなわれている。何なにが失うしなわれたのか。
発展はってん
  • 帰属きぞく(credit)は科学かがくの通貨つうかである。ロバート・マートンが「マタイ効果こうか」として定式化ていしきかしたとおり、既すでに名なを持もつ者ものに帰属きぞくが集中しゅうちゅうし、持もたざる者ものからは落おちる。マーガレット・ロシターは一九九三年せんきゅうひゃくきゅうじゅうさんねん、これに性別せいべつに連動れんどうした偏かたよりを加くわえ、「マチルダ効果こうか」と名なづけた定説ていせつ(概念がいねんとして広ひろく受容じゅよう)。
  • 帰属きぞくが失うしなわれると、失うしなわれるのは名誉めいよだけではない。次つぎの仕事しごとへの資源しげんが失うしなわれる。評価ひょうかが集あつまらなければ職しょくも後援こうえんも得とくられず、記録きろくへのアクセスも与あたえられない。第だい7話ななわでヨレンタが記録きろくを「あさる」しかないのは、この循環じゅんかんの帰結きけつである。名前なまえを持もたない者ものは、正規せいきの経路けいろでデータに到達とうたつできない。
  • 大学院だいがくいん ここに、第だい5話ごわの主題しゅだい(識字しきじ〔识字/literacy〕と分配ぶんぱい)との接続せつぞくがある(E5 3-1節いっせつ)。第だい5話ごわでは読よむ能力のうりょくの分配ぶんぱいが問題もんだいだった。第だい7話ななわでは名乗なのる資格しかくの分配ぶんぱいが問題もんだいである。どちらも、知識ちしきの内容ないようではなく、知識ちしきにアクセスし寄与きよする立場たちばの配分はいぶんに関かかわる。知識ちしき社会学しゃかいがく(知识社会学/sociology of knowledge)は、この配分はいぶんを科学かがくの外部がいぶ要因よういんではなく、科学かがくの構成要素こうせいようそとして扱あつかう。
  • 匿名とくめいと偽名ぎめい:ヨレンタは解答かいとうを男性名だんせいめいで提出ていしゅつする(23:00付近ふきん)。歴史上れきしじょう、女性じょせいの著述ちょじゅつが男性名義だんせいめいぎや匿名とくめいで流通りゅうつうした事例じれいは多おおい定説ていせつ。偽名ぎめいは排除はいじょへの適応てきおうであり、同時どうじに、排除はいじょの記録きろくを消けしてしまう。後世こうせいの私わたしたちが「女性じょせいの学者がくしゃは少すくなかった」と観測かんそくするとき、その観測かんそく自体じたいが、この適応てきおうの結果けっかを見みている可能性かのうせいがある。
  • 記録きろくの私有しゆうと探究たんきゅうの自由じゆう:バデーニが「持もてる者もの」に会あおうとするのも、ヨレンタが記録きろくをあさるのも、同おなじ制約せいやくに由来ゆらいする。データが私有しゆうされている社会しゃかいでは、探究たんきゅうの自由じゆうは所有しょゆうの構造こうぞうに従属じゅうぞくする。第だい7話ななわは、この従属じゅうぞくを二人ふたりの登場とうじょう人物じんぶつに同時どうじに演えんじさせている。
名前が失わせるもの ── 循環する剥奪 名前の欠落は評価を減らし、評価の欠落は資源を減らし、資源の欠落は記録を減らす。 失われるのは名誉ではなく、次の探究の資源である 名前が付かない 評価が集まらない 職と後援が 得られない 記録に到達できない 循環する
図ず 09名前なまえが失うしなわせるもの。帰属きぞくの欠落けつらくは一度いちどきりの損そんではなく、輪わになって戻もどってくる。

名前なまえを失うしなうと、名誉めいよではなく、次つぎの仕事しごとへの資源しげんが失うしなわれる。

失うしなわれるのは名誉めいよだけではなかった。次つぎの仕事しごとへの資源しげんが、記録きろくへのアクセスが、探究たんきゅうを続つづける能力のうりょくそのものが失うしなわれる。だが第だい7話ななわが本当ほんとうに難むずかしいのは、その剥奪はくだつを行おこなったのが善人ぜんにんだという一点いってんである。

Ⅵ

第だい6章ろくしょう 倫理学りんりがく —— 善意ぜんいによる剥奪はくだつと、内面化ないめんかされた検閲けんえつ

結論けつろん:第だい7話ななわの倫理的りんりてき中心ちゅうしんは、善意ぜんいが最もっとも深ふかい害がいをなしうるという構造こうぞうである。そして、その害がいは外そとからの強制きょうせいではなく、被害者ひがいしゃ自身じしんの判断はんだんとして実行じっこうされる。

発展はってん
  • 善意ぜんいによる剥奪はくだつ:コルベは嘘うそをついていない。危険きけんは実在じつざいし、彼かれの対処たいしょは有効ゆうこうであり、彼女かのじょへの評価ひょうかは本物ほんものである。それでも、彼かれの親切しんせつが彼女かのじょの名前なまえを奪うばう。悪意あくいある個人こじんが特定とくていできない害悪がいあくであり、責任せきにんの所在しょざいが構造こうぞうに分散ぶんさんしている。
  • 本作ほんさくはこの主題しゅだいを反復はんぷくしてきた。ノヴァクの「善ぜんの局所性きょくしょせい」(E2 第だい6章ろくしょう)、ポトツキの正当化せいとうか可能かのうな密告みっこく(E3 3-3節さんせつ)、そしてコルベ。三者さんしゃに共通きょうつうするのは、守まもるべき対象たいしょうが実在じつざいし、守まもり方ほうも合理的ごうりてきであることである。作品さくひんが悪人あくにんを用意よういしないのは、悪人あくにんが問題もんだいの本体ほんたいではないからだ。
  • 内面化ないめんかされた検閲けんえつ:ヨレンタの否認ひにんは、誰だれにも命めいじられていない。彼女かのじょの中なかで他人たにんの言葉ことばが反響はんきょうし、彼女かのじょ自身じしんの口くちから否認ひにんが出でる。強制きょうせいは不要ふようである。危険きけんを正確せいかくに伝つたえるだけで、人ひとは自分じぶんに沈黙ちんもくを科かす。最もっとも効率的こうりつてきな検閲けんえつは、対象者たいしょうしゃの判断力はんだんりょくを利用りようする。
  • 第だい5話ごわで識字しきじが「最もっとも効きく検閲けんえつ」だと述のべた(E5 3-1節いっせつ)。第だい7話ななわはもう一段いちだん先さきを示しめす──読よめる者ものに対たいしては、危険きけんを正確せいかくに教おしえることが検閲けんえつとして働はたらく。嘘うそは要いらない。事実じじつで足たりる。
  • 泣なくことの禁止きんし:彼女かのじょは涙なみだを「敗者はいしゃに見みえる」「問題もんだいがあるみたいに見みえる」と評ひょうして抑おさえようとする(20:32)。感情かんじょうの表出ひょうしゅつが、能力のうりょくへの疑うたがいに翻訳ほんやくされうる立場たちばでは、感情かんじょうの抑制よくせいも生存せいぞん技術ぎじゅつになる。父ちちの「目立めだつな」が、この水準すいじゅんまで浸透しんとうしている。
  • バデーニの取とり分ぶん:一方いっぽうで、バデーニは自分じぶんの取とり分ぶんを九きゅう割わりと定さだめ、死者ししゃへの一いち割わりを消けす。ヨレンタは十じゅう割わりを奪うばわれ、バデーニは九きゅう割わりを要求ようきゅうする。同おなじ回かいに、奪うばわれる者ものと要求ようきゅうする者ものが並置へいちされている。 そしてどちらの側がわにも、それぞれの理屈りくつがある。

省略しょうりゃくされた文脈ぶんみゃくの開示かいじ②——なぜヨレンタが記録きろくを無断むだんで見みることが、これほど重大じゅうだいなのか。観測かんそく記録きろくは写本しゃほんであり、稀少きしょうな資産しさんである(E5 世よの章しょう、本話ほんわ第だい5章ごしょう)。無断むだん閲覧えつらんは現代げんだいの情報じょうほうアクセスとは意味いみが違ちがい、財産ざいさんに関かかわる違反いはんとして扱あつかわれうる。加くわえて彼女かのじょは、庇護ひご者しゃであるコルベとの関係かんけいを唯一ゆいいつの生存せいぞん経路けいろとしている。この一段いちだんを外はずすと、彼女かのじょの逡巡しゅんじゅんが過剰かじょうに見みえる。実際じっさいには、発覚はっかくすれば職しょく・身分みぶん・庇護ひごのすべてを同時どうじに失うしなう行為こういである。

最もっとも効率的こうりつてきな検閲けんえつは、対象者たいしょうしゃの判断力はんだんりょくを利用りようする。嘘うそは要いらない。事実じじつで足たりる。

悪意あくいなく、嘘うそもなく、愛情あいじょうから、人ひとは人ひとの名前なまえを奪うばえる。しかも奪うばわれた側がわが、自分じぶんの口くちで手放てばなす。この構造こうぞうの前まえでは、読よむ側がわの判断はんだんも滑すべる。滑すべりやすい場所ばしょに、今回こんかいも印しるしをつけておく。

Ⅶ

第だい7章ななしょう 私わたしが見落みおとしやすい視点してん(第だい7話ななわ 新規しんき12項目じゅうにこうもく)

結論けつろん:以下いかを第だい1話いちわ16項目じゅうろくこうもく・第だい2話にわ12項目じゅうにこうもく・第だい3話さんわ12項目じゅうにこうもく・第だい4話よんわ12項目じゅうにこうもく・第だい5話ごわ12項目じゅうにこうもく・第だい6話ろくわ12項目じゅうにこうもくに追加ついかする。

  1. コルベを悪役あくやくとして読よまない。彼かれは嘘うそをつかず、危険きけんを正確せいかくに把握はあくし、実際じっさいに守まもっている。作品さくひん自身じしんが「彼かれは善人ぜんにんだ」と書かいている。
  2. 父ちちを冷酷れいこくとして読よまない。彼かれの助言じょげんは生存せいぞんの技術ぎじゅつであり、その技術ぎじゅつを娘むすめに手渡てわたすことは愛情あいじょうの形かたちである。
  3. 手袋てぶくろを贈おくったのも父ちちであること。探究たんきゅうの道みちを開ひらいた手てと、閉とじようとする手てが同おなじである。
  4. 排除はいじょの理由りゆうが名指なざしされないこと。名指なざしされない排除はいじょのほうが、反論はんろんが難むずかしい。
  5. コルベの発言はつげんが事実じじつとして正ただしいこと。だから反論はんろんできない。問題もんだいは事実じじつから規範きはんへの移行いこうにある。
  6. 強制きょうせいが使つかわれていないこと。ヨレンタは自分じぶんの判断はんだんで否認ひにんした。検閲けんえつは内面化ないめんかされている。
  7. 感情かんじょうの抑制よくせいも生存せいぞん技術ぎじゅつであること。泣なかないことは強つよさではなく、必要ひつようである。
  8. バデーニの「後進こうしんは作つくらない」がシリーズへの反逆はんぎゃくであること。彼かれは継承けいしょうの価値かちを理解りかいした上うえで拒否きょひしている。
  9. 一いち割わりの抹消まっしょうが「誤解ごかいの訂正ていせい」ではなく「記述きじゅつの抹消まっしょう」であること。約束やくそくは制度せいどから個人こじんの負担ふたんへ移うつされた。
  10. 「限界げんかいだ」という診断しんだんが正ただしいこと。真円しんえんと等速とうそくは実際じっさいに壁かべであり、解決かいけつは百五十ひゃくごじゅう年後ねんごである。
  11. 奪うばわれる者ものと要求ようきゅうする者ものが同おなじ回かいに並ならぶこと。第だい7話ななわは、名前なまえをめぐる二ふたつの態度たいどを対置たいちしている。
  12. 偽名ぎめいが排除はいじょの記録きろくを消けすこと。「女性じょせいの学者がくしゃは少すくなかった」という観測かんそく自体じたいが、適応てきおうの結果けっかを見みている可能性かのうせいがある。

手袋てぶくろを贈おくったのも、目立めだつなと言いったのも、同おなじ人ひとだった。

十二じゅうにの死角しかくのうち、一番いちばん目めがいちばん抵抗ていこうがあるだろう──コルベを悪役あくやくとして読よまないこと。作品さくひん自身じしんが彼かれを善人ぜんにんだと書かいている。その読よみにくさを保たもつために、反論はんろんを五いつつ育そだてておく。

Ⅷ

第だい8章はっしょう 反対はんたい解釈かいしゃく(第だい7話ななわ 新規しんき5つ)

結論けつろん:「才能さいのうある少女しょうじょが理不尽りふじんに踏ふみにじられる回かい」という標準的ひょうじゅんてき読解どっかいに対たいし、以下いかが成立せいりつする。

  1. コルベ擁護論ようごろんの徹底てってい。彼かれの判断はんだんは、その社会しゃかいでの最善さいぜんである。名義めいぎを貸かさなければ論文ろんぶんは流通りゅうつうせず、ヨレンタは発表はっぴょうの経験けいけんも評価ひょうかも得とくられない。彼女かのじょが天文台てんもんだいへ進すすむ道筋みちすじも消きえる。彼かれを批判ひはんする立場たちばは、彼女かのじょにより危険きけんな道みちを勧すすめることになる。 この論法ろんぽうは不快ふかいだが、論理ろんりとしては閉とじている。
  2. ヨレンタの選択せんたくの擁護ようご。彼女かのじょの否認ひにんは、屈服くっぷくではなく最適解さいてきかいである。名乗なのり出でれば魔女まじょの嫌疑けんぎに接続せつぞくされうる。彼女かのじょは自分じぶんの命いのちと研究けんきゅうの継続けいぞくを守まもった。「引ひかない」ことを英雄えいゆう的てきと見みなす読よみは、引ひけない立場たちばの重おもさを軽かるく見みている。
  3. 父ちちの助言じょげんの再評価さいひょうか。父ちちは娘むすめの危険きけんを正確せいかくに見積みつもり、生存せいぞんを最優先さいゆうせんした。彼かれが間違まちがっていたと言いえるのは、彼女かのじょが生いき延のびた後あとから見みた者ものだけである。
  4. バデーニの一貫性いっかんせい。彼かれは最初さいしょから動機どうきを隠かくしていない。偉大いだいになるために研究けんきゅうする、と第だい6話ろくわで宣言せんげんしている(E6 3-2節にせつ)。「後進こうしんは作つくらない」はその宣言せんげんの帰結きけつであり、彼かれは誰だれも裏切うらぎっていない。裏切うらぎられたと感かんじるのは、彼かれが継承けいしょうの物語ものがたりに組くみ込こまれることを期待きたいした読者どくしゃのほうである。
  5. 「善人ぜんにん」という認定にんていへの懐疑かいぎ。ヨレンタはコルベを善人ぜんにんだと結論けつろんするが、これは彼女かのじょの心理的しんりてきな処理しょりでもある。加害かがいを悪意あくいに帰かえせない状況じょうきょうで、相手あいてを善人ぜんにんと認定にんていすることは、自分じぶんの従属じゅうぞくを受うけ入いれやすくする。この認定にんてい自体じたいが、適応てきおうの一部いちぶかもしれない。 作品さくひんはどちらとも決きめていない。

彼かれを批判ひはんする立場たちばは、彼女かのじょにより危険きけんな道みちを勧すすめることになる。この論法ろんぽうは不快ふかいだが、閉とじている。

五いつつの反対はんたい解釈かいしゃく、とりわけ一番いちばん目め──彼かれを批判ひはんする立場たちばは、彼女かのじょにより危険きけんな道みちを勧すすめることになるという論法ろんぽう──を携たずさえたまま、七なな冊さつのノートを重かさねる。

Ⅸ

第だい9章きゅうしょう 第だい1〜6話ろくわノートとの接続せつぞく(差分さぶんマップ)

結論けつろん:第だい7話ななわは、シリーズの主題しゅだいを「名前なまえ」という一点いってんに集約しゅうやくして再演さいえんする。

前話ぜんわノートの箇所かしょ 第だい7話ななわでの再演さいえん
E1 第だい2章にしょう1問いちもん:賢かしこい人間にんげんとは何なにか 「賢かしこいよ」という一言ひとことで、最もっとも苦にがい形かたちで回答かいとうされる
E2 第だい6章ろくしょう:ノヴァクの善ぜんの局所性きょくしょせい コルベの善意ぜんいによる剥奪はくだつとして、最もっとも精密せいみつな形かたちで反復はんぷく
E3 3-2節にせつ:ラファウの偽誓ぎせい ヨレンタの否認ひにんと対たいをなす。どちらも生存せいぞんのために言葉ことばを犠牲ぎせいにする
E3 3-3節さんせつ:ポトツキの正当化せいとうか可能かのうな密告みっこく 「彼かれは善人ぜんにんだ」という認識にんしきとして、被害者ひがいしゃの側がわから語かたられる
E3 3-1節いっせつ:真円しんえんの壁かべ バデーニの「限界げんかいだ」として明示めいじ的てきに診断しんだんされる
E4 第だい6章ろくしょう:適応てきおう的てき選好せんこう形成けいせい(适应性偏好/adaptive preference formation) 父ちちの助言じょげんとして、教育きょういくの形かたちで世代間せだいかんに手渡てわたされる
E5 3-1節いっせつ:識字しきじという検閲けんえつ 「危険きけんを正確せいかくに教おしえること」が検閲けんえつとして働はたらく水準すいじゅんへ進すすむ
E5 3-3節さんせつ:名なを残のこさなかった中継ちゅうけい者しゃ 名なを残のこせなかった者ものとして、当事者とうじしゃの視点してんから描えがかれる
E5 3-5節ごせつ:ラファウの誤解ごかいごと運はこばれた手紙てがみ その記述きじゅつが抹消まっしょうされる
E6 3-2節にせつ:バデーニの動機どうき 「後進こうしんは作つくらない」として、継承けいしょうの否定ひていに帰結きけつする
知の系譜(第7話版)── 切れた先と、まだ出会っていない者 線の種類は史料の確度。最下部は作品世界で、色で峻別される。新しいノードは、いずれも匿名。 ギリシア ローマ イスラーム圏 ラテン西方 伝達経路は未確定 (数学的同一性は確立) ピタゴラス派・フィロラオス 「地球は中心でなくてよい」という発想 ヘラクレイデス 自転による日周運動の説明可能性 アリスタルコス 太陽中心・地球公転の明示的仮説 プトレマイオス 高精度予測装置と、内部のエカント問題 イブン・アル=ハイサム 『プトレマイオス疑義』── 批判の口火 マラーガ学派(トゥースィー、ウルディー) エカントなしで同精度を出す数学装置 イブン・アル=シャーティル 月・水星の高精度モデル ビュリダン 運動の相対性(船の例)、インペトゥス理論 オレーム 自転反対論の論駁 ── しかし結論は地球静止 レギオモンタヌス 『アルマゲスト梗概』── 理論天文学の刷新 コペルニクス 部品の統合と、太陽中心への配置転換 一七〇二年 彗星の発見者 ── 報告に名が載らず 作品世界 フベルト 地動説の命名/観測記録 ラファウ 火中からの継承 ラファウ 宣言と封印 石箱の在りかを知る者 ── 岩の一文字を見つけた二人 発見者・計算修正 ── 名を残さず 代闘士A 空を見るのが苦手 代闘士B 火星を二年 読解に到達した者 後進を作らないという宣言 名を伏せて解答した者 まだ出会っていない 史実の列とは結線しない 凡例 ── 実線=定説 破線=有力説 点線=議論あり 銀=作品世界
図ず 10系譜けいふの先さきに、初はじめて×が付つく。そして別べつのレーンに、まだ出会であっていない一人ひとりが置おかれる。
大タイムライン(第7話版)── 名前が付くまでの三百年 知識の年表は、無知の年表と対である。帰属の欠落もまた、年表の上にある。 前399 ソクラテスの死(アテナイ) 知 ── 独房と哲学の系譜の起点 未 ── 死の先 前4世紀 アリストテレスの宇宙論 知 ── 球体地球、月食の影 未 ── 惑星距離、慣性 前3世紀 アリスタルコスの太陽中心説 知 ── 天体距離推定の方法 未 ── 視差検出の手段 2世紀 『アルマゲスト』 知 ── 惑星位置の高精度計算 未 ── 実在性の検証法 4–5世紀 curiositas が悪徳として定式化 知 ── 知の秩序と目的 未 ── その線引きの根拠 8–13世紀 イスラーム圏の翻訳・批判 知 ── エカントの理論的欠陥 未 ── 配置転換の動機 13世紀 studiositas と curiositas の対比 知 ── 徳としての学び 未 ── 境界の可動性 14世紀 ビュリダン・オレーム 知 ── 運動の相対性 未 ── 主張し切る理由 15世紀 作品の想定世界 知 ── 部品はほぼ全部 未 ── 組み立てる者 1440頃 印刷術 知 ── 同一の版を大量に作る技術 未 ── その社会的帰結 1487 『魔女に与える鉄槌』刊行 知 ── 逸脱を名指す語彙 未 ── その被害の総量 1543 『天球回転論』 知 ── 太陽中心の体系 未 ── 楕円軌道、観測的証拠 1609 ケプラー『新天文学』── 楕円の解答 知 ── 楕円と面積速度 未 ── その力学的理由 ── 真円と等速を捨てた年 1633 ガリレオ裁判 知 ── ─ 未 ── ─ 1687 『プリンキピア』 知 ── 天地を貫く力学 未 ── 光速の意味 1702 ベルリンでの彗星発見 知 ── 観測の事実 未 ── 報告に名が載らないこと 1729 光行差(ブラッドリー) 知 ── 地球公転の最初の直接的観測証拠 未 ── 公転速度の意味 1838 ベッセル、恒星視差を検出 知 ── 公転の直接証拠 未 ── 銀河の外の宇宙 1851 フーコーの振り子 知 ── 自転の直接実証 未 ── 慣性系の起源 1993 この偏りに名前が付く 知 ── 帰属の非対称という概念 未 ── それを消す方法 現在 現代宇宙論 知 ── 組成の約95%が未同定と知る 未 ── その95% 破れた円環の、答えの在りか 約三百年後 ── ようやく、この偏りに名前が付く ラファウの見積もり:30〜40年 史実:約300年 知 ── そのとき知っていたこと  未 ── まだ知らなかったこと
図ず 11名前なまえが載のらなかった一七〇二年せんななひゃくにねんと、その偏かたよりに名前なまえが付ついた一九九三年せんきゅうひゃくきゅうじゅうさんねん。あいだに約やく三百年さんびゃくねんある。

シリーズが六話ろくわかけて描えがいてきたものが、一人ひとりの少女しょうじょの数秒すうびょうの沈黙ちんもくに畳たたまれる。

対応表たいおうひょうを見みると、この回かいがシリーズの主題しゅだいを「名前なまえ」という一点いってんに集約しゅうやくしていることが分わかる。第だい1話いちわの問とい、第だい2話にわの善意ぜんい、第だい3話さんわの偽誓ぎせい、第だい5話ごわの無名むめいの中継ちゅうけい者しゃ。すべてが、ここで一人ひとりの少女しょうじょの数秒すうびょうの沈黙ちんもくに畳たたまれる。その沈黙ちんもくの上うえで、結論けつろんを書かく。

Ⅹ

第だい10章じっしょう 結論けつろん —— 真理しんりのためなら

結論けつろん:題名だいめいの「真理しんりのためなら」は、二人ふたりの口くちから出でている。片方かたほうは、真理しんりのためなら引ひきたくないと言いった少女しょうじょ。もう片方かたほうは、真理しんりのためなら継承けいしょうも約束やくそくも切きると決きめた男おとこ。同おなじ言葉ことばが、奪うばわれる側がわと奪うばう側がわの両方りょうほうにある。

第だい7話ななわには、二ふたつの「真理しんりのためなら」がある。

ヨレンタは父ちちに言いった。神かみと真理しんりのためなら引ひきたくない、と。数時間すうじかん後ご、彼女かのじょは自分じぶんの論文ろんぶんを否認ひにんする。誰だれにも強制きょうせいされず、自分じぶんの口くちで。

バデーニは決きめた。真理しんりのためなら、後進こうしんは作つくらない。証明しょうめいできなければ全部ぜんぶ燃もやす。死者ししゃとの約束やくそくも、記述きじゅつごと消けす。

一人ひとりは、真理しんりのために名前なまえを差さし出だした。もう一人ひとりは、真理しんりのために他人たにんの名前なまえを消けした。

この二ふたつが同おなじ回かいに置おかれていることを、偶然ぐうぜんと読よむことはできない。第だい7話ななわが問とうているのは、真理しんりの探究たんきゅうが何なにを正当化せいとうかするかである。自分じぶんの名前なまえを捨すてることは、たぶん、許ゆるされる。では、他人たにんの名前なまえは。死者ししゃとの約束やくそくは。次つぎの世代せだいは。

そして最もっとも苦くるしいのは、この回かいに悪人あくにんが一人ひとりもいないことである。

コルベは嘘うそをつかなかった。父ちちは娘むすめを守まもろうとした。バデーニは最初さいしょから動機どうきを隠かくしていない。所員しょいんでさえ、理由りゆうを名指なざししないという小ちいさな配慮はいりょをしている。全員ぜんいんがそれぞれの位置いちで、それぞれに合理的ごうりてきである。

その合理性ごうりせいの総和そうわとして、十四歳じゅうよんさいの少女しょうじょが、自分じぶんの書かいたものを「私わたしのものではない」と言いう。

ここに、この作品さくひんが六話ろくわかけて描えがいてきたものの最終さいしゅう形けいがある。制度せいどとは、悪人あくにんを必要ひつようとしない仕組しくみのことである。 善意ぜんいだけで、正確せいかくな情報じょうほうだけで、愛情あいじょうだけで、人ひとから名前なまえを奪うばうことができる。

だが第だい7話ななわは、そこで終おわらない。

名前なまえを失うしなった少女しょうじょは、泣なきながら「次つぎだ」と言いう。そして掲示板けいじばんの難問なんもんの前まえに立たち、これは惑星わくせいの記録きろくがないと解とけないと見抜みぬき、記録きろくをあさり、自分じぶんがよくないことをしていると自覚じかくし、それでも解とく。理由りゆうは一ひとつだけである──悪わるいとかどうでもいいから、あれの答こたえが気きになる(22:21)。

これは、第だい1話いちわから続つづいてきたものと同おなじ声こえである。フベルトが美うつくしいと言いい、ラファウが感動かんどうと呼よび、グラスが完璧かんぺきを見みて、バデーニが特別とくべつな一瞬いっしゅんを待まった、あの声こえ。名前なまえを奪うばわれても、資格しかくを与あたえられなくても、消きえなかったもの。

彼女かのじょは男性名だんせいめいで解答かいとうを出だす。名前なまえは、また偽いつわられる。

そしてその偽名ぎめいの解答かいとう者しゃを探さがして、一人ひとりの男おとこが声こえをかける。第だい7話ななわは、そこで終おわる。

名前なまえを捨すてた男おとこと、名前なまえを奪うばわれた少女しょうじょが、これから出会であう。

名前の付き方(再掲) 結びで、もう一度おなじ図に戻る。
図ず 12真理しんりのためなら名前なまえは要いらない ── その一言ひとことが成なり立たつ条件じょうけんを、もう一度いちど見みておきたい。
油彩の口絵。石壁の部屋で、頭巾をかぶった人物が両手で太い綱を握りしめている。

口絵くちえ ── 誰だれが引ひいたかは記録きろくされない。鳴なった音おとだけが残のこる

制度せいどとは、悪人あくにんを必要ひつようとしない仕組しくみのことである。

最後さいごに、涙なみだの話はなしをしたい。

すべてを合理化ごうりかし終おえた後あとで、彼女かのじょは泣なく。そして泣ないている自分じぶんを叱しかる。泣ないたら敗者はいしゃに見みえる、泣ないたら問題もんだいがあるように見みえる、と。

この一段いちだんが、第だい7話ななわでいちばん静しずかに恐おそろしい場所ばしょだと思おもう。

名前なまえを奪うばわれることには、まだ抗議こうぎの余地よちがある。だが、悲かなしむことそのものが不利ふりになる立場たちばでは、抗議こうぎどころか、感情かんじょうの存在そんざいすら隠かくさなければならない。目立めだつな、と父ちちは言いった。その助言じょげんは、彼女かのじょの涙腺るいせんまで届とどいている。

そして彼女かのじょは、涙なみだを拭ふいて「次つぎだ」と言いう。

ここで多おおくの物語ものがたりなら、彼女かのじょは立たち上あがって戦たたかうだろう。名乗なのり出でて、真実しんじつを告つげ、栄光えいこうを取とり戻もどす。

第だい7話ななわは、そうしない。彼女かのじょがしたのは、掲示板けいじばんの難問なんもんの前まえに立たち、必要ひつような記録きろくを無断むだんで探さがし、悪わるいことだと自覚じかくし、それでも解とくことだった。理由りゆうは一ひとつだけである。答こたえが気きになったから。

これは勝利しょうりではない。彼女かのじょは何なにも取とり返かえしていない。名前なまえも、正当せいとうな立場たちばも、記録きろくへのアクセスも、依然いぜんとして持もっていない。

だが、彼女かのじょはまだ知しりたがっている。

思おもえばこの物語ものがたりは、六話ろくわかけて、いつも同おなじ場所ばしょに戻もどってきた。フベルトは美うつくしいと言いった。ラファウは感動かんどうと呼よんだ。グラスは完璧かんぺきを見みた。バデーニは特別とくべつな一瞬いっしゅんを待まった。オクジーは、なんかきれいだと言いった。

そして今回こんかい、名前なまえを奪うばわれた少女しょうじょが言いう。悪わるいとかどうでもいい、答こたえが気きになる、と。

制度せいどは、名前なまえを奪うばえる。記録きろくを私有しゆうできる。門もんを閉とじ、部屋へやから締しめ出だし、発表はっぴょうの場ばを塞ふさぐことができる。しかも、悪人あくにんを一人ひとりも使つかわずに。

だが、問といを持もってしまった人ひとから、問といを取とり上あげることはできない。

たぶん、これがこの作品さくひんの見みつけた、たった一ひとつの弱点じゃくてんである。制度せいどの側がわの。

彼女かのじょは男性名だんせいめいで解答かいとうを出だす。名前なまえは、また偽いつわられる。真実しんじつは、また表紙ひょうしに載のらない。

そしてその偽名ぎめいの主ぬしを探さがして、名前なまえを捨すてると決きめた男おとこが、声こえをかける。

名前なまえを捨すてた者ものと、名前なまえを奪うばわれた者もの。

この二人ふたりが、これから同おなじ紙束かみたばを覗のぞき込こむ。

補遺ほい・問とい

問といの章しょう 答こたえのない問とい

ここから先さきは、答こたえの出でない六むっつの問といである。

第だい7話ななわを見み終おえたあとに残のこるのは、たぶん、行ゆき場ばのない怒いかりだろう。誰だれかを責せめたいのに、責せめる相手あいてがいない。

その居心地いごこちの悪わるさを、解消かいしょうしないでほしい。誰だれかを悪者わるものに決きめた瞬間しゅんかん、この回かいが見みせたものは半分はんぶんになる。

六むっつの問といには、十五じゅうご世紀せいきからの声こえと、現代げんだいからの声こえを置おいた。今回こんかいはとくに、十五じゅうご世紀せいきの声こえのほうが強つよく聞きこえるかもしれない。真理しんりに名前なまえは要いらない、名なを求もとめる心こころは虚栄きょえいである──その言いい分ぶんには、千せん年ねんの思想しそうの重おもみがある。

そして、その重おもみが、誰だれから何なにを奪うばうのかも、この回かいは見みせている。

六むっつ。答こたえは出でない。出でないことを確認かくにんするために置おく。

問とい一いち 名前なまえを奪うばわれても発表はっぴょうできるなら、それは前進ぜんしんか

中世ちゅうせいからの声こえ前進ぜんしんである。真理しんりは神かみに属ぞくし、人間にんげんは器うつわにすぎない。誰だれの名なで世よに出でるかは本質ほんしつではなく、正ただしい知ちが広ひろまることこそが目的もくてきである。名なを求もとめる心こころは虚栄きょえいであり、それを捨すてられることは、むしろ徳とくに近ちかい。

現代げんだいからの声こえ帰属きぞくは科学かがくの通貨つうかである。名前なまえが付つかなければ、評価ひょうかも職しょくも次つぎの研究けんきゅう資源しげんも得とくられない。名誉めいよの問題もんだいではなく、探究たんきゅうを続つづける能力のうりょくそのものが奪うばわれる。無名むめいの貢献こうけんを称たたえる語かたりは、しばしば奪うばう側がわの免罪めんざいに使つかわれてきた。

開ひらかれた問といでは、名前なまえを捨すてることで研究けんきゅうを続つづけられる人ひとが、それを自分じぶんで選えらんだと言いうとき──その選択せんたくを、私わたしたちは尊重そんちょうすべきなのか、それとも構造こうぞうへの服従ふくじゅうとして扱あつかうべきなのか。

問とい二に 善意ぜんいから行おこなわれた剥奪はくだつは、悪意あくいによるそれと何なにが違ちがうのか

中世ちゅうせいからの声こえ大おおきく違ちがう。行為こういの道徳性どうとくせいは意図いとによって定さだまる。隣人りんじんを守まもるために行おこなわれたことは、たとえ結果けっかが損失そんしつをもたらしても、罪つみとは呼よべない。裁さばかれるべきは心こころであり、結果けっかではない。

現代げんだいからの声こえ被害ひがいの実体じったいは変かわらない。だが善意ぜんいによる剥奪はくだつには、抵抗ていこうの相手あいてがいないという固有こゆうの困難こんなんがある。悪人あくにんなら告発こくはつできる。善人ぜんにんは告発こくはつできず、しかも感謝かんしゃを要求ようきゅうされうる。加害者かがいしゃの善良ぜんりょうさが、被害者ひがいしゃの言葉ことばを封ふうじる。

開ひらかれた問といでは、善意ぜんいの相手あいてに対たいして怒おこることを、私わたしたちはどう扱あつかえばよいのか。怒いかりは不当ふとうなのか、それとも、不当ふとうとされること自体じたいが二に度目どめの剥奪はくだつなのか。

問とい三さん 真理しんりに、名前なまえは必要ひつようか

中世ちゅうせいからの声こえ不要ふようである。真理しんりは永遠えいえんであり、それを述のべた者ものが誰だれであるかは、真理しんりの内容ないようを変かえない。むしろ発見者はっけんしゃの名なを刻きざもうとすることは、被ひ造物ぞうぶつが創造者そうぞうしゃの座ざを求もとめる傲慢ごうまんである。

現代げんだいからの声こえ真理しんりの内容ないようには不要ふようだが、真理しんりを生うみ出だす営いとなみには必要ひつようである。誰だれが言いったかを追跡ついせきできなければ、検証けんしょうも反論はんろんも再現さいげんも成立せいりつしない。名前なまえは所有権しょゆうけんであると同時どうじに、責任せきにんの所在しょざいでもある。

開ひらかれた問といでは、責任せきにんだけを負おい、所有しょゆうだけを持もたない立場たちばに置おかれた人ひとは──その営いとなみにおいて、何なにと呼よばれるべきなのか。

問とい四よん 後進こうしんを作つくらないという選択せんたくは、許ゆるされるか

中世ちゅうせいからの声こえ自みずからの職分しょくぶんを全まっとうすることは義務ぎむだが、知ちを独占どくせんし次代じだいに渡わたさないことは、託たくされた賜物たまものの私物化しぶつかである。持もてるものは神かみから預あずかったものであり、埋うめておくことは怠惰たいだの罪つみに接せっする。

現代げんだいからの声こえ研究者けんきゅうしゃに後進こうしん育成いくせいの義務ぎむがあるかは、制度設計せいどせっけいの問題もんだいであって道徳どうとくの問題もんだいではないという立場たちばも成なり立たつ。ただし彼かれが受うけ取とった資料しりょう自体じたいが、無数むすうの他者たしゃの継承けいしょうによって届とどいている。受うけ取とりながら渡わたさない非対称ひたいしょうは、正当化せいとうかしにくい。

開ひらかれた問といでは、自分じぶんが受うけ取とったものが匿名とくめいの他者たしゃからの贈与ぞうよ(赠与/donation/bequest)であったとき──その恩おんは、誰だれに、どういう形かたちで返かえされるべきなのか。返かえす相手あいてが特定とくていできないとき、義務ぎむは消きえるのか。

問とい五ご うまい動うごき方ほうを教おしえることは、助たすけか、飼かい慣ならしか

中世ちゅうせいからの声こえ助たすけである。世よには秩序ちつじょがあり、その秩序ちつじょの中なかでの身みの処しょし方ほうを教おしえることは、年長者ねんちょうしゃの務つとめである。分ぶんを知しって生いきることは屈従くつじゅうではなく、共同体きょうどうたいの平安へいあんへの寄与きよである。

現代げんだいからの声こえ両方りょうほうでありうる。適応てきおうの技術ぎじゅつは生存せいぞんを可能かのうにするが、同時どうじに、その秩序ちつじょを疑うたがう力ちからを削そぐ。教おしえられた側がわは、生いき延のびるほどに、秩序ちつじょの内側うちがわへ深ふかく適合てきごうしていく。

開ひらかれた問といでは、危険きけんな社会しゃかいで子こに生いき延のび方ほうを教おしえる親おやは──その社会しゃかいを変かえる可能性かのうせいを、子こから奪うばっていることになるのか。奪うばわずに教おしえる方法ほうほうは、あるのか。

問とい六ろく 「この世よはそういうものだ」という言葉ことばは、何なにをしているのか

中世ちゅうせいからの声こえ真実しんじつを述のべている。世界せかいの秩序ちつじょは神かみが定さだめたものであり、人ひとがそれを覆くつがえすことはできない。現実げんじつを受うけ入いれることは諦あきらめではなく、被ひ造物ぞうぶつとしての正ただしい姿勢しせいである。

現代げんだいからの声こえ記述きじゅつの形かたちをした規範きはんである。「そうである」から「そうあるべきだ」への移行いこうは、論理的ろんりてきには正当化せいとうかされない。にもかかわらず、この言葉ことばは両者りょうしゃを一続ひとつづきにして、変更へんこうの可能性かのうせいそのものを議題ぎだいから外はずす。

開ひらかれた問といでは、実際じっさいに変かえられないことと、変かえられないと言いわれていることを、その場ばにいる人ひとはどうやって見分みわけるのか。見分みわけられないまま生いきる人ひとに、私わたしたちは何なにを言いえるのか。

六むっつとも、答こたえは出でなかった。

とくに一ひとつ目め──名前なまえを奪うばわれても発表はっぴょうできるなら、それは前進ぜんしんか──について、私わたしたちは慎重しんちょうでなければならない。

無名むめいの貢献こうけんを称たたえる語かたりは美うつくしい。真理しんりは誰だれのものでもない、という言葉ことばも美うつくしい。だがその美うつくしい言葉ことばは、しばしば、奪うばう側がわの口くちから出でてきた。

奪うばわれた側がわが自分じぶんでそう言いうのと、奪うばった側がわがそう言いうのとでは、同おなじ文ぶんでも意味いみが違ちがう。

第だい7話ななわの少女しょうじょは、両方りょうほうを言いった。名前なまえなんて本質ほんしつじゃない、と自分じぶんに言いい聞きかせ、そして泣ないた。

どちらが本心ほんしんかは、たぶん、彼女かのじょにも分わからない。

人物じんぶつ帖ちょう

付録ふろく2 人物じんぶつカード(第だい7話ななわゲート)

ヨレンタの立ち姿のペン画

ヨレンタ

日本語にほんご表記ひょうきヨレンタ

中文ちゅうぶん表記ひょうき訳語やくご未確定みかくてい

声優せいゆう未確認みかくにん(出典しゅってんを確認かくにんできず。組くみ手ては頁ページに載のせないこと)

立場たちば研究所けんきゅうしょの図書館としょかん勤務きんむ。コルベの助手じょしゅ。十四歳じゅうよんさい

性格せいかく内心ないしんで早口はやくちに自問自答じもんじとうする。慎重しんちょうでありながら、好奇心こうきしんが最後さいごに勝かつ

背景はいけい他ほかの職員しょくいんと同おなじ試験しけんに合格ごうかくして採用さいようされた。父ちちから冬ふゆでも勉強べんきょうできるようにと手袋てぶくろを贈おくられたことを、自分じぶんが学者がくしゃである起点きてんとしている

思想しそう神かみと真理しんりのためなら引ひきたくない。ただし第だい7話ななわの終盤しゅうばんで、名前なまえをめぐってはその立場たちばを保たもてなかった

この話はなしまでに明あかされた事実じじつ・研究会けんきゅうかいへの参加さんかを認みとめられず、隠かくれて聴講ちょうこうしていた
・論文ろんぶんを完成かんせいさせ、コルベに提出ていしゅつした
・その論文ろんぶんはピャスト伯はくに評価ひょうかされたが、コルベの名義めいぎで提出ていしゅつされていた
・ピャストに直接ちょくせつ問とわれ、自分じぶんのものではないと否認ひにんした
・コルベに「賢かしこいよ」と言いわれた
・コルベを善人ぜんにんだと結論けつろんし、これが自分じぶんの現実げんじつだと受うけ入いれようとした
・掲示板けいじばんの難問なんもんを見みつけ、無断むだんで記録きろくを閲覧えつらんし、男性名だんせいめいで解答かいとうした
・立たち去さろうとしたところをバデーニに呼よび止とめられた

コルベ

日本語にほんご表記ひょうきコルベ

中文ちゅうぶん表記ひょうき訳語やくご未確定みかくてい

English未確認みかくにん(出典しゅってんを確認かくにんできず。組くみ手ては頁ページに載のせないこと)

声優せいゆう未確認みかくにん(同上どうじょう)

立場たちば研究所けんきゅうしょの職員しょくいん。ヨレンタの上司じょうし

性格せいかく温厚おんこうで面倒めんどう見みがよい。危険きけんを正確せいかくに見積みつもり、そのうえで最善さいぜんと考かんがえる手てを打うつ

背景はいけい第だい7話ななわでは明あかされない

思想しそう女性じょせいの名義めいぎでの発表はっぴょうは危険きけんであり、自分じぶんが名義めいぎを引ひき受うけて評価ひょうかを得えることで、彼女かのじょを安全あんぜんに天文台てんもんだいへ引ひき上あげられる。この世よはそういうものだから、名前なまえは諦あきらめるほかない

この話はなしまでに明あかされた事実じじつ・ヨレンタを優秀ゆうしゅうな助手じょしゅと呼よび、周囲しゅういに対たいして擁護ようごした
・いざという時ときに引ひいたら終おわりだと励はげました
・ヨレンタの論文ろんぶんを自分じぶんの名義めいぎでピャスト伯はくに提出ていしゅつした
・魔女まじょ扱あつかいの危険きけんを挙あげて名義めいぎ変更へんこうを正当化せいとうかした
・ヨレンタの否認ひにんに対たいし「賢かしこいよ」と述のべた

ピャスト伯はく

日本語にほんご表記ひょうきピャスト(作中さくちゅうでは「ピャスト伯はく」「ピャスト様さま」と呼よばれる)

中文ちゅうぶん表記ひょうき訳語やくご未確定みかくてい

声優せいゆう未確認みかくにん(出典しゅってんを確認かくにんできず。組くみ手ては頁ページに載のせないこと)

立場たちば貴族きぞく。研究所けんきゅうしょに対たいして評価ひょうかする立場たちばにある。高齢こうれいで咳せき込こむ描写びょうしゃがある

性格せいかく挨拶あいさつを退しりぞけ、率直そっちょくに不満ふまんを述のべる。一方いっぽうで論文ろんぶんの評価ひょうかは具体的ぐたいてきである

背景はいけい第だい7話ななわでは明あかされない

思想しそう第だい7話ななわでは明あかされない

この話はなしまでに明あかされた事実じじつ・つまらない論文ろんぶんで寿命じゅみょうを無駄むだにしたと職員しょくいんを叱責しっせきした
・ヨレンタの論文ろんぶんを新鮮しんせんで興味深きょうみぶかいと評価ひょうかした
・ヨレンタ本人ほんにんに、あの論文ろんぶんを書かいたのかと直接ちょくせつ問とうた
・否認ひにんを聞きき、そうか、とだけ答こたえて去さった

ヨレンタの父ちち

日本語にほんご表記ひょうきヨレンタの父ちち(第だい7話ななわで固有名こゆうめいは明あかされない)

中文ちゅうぶん表記ひょうき──

English──

声優せいゆう未確認みかくにん

立場たちばヨレンタの父ちち。出張しゅっちょうで忙いそがしいと語かたられる

性格せいかく娘むすめの顔色かおいろから悩なやみを察さっする。厳きびしく助言じょげんした後あと、理解りかいを示しめして謝あやまる

背景はいけい冬ふゆでも勉強べんきょうできるようにと、娘むすめに手袋てぶくろを贈おくった

思想しそう何なにもするな、目立めだつな、栄光えいこうを目指めざすな。粛々しゅくしゅくとつつましやかに暮くらせば、いつか家族かぞくで天国てんごくへ行いける

この話はなしまでに明あかされた事実じじつ・娘むすめの職場しょくばでの扱あつかいを「しょうがないこと」と述のべた
・十四歳じゅうよんさいであること、ただ一人ひとりの女おんなであること、優秀ゆうしゅうであることが周囲しゅういの不安ふあんをあおると説明せつめいした
・娘むすめの反論はんろんを受うけて理解りかいを示しめし、応援おうえんすると述のべた

バデーニ/オクジー(継続けいぞく)

扱あつかい第だい6話ろくわの人物じんぶつカードを継承けいしょうし、以下いかを追記ついきする

バデーニ・第だい7話ななわで明あかされた事実じじつ・書物しょもつの主張しゅちょうを三さん点てんに整理せいりし、真理しんりではなく「限界げんかい」と診断しんだんした
・三みっつの取とり決きめを提示ていじした(後進こうしんは作つくらない/オクジーを観測手かんそくしゅとする/分わけ前まえは九きゅう対たい一いち)
・ポトツキへの一いち割わりの記述きじゅつを消けした
・聖書せいしょ以外いがいの歴史れきしは気きにしないと述のべた
・地獄じごくではなく天界てんかいの入いり口ぐちに立たっていると答こたえた
・施ほどこしは無意味むいみだと述のべ、「持もてる者もの」との接触せっしょくを目的もくてきとした
・掲示板けいじばんに難問なんもんを貼はり、解答かいとう者しゃを待まつ計画けいかくを立たてた

オクジー・第だい7話ななわで明あかされた事実じじつ・観測手かんそくしゅとして研究けんきゅうに参加さんかすることになった
・ポトツキへの一いち割わりを守まもるよう申もうし出でて、自分じぶんの取とり分ぶんから譲ゆずると述のべた
・今いまここにいない人ひとの思おもいを無視むしすると何なにかが失うしなわれる、それは歴史れきしだと述のべた

肖像しょうぞうは提供ていきょう素材そざいのペン画が(背景はいけいは透過とうか処理しょり)。姿すがたが示しめされるのは第だい7話ななわに現あらわれた三人さんにんまでで、氏名しめいの明あかされない人物じんぶつには肖像しょうぞうを置おいていない。記載きさいは第だい7話ななわ終了しゅうりょう時点じてんの情報じょうほうに限かぎる。

付録ふろく1

学術がくじゅつ語彙ごい表ひょう ── 中文ちゅうぶん・English 対照たいしょう

日本語にほんご 中文ちゅうぶん English 分類ぶんるい
天動説てんどうせつ 地心说 geocentrism 天文てんもん
地動説ちどうせつ 日心说 heliocentrism 天文てんもん
惑星わくせい 行星 planet 天文てんもん
火星かせい 火星かせい Mars 天文てんもん
木星もくせい 木星もくせい Jupiter 天文てんもん
彗星すいせい 彗星すいせい comet 天文てんもん
真円しんえん軌道きどう 正圆轨道 circular orbit 天文てんもん
楕円だえん軌道きどう 椭圆轨道 elliptical orbit 天文てんもん
等速とうそく運動うんどう 匀速运动 uniform motion 天文てんもん
面積めんせき速度そくど一定いっていの法則ほうそく 面积速度定律 law of equal areas 天文てんもん
観測かんそく記録きろく 观测记录 observational record 天文てんもん
天文台てんもんだい 天文台てんもんだい observatory 天文てんもん
暦こよみ 历法 calendar 天文てんもん
マラーガ学派がくは 马拉加学派 the Maragha School 天文てんもん
周転しゅうてん円えん 本轮 epicycle 天文てんもん
帰属きぞく 归属/署名权 credit/attribution 哲学てつがく・思想しそう
マタイ効果こうか 马太效应 the Matthew effect 哲学てつがく・思想しそう
マチルダ効果こうか 玛蒂尔达效应 the Matilda effect 哲学てつがく・思想しそう
知識ちしき社会学しゃかいがく 知识社会学 sociology of knowledge 哲学てつがく・思想しそう
科学かがく社会学しゃかいがく 科学かがく社会学しゃかいがく sociology of science 哲学てつがく・思想しそう
優先権ゆうせんけん 优先权 priority 哲学てつがく・思想しそう
構造的こうぞうてき暴力ぼうりょく 结构性暴力 structural violence 哲学てつがく・思想しそう
内面化ないめんか 内ない化か internalization 哲学てつがく・思想しそう
適応てきおう的てき選好せんこう形成けいせい 适应性偏好 adaptive preference formation 哲学てつがく・思想しそう
事実じじつと規範きはん 事实与规范 is–ought distinction 哲学てつがく・思想しそう
自律じりつ 自主性じしゅせい autonomy 哲学てつがく・思想しそう
徳とく倫理りんり 德性伦理学 virtue ethics 哲学てつがく・思想しそう
意図いとと結果けっか 动机与结果 intention and consequence 哲学てつがく・思想しそう
匿名とくめい/偽名ぎめい 匿名とくめい/笔名 anonymity/pseudonym 哲学てつがく・思想しそう
生存者せいぞんしゃバイアス 幸存こうそん者しゃ偏差へんさ survivorship bias 哲学てつがく・思想しそう
査読さどく 同行评审 peer review 宗教しゅうきょう・制度せいど
学術がくじゅつ後援こうえん 学术赞助 patronage 宗教しゅうきょう・制度せいど
大学だいがく 大学だいがく university 宗教しゅうきょう・制度せいど
上級じょうきゅう学部がくぶ 高等こうとう学部がくぶ higher faculties 宗教しゅうきょう・制度せいど
助手じょしゅ 助手じょしゅ assistant 宗教しゅうきょう・制度せいど
魔女まじょ狩かり 猎巫 witch-hunt 宗教しゅうきょう・制度せいど
『魔女まじょに与あたえる鉄槌てっつい』 《女巫之锤》 Malleus Maleficarum 宗教しゅうきょう・制度せいど
魔術まじゅつの嫌疑けんぎ 巫术指控 accusation of witchcraft 宗教しゅうきょう・制度せいど
異端いたん 异端 heresy 宗教しゅうきょう・制度せいど
異端いたん審問しんもん 异端审判 the Inquisition 宗教しゅうきょう・制度せいど
施与せよ 施舍 almsgiving/caritas 宗教しゅうきょう・制度せいど
慈愛じあい 仁爱 caritas/charity 宗教しゅうきょう・制度せいど
救済きゅうさい 救赎 salvation 宗教しゅうきょう・制度せいど
天国てんごく 天堂てんどう Heaven 宗教しゅうきょう・制度せいど
聖職者せいしょくしゃ 神职人员 cleric 宗教しゅうきょう・制度せいど
修道士しゅうどうし 修道士しゅうどうし monk/friar 宗教しゅうきょう・制度せいど
伯はく(伯爵はくしゃく) 伯爵はくしゃく count 宗教しゅうきょう・制度せいど
上級じょうきゅう市民しみん ── ── 宗教しゅうきょう・制度せいど(作品さくひん固有こゆう語ご)
徒弟とてい制せい 学徒がくと制せい apprenticeship 宗教しゅうきょう・制度せいど
遺言ゆいごん 遗嘱 will/testament 宗教しゅうきょう・制度せいど
贈与ぞうよ 赠与 donation/bequest 宗教しゅうきょう・制度せいど
識字しきじ 识字 literacy 宗教しゅうきょう・制度せいど
ラテン語ご 拉丁语 Latin 宗教しゅうきょう・制度せいど
写本しゃほん 手抄しゅしょう本ほん manuscript 宗教しゅうきょう・制度せいど

※「上級じょうきゅう市民しみん」は作中さくちゅうの用語ようごであり学術がくじゅつ語ごではない。マーカーを付ふさないこと。 表ひょうには参照さんしょうのために掲かかげるが、中文ちゅうぶん・English 欄らんは空そらとする。

※「マチルダ効果こうか」「マタイ効果こうか」の中文ちゅうぶんは学術がくじゅつ文献ぶんけんで用もちいられる訳語やくごを記しるしたが、日本語にほんご文献ぶんけんでは原語げんごのまま用もちいられることも多おおい。併記へいきのまま扱あつかうこと。

付録ふろく3

引用いんよう行ぎょうと経過けいか時間じかんの対応表たいおうひょう

照合しょうごう方法ほうほう:字幕じまく書かき起おこし(SRT、全ぜん1768行ぎょう)と全ぜん行ぎょうを突つき合あわせ、語尾ごびまで一致いっちを確認かくにん済ずみ。二に回かい発話はつわされる行ぎょうはその旨むねを記しるす。

節せつ 引用いんよう行ぎょう 経過けいか時間じかん 話者わしゃ
1章いっしょう おい 君きみは参加さんかできないぞ 00:14 所員しょいん
1章いっしょう 神かみ様さま バレませんように 00:38 ヨレンタ
1章いっしょう 中東ちゅうとう異教徒いきょうとによる古代こだいギリシア天文学てんもんがくの修正しゅうせい? 01:42 ヨレンタ
3-1 君きみは我々われわれとは明あきらかに違ちがうからね 03:57 所員しょいん
1章いっしょう いざって時とき 引ひいたら終おわりだ 04:58(18:31に回想かいそうで再出さいしゅつ) コルベ
3-2 1 惑星わくせいの中心ちゅうしんは太陽たいようである 06:14 バデーニ
3-2 2 軌道きどうは真円しんえんである 06:18 バデーニ
3-2 3 惑星わくせいは一定いっていの速度そくどで運行うんこうする 06:20 バデーニ
3-2 いや 限界げんかいだ 06:33 バデーニ
1章いっしょう 幼稚ようちなほどの純粋じゅんすいさを感かんじる 07:05 バデーニ
3-3 1つ目め 後進こうしんは作つくらない 07:47 バデーニ
3-3 他ほかの誰だれかの踏ふみ台だいにされるのはごめんだからな 08:03 バデーニ
1章いっしょう 分わけ前まえは9対きゅうつい1だ 08:28 バデーニ
3-4 これで もう書かいてない 09:03 バデーニ
3-4 今いま ここにいない人ひとの思おもいを無視むししたら 09:40 オクジー
3-4 歴史れきしというか… 09:49 オクジー
3-4 聖書せいしょ以外いがいの歴史れきしなど 私わたしは気きにしない 09:52 バデーニ
1章いっしょう だが 天界てんかいのだ 10:20 バデーニ
3-5 何なにもするな 12:00(18:35に回想かいそうで再出さいしゅつ) ヨレンタの父ちち
3-5 目立めだつな 12:03(18:35に回想かいそうで再出さいしゅつ) ヨレンタの父ちち
3-5 栄光えいこうを目指めざすな 12:05 ヨレンタの父ちち
3-5 私わたしの心こころは学者がくしゃです 12:22 ヨレンタ
3-5 神かみと真理しんりのためなら引ひきたくない 12:25 ヨレンタ
1章いっしょう 施ほどこしなど無意味むいみだ 13:26 バデーニ
1章いっしょう 私わたしの作成さくせいした とびきりの難問なんもんだ 14:33 バデーニ
3-6 女性じょせいの論文ろんぶんなんて誰だれが読よむの? 16:19(18:45に回想かいそうで再出さいしゅつ) コルベ
3-6 すぐ魔女まじょ扱あつかいされて 最悪さいあく 異端いたんとして殺ころされるよ? 16:43 コルベ
3-6 だから 君きみが書かいて私わたしが発表はっぴょうする 16:56 コルベ
3-6 ないよ もう諦あきらめて 17:23 コルベ
3-6 名前なまえが残のこらなくても 17:30 コルベ
3-7 私わたしのものではないです 18:53 ヨレンタ
3-7 賢かしこいよ 19:12 コルベ
3-8 けど違ちがう 彼かれは善人ぜんにんだ 19:44 ヨレンタ
3-8 これが私わたしの 現実げんじつだ 19:58 ヨレンタ
6章ろくしょう そもそも 名前なまえなんて本質ほんしつじゃない 20:10 ヨレンタ
3-8 泣ないたら まるで敗者はいしゃじゃないか 20:32 ヨレンタ
10章じっしょう 悪わるいとかどうでもいいから あれの答こたえが気きになる 22:21 ヨレンタ
1章いっしょう さすがに 男性名だんせいめいにしたし 23:00 ヨレンタ

※ルビ表記ひょうき:「輩やから」は字幕じまく上じょうのルビ。頁ページではルビとして組くむこと。

※回想かいそうでの再出さいしゅつについて:「いざって時とき 引ひいたら終おわりだ」「何なにもするな」「目立めだつな」「女性じょせいの論文ろんぶんなんて誰だれが読よむの?」の四よん行ぎょうは、第だい7話ななわ終盤しゅうばん(18:31〜18:45)でヨレンタの内心ないしんに反復はんぷくされる。名言めいげんブロックには初出しょしゅつの時間じかんを用もちい、回想かいそうの存在そんざいは注記ちゅうきで示しめすこと。

※題名だいめいの表記ひょうきは「真理しんりのためなら」。作中さくちゅうの台詞せりふは「神かみと真理しんりのためなら引ひきたくない」(12:25)である。題名だいめいと台詞せりふを混同こんどうしないこと。

附ふ

付録ふろく4 出典しゅってん

このノートが立たっている土台どだいを、種類しゅるいごとに開ひらいておく。どの文献ぶんけんがどの章しょうを支ささえているかまで記しるすのは、読者どくしゃが検算けんざんできるようにするためである。

作品さくひん資料しりょう

資料しりょう 版はん・話はなし数すう・確認日かくにんび
アニメ『チ。―地球ちきゅうの運動うんどうについて―』第だい7話ななわ「真理しんりのためなら」 NHK総合そうごう、2024年ねん11月じゅういちがつ放送ほうそう/字幕じまく書かき起おこし(SRT、全ぜん1768行ぎょう)を一次いちじ資料しりょうとして使用しよう。確認日かくにんび:2026年ねん8月はちがつ15日じゅうごにち
Seven Seas Entertainment(英語えいご版はん)シリーズ頁ページ https://sevenseasentertainment.com/series/orb-on-the-movements-of-the-earth-omnibus/ /確認日かくにんび:2026年ねん8月はちがつ15日じゅうごにち
Behind The Voice Actors(英語えいご版はん役名やくめい・声優せいゆう) https://www.behindthevoiceactors.com/tv-shows/Orb-On-the-Movements-of-the-Earth/ /確認日かくにんび:2026年ねん8月はちがつ15日じゅうごにち

一次いちじ文献ぶんけん

文献ぶんけん どの章しょうのどの主張しゅちょうを支ささえるか
ハインリヒ・クラーマー『魔女まじょに与あたえる鉄槌てっつい』(1487) 「世よ」の章しょうおよび第だい3-5節ごせつ・第だい3-6節ろくせつ。女性じょせいへの嫌疑けんぎが体系的たいけいてきな理論りろんを得とくたこと。コルベの警告けいこくの背景はいけい(確度かくど:定説ていせつ)
コペルニクス『天球てんきゅう回転かいてん論ろん』第だい1巻いっかん 第だい3-2節にせつ。太陽たいよう中心ちゅうしん・真円しんえん・等速とうそくという前提ぜんていの組くみ(確度かくど:定説ていせつ)
ケプラー『新しん天文学てんもんがく』(1609) 第だい3-2節にせつ。真円しんえんと等速とうそくの前提ぜんていを破やぶることで精度せいどが得とくられたこと(確度かくど:定説ていせつ)
ゴットフリート・キルヒによる1702年ねんの彗星すいせい報告ほうこく 「世よ」の章しょうの結むすび・第だい3-6節ろくせつ。発見者はっけんしゃの名なが報告ほうこくから落おちた事例じれい(確度かくど:定説ていせつ)
中世ちゅうせい大学だいがくの設立せつりつ文書ぶんしょ・学則がくそく 「世よ」の章しょう。大学だいがくが聖職者せいしょくしゃ養成ようせいとして発足ほっそくし、女性じょせいが制度せいど上じょうの対象外たいしょうがいであったこと(確度かくど:定説ていせつ)

研究けんきゅう文献ぶんけん

文献ぶんけん どの章しょうのどの主張しゅちょうを支ささえるか/学界がっかいでの位置いち
Margaret W. Rossiter, "The Matthew Matilda Effect in Science", Social Studies of Science 23(2), 1993, pp.325–341. https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/030631293023002004 「世よ」の章しょうの対比たいひ表ひょう最終さいしゅう行ぎょう、第だい3-6節ろくせつ、第だい5章ごしょうの中核ちゅうかく。女性じょせいの業績ぎょうせきが男性だんせいの同僚どうりょうに帰属きぞくされる偏かたよりの定式化ていしきか。マートンの「マタイ効果こうか」との対応たいおう(確度かくど:定説ていせつ──概念がいねんとして広ひろく受容じゅよう)
Londa Schiebinger, "Maria Winckelmann at the Berlin Academy: A turning point for women in science", Isis 78(2), 1987, pp.174–200 「世よ」の章しょうの結むすび・第だい3-6節ろくせつ。彗星すいせい発見はっけんの帰属きぞくと、夫おっとの死後しごの職しょくの拒否きょひ(確度かくど:定説ていせつ)
マリア・ヴィンケルマンに関かんする伝記でんき研究けんきゅう https://mathshistory.st-andrews.ac.uk/Biographies/Kirch/ / https://britastro.org/journal_contents_ite/in-remembrance-of-maria-winckelmann 同上どうじょう。両者りょうしゃが同等どうとうの技能ぎのうを持もちながら、当時とうじの社会的しゃかいてき地位ちいにより彼女かのじょが助手じょしゅとして振ふる舞まわざるをえなかったこと(確度かくど:定説ていせつ)
R. K. Merton によるマタイ効果こうかの定式化ていしきか(1968) 第だい5章ごしょう。既すでに名なを持もつ者ものに帰属きぞくが集中しゅうちゅうする構造こうぞう(確度かくど:定説ていせつ)
魔女まじょ狩かりの歴史れきしに関かんする研究けんきゅう(激化げきか期きを16世紀じゅうろくせいき後半こうはん〜17世紀じゅうななせいき前半ぜんはんとする年代ねんだい論ろん) 「世よ」の章しょう・第だい4章よんしょうの照合表しょうごうひょう。作品さくひんの時代じだい設定せっていが理論的りろんてき基盤きばんの成立せいりつ期きに重かさなること(確度かくど:定説ていせつ)
中世ちゅうせい・ルネサンス期きの公開こうかい数学すうがく挑戦ちょうせんに関かんする研究けんきゅう(タルタリアとフィオールの決闘けっとう、1535年ねんほか) 第だい4章よんしょうの照合表しょうごうひょう。難問なんもんの公開こうかいによる腕比うでくらべの慣行かんこう(確度かくど:有力ゆうりょく説せつ──最もっともよく知しられる例れいは16世紀じゅうろくせいきイタリアであり、15世紀じゅうごせいきの掲示板けいじばん文化ぶんかとしての実在じつざいは確認かくにんできず)
学術がくじゅつ後援こうえん(パトロネージ)に関かんする科学史かがくし研究けんきゅう 第だい4章よんしょう・第だい5章ごしょう。貴族きぞくが学術がくじゅつの評価ひょうかと資金しきんの両方りょうほうに関与かんよしたこと(確度かくど:定説ていせつ)
Layer A–D 凡例(縮小再掲) 本文のバッジの色と、この四帯の色が対応する。 A 作品世界 C 史実 B 歴史イメージ D 現代の評価 四つの層を混ぜないこと ── 四冊のノートを貫く、この分析全体の作法 確度の札は 定説・有力説・議論あり・俗説 の四段
図ず 13Layer 凡例はんれいの再掲さいけい。読よみ終おえたあとで、もう一度いちどここに戻もどれるように。
難度なんど