Chapter 1-4

文化・宗教

[ 原書 第1部 第4章 文化・宗教 ]

語数 15 / 節 9 / 1節 約1015

原書の導入

そもそも文化とは何か

物の見方は「文化」に規定されている

「文化」というものを考えるにあたって、まず、我々は文化によって物の見方を規定されている、ということを押さえよう。我々は物事をあるがままに見ているつもりでも、実際には文化という色眼鏡(フィルター)を通して見ている。したがって、自分がどのような文化のもとで育ってきたかを知ることで、自分の物の見方を自覚し、また、世界の異なる文化を学ぶことで、多様な物の見方を身につけることができるのである。

なお、文化のあり方に大きな影響を与えるものとしては、地理的・時代的条件や民族的条件とともに、宗教も見逃すことはできない。キリスト教文化・儒教文化などというように、宗教と文化とを結合して言う場合もある。文化を宗教の側からとらえることも重要なのである。

「文化」と「文明」

文化について論じた文章は具体例も多く、これまでの人生で経験的に感じている内容も含まれるため、得意だと思っている人もいるかもしれない。

ところが、「そもそも文化とは何か」と聞かれたらとまどうのではないか。たとえば「文化」と「文明」とはどう違うのか、という問いに答えられる人は少ないだろう。

明治期の日本は近代化を目指して、西洋文明を取り込んだ。この場合に西洋「文化」とは言わず西洋「文明」と言うことが多いのは、「文明」という言葉が、世界に普遍的な影響力をもつ特別な文化を意味するからだ。西洋の民主主義や近代科学・教育制度が世界の多くの国に受け入れられる力をもっていたために、文明とよばれるのである。

一方、「文化」という表現はその時代や集団に特有なものを指す時に使われる。たとえば日本の文化は外国に対して普遍的な影響力を及ぼさなかった。そのため、日本文明という言い方は普通用いられない。

つまり、「文明」は、その国だけでなく同時代の他国にも大きな影響力をもっているが、「文化」は、特定の地域や集団内で影響をもったもののことを指す。

ヨーロッパと日本

日本文化の特徴について、入試でこれまでよく出題された日本文化論をまとめておく。

第一は、西洋の社会が自分たちの権利を守るために個人が集まって作ったもの(市民社会)であるのに対して、日本の場合は、個人よりも身内などの集団の方を重要視する社会(世間)だとするものである。ここから、西洋=「罪の文化」、日本=「恥の文化」という対比も可能となる。

第二は、西洋では物事を理知的にとらえてきたのに対し、日本では感性的にとらえてきたとするものである。たとえば、川の流れを見て、流れの速さを知ろうとするのが西洋的な考え方だが、日本人は川の流れを人生の流れとして受け止め、感情移入してきた。

このように、日本では繊細な感受性は育ったが、科学的精神は育たなかったとされる。あるいは、庭園を比較してみても、西洋には人為的・人工的な工夫がほどこされた幾何学的なデザインの庭園が多いのに対して、日本の庭園は曲がった松の樹木にも美を認める。日本の文化は自然の景色を手本とし、あるがままの自然を尊重しようとするものなのだ。

こういったところからも、西洋と日本との違いがわかるだろう。

ヨーロッパ中心主義から文化相対主義へ

さらに、それぞれの「文化」の多様性を認めようという趣旨の文章も多く出題される。「文化」の多様性を認める立場を「文化相対主義」と言う。

二十世紀に生まれた文化人類学は、アフリカや南米など、それまで西洋の進んだ文明に対して「未開」とされてきた世界に足を踏み込み、西洋以外の地域の中に、それぞれ固有の文化が存在していることを明らかにした。これによって、それまで西洋を中心としていた文化の見方を「相対主義的」にとらえるようになってきたのだ。

また、西洋を、進歩的で合理的なイメージとしてとらえ、それとは反対に、東洋を神秘的で発展途上で、非合理的なイメージとしてとらえようとしてきた西洋人の世界観が、「オリエンタリズム」というキーワードによって批判されている。

さらに、一つの国をとってみても、一つの国の中に多様な文化の存在を認めようとする「多文化主義」ということが重視されるようになった。それまでは、一つの国家は一つの民族によってつくられるという考えがあったため、一つの国家に多数の文化が存在していることは認められてこなかった。それが変化してきたのである。

普遍的で画一的な西洋文明だけをモノサシとすることを反省し、それぞれが特殊で個別的なものである文化の多様性を見直す動きへと移行している。

Macro — 文化・宗教の地図

尺度を誰が持っているか

文化・宗教の全体地図文化とは何か、ヨーロッパと日本の対比、ヨーロッパ中心主義から文化相対主義への転換という三つの論点を示した図。 POINT 1 ── 文化とは何か 物の見方を規定する 地域・集団に固有 宗教の影響が大きい ⟷ 文明 POINT 2 ── ヨーロッパと日本 社会 ⟷ 世間 罪の文化 ⟷ 恥の文化 対比そのものが一つの見方である POINT 3 ── ヨーロッパ中心主義 ヨーロッパが進歩のモノサシ → 未開社会への蔑視 反省 文化相対主義 文化に優劣はなく、多様性を認める この章の争点は、尺度を誰が持っているかにある ただし優劣を捨てると、普遍的な人権も主張できなくなる
文化とは何か/ヨーロッパと日本/中心主義から相対主義へ

この章の出発点は、我々は文化によって物の見方を規定されているという一点にある。文化は所有物ではなく、世界を見るための色眼鏡である。そこから二つの論点が出る。一つは、ヨーロッパを進歩の尺度としてきた見方への反省。もう一つは、日本を「社会」ではなく「世間」で説明しようとする議論である。どちらも尺度がどこに置かれているかを問う点で同じ形をしている。

文化と文明固有にとどまる文化と、普遍化への意志と装置を備えて他文化を統一した文明の違いを示した図。 文化 集団や地域に固有 生活様式・言語・思想・芸術 ① 普遍化への意志 ② 制度と機構 ③ 他文化を統一 文明 普遍・物質的な影響力 民主主義・近代科学・教育制度 ②の中身 軍隊・警察統治制度教育制度 価値を布教し教化する装置 文明は文化より上等なのではない。攻撃的な姿勢をもった文化である。
文化と文明 ── 上下ではなく志向の違い

文明は文化より進んだ段階ではない。普遍化への意志を持ち、それを実行する制度と機構を備え、実際に他の文化を自分の価値のもとに統一した文化が文明と呼ばれる。つまり文明とは、攻撃的な姿勢を持った文化である。この読み替えが、そのままヨーロッパ中心主義批判につながる。

Index — 16 sections

  1. 01文化/文明
  2. 02自文化(自民族)中心主義
  3. 03文化相対主義/文化人類学
  4. 04制度
  5. 05世間
  6. 06神話
  7. 07アニミズム
  8. 08ドグマ/規範
  9. 09オリエンタリズム/エスニシティ/クレオール/禁忌(タブー)
Section 01

文化/文明

73

文化ぶんか

ぶんか[1]頭高型

語構成
あや・かざり・ことばなる・かえる
定義

人間の精神活動によって生み出されたもの。普遍的な文明に対して、「時代や地域に固有」というニュアンスで用いられる。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑73
使用の境界

人間の精神活動が生み出したもの。時代や地域に固有である点が要点で、優劣を測る尺度ではない。

用法

評論文の中核は「我々は文化によって物の見方を規定されている」という主張である。文化は所有物ではなく、世界を見るための色眼鏡だという捉え方。したがって「文化を持つ/持たない」という言い方は成り立たず、どの集団にも文化がある。この前提が☑76 文化相対主義を支える。日常語の「文化的な生活」(=便利で快適)は物質面を指すので、評論の用法とは逆向きになりやすい。読解では、優劣を含意しているかどうかを見る。

用例
  • 我々は文化という色眼鏡を通して物を見ている。文化は所有物ではなく認識の枠。この章の出発点。
  • 宗教は文化のあり方に大きな影響を与える。キリスト教文化・儒教文化のように結合して言う。
  • △文化的な生活を送る。日常語の用法で、便利さ・快適さを指す。評論の「文化」とは層が違う。
原書の反意語・関連語

74 文明

派生形
  • 文化的ぶんかてき[0]
  • 文化圏ぶんかけん[3]
  • 異文化いぶんか[2]
コロケーション
  • 文化に規定される
  • 異文化理解
  • 文化的背景

書き言葉・会話の両方で使える。

類語と差
  • 文明普遍化する力をもった文化広がりの有無で分かれる。文化は固有、文明は普遍を志向する。同じものの段階差ではなく、性質の違い。
  • 伝統受け継がれてきたもの時間の縦軸。文化は同時代の広がりも含む。
  • 習俗土地に根づいた慣わし民俗学の語。生活の細部を指し、思想や芸術は含まない。
  • 教養身につけた知識や品位個人に属する。日本語の「文化」は集団に属する。

ENculture
ZH文化(文化, wénhuà)

74

文明ぶんめい

ぶんめい[0]平板型

語構成
あや・かざり・ことばあきらか
定義

技術や物質面で普遍的な影響力をもつ文化のこと。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑74
使用の境界

普遍化への意志と、それを実行する装置をあわせ持った文化。技術的・物質的な影響力を伴う。

用法

原書の入試文が示す定義が精密である。文明とは、①普遍化への意志を持ち、②それを実行する制度や機構(軍隊・警察・教育制度)を備え、③実際に他の文化を自分の価値のもとに統一した文化を指す。この三条件がそろって初めて文明になる。したがって文明は文化より上等なのではなく、攻撃的な姿勢を持った文化である。この読み替えが、そのままヨーロッパ中心主義批判につながる。「文明の衝突」はハンチントンの語で、冷戦後の対立を文明の単位で捉える議論。

用例
  • 文明とは、普遍化への意志を持った文化のことである。上下ではなく志向の違い。原書の入試文の中心。
  • その意志を実行に移すだけの装置を備えていることが必要である。軍隊・警察・教育制度。制度なしに文明にはならない。
  • エジプト文明・イスラム文明・西洋文明。世界史的な影響力を持ったものだけが文明と呼ばれる。
原書の反意語・関連語

73 文化

派生形
  • 文明的ぶんめいてき[0]
  • 文明化ぶんめいか[0]
  • 文明論ぶんめいろん[0]
コロケーション
  • 西洋文明
  • 文明の衝突
  • 文明化する

書き言葉・会話の両方で使える。

類語と差
  • 文化時代や地域に固有のもの普遍化を志向しない。文明はそれを志向し、他の文化を統一しようとする。
  • 近代化制度と技術を西洋型に変える過程の名。文明はその結果として立ち現れた状態。
  • 進歩よい方向へ進む価値判断を含む。文明は状態の記述だが、しばしば進歩と同一視されてきた。
  • 帝国他を支配する政治体政治の形。文明は文化的価値による統治という側面を含む。

ENcivilisation
ZH文明(文明, wénmíng)

解説 ── 文化・文明

文化には、地域固有の生活様式や行動パターン、言語・精神性・思想・芸術などあらゆるものが包含されるが、文明は技術的・物質的な発展に対して用いられる。

また、ある時代に他の文化に対しても強い影響力をもつような人類的な規模の文化を、文明と呼ぶ論者もいる。近代に生まれた西洋文明を「文化」と言わず、「文明」と表現するのは、西洋の政治制度や経済制度・教育制度が世界全般に普及し、技術的・物質的な面において影響を与えたからである。

たとえば ── 文化・文明

文明とよばれるものは限られている。エジプト文明・イスラム文明・西洋文明など、世界史において非常に大きな影響力をもっていたものだけを文明とよぶ。

対立の軸

文化/文明 の軸 = 普遍化を志向するか

文化時代や地域に固有。他を統一しようとしない。
普遍化を志向するか
文明普遍化への意志と装置をもち、他文化を統一する。
文化と文明固有にとどまる文化と、普遍化への意志と装置を備えて他文化を統一した文明の違いを示した図。 文化 集団や地域に固有 生活様式・言語・思想・芸術 ① 普遍化への意志 ② 制度と機構 ③ 他文化を統一 文明 普遍・物質的な影響力 民主主義・近代科学・教育制度 ②の中身 軍隊・警察統治制度教育制度 価値を布教し教化する装置 文明は文化より上等なのではない。攻撃的な姿勢をもった文化である。
文化が文明になるための三つの条件
入試文

ある一つの「文化」は「普遍化への意志」を持って、他の諸文化への攻撃的な姿勢を示したときに、「文明」となり得るのではないか。そして、そのことは、ヨーロッパの十八世紀に「文明」という概念が造られたときに、暗々裏にその概念のなかに込められた潜在的な前提ではなかったか。
もちろん、実は「普遍化」への意志だけがあっても「文化」は「文明」にはなれない。その意志を実行に移すだけの、社会的な制度や機構(そのなかには軍隊や警察のような、権力の施行を円滑にするための統治制度も、あるいは自らの文化的価値を布教し教化するための教育制度も、重要な一つの要素として含まれる)を備えていることが必要である。
言い換えれば、「文明」とは、一つの「文化」が、そうした普遍化への意志を持ち、その意志を実行に移すだけの装置を備え、そして事実、多くの異なった文化を、自分の文化的な価値のなかで統一する形で支配し統治したときに、その状態に対して付される術語ではないか。

出典 村上陽一郎「文明のなかの科学」 / 出題 立教大学・経済学部

読解のポイント
ある一つの「文化」
↓
- 普遍化への意志
- 社会的な制度や機構
↓
「文明」
要約

文明とは、ある一つの文化が普遍化しようとして、そのための社会的な制度や機構を備え、多くの異なった文化を自分の文化的な価値のなかで統一した状態のことである。

語法の観察

「〜ではないか」という問いかけの形で定義を提示する。断定を避けながら、三段構えで条件を積み上げていく。

Section 02

自文化(自民族)中心主義

75

自文化(自民族)中心主義じぶんかちゅうしんしゅぎ

じぶんかちゅうしんしゅぎ[0]平板型

語構成
みずから中心まんなか主義立場・考え方
定義

自分たちの所属する文化(民族)の基準によって、他の文化を判断すること。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑75
原書の解説

自文化の価値観や規範を絶対視し、他の文化にも押しつけてしまうことを自文化(自民族)中心主義と言う。海外に進出した企業が、自国でのルールをそのまま適用することで、現地の労働者との間に軋轢が生じることがあるが、これは今日の産業社会で見られる自文化中心主義の例だ。

自分の所属している民族集団や文化に愛着をもつのは自然な感情だが、それがエスカレートするとナショナリズムが過激化し、異文化を拒絶排斥する態度に傾いてしまう。国際社会でも、自文化(自民族)を肯定するために人種差別や外国への侵略、テロなどの暴力によって異文化を壊滅しようと過激な行動に走ってしまう例は少なくない。

ちなみに、自民族中心主義は英語の `ethnocentrism` の訳語で、`ethno`(=人種、民族)と `centrism`(=中心主義)が結合してできた語である。

たとえば

二十世紀のナチスによるユダヤ人虐殺、ユーゴスラビア解体後のセルビアやクロアチアの〈民族浄化〉による諸民族紛争は、自民族中心主義が露骨に表れた例である。

使用の境界

自分の属する文化を基準にして他の文化を測り、劣ったものとみなす態度。比較すること自体ではない。

用法

「エスノセントリズム」とも言う。誰もが自分の文化を当たり前だと感じているので、この態度は自覚されにくいという点が要点である。だから批判は、悪意を責めるのではなく無自覚を問うものになる。ヨーロッパ中心主義がその代表で、ヨーロッパを進歩の到達点とみなし、そこから遠い社会を「未開」と呼んで蔑視した。この見方が植民地支配を正当化した。読解では、誰が誰を測っているかという尺度の所在を見る。

用例
  • ヨーロッパを進歩のモノサシとするのは自文化中心主義である。尺度が一方の側に置かれている。
  • 自文化中心主義は自覚されにくい。当たり前だと感じているため。無自覚が問題の核心。
  • ×他の文化と比べるのは自文化中心主義だ。比較そのものではなく、自文化を尺度に据えて優劣をつけることを指す。
原書の反意語・関連語

76 文化相対主義

派生形
  • エスノセントリズム
  • 自民族中心主義じみんぞくちゅうしんしゅぎ[0]
コロケーション
  • 自文化中心主義に陥る
  • 自民族中心主義的な視点
硬・学術

論文・評論でのみ使う。会話では不自然。

類語と差
  • 文化相対主義文化に優劣をつけない正面の対立立場。この章の主軸となる対。
  • ヨーロッパ中心主義ヨーロッパを進歩の尺度とする自文化中心主義の具体形。世界史の記述を規定してきた。
  • 排外主義他者を排除しようとする行動の側。自文化中心主義は物の見方の側で、排除を伴わない場合もある。
  • 愛国心自国を大切に思う気持ち感情。他を劣位に置く判断を必ずしも含まない。

ENethnocentrism
ZH民族中心主义(自民族中心主義, mínzú zhōngxīn zhǔyì)

尺度の所在自文化を尺度に置く自文化中心主義と、尺度を外して並べる文化相対主義の違いを示した図。 自文化中心主義 自文化 遅れている 進歩のモノサシ 文化相対主義 尺度がない。優劣が言えない。 ただし尺度を完全に捨てると、どの文化の慣行も批判できなくなる。 ここで普遍的な人権と、文化の固有性が衝突する
尺度を誰が持っているか
入試文

今日、「文化の多様性」への脅威は二つの方向から来る。一つはタリバーンの古代大仏破壊のような宗教的過激主義による脅威である。これには世界各地にみられる異文化拒否と他者排斥を声高に主張する自文化・自民族中心主義や全体主義的イデオロギーの激しい動きなどが含まれる。こうした文化と人間の破壊は、それが地球のどこで行われようと、真のグローバルな問題として受けとめる必要がある。仏像破壊は日本の近代史とも無縁ではない。中国の文化大革命のような例もある。
いま一つの脅威は、グローバリゼーションのかけ声の下に急速に世界を席巻しつつある「ファストフード化」の波である。これは単に食品のことだけでなく、文化の簡易化・単純化と画一化のことを指す。

出典 青木保の文章 / 出題 和洋女子大学・人文学部

読解のポイント
「文化の多様性」への脅威
- 宗教的過激主義
- 自文化・自民族中心主義
- 全体主義的イデオロギー
- 「ファストフード化」の波
要約

現在、「文化の多様性」は、宗教的過激主義と「ファストフード化」の波という二つの脅威にさらされている。

語法の観察

自分たちの当たり前を例に挙げてから一般化する。読者自身をその構図の内側に置く書き方になっている。

Section 03

文化相対主義/文化人類学

76

文化相対主義ぶんかそうたいしゅぎ

ぶんかそうたいしゅぎ[0]平板型

語構成
文化精神活動の産物相対比較で成り立つ主義立場
定義

文化には絶対的な価値基準は存在しないとして、文化の多様性を認め、異文化を尊重する立場。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑76
原書の解説

従来の学問には、自文化中心主義的な考え方があったが、二十世紀に入るとそれが反省されて文化相対主義が提唱されるようになった。

たとえば

病気の原因が、研究者の育った文化では〈ウイルス〉で、研究対象の文化では〈悪魔の呪い〉だったとしよう。この時研究者は、自分の理屈に合わないからといって、対象の文化を単純に非合理で間違ったものだと決めつけずに、対象の文化の考え方をそのまま認めて研究していく。これが文化相対主義の立場である。

使用の境界

文化に優劣はなく、それぞれ固有の価値を持つとする立場。すべてを容認するという意味ではない。

用法

☑26 相対の考え方を文化に適用した立場である。評論文では肯定的に紹介されることが多いが、批判も定型化している。優劣をつけないという原則を徹底すると、女性器切除や名誉殺人のような慣行も「その文化の価値」として容認せざるをえなくなる、という難点である。ここで☑1 普遍が呼び戻され、普遍的な人権と文化の固有性が衝突する。読解では、この立場が紹介されているだけか、批判の対象になっているかを見分ける。

用例
  • 文化に優劣はなく、多様性を認めるのが文化相対主義である。ヨーロッパ中心主義への反省から生まれた。
  • 文化相対主義を徹底すれば、人権の普遍性は主張できなくなる。定型化した批判。☑1 普遍と衝突する。
  • 未開社会という呼び方自体が、すでに尺度を含んでいる。相対主義の視点から見た批判。
原書の反意語・関連語

75 自文化(自民族)中心主義 / 関 26 相対

派生形
  • 文化相対的ぶんかそうたいてき[0]
コロケーション
  • 文化相対主義の立場
  • 文化相対主義への批判
硬・学術

論文・評論でのみ使う。会話では不自然。

類語と差
  • 自文化中心主義自文化を尺度にする正面の対立立場。文化相対主義はこれへの反省から生まれた。
  • 多文化主義複数の文化の共存を制度化する政策の側。文化相対主義は認識の態度。
  • 相対主義唯一の基準を認めないより広い立場。文化相対主義はその文化への適用。
  • 普遍主義どの文化にも共通する価値があるとする対立立場。人権をめぐる議論でこの対が争点になる。

ENcultural relativism
ZH文化相对主义(文化相対主義, wénhuà xiāngduì zhǔyì)

77

文化人類学ぶんかじんるいがく

ぶんかじんるいがく[0]平板型

語構成
文化精神活動の産物人類学人間を研究する学
定義

さまざまな文化を対象にして、各文化の特徴や、文化一般に共通する特徴を研究する学問。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑77
原書の解説

文化人類学では、基本的に文化の差異や多様性を認めながら、現存する文化の機能や構造を、フィールドワーク(=実際に現地で行う調査)などの実証的な方法を用いて研究する。

たとえば

アフリカのある地域を調査して、その文化の家族制度を分析するなどといった研究が典型的。

使用の境界

諸文化を比較して人間を理解しようとする学問。優劣を測らずに内側から記述する点が方法の核になる。

用法

評論文では学問名としてよりも、視点の名前として現れる。「文化人類学的に見れば」は、自分たちの当たり前を一度外して、内側の論理から理解しようとする構えを指す。この視点が☑76 文化相対主義を支える方法になっている。もう一つの含意が自文化への跳ね返りで、他文化を研究することで自文化の特殊性が見えてくる。日本論・日本人論の多くはこの構図を借りている。

用例
  • 文化人類学は、他の文化を内側の論理から理解しようとする。優劣を測らずに記述する。相対主義の方法的な裏づけ。
  • 他文化の研究は、自文化の特殊性を照らし返す。跳ね返りの構図。日本人論が借りている枠組み。
  • フィールドワークによって現地の意味世界を記述する。方法の中心。文献研究ではない。
原書の反意語・関連語

76 文化相対主義

派生形
  • 文化人類学的ぶんかじんるいがくてき[0]
コロケーション
  • 文化人類学の視点
  • フィールドワーク
硬・学術

論文・評論でのみ使う。会話では不自然。

類語と差
  • 民族学諸民族の文化を記述するヨーロッパでの呼び名。文化人類学はアメリカ系の呼称で、内容はほぼ重なる。
  • 民俗学自国の民間伝承を研究する対象が自国。文化人類学は他文化を扱う伝統から始まった。
  • 社会学近代社会の構造を研究する対象が近代社会。文化人類学は非西洋社会の研究から出発した。
  • フィールドワーク現地に住み込んで調べる方法の名。文化人類学の中心的な手続き。

ENcultural anthropology
ZH文化人类学(文化人類学, wénhuà rénlèixué)

ヨーロッパと日本の対比個人主義と集団主義など、ヨーロッパと日本を七つの軸で対比した図。 ヨーロッパ 日本 個人主義集団主義 個の論理場の論理 契約義理・人情 市民社会世間 罪の文化恥の文化 理知的感性的 人工自然 この表は説明であると同時に、一つの見方でもある
ヨーロッパと日本 ── 対比という見方
入試文

「文化人類学」による、これまでの、非西洋社会の豊富な研究の知見によれば、一見したところ「非合理的」あるいは「非論理的」にしか見えない「未開社会」の行為や慣習が、広い社会的・自然環境的な背景のなかでは、きわめて高い「合理性」をもっていたりする。
つまり、そのような広い背景のなかで、行為や慣習といった「現象」を理解しなければならない、ということがわかってきた。そのような視点を「文化相対主義」(cultural relativism)的な見かた、と呼んでいる。
*エスノセントリックな見かたを自戒して、文化相対主義的な見かたで異文化を見よう、というのがまず基本的な姿勢として考えられてきた。
\*エスノセントリック――自文化中心主義的。

出典 住原則也の文章 / 出題 甲南大学・文学部・経営学部

読解のポイント
文化相対主義的な見かた
「未開社会」の行為や慣習
← 広い社会的・自然環境的な背景
→ きわめて高い合理性
要約

文化人類学によって、未開社会の行為や慣習に合理性が発見され、文化相対主義的な見かたで異文化を理解しなければならない、ということがわかってきた。

語法の観察

他文化の記述を通じて自文化を照らし返す構成。他者について語りながら、実は自分について語っている。

Section 04

制度

78

制度せいど

せいど[1]頭高型

語構成
さだめる・おさえるのり・きまり
定義

社会的・文化的に定められている、仕組みや決まり。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑78
原書の解説

制度と言うと、議会制度・選挙制度など、法律によって定められている仕組みをすぐに思い浮かべる人もいるだろう。しかし評論文で登場する「制度」は、人間が暗黙のうちに従っているものという意味で用いられることが多い。

右の例文でも、複雑な視覚像から「山水」だけを採り上げる感覚を「文化の制度」としているが、これも明文化された決まりやルールではなく、暗黙のうちに人々が自然に対してとっている態度のことを指している。

〈暗黙のうちに従っている〉ということは、〈根拠もなく縛られている〉という考えにもつながりやすい。したがって評論文では、制度という語は、否定的な意味合いで用いられやすいということも覚えておこう。

たとえば

「恋愛」という概念は、〈恋愛して一人前〉という主張や〈恋愛結婚こそが理想の結婚〉という思い込みを伴う。この時、恋愛は制度として機能していることになる。

使用の境界

社会的に定められ、共有されているしくみ。法として明文化されたものに限らず、慣習も含む。

用法

評論文では「自然に見えているものが実は制度である」という指摘の形で使われることが最も多い。家族・結婚・言語・貨幣・国民──どれも人がつくったものなのに、自然物のように感じられている。この転換が☑19 虚構と接続し、「制度の虚構性」という言い方になる。また☑50 科学の制度化のように、個人の営みが組織化される過程を指す動詞形も重要。「制度疲労」は、しくみが現実に合わなくなった状態を言う定型句。

用例
  • 家族は自然なものではなく、一つの制度である。自然に見えるものを制度として捉え直す。批判の定型。
  • 既存の制度が現実に追いつかなくなっている。制度疲労。しくみと現実のずれ。
  • 科学研究が制度化された。☑50 と接続。個人の営みが組織に組み込まれる過程。
原書の反意語・関連語

19 虚構50 科学の制度化83 規範

派生形
  • 制度的せいどてき[0]
  • 制度化せいどか[0]
  • 社会制度しゃかいせいど[3]
コロケーション
  • 制度を設ける
  • 制度化する
  • 制度疲労

書き言葉・会話の両方で使える。

類語と差
  • 規範こうあるべきという基準当為を示すだけ。制度は運用の仕組みと担い手を伴う。
  • 慣習繰り返されてきたやり方明文化されない。制度は慣習を含みうるが、より組織的。
  • 国家が定めた強制的な規則制度の一形態。制度はより広く、家族や言語も含む。
  • システム要素が組み合わさった仕組み機械的・機能的な語。制度は社会的な合意を前提とする。

ENinstitution
ZH制度(制度, zhìdù)

自然に見えるものが制度である自然物のように感じられている家族・言語・貨幣・国民が、実は人がつくった制度であることを示した図。 自然に見えている 家族言語貨幣国民 問い直す 人がつくった制度である 虚構性を暴く つくり直せる 自然物なら変えられないが、制度なら変えられる
自然に見えるものが、実は制度である
入試文

たとえば東アジア一帯で広く風景と同義に使われる「山水」を例にとろう。風景は山や水だけで構成されるわけではない。森も野も畑も見えるだろう。家もあるし道もある。複雑な視覚像のなかから、なぜ山と水だけが採られるのだろう。この二要素だけが他を排して抜きんでる必然性はあるのだろうか。
眼前の視覚世界の混沌からこの二つを採り上げ双対的に分節するのは、永い文化史のなかで定められた一つの恣意的な制度ではないだろうか。私たちはこのような文化の眼鏡をかけて風景を眺めている。つまり山水とは特定の文化圏で定められた文化の制度であって自然現象を指すのではない。
山水という風景制度は山↔水という双対構図を成すことにあらためて注意したい。東アジア以外の文化圏の人々とて視覚現象(見分け)として山や水が見えないはずはない。しかし、風景の印象全体が山と水の双対感覚により代表されることはない。

出典 中村良夫『風景学・実践篇』 / 出題 上智大学・文学部

読解のポイント
複雑な視覚像のなかから、山と水だけを採ること
= 恣意的な制度
= 文化の眼鏡をかけて風景を眺めている
→ 山水は文化的な制度
要約

東アジア文化圏の人々が、複雑な視覚像のなかから山水だけを採り上げるのは、文化的な制度である。

語法の観察

「〜にすぎない」という限定表現が、自然に見えていたものを人為へ引き下ろす働きをしている。

Section 05

世間

79

世間せけん

せけん[1]頭高型

語構成
よ・時代あいだ
定義

個人よりも集団を優先させる、日本に特有な人間関係のあり方。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑79
原書の解説

日本の特徴的な人間関係を指す世間という言葉は、欧米の「個人―社会」と対比されて論じられることが多い。

「世間論」を精力的に研究している歴史学者の阿部謹也によれば、世間は、日本人が属する人間関係そのものであり、自分たちの暗黙の掟を破る者に対して、陰口を言う・交際を絶つ・無視するなど、容赦のない制裁を加えるという。

地域・学校・会社で起こる村八分的なイジメ、凶悪犯罪者の家族への度を過ぎた非難、インターネット上での匿名性を盾にとった個人攻撃などはみな、世間が加える制裁の典型的な例だ。ゆえに、世間の中で生きる日本人は、世間から仲間はずれにされることを極度に恐れる。

世間の一員として自分がどう振る舞うべきかを優先する日本人は、発言をする際にも、世間を意識した建前によって本音を隠してしまう。このように日本の世間は、個人に対して抑圧的に働き、見えない権力として作用する。

たとえば

日本人が会議を行う場合、個人の意見(本音)よりも先に、会社という世間のバランスを崩さないことが優先される。そのため、儀礼的・形式的に、建前が述べられることが多い。

使用の境界

自分が関わる人々の圏。顔の見える範囲に限られ、そこに属さない他人は含まない。

用法

日本論の中心語である。要点は「社会」との対比にあり、社会が誰にでも同じ規則の及ぶ抽象的な広がりであるのに対し、世間は顔の見える範囲にしか及ばない。だから世間の外の他人には配慮が働かず、「旅の恥はかき捨て」という言い方が成り立つ。「世間体」「世間並み」は、その圏内での評価を気にする言葉。ルース・ベネディクトの「恥の文化/罪の文化」の対と結びつけて論じられることが多い。

用例
  • 世間体を気にして本音を言わない。顔の見える範囲での評価が行動を縛る。
  • 社会は誰にでも及ぶが、世間は関係のある範囲にしか及ばない。この章の日本論の中心的な対比。
  • 旅の恥はかき捨て。世間の外では規範が働かないことを示す成句。
原書の反意語・関連語

73 文化

派生形
  • 世間体せけんてい[0]
  • 世間並みせけんなみ[0]
  • 世間知らずせけんしらず[4]
コロケーション
  • 世間の目
  • 世間体を気にする
  • 世間を渡る

書き言葉・会話の両方で使える。

類語と差
  • 社会個人が契約で結ぶ広がり西洋語 society の訳。誰にでも同じ規則が及ぶ。世間は関係のある範囲にしか及ばない。
  • 世の中人の暮らす場一般中立で広い。世間は評価のまなざしを含む。
  • 共同体生活を共にする集団実体としての集まり。世間は輪郭の定まらない圏。
  • 人目他人からの視線視線そのもの。世間はその視線が働く場全体を指す。

ENseken / one's social world
ZH世间(世の中, shìjiān)

日中のズレ

中国語の 世间(shìjiān)は「この世・世の中」の意で、仏教語の色合いも残る。

日本語の「世間」がもつ顔の見える範囲という含みは中国語にはなく、社会学の議論では日本語のまま用いられることが多い。

社会と世間誰にでも規則が及ぶ社会と、顔の見える範囲にしか及ばない世間の広がりの違いを示した図。 社会 誰にでも同じ規則が及ぶ 顔を知らない相手も含まれる 世間 顔の見える範囲にしか及ばない 外側の他人には配慮が働かない 「旅の恥はかき捨て」が成り立つ理由がここにある
社会と世間 ── 及ぶ範囲が違う
入試文

我が国においては個人は長い間西欧的な個人である前に自分が属する人間関係である「世間」の一員であった。したがって何らかの会合において発言する際には個人としての自分の意見を述べる前にまず自分が属する「世間」の利害に反しないことを確認しなければならない。
まず「世間」人として発言しなければならなかったのである。自分自身の意見は本音として「世間」の陰に隠れていた。「世間」を代表する発言はこうして個人にとっては建前となり、本音と区別されたのである。
こうして「世間」と個人の関係の中で我が国における建前と本音の区別が生まれたのである。

出典 阿部謹也『「教養」とは何か』 / 出題 国士舘大学・政経学部など

読解のポイント
西欧
個人として発言
↕︎
日本
「世間」人として発言
↓
本音と建前の区別
要約

西欧では個人は個人として発言するが、日本では世間の一員として本音と建前を区別しなければならない。

語法の観察

日本語の語をそのまま概念として立てる。訳語を当てないこと自体が、対応する概念がないという主張になっている。

Section 06

神話

80

神話しんわ

しんわ[0]平板型

語構成
かみはなし
定義

① 神にまつわる物語。 ② 1が転じて、根拠もないのに絶対的なものと信じられている事柄。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑80
原書の解説

神話とは、神にまつわる話を中心にして、万物の起源や自然現象を説明した物語のことであり、固有の地域・民族はそれぞれに固有の神話をもっている。したがって、一見デタラメに見える神話にも、特定の地域に住む古代人の物の見方や考え方が反映されていると考えることもできる。

神々の行動を説明原理とする神話的な世界観は、科学の発展によって徐々に退けられていく。たとえば、神話的世界観では森羅万象は神々の作品だが、ギリシア時代の哲学者は万物の説明原理を水や火などの物質に求めた。これは、人類が神話的な世界から抜け出し、合理的な世界観へと一歩近づいたことを意味している。

なお、評論文では、「根拠もないのに信じられている虚構」という文脈で「神話」が使われることも多い(「安全神話」「土地神話」など)。このような文脈で出てくる神話は、否定的な評価を示す語として用いられる。

たとえば

学歴があれば将来安泰に暮らせると信じることを、「学歴神話」と言う。本来、学歴と実力とが常に一致するとは限らないのに、「学歴があれば実力もあるから、会社でも出世できる」と信じられてきた。しかし、近年は実力本位の競争社会になり、このような学歴神話も崩壊し始めている。

使用の境界

集団の由来や秩序を説明する物語。転じて、根拠が問われないまま信じられている前提を指す。

用法

二つの層がある。①宗教学・人類学の始まりを語る物語(天地創造、建国神話)。②評論文で頻出する根拠が問われないまま信じられている前提(安全神話、成長神話、右肩上がりの神話)。②では必ず批判的で、「神話が崩れた」「神話を解体する」という形で現れる。②の用法は、①が持っていた〈疑われないまま共有される〉という性質を借りている。バルトが日常の記号作用を「現代の神話」と呼んだのがこの用法の源泉にある。

用例
  • 原発の安全神話が崩れた。②の用法。根拠が問われないまま信じられていた前提。
  • 建国神話は集団の由来を語り、秩序を正当化する。①の用法。物語が秩序を支える。
  • 神話を解体する。前提を疑い、成り立ちを明るみに出すこと。
原書の反意語・関連語

19 虚構

派生形
  • 神話的しんわてき[0]
  • 神話化しんわか[0]
  • 建国神話けんこくしんわ[3]
コロケーション
  • 建国神話
  • 安全神話
  • 神話を解体する

書き言葉・会話の両方で使える。

類語と差
  • 伝説土地や人物にまつわる言い伝え起源を説明しない。神話は世界や集団の始まりを語る。
  • 昔話語り継がれた作り話娯楽・教訓。神話は真実として受け取られてきた点が違う。
  • イデオロギー行動を根底で制限する信念政治的。神話は物語の形をとる点が違うが、機能は重なる。
  • 虚構事実に基づかない組み立て☑19。神話は共有され、真実として機能している虚構だと言える。

ENmyth
ZH神话(神話, shénhuà)

神話の二つの層始まりを語る物語としての神話と、根拠が問われないまま信じられている前提としての神話を並べた図。 ① 始まりを語る物語 天地創造・建国神話 集団の由来を語り、秩序を正当化する ② 疑われない前提 安全神話・成長神話 根拠が問われないまま信じられている 共通するのは、疑われないまま共有されるという性質 評論文で「神話が崩れた」「神話を解体する」と出たら、②の用法である。 共有された虚構が、真実として働いている状態
神話の二つの層
入試文

ヨーロッパ中世の文学やルネッサンスの文学を、自然科学的な真実点検の眼でみたら、いかにも荒唐無稽であろう。しかし、特に民衆の生活との深い交わりの中に息づいていたそれらの文学では、民衆の観念の世界での解放という願いに沿って、現実は解体され、再構成されている。
ヨーロッパ文学もまた、神話や伝承の中にその重要な源を発しているが、神話や伝承とは、まさしく、現実に発しながら、現実を超える想像空間として、そこに、人々の喜びや悲しみを封じ込める遊びの場に他ならなかったのではないか。
*カイヨワもいうように、遊びとは、現実と一線を画した虚の空間、それも円環の中での、生命の充足だとすれば、厳しい社会秩序の中においてこそ、逆に、遊びが明確に自己を輪郭づけることが可能になったのかもしれない。強固な外枠によってためられているからこそ、より純粋に想像力による遊びの空間は、燦然と輝き、活き活きとした想像力が羽ばたき、壮麗な夢想を結晶させることが可能になったのではあるまいか。
\*カイヨワ――フランスの社会学者。

出典 清水孝純『西洋文学への招待』 / 出題 大阪経済大学・経済学部

読解のポイント
神話や伝承
= 現実に発しながら、現実を超える想像空間としての遊びの場
↓
ヨーロッパ中世の文学・ルネッサンスの文学
= 民衆の観念の世界での解放という願いに沿って、現実は解体され、再構成されている
要約

厳しい社会秩序の中でこそ、活き活きとした想像力を羽ばたかせる遊びが可能になる。その意味で、ヨーロッパの文学の起源となっている神話や伝承とは、現実に発しながら現実を超える想像空間として、人々の喜びや悲しみを封じ込める遊びの場であったのではないか。

語法の観察

古代の事例と現代の事例を並置する。時代を隔てた二つを同じ語で呼ぶことで、構造の同一性を示している。

Section 07

アニミズム

81

アニミズム

アニミズム[3]中高型

定義

自然のあらゆるものに宗教的な力のはたらきを認め、崇拝すること。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑81
原書の解説

アニミズムは目に見えない霊魂の力を信じ、自然現象をそのはたらきによって説明しようとする考え方のことである。キリスト教やユダヤ教などのように、唯一絶対の神を信仰の対象とするのではなく、自然全体に対して深い信仰心をもっていることが特徴である。

日本においても、神は自然や動植物・家・カマドなど、森羅万象に宿ると信じられたため、自然を深く尊重する精神が長い間受け継がれてきた。しかし、現代の合理主義によって、アニミズム思想は非合理なものとして退けられていく。それに並行して、自然は畏敬の念を払うものではなく、人間の道具としてみなされるようになっていった。

コラム

宗教の発生は、地域の風土と密接に結びついている。

たとえば、〈八百万の神〉というように、古来の日本人があらゆる自然の事物に対して神の存在を認めていたのは、日本の豊かな自然や温和な気候が大きく影響していると指摘する論者もいる。

反対に、イスラム教は砂漠という荒野で生まれた宗教だ。荒野で暮らす人々にとっては、自然は恩恵よりも災いをもたらすものとして受け止められた。そうした厳しい風土の地域で民族が生き残るためには、唯一絶対の神による厳しい戒律が必要とされたのである。

使用の境界

自然物や自然現象にも霊魂が宿るとする信仰。無生物にまで及ぶ点が要点。

用法

評論文では、近代的自然観への対抗として持ち出される。機械論が自然を物質と見たのに対し、アニミズムは石にも木にも霊を認める。「山に入るときは山の神に断る」「道具に魂が宿る」といった感覚がその名残とされ、日本文化論では自然との共生を説く文脈で肯定的に評価されることが多い。ただし、近代以前の劣った信仰とみなす見方(進化主義的な宗教観)も歴史的にはあり、これ自体が☑75 自文化中心主義の産物だと批判される。

用例
  • アニミズム的な自然観は、自然を支配の対象と見ない。機械論との対比。近代批判の文脈で持ち出される。
  • 道具に魂が宿るという感覚はアニミズムの名残である。日本文化論での定番の説明。
  • アニミズムを未開の信仰とみなす見方自体が、自文化中心主義である。☑75 との接続。評価の尺度が問われる。
原書の反意語・関連語

42 機械論

コロケーション
  • アニミズム的な自然観
  • アニミズムの伝統

書き言葉。会話では不自然。

類語と差
  • 汎神論世界そのものが神であるとする哲学の立場。アニミズムは信仰の形態で、個々の物に霊を認める。
  • 多神教複数の神を認める神の数の話。アニミズムは霊魂の遍在を言う。
  • 擬人化人でないものを人のように扱う表現の技法。アニミズムは実際にそう信じている点が違う。
  • 機械論自然を部品の集まりとみなす☑42。正面から対立する自然観。近代がアニミズムを退けた。

ENanimism
ZH泛灵论(アニミズム, fànlínglùn)

入試文

アニミズムの思想を、日本人は心のどこかに、今も失わないでいる。自然のなかのその霊的なものを、自分の作り出した作品にも宿すことが、日本の芸術家たちの願いとなる。形を作り出すということは、あらゆる芸術家たちの願いであるが、日本の芸術家たちはその先を考える。造型は第一の目標でなく、その先に生命を究極の目標として考えている。
芭蕉は「ものの見えたる光、いまだ心に消えざる中に言ひとむべし」と言う。目標は「かたち」でなく、「ひかり」であり、「いのち」である。
目標の果てに「かたち」でなく、「いのち」を置いているからこそ、日本(あるいは東洋)では、西洋では考えられないようなものが、芸術の仲間入りをする。茶の湯とか、生花とか、陶器とか、庭とか、書とか。このような芸術の目標を「かたち」に置いたら、それらは堕落する。つねに「かたち」の果てに「いのち」を思い描くことが肝要である。
一瞬の生命の高揚が遂げられれば、あとの「かたち」を止めなくても足れりとする覚悟が、日本の芸術家にはあった。

出典 山本健吉「いのち」と「かたち」 / 出題 中央大学・経済学部

読解のポイント
日本の芸術家にとってのアニミズムの思想
自然のなかの霊的なものを、作品にも宿すこと
= 生命を究極の目標と考える
→ つねに「かたち」の果てに「いのち」を思い描くこと
要約

日本の芸術家たちが、造型=「かたち」ではなく生命=「いのち」を目標とするところに、アニミズムの思想が日本人の心に今も失われていないことを見ることができる。

語法の観察

「〜という感覚」「〜という思い」と主観の語を重ねる。論証ではなく、感覚の記述として提示する型。

Section 08

ドグマ/規範

82

ドグマ

ドグマ[1]頭高型

定義

① 宗教上の教義・教理。 ② 十分な根拠をもたない独断的な説。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑82
原書の解説

本来ドグマとは、キリスト教において、神から示された真理として権威のあるものを意味した。ところが近代に入ると、そうした教義は、神の教えを絶対化し、批判や検討を受け入れないものと受け止められるようになった。

現在では、偏見にとらわれ、柔軟性を欠く独断という批判的なニュアンスで用いられる場合が多い。また、一つの教えや信念だけを正しいものと考え、他の主張を排除する態度をドグマティック(教条主義的)と言う。

コラム

アダムとイブが禁断の木の実を食べて以来、人間は原罪を負っている、とするのはキリスト教の教義(ドグマ)の一つだが、中世の神学ではこうした教義について、学問的にも正当化しようと試みられた。しかし、近代哲学は、このような神学の考えをドグマティズム(教義に固執する態度)だとして批判した。

また、近代の世俗化の流れに抵抗し、聖書の言葉に誤りはないとして、進化論などの科学的認識を認めようとしない「キリスト教原理主義」が生まれた。イスラム教でも、イスラム教の教義の原点に戻ろうとする「イスラム原理主義」の動きが活発化している。

現在、世界で起こっている紛争には、こうした宗教的要素が関係していることも多い。解決のためには、それぞれの宗教・教義について正しく理解することが大切である。

使用の境界

疑うことを許さない教義。内容の当否ではなく、疑えないという構えを指す。

用法

「独断」と訳される。要点は検証を受けつけないという点にあり、内容が正しいか誤っているかは関係がない。だから科学的な主張でもドグマになりうる。「ドグマティック(独断的)」は、根拠を示さずに断定する態度への批判語。☑47 科学主義が「宗教と変わらない」と評されるのは、まさにこの構えを共有するからである。評論文では、思想が硬直して他を排除する過程を述べる箇所に現れる。

用例
  • それはもはやドグマである。疑うことが許されなくなった状態。内容の当否とは別。
  • ドグマティックな断定を避ける。根拠を示さずに言い切らないということ。
  • 科学的な主張もドグマになりうる。検証を拒めばそうなる。☑47 科学主義と接続する。
原書の反意語・関連語

20 イデオロギー

派生形
  • 独断どくだん[0]
  • ドグマティック
コロケーション
  • ドグマに陥る
  • ドグマ的な主張

書き言葉。会話では不自然。

類語と差
  • 教義宗教が定めた教え中立の語。ドグマは疑いを封じるという批判的な含みを持つ。
  • イデオロギー行動を根底で制限する信念☑20。集団の行動を規定する働きに重心。ドグマは内容の固定に重心。
  • 独断一人で決めてしまうこと訳語。手続きの問題を指す。ドグマは共有されている点が違う。
  • 信条個人が信じて守る原則内面。ドグマは外から与えられ、疑うことが許されない。

ENdogma
ZH教条(教条, jiàotiáo)

83

規範きはん

きはん[0]平板型

語構成
のり・コンパスかた・てほん
定義

行動や判断の基準となる、手本やルール。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑83
原書の解説

人間が社会生活を営む時、何らかのマナーや規則が必要になり、「老人を敬いなさい」といった命令や、「道にゴミを捨ててはいけない」といった禁止の形式をとる。

これらを規範と言い、地域独特のしきたりや習俗、宗教的なタブー(禁忌)、あるいは道徳・倫理が含まれる。さらに、それらが公的に制度化されると、〈法律〉となって社会に定着する場合もある。

たとえば

結婚について。お見合いや婚約の仕方には伝統的なしきたりがあり、晴れの結婚式にも、神前・仏前・キリスト教式によってさまざまに異なる約束事がある。さらに結婚をする際には、「婚姻届書の提出」という法律がある。

これらの一つ一つが結婚に関する規範であり、これらを総合すると〈婚姻制度〉となる。

使用の境界

こうすべきだという行動の基準。従うかどうかは別で、基準として共有されていることが要件。

用法

要点は「そうである」と「そうすべきである」の区別にある。事実の記述に対して、規範は当為を示す。評論文では「規範が内面化される」という言い方が重要で、外から与えられた基準がいつのまにか自分の判断になっている状態を指す。これが☑37 他律と☑36 自律の境目を曖昧にする。また規範は文化ごとに異なるため、☑76 文化相対主義の議論に直結する。「規範的」は、あるべき姿を論じる立場を指す学術語で、批判語ではない。

用例
  • 社会規範を内面化する。外から与えられた基準が自分の判断になる。自律と他律の境目。
  • 規範は文化によって異なる。☑76 文化相対主義に直結する。
  • 記述的な議論と規範的な議論を区別する。そうであるか、そうすべきか。学問上の基本的な区別。
原書の反意語・関連語

78 制度63 コード

派生形
  • 規範的きはんてき[0]
  • 規範性きはんせい[0]
  • 社会規範しゃかいきはん[3]
コロケーション
  • 社会規範
  • 規範を内面化する
  • 規範意識

書き言葉。会話では不自然。

類語と差
  • 制度運用の仕組みを伴うしくみ☑78。規範は基準そのもの、制度はそれを支える組織。
  • 国家が定めた強制的な規則違反に制裁が伴う。規範は道徳や慣習も含み、制裁は必ずしも伴わない。
  • 道徳善悪についての内面の基準内面に属する。規範は社会に共有されている点が違う。
  • 価値望ましさの基準何がよいかを示す。規範は何をすべきかを示す。

ENnorm
ZH规范(規範, guīfàn)

禁忌と秩序秩序に収まらないものを禁忌として外に置くことで、秩序の輪郭が保たれることを示した図。 秩序 分類が成り立つ範囲 分類に収まらないもの 秩序を乱すもの 聖なるもの 禁忌 外に置くことで、内側の輪郭が保たれる 何が禁じられているかを見れば、その社会の秩序が見える
禁忌が秩序の輪郭をつくる
Section 09

オリエンタリズム/エスニシティ/クレオール/禁忌(タブー)

84

オリエンタリズム

オリエンタリズム[5]中高型

定義

西洋人が歪んだイメージで東洋を見ること。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑84
原書の解説

西洋人が東洋に対して抱いている後進性・官能性・受動性・神秘性といった異国情緒的なイメージのこと。この東洋に対するイメージは東洋の現実とかけ離れており、「西洋人の自分勝手な東洋像にすぎない」とも言える。

現代ではオリエンタリズムは、西洋文明が東洋に対して優位であることを主張し、現実の植民地支配を正当化するために生み出された偏見だと批判されている。

使用の境界

西洋が東洋について作り上げた歪んだイメージ。東洋趣味そのものではなく、支配と結びついた表象を指す。

用法

サイードの語である。要点は、東洋への好意的なイメージも含めて批判の対象になる点にある。神秘的・官能的・受動的という描き方は褒め言葉のようでいて、東洋を主体性のないものとして固定する。そしてこの像が現実の植民地支配を正当化した。したがって批判の焦点は誰が誰を描く権利を持っていたかにある。☑65 表象の第二の層(描き方が対象を作る)が、ここで最も明確な形をとる。

用例
  • 神秘的な東洋というイメージ自体がオリエンタリズムである。好意的な描写も批判の対象になる。
  • その像は東洋の現実とかけ離れている。西洋人の自分勝手な東洋像にすぎないという指摘。
  • オリエンタリズムは植民地支配を正当化するために生み出された。表象と権力の結びつき。
原書の反意語・関連語

65 表象75 自文化(自民族)中心主義

コロケーション
  • オリエンタリズム批判
  • オリエンタリズム的なまなざし
硬・学術

論文・評論でのみ使う。会話では不自然。

類語と差
  • エキゾティシズム異国情緒への憧れ感覚の話。オリエンタリズムは支配の正当化と結びつく点が違う。
  • ステレオタイプ型にはまった見方一般的な現象。オリエンタリズムは西洋と東洋という特定の非対称を指す。
  • 表象どう描かれてきたか☑65。オリエンタリズムは表象研究の代表的な主題。
  • 自文化中心主義自文化を尺度にする☑75。オリエンタリズムはその西洋版であり、学問と芸術に組み込まれた形。

ENorientalism
ZH东方主义(東方主義, dōngfāng zhǔyì)

85

エスニシティ

エスニシティ[3]中高型

定義

出自・慣習・言語などを共有する集団に属する人がもつ、その集団への帰属意識。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑85
原書の解説

エスニシティは、「民族(ネーション)」という言葉ではとらえきれない内容を含んだ語である。ネーションという語は民族と国民とを同一視する考えを前提としているが、現在の国民国家にはさまざまな移民集団が共存し、彼らは固有の言語や文化・伝統をもっている。

国民国家のもとで、独自の文化的な仲間意識をもつこうしたグループを、「エスニシティ・グループ」とよび、彼らが共有する意識をエスニシティと言う。

使用の境界

出自・慣習・言語を共有する集団への帰属意識。国家の枠とは重ならない点が要点。

用法

ネーションでは捉えきれないものを言うために作られた語である。国民国家は民族と国民を一致させる建前を持つが、現実の国家には移民集団が共存し、固有の言語と文化を保っている。彼らの帰属意識がエスニシティ。したがってこの語は、国民国家という枠組みの限界を示す位置にある。多文化主義・移民問題を扱う文章で頻出する。「民族」と訳すと国家との関係が見えなくなるので、原語のまま使われることが多い。

用例
  • 国民国家の内部に複数のエスニシティが共存している。ネーションの建前と現実のずれ。
  • エスニシティ・グループは固有の言語と伝統をもつ。国家の枠と重ならない集団。
  • 民族という訳語では、国家との関係が見えなくなる。原語のまま使われる理由。
原書の反意語・関連語

69 同一

コロケーション
  • エスニシティ・グループ
  • エスニシティの意識
硬・学術

論文・評論でのみ使う。会話では不自然。

類語と差
  • 民族出自と文化を共有する集団集団そのもの。エスニシティはその集団に属する意識。
  • ネーション国民であり民族でもある単位民族と国民を同一視する前提を含む。エスニシティはその前提の外にある。
  • 人種身体的特徴による区分生物学的な装いを持つ分類。エスニシティは文化的な帰属。
  • アイデンティティ自分が自分であることの意識☑69。エスニシティは集団に根ざしたアイデンティティの一形態。

ENethnicity
ZH族群性(エスニシティ, zúqúnxìng)

86

クレオール

クレオール[3]中高型

定義

本国ではなく、新大陸や植民地で生まれ育った人々。または彼ら独特の言語や習慣。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑86
原書の解説

クレオールとは、もとは植民地生まれのスペイン人を指すスペイン語「クリオーリョ」がフランス語に借用されたものである。

西インド諸島や中南米などの植民地では、移住してきた西洋人や黒人奴隷の子孫、原住民とその子孫などが独特の混合文化を形成してきた。従来の民族や国家という枠組みではとらえきれないそのあり方は、今日のグローバル化を背景にして注目を浴びている。

使用の境界

植民地で生まれ育った人々と、その混合文化。二つの文化が混ざって新しく生じたものを指す。

用法

もとは植民地生まれのスペイン人を指す語だった。現在の評論文では、民族や国家という枠組みでは捉えきれないあり方の名として使われる。西インド諸島や中南米で、移住してきた西洋人・黒人奴隷の子孫・原住民が混ざって独特の文化を形成した。この経験がグローバル化の先取りとして注目されている。要点は、混ざることを欠落や不純と見ず、新しいものが生まれる場と見る評価の転換にある。「クレオール化」は文化一般の混淆を指す動詞形。

用例
  • クレオール文化は、民族や国家の枠組みではとらえきれない。混ざって生じたものは、どちらにも分類できない。
  • グローバル化を背景にクレオールが注目されている。混淆が例外ではなく常態になったため。
  • クレオール語はピジンが母語になったものである。言語学での区別。
原書の反意語・関連語

85 エスニシティ

コロケーション
  • クレオール文化
  • クレオール語
  • クレオール性
硬・学術

論文・評論でのみ使う。会話では不自然。

類語と差
  • 混血異なる集団の血が混じる身体の話。クレオールは文化と言語の話。
  • ハイブリッド異質なものの結合一般的な語。クレオールは植民地という歴史的条件を背負う。
  • ピジン接触の場で生じた簡易言語母語話者を持たない段階。クレオールはそれが母語になった段階。
  • 多文化主義複数の文化の共存を認める並存を前提とする。クレオールは混ざって新しいものが生まれる点が違う。

ENcreole
ZH克里奥尔(クレオール, kèlǐ'ào'ěr)

87

禁忌(タブー)きんき

きんき[1]頭高型

語構成
とどめる・いましめるいむ・さける
定義

忌まわしいものとして、慣習的に禁止したり避けたりすること。

『現代文キーワード読解』1-1 ☑87
原書の解説

普段、我々は、文化や社会の秩序や規則を守って生活している。しかし、その秩序を壊すようなモノや出来事に遭遇する場合もある。その時に、その対象を禁忌に設定し、禁止したり避けたりすることによって、既存の秩序を守ろうとする。

逆に言えば、禁忌の存在は我々に秩序を再認識させる機能をもっている。

使用の境界

慣習として禁じられ、避けられているもの。法で定められた禁止とは違い、理由が説明されないことが多い。

用法

要点は、禁忌が秩序を守る装置だという機能的な捉え方にある。既存の分類に収まらないもの、秩序を乱すものに遭遇したとき、それを禁忌に設定して遠ざけることで秩序が保たれる。逆に言えば、禁忌の存在は秩序の輪郭を照らし出す。何が禁じられているかを見れば、その社会が何を秩序としているかが分かる。日常語の「タブー」は「触れてはいけない話題」の意で軽く使われるが、評論文ではこの構造的な意味で読む。

用例
  • 秩序を乱すものを禁忌に設定して遠ざける。禁忌の機能。既存の秩序を守るために働く。
  • 禁忌の存在は我々に秩序を再認識させる。何を禁じているかが、その社会の秩序を映す。
  • その話題は社内でタブーになっている。日常語の用法。触れてはいけないという軽い意味。
原書の反意語・関連語

5 秩序83 規範

派生形
  • 禁忌的きんきてき[0]
  • タブー視タブーし[0]
コロケーション
  • 禁忌を犯す
  • タブーとされる
  • 社会的タブー

書き言葉・会話の両方で使える。

類語と差
  • 禁止してはならないと定める理由と主体がある。禁忌は慣習として成立し、理由が語られない。
  • 穢れ触れると汚れるとされるもの宗教的・呪術的な観念。禁忌はそれを避ける行動の側。
  • 聖なるもの日常から隔てられたもの禁忌と表裏をなす。近づいてはならない点で同じ構造をもつ。
  • 規範こうすべきという基準☑83。禁忌は「してはならない」の側に特化し、しかも根拠が問われない。

ENtaboo
ZH禁忌(禁忌, jìnjì)

オリエンタリズムの非対称描く側と描かれる側の非対称と、好意的なイメージも固定化として働くことを示した図。 西洋 描く側 ── 主体 まなざし 東洋 描かれる側 ── 客体 神秘性官能性 受動性後進性 褒め言葉に見えるものも含めて、 東洋を主体性のないものとして 固定する働きをもつ。 問われているのは、誰が誰を描く権利をもっていたかである
描く側と描かれる側
国民国家とエスニシティ、クレオール国民国家の内部に複数のエスニシティが共存し、その混淆からクレオールが生じることを示した図。 国民国家(ネーション) 民族と国民を同一視する建前 集団 A 集団 B 集団 C エスニシティ クレオール 混ざって新しく生じたもの どちらにも分類できない 民族や国家という枠組みでは、もう捉えきれない
国民国家に収まらないもの
Meta — 俯瞰

十五語を上から見る

この章の語は、文化を外から測る側と、内から記述する側に分かれる。対立の軸と、語の格を一枚ずつ図にしておく。

本章の対立の軸一覧本章に現れる対立語のペアと、それを分ける軸を並べた一覧図。 PAIR AXIS 文化 文明 普遍化を志向するか 評論文は対立で動く ── 軸が分かれば片方から他方が読める
本章に現れる対立と、それを分ける軸
格による15語の分布硬・学術、硬、中の三段階に本章の15語を振り分けた図。 硬・学術 6 自文化 文化相対主義 文化人類学 オリエンタリズム エスニシティ クレオール 3 アニミズム ドグマ 規範 6 文化 文明 制度 世間 神話 禁忌 語は意味ではなく格で選ぶ
格による十五語の分布

硬・学術に属する語は、会話で使うと不自然に響く。中に属する語は両方で使える。この区別は意味の理解とは別の層にあり、書く段階で効いてくる。

Output

産出

やるなら ── 自分の関心領域から一つ選び、次のいずれかを一段落で書く。

  • 自分が当たり前だと思っている慣行を一つ挙げ、それが制度であることを示す
  • 自分の関心領域で「禁忌」になっている問いを一つ挙げ、それが守っている秩序は何かを書く
Blank

文化に優劣はないと言うとき、その判断自体は、どの文化の内側から下されているのか。