Note 03 — 第だい5話ごわ

『チ。』第だい5話ごわの研究けんきゅうノート [ 読よめない手てが、運はこぶ ]

第だい5話ごわでは、誰だれ一人ひとりとして書物しょもつの中身なかみを理解りかいしない。渡わたす者ものは渡わたした直後ちょくごに死しに、受うけ取とる者ものは文字もじが読よめない。それでも系譜けいふは途切とぎれない。継承けいしょうとは内容ないようが渡わたることではなく、渡わたすという行為こういが反復はんぷくされることだからである。

全ぜん 18 節せつ図版ずはん 21出典しゅってん 0初出しょしゅつ 2026-08-14更新こうしん 2026-08-15
第5話の扉の星 支給の画の上に、星を重ねただけの層である。

上うえ:軽かるく・清きよく・不変ふへん

下した:重おもく・濁にごり・腐敗ふはい

異端いたん審問しんもん官かんは、二人ふたりの男おとこを見逃みのがした。理由りゆうは単純たんじゅんである。あいつらは文字もじが読よめない。だから何なにもできない、と。

彼かれは正ただしかった。

一人ひとりは表紙ひょうしの一文字いちもじしか読よめず、もう一人ひとりは俗語ぞくごなら読よめたが、書物しょもつの本体ほんたいはラテン語ごと数式すうしきで閉とざされていた。二人ふたりの手ての中なかで、その紙束かみたばはただの重おもさである。中身なかみは、そこにあるのに、存在そんざいしていない。

十五じゅうご世紀せいきの知ちは、そういうふうに守まもられていた。焼やく必要ひつようも、隠かくす必要ひつようもない。読よめない人間にんげんを作つくっておけば、危険きけんな書物しょもつはひとりでに沈黙ちんもくする。 これが検閲けんえつよりも古ふるく、検閲けんえつよりも効きく仕組しくみだった。

だからこの回かいに、賢かしこい人ひとはほとんど出でてこない。出でてくるのは、読よめない手てばかりである。

その手てが、紙束かみたばを次つぎへ渡わたしていく。

渡わたす者ものは、渡わたした直後ちょくごに死しぬ。受うけ取とった者ものは、読よめない。それでも渡わたる。第だい5話ごわは、理解りかいがひとつも起おきないまま継承けいしょうだけが進すすむ、奇妙きみょうな三十分さんじっぷんである。

そして橋はしの上うえで、蔓つる一本いっぽんに掴つかまった男おとこが、その理由りゆうを言葉ことばにする。

「私わたしが死しんでも この世界せかいは続つづく」

これは諦あきらめの言葉ことばに聞きこえる。彼かれはそれを、反対はんたいの向むきに使つかった。自分じぶんがいなくなったあとも世界せかいが残のこるということは、渡わたす先さきが残のこるということだ、と。

喪失そうしつしかない世界せかいで、彼かれが見みつけた唯一ゆいいつの余あまりものは、自分じぶんの不在ふざいの後あとにも続つづく時間じかんだった。

星図目次 ── 十章 一本の星の連なり。番号の星を選ぶと該当の章へ跳ぶ。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
読めない手 ── 渡す者と、受け取る者 渡す者と受け取る者のあいだに置かれた紙束。読めるのは表紙の一文字だけである。 地 渡す者 受け取る者 渡した直後に死ぬ 読めない 読めるのは、表紙の一文字だけ 中身は、そこにあるのに、存在していない
図ず 01読よめない手て。理解りかいがひとつも起おきないまま、紙束かみたばだけが次つぎへ渡わたっていく。
補遺ほい・世よ

世よの章しょう 時代じだいの常識じょうしきと、現代げんだいの非常識ひじょうしき

今回こんかい外はずしてもらう現代げんだいの常識じょうしきは、これである。「知しりたければ、調しらべればいい」。

十五じゅうご世紀せいきでは、この文ぶんが成立せいりつしない。

まず、読よめない。次つぎに、読よめてもラテン語ごである。さらに、ラテン語ごが読よめても数式すうしきがある。壁かべは三さん枚まいあり、階層かいそうとは、そのうち何枚なんまいを越こえられるかのことだった。

想像そうぞうしてほしい。目めの前まえに、世界せかいの秘密ひみつが書かかれた紙束かみたばがある。手てに持もてる。重おもさもある。表紙ひょうしの一文字いちもじだけは、かろうじて読よめる。それ以上いじょうは、白紙はくしと変かわらない。

この距離きょりを、私わたしたちはもう感かんじない。だから、この距離きょりのなかで生いきていた人々ひとびとを、無知むちだと呼よんでしまう。彼かれらは無知むちだったのではない。知ちへの入口いりぐちが、生うまれた場所ばしょによって配くばられていただけである。

結論けつろん:第だい5話ごわを読よみ違ちがえないために外はずしておくべき現代げんだいの常識じょうしきは、「知識ちしきは、その気きになれば誰だれでも手てに入はいる」という前提ぜんていである。十五じゅうご世紀せいきにおいて、知ちへの扉とびらは検閲けんえつ(审查制度/censorship)ではなく識字しきじ(识字/literacy)によって閉とじられていた。異端いたん審問しんもん(异端审判/the Inquisition)官かんが二人ふたりの代だい闘士とうし(──/judicial champion(作中語))を見逃みのがすのは、油断ゆだんではない。当時とうじ最もっとも確実かくじつな安全あんぜん装置そうちを信頼しんらいした、合理的ごうりてきな判断はんだんである。

導入どうにゅう

私わたしたちは、文字もじが読よめることを空気くうきのように扱あつかっている。だから「禁書きんしょ」と聞きけば、燃もやすこと、隠かくすこと、罰ばっすることを想像そうぞうする。

十五じゅうご世紀せいきでは、順序じゅんじょが逆ぎゃくである。まず、ほとんどの人ひとが読よめない。 だから危険きけんな書物しょもつは、そもそも危険きけんになれない。それは物体ぶったいとしてそこにあるだけで、内容ないようとしては存在そんざいしていないのと変かわらない。

文字もじの壁かべは二に重じゅうだった。第一だいいちの壁かべは、読よみ書かきそのもの。第だい二にの壁かべは、ラテン語ご(拉丁语/Latin)である。学問がくもんと教会きょうかいの言語げんごはラテン語ごであり、日常にちじょうの言葉ことばではない。俗語ぞくご(俗语/方言/vernacular)の読よみ書かきができても、神学しんがく書しょ・天文学てんもんがく(天文学/astronomy)書しょは開ひらいた瞬間しゅんかんに閉とじる。そして数学すうがくは、その上うえにもう一いち枚まい重かさなる第だい三さんの壁かべである。

この三重さんじゅうの壁かべの内側うちがわにいる者ものは、人口じんこうのごく一部いちぶだった。推計すいけいには幅はばがあるが、たとえば一四八〇年せんよんひゃくはちじゅうねんのフィレンツェ(佛罗伦萨/Florence)で学校教育がっこうきょういくを受うけた男子だんしは三さん割わり前後ぜんご、一五〇〇年代せんごひゃくねんだい末まつの南みなみフランスの一いち都市としでは、商人しょうにんはほぼ全員ぜんいんが署名しょめいできたのに対たいし、職人しょくにんは三分さんぶんの二に、農民のうみんは十人じゅうにんに一人ひとり、日雇ひやとい労働者ろうどうしゃは百人ひゃくにんに一人ひとりだったという記録きろくがある有力ゆうりょく説せつ──署名しょめい能力のうりょくからの推計すいけいであり、地域差ちいきさ・時代じだい差さ・測定そくてい法ほうの限界げんかいが大おおきい。

つまり、階層かいそうとは、そのまま読よめる文字もじの量りょうのことだった。

第だい5話ごわでオクジー(Oczy)が書物しょもつを開ひらいて「読よめません」と言いうとき、彼かれは自分じぶんの不勉強ふべんきょうを告白こくはくしているのではない。彼かれの生うまれた場所ばしょから見みえる世界せかいの全体ぜんたいを、正確せいかくに報告ほうこくしているのである。

対比たいひ表ひょう

現代げんだいの常識じょうしき 十五じゅうご世紀せいきの常識じょうしき そうなる背景はいけい
知識ちしきは誰だれでもアクセスできる。制限せいげんがあるとすれば検閲けんえつである 知識ちしきの扉とびらは、まず識字しきじによって閉とじている。検閲けんえつはその内側うちがわで働はたらく二次にじ的てきな装置そうちである 学校教育がっこうきょういくが身分みぶんと結むすびつき、書物しょもつの絶対ぜったい数すうが少すくなく、読よむ練習れんしゅうをする機会きかいそのものが階層かいそうに分配ぶんぱいされていた
母語ぼごで書かかれた本ほんを読よめば、たいていの分野ぶんやに入いれる 学問がくもんはラテン語ご、その上うえに数学すうがくが重かさなる。俗語ぞくごが読よめても学問がくもんには届とどかない 教会きょうかいと大学だいがくの共通語きょうつうごがラテン語ごであり、翻訳ほんやくは稀まれ。専門せんもん知ちは言語げんごの壁かべで二に重じゅうに囲かこわれていた
本ほんは安やすく、失うしなっても買かい直なおせる 一冊いっさつの写本しゃほん(手抄本/manuscript)は家畜かちくや土地とちに匹敵ひってきしうる財産ざいさんで、失うしなえば二に度どと戻もどらないことがある 羊皮紙ようひし(羊皮纸/parchment)の高価こうかさ、書写しょしゃに要ようする数すうか月げつから年とし単位たんいの労働ろうどう。印刷いんさつ術じゅつ(印刷术/printing press)は普及ふきゅうの途上とじょうにある
権威けんいを疑うたがい、自分じぶんで一次いちじ資料しりょうを確たしかめるのが知的ちてき誠実せいじつさである 権威けんいある人々ひとびとが出だした結論けつろんを信しんじるのが、最もっとも合理的ごうりてきな判断はんだんである 一次いちじ資料しりょうを確たしかめる手段しゅだんが物理的ぶつりてきに存在そんざいしない。読よめず、入手にゅうしゅできず、検証けんしょうもできない環境かんきょうでは、信頼しんらいこそが唯一ゆいいつの認識にんしき手段しゅだんになる
占星術せんせいじゅつ(占星术/astrology)は迷信めいしんであり、天文学てんもんがくは科学かがくである 占星術せんせいじゅつ師しとは、天体てんたいを最もっとも精確せいかくに観測かんそくし計算けいさんする専門職せんもんしょくである 両者りょうしゃは未分化みぶんか。暦こよみ(历法/calendar)・農事のうじ・医療いりょう・政治せいじ判断はんだんに天体てんたいの位置いち計算けいさんが要求ようきゅうされ、観測かんそく技術ぎじゅつの担にない手てはしばしば占星術せんせいじゅつ師しだった
遺産いさんは法制度ほうせいどが保護ほごし、遺言ゆいごん(遗嘱/will/testament)は執行しっこうされる 遺言ゆいごんは道義的どうぎてきな依頼いらいに近ちかく、履行りこうは受うけ取とった者ものの良心りょうしんと関係かんけいに委ゆだねられる部分ぶぶんが大おおきい 相続そうぞくと贈与ぞうよ(赠与/donation/bequest)の実務じつむが慣習かんしゅうと共同体きょうどうたいの証言しょうげんに依存いぞんし、遠隔地えんかくちへの履行りこうを強制きょうせいする仕組しくみが弱よわい
旅程りょていはほぼ計画けいかくどおりに進すすむ 橋はしが落おちていれば、そこで計画けいかくは終おわる。迂回うかいは数日すうじつを意味いみする 橋はし・道路どうろの維持いじは領主りょうしゅや修道院しゅうどういんの断続的だんぞくてきな負担ふたんであり、洪水こうずいや戦乱せんらんで容易よういに途絶とぜつした
私わたしたちは情報じょうほうに自由じゆうにアクセスできる世代せだいである ── ここが現代げんだい側がわの非合理ひごうり。アクセスできることと、読よめることは違ちがう。専門せんもん論文ろんぶんは公開こうかいされていても、読解どっかいには訓練くんれんが要いる。統計とうけい、法律ほうりつ文ぶん、医学いがく論文ろんぶん、契約書けいやくしょ──私わたしたちの多おおくは、いまも「タイトルだけなら何なにとか」読よめる場所ばしょに立たっている。壁かべが消きえたのではない。壁かべの位置いちが動うごいただけである

図ず

図ずE5-世よ「三重さんじゅうの壁かべ」。識字しきじ・ラテン語ご・数学すうがくの三さん層そうと、その内側うちがわに置おかれた書物しょもつ。仕様しようは D3-E5 に記しるす。

三重の壁 ── 知の扉は、検閲より上流で閉じている 識字・ラテン語・数学の三層。壁の外にいる者にとって、書物は物体であって内容ではない。
図ず 02三重さんじゅうの壁かべ。焼やく必要ひつようも、隠かくす必要ひつようもない ── 読よめない人間にんげんを作つくっておけば、危険きけんな書物しょもつはひとりでに沈黙ちんもくする。

結むすび

異端いたん審問しんもん官かんが二人ふたりを見逃みのがす場面ばめんを、油断ゆだんとして読よまないでほしい。彼かれの判断はんだんは、この社会しゃかいの設計せっけいを正確せいかくに把握はあくした上うえでのものである。読よめない者ものに、書物しょもつは効きかない。だから放ほうっておけばよい──これは怠慢たいまんではなく、統治とうち技術ぎじゅつの理解りかいである。

そして第だい5話ごわは、その理解りかいが破やぶれる話はなしである。破やぶれる理由りゆうも、彼かれの見落みおとしではない。読よめる人間にんげんを、読よめない人間にんげんが連つれてくるという経路けいろが、彼かれの想定そうていになかっただけである。知識ちしきの伝達でんたつには、読解どっかいのほかに、もう一ひとつの経路けいろがある。人ひとが人ひとに託たくす、という経路けいろが。

この表ひょうの左ひだり列れつを、いつか誰だれかが右列うれつへ書かき写うつす。そのとき私わたしたちの「情報じょうほうにアクセスできる世代せだい」という自己じこ像ぞうは、どんな背景はいけい欄らんを与あたえられているだろうか。

表ひょうの右側みぎがわを見みて、遠とおい世界せかいだと思おもっただろうか。

では、最後さいごの行ぎょうをもう一度いちど見みてほしい。私わたしたちは情報じょうほうに自由じゆうにアクセスできる世代せだいである──この自己じこ像ぞうは、どこまで本当ほんとうだろうか。

論文ろんぶんは公開こうかいされている。判決はんけつ文ぶんも、契約書けいやくしょも、統計とうけいも、診断書しんだんしょも。読よめる。字じは読よめる。だが、読よめることと分わかることのあいだには、まだ壁かべがある。私わたしたちの多おおくは、いまも「タイトルだけなら何なにとか」の位置いちに立たっている。専門せんもんの外そとへ一歩いっぽ出でれば、誰だれもがオクジーである。

壁かべは消きえていない。位置いちが動うごいただけだ。

そして、動うごいた分ぶんだけ、越こえ方ほうも変かわった。かつては読よめる人ひとになるしかなかった。いまは、読よめる人ひとに会あいに行いくという道みちがある。第だい5話ごわの二人ふたりが選えらんだのも、その道みちである。

最もっとも効きく検閲けんえつは、燃もやすことではない。読よめない人ひとを作つくっておくことである。

油彩の口絵。雲の流れる空を背に、髪を束ねた若者が小ぶりの書物を掲げ、その手からペンダントの鎖が垂れている。

口絵くちえ ── 受うけ取とったものの重おもさ。読よめないまま、次つぎの手てへ渡わたっていく

凡例はんれい

読よみ方かた ── 四よん冊さつを貫つらぬく同おなじ作法さほうで

Layer A–D 分析フレーム 四層の帯。各層の色が、本文のバッジの色と対応する。 A 作品世界 C 史実 B 作品が用いる歴史イメージ D 現代からの評価 考察の順番 AB CD 四つの層を混ぜないこと。それがこのノート全体の作法である
図ず 03四よっつの層そうを混まぜないことが、この分析ぶんせき全体ぜんたいの作法さほうである。

本文ほんぶんの主張しゅちょうにはA作品さくひん世界せかい・B歴史れきしイメージ・C史実しじつ・D現代げんだい評価ひょうか の層そうの札ふだと、定説ていせつ有力ゆうりょく説せつ議論ぎろんあり俗説ぞくせつの確度かくどの札ふだが付つく。難度なんどは基礎きそ発展はってん大学院だいがくいんの三さん段だんで、下したの帯おびからいつでも絞しぼれる。

読よみ方かたの例れい ── C史実しじつ「この司祭しさいの説明せつめいは、当時とうじの宇宙論うちゅうろんとして正確せいかくである」定説ていせつ ── 文頭ぶんとうの札ふだがどの層そうの話はなしかを、文末ぶんまつの札ふだが学界がっかいでどれくらい確たしかかを示しめす。

第だい3章さんしょうは八節はっせつ。各節かくせつは第だい5話ごわの一行いちぎょうから始はじまり、話者わしゃと経過けいか時間じかんを添そえてある。節せつと節せつのあいだの細ほそい一行いちぎょうは、文学ぶんがく層そうの小しょう経過けいか句くである。

この頁ページの図ずには、描えがかないと決きめたものがある。決闘けっとう・斬撃ざんげき・流血りゅうけつ・遺体いたい・武器ぶき、自死じしを示唆しさする図像ずぞう、拷問ごうもんの器具きぐ、そして人ひとのかたち ── シルエットも含ふくめて描えがいていない。この回かいは人ひとの内面ないめんが主題しゅだいであり、姿すがたを与あたえると解釈かいしゃくが固かたまるためである。人ひとが要いる場所ばしょには、標ひょうや結節けっせつ点てんといった抽象ちゅうしょうの記号きごうを置おいた。

このノートは第だい5話ごわ終了しゅうりょう時点じてんまでしか扱あつかわない。移送いそうされた異端いたん者しゃの氏名しめいも、終幕しゅうまくで何なにが起おきたかも、書かいていない。字幕じまく書かき起おこしから確定かくていできないことは、空欄くうらんのままにしてある。

語学ごがくの手引てびき ── 本文ほんぶんの学術がくじゅつ語ごと固有名こゆうめいには種類しゅるいごとの下線かせんを引ひいた。天文てんもんの語ごは金かね、哲学てつがく・思想しそうの語ごは青あお、宗教しゅうきょう・制度せいどの語ごは緋ひ、人物じんぶつ・地名ちめいは藤ふじ、書物しょもつは青緑あおみどり。頁ページで最初さいしょに現あらわれた場所ばしょには(中文ちゅうぶん/English)を添そえた。学術がくじゅつ語ごの一覧いちらんは付録ふろく1にある。人物じんぶつと書物しょもつの名なは初出しょしゅつの注記ちゅうきにとどめ、一覧いちらんには入いれていない ── 一覧いちらんは原稿げんこうの付録ふろくそのものだからである。中文ちゅうぶんの定訳ていやくを確認かくにんできなかった語ごは、English だけを添そえてある。作品さくひん固有こゆうの語ご(代だい闘士とうし・民間みんかん警備けいび組合くみあい・上級じょうきゅう市民しみん・下級かきゅう市民しみん)に下線かせんは引ひかない。

Ⅰ

第だい1章いっしょう 第だい5話ごわで何なにが起おきたか

結論けつろん:第だい5話ごわは、継承けいしょうが一度いちども直接ちょくせつには起おきない話はなしである。渡わたした相手あいてはすぐ死しに、渡わたされた者ものは文字もじが読よめず、その者ものにまた別べつの者ものが渡わたして死しぬ。それでも系譜けいふは途切とぎれない。題名だいめいは、その理由りゆうを一文いちぶんで述のべている──私わたしが死しんでも、この世界せかいは続つづく。だから、そこに何なにかを託たくせる。

A作品さくひん世界せかい確定かくてい事項じこう(字幕じまく書かき起おこしにより裏付うらづけ。付録ふろく3に全ぜん引用いんようの経過けいか時間じかん):

  1. 移送いそう隊たいの襲撃しゅうげき。ノヴァク(诺瓦克/Nowak)は移送いそう任務にんむへの不満ふまんを漏もらし、ダミアン(Damian)から態度たいどを叱責しっせきされる。直後ちょくご、前方ぜんぽうの馬車ばしゃの御者ぎょしゃが飛とび降おり、警備けいび組合くみあいの裏切うらぎりが判明はんめいする。ノヴァクは使用しよう許可きょかを問とわれつつ武器ぶきを一射いっしゃし、馬車ばしゃは横転おうてんする。
  2. オクジーの降参こうさん。雨あめの中なか、オクジーはノヴァクに助たすけを求もとめるが、脅おどされたという弁明べんめいは信しんじられない。オクジーは相手あいての技量ぎりょうを悟さとり──戦たたかえば多分たぶん死しぬ──即座そくざに降参こうさんを宣言せんげんし、自分じぶんが悪わるい、許ゆるしてほしいと請こう。ノヴァクは交戦中こうせんちゅうの降参こうさんの扱あつかいに迷まよい、規定きていが各自かくじ判断はんだんであることに困惑こんわくしつつ、一度いちど裏切うらぎっている以上いじょうは駄目だめかと判断はんだんする。
  3. 異端いたん(异端/heresy)者ものの死し。ノヴァクがオクジーに向むかった瞬間しゅんかん、異端いたん者ものが割わって入はいり、負傷ふしょうする。なぜかと問とうオクジーに、異端いたん者ものは「歴史れきしが君きみを必要ひつようとしたからだ」と答こたえ、「頼たのむ」と告つげる。異端いたん者ものはここで力ちから尽つきる。
  4. ノヴァクの判断はんだん。ダミアンが武器ぶきを取とってくると申もうし出でるが、ノヴァクは断ことわる。矢やの消耗しょうもうを怒おこられること、捕とらえるべきは異端いたん者もの本人ほんにんであることを理由りゆうに挙あげ、続つづけて自分じぶんも元もと傭兵ようへい(雇佣兵/mercenary)だから分わかるとした上うえで、あの者ものたちはどうせ文字もじ一ひとつ読よめないだろう、異端いたんになる能のうもない、放ほうっておいても何なにもできはしない、と述のべる。
  5. グラス(Gras)の謝罪しゃざい。逃走とうそう後ご、グラスはオクジーに巻まき込こんだことを詫わびる。ただし、やり直なおしたいかと問とわれればそうではなく、何度なんど繰くり返かえしても同おなじ選択せんたくをしただろうから、この謝罪しゃざいは誠実せいじつさを欠かいている──その点てんも申もうし訳わけない、と付つけ加くわえる。
  6. 石箱いしばこの発見はっけん。二人ふたりは山やまの中腹ちゅうふくで石箱いしばこを見みつける。中なかには図ずと、二に通つうの手紙てがみ。日付ひづけの新あたらしいものと、十じゅう年前ねんまえのものがある。
  7. 新あたらしい手紙てがみ(占星術せんせいじゅつ師しの記録きろく)。書かき手ては自分じぶんが製作者せいさくしゃではなく発見者はっけんしゃだと断ことわる。占星術せんせいじゅつ師しとして日頃ひごろから天体てんたい観測かんそく(天文观测/astronomical observation)をしており、視界しかいと高度こうどを考慮こうりょして一帯いったいで最良さいりょうの観測かんそく地ちを見みつけたところ、そこにある二ふたつの大岩おおいわそれぞれに中央ちゅうおうに印しるしの付ついた三みつ星ぼし──オリオンのベルト──が彫ほられており、二ふたつの岩いわの間あいだからちょうど向むかいの山やまの中腹ちゅうふくが見みえることに気きづいた。好奇心こうきしんに駆かられて山やまへ向むかい、この箱はこに出会であった。誰だれが何なにのために残のこしたかは分わからないが、中身なかみは未完成みかんせいながら人類じんるいの歴史れきしと運命うんめいを変かえるものだとはっきり分わかった。この発見はっけんのせいで自分じぶんが死しんだとしても、この発見はっけんのおかげで自分じぶんは幸福こうふくな命いのちだったと断言だんげんできる。詳細しょうさいは同梱どうこんの資料しりょうを確認かくにんされたい。自分じぶんも勝手かってながら複数ふくすうの計算けいさん修正しゅうせいをさせてもらった、と結むすばれる。
  8. オクジーの識字しきじ。もう一通いっつうの手紙てがみをオクジーは読よめない。文字もじをちゃんと習ならっていないからである。ただしタイトルだけなら何なにとか読よめる──「地ち」。
  9. ペンダントの継承けいしょう。橋はしが崩くずれており迂回うかいする途中とちゅう、オクジーは異端いたん者もののペンダントを捨すてようとする。異端いたんのもので気味きみが悪わるいという理由りゆうである。グラスは重要じゅうような手てがかりだとして、自分じぶんが引ひき継つぐと言いう。
  10. 十じゅう年前ねんまえの手紙てがみ(ラファウ〔拉法乌/Rafal〕の遺書いしょ)。グラスが読よむ。この星空ほしぞらの秘密ひみつをささげる、これにより利益りえきが生しょうじた場合ばあいはその一いち割わりをポトツキ(波托茨基/Potocki)に贈与ぞうよすること、彼かれの協力きょうりょくは心強こころづよかった、住所じゅうしょは──と続つづく。肝心かんじんの内容ないようは書かかれていない。書物しょもつの本体ほんたいはラテン語ごと数式すうしきで書かかれており、グラスにも読よめない。
  11. バデーニ(Badeni)という当あて。グラスは、この状況じょうきょうを利用りようして逆転ぎゃくてんできるかもしれないと考かんがえる。記録きろくの量りょうからして本気ほんきの何なにかであり、見みせるべき相手あいてに見みせれば大手おおて柄がらになるかもしれず、箱はこの内容ないようも知しれる。心当こころあたりは一人ひとり──彼かれが惑星わくせい(行星/planet)について尋たずねた修道士しゅうどうし(修道士/monk/friar)バデーニである。少すこし前まえに左遷させん(贬谪/demotion/transfer as discipline)されており、理由りゆうは素行そこう不良ふりょうと思想しそう上じょうの禁忌きんきだという。
  12. オクジーの委任いにん。冷静れいせいになれば同行どうこうの必要ひつようはないと言いいつつ、オクジーはグラスに「どっちがいいか決きめてくれますか」と判断はんだんを委ゆだねる。グラスは二人ふたりのほうが安全あんぜんなので同行どうこうしてもらえるとありがたいと答こたえ、オクジーはそうすると応おうじる。
  13. 空そらが見みられない理由りゆう。グラスは目めを痛いためたため北極星ほっきょくせい(北极星/Polaris/the North Star)の方角ほうがくを頼たのむが、オクジーは断ことわる。空そらが見みられない、怖こわいのだと。昔むかし、神父しんぷから夜空よぞらがきれいなのは汚よごれた底辺ていへんの地球ちきゅうから見上みあげているからだと教おそわり、それ以来いらい、星ほしが大地だいちに生いきている人間にんげんを蔑さげすむような目めに見みえるのだという。それ以前いぜんは見みられたのかと問とわれ、むしろ──多分たぶん、好すきでした、と答こたえる。グラスはもう一度いちど見みたいと思おもわないのかと促うながし、せっかく好すきだったのだから見切みきるには惜おしいと言いう。
  14. グラスの喪失そうしつ。オクジーが、グラスの家族かぞくは天国てんごく(天堂/Heaven)にいていずれ再会さいかいできると慰なぐさめると、グラスは礼れいを述のべ、自分じぶんもそう思おもうと答こたえた上うえで、自分じぶんが失うしなったのはこの世よに希望きぼうを感かんじる心こころだと言いう。少すこし前まえまでは家族かぞくを奪うばったこの世よを呪のろっていたが、いとしい家族かぞくと出会であえたのもこの世よである。だとすれば家族かぞくと過すごしたこの世よを否定ひていしたくない。難むずかしいかもしれないが、もう一度いちどこの世よを肯定こうていしたい、と。
  15. オクジーの拒絶きょぜつ。オクジーは、残酷ざんこくだが無理むりだと答こたえる。希望きぼうは天国てんごくにしかなく、この世よは汚よごれている。神かみがそうお創つくりになったからであり、それは歴史上れきしじょうの頭あたまのいい人ひとたちが出だした事実じじつである、と。完全かんぜんにこの世よを諦あきらめてしまったのかと問とわれ、はい、この世よで待まっているのは喪失そうしつだけだ、人ひとはどうせすぐ死しんで天国てんごくか地獄じごくへ行いくのだから、そちらを気きにするべきだと答こたえる。
  16. グラスの推論すいろん。グラスは自問じもんする。希望きぼうは天国てんごくにしかないはずなのに、なぜあの異端いたんは天国てんごくを遠とおざけ、命いのちを懸かけてまでこの世よをたたえたのか。人ひとは死しに、いつかこの世よを出でていく。その世界せかいへの思おもいを持もつことに何なにの意味いみがあるのか。死後しごに残のこるのは自分じぶん抜ぬきの世界せかいだけだ──そこで彼かれは何なにかに思おもい当あたる。もしかして、それが。
  17. 橋はしの崩落ほうらく。村むらを目前もくぜんにした橋はしで、二人ふたりは落下らっかする。グラスは蔓つるに掴つかまった状態じょうたいになる。
  18. 二ふたつの選択肢せんたくし。グラスはオクジーに選えらばせようとする。一ひとつ目めは、村むらで経緯けいいと石箱いしばこを教会きょうかいに通報つうほうすること。そうすれば街まちに戻もどれるかもしれず、彼かれは天国てんごくに近ちかづく。二ふたつ目めは、一ひとつ目めを全部ぜんぶ無視むしして、この世界せかいに期待きたいすること。そして、いつか再ふたたびその目めで空そらを見みてほしい、と。
  19. 託たくすということ。オクジーが助たすけようとすると蔓つるが切きれかかる。何なにをしているのかと問とわれ、グラスは「託たくしてる」と答こたえる。このままでは二人ふたりとも死しぬ、それは駄目だめだ、と。あの異端いたんが命いのちを張はれたのは、きっと託たくす相手あいてがいたからだ。君きみの言いうようにこの世界せかいは喪失そうしつであふれており、人ひとはいつか死しんでここを去さる。でも、私わたしが死しんでもこの世界せかいは続つづく。だったら、そこに何なにかを託たくせる。それが、喪失そうしつまみれのこの世界せかいから生うまれた、ある種しゅの希望きぼうだ。
  20. 保証ほしょうのない継承けいしょう。誰だれに託たくすのか、自分じぶんがやる保証ほしょうなどまったくない、と抗議こうぎするオクジーに、グラスはそのとおりだと認みとめ、だが君きみはやる、と言いう。君きみはまだ天国てんごくへ行いくべきではない、なぜなら君きみの顔かおはまだ死しを恐おそれているからだ、と。
  21. 落下らっか。グラスは自みずから蔓つるを断たち、「これが私わたしの運命うんめいだ」と告つげて落おちる。オクジーは一人ひとり残のこされ、死しんだ、と呟つぶやく。
  22. 村むら。老人ろうじんたちが、クラボフスキという人物じんぶつの親切しんせつを語かたり合あっている。話題わだいの中なかで、先頃さきごろやって来きた副ふく助祭じょさい(副助祭/subdeacon)が、都会とかいで優秀ゆうしゅうだったにせよ情じょうがないと評ひょうされる。クラボフスキは扉とびらを叩たたき、客きゃくが来きたことを告つげる。応おうじたのはバデーニで、そんな予定よていはないと答こたえる。促うながされて出でてきたバデーニが、どちら様さまか、何なにの用ようかと問とうところで第だい5話ごわは終おわる。

省略しょうりゃくされた文脈ぶんみゃくの開示かいじ①(D6 §2.7)——なぜ「橋はしが崩くずれている」ことが、これほど重おもい意味いみを持もつのか。中世ちゅうせいの橋はしは領主りょうしゅや修道院しゅうどういんが断続的だんぞくてきに維持いじするもので、洪水こうずい・戦乱せんらん・単たんなる放置ほうちで容易よういに落おちた。橋はしが一本いっぽん落おちれば迂回うかいは半日はんにちから数日すうじつを意味いみし、山間さんかん部ぶでは代替だいたい路ろが存在そんざいしないこともある。この一段いちだんを外はずすと、第だい5話ごわで二に度ども橋はしが出でてくることが、ただの舞台ぶたい装置そうちに見みえる。実際じっさいには、この世界せかいでは、進すすむ道みちが物理的ぶつりてきに途切とぎれるのが常態じょうたいであるという条件じょうけんの提示ていじであり、終盤しゅうばんの落下らっかの伏線ふくせんでもある。

渡わたす者ものは死しに、受うけ取とる者ものは読よめない。それでも渡わたる。

起おきたことを並ならべ終おえて、気きづく。この回かいでは、誰だれも何なにも理解りかいしていない。理解りかいしないまま、物ものが動うごいている。だから第だい5話ごわの問といは、知しることについてではなく、渡わたすことについての問といになる。

Ⅱ

第だい2章にしょう この話はなしで提示ていじされた問とい

結論けつろん:第だい4話よんわが「生いきられるか」を問とうたなら、第だい5話ごわは「渡わたせるか」を問とう。少すくなくとも12問じゅうにもん。

  1. 読よめない者ものに渡わたされた書物しょもつは、渡わたされたと言いえるのか。
  2. やり直なおしても同おなじ選択せんたくをする者ものの謝罪しゃざいは、謝罪しゃざいなのか。
  3. 名前なまえも残のこらない中継ちゅうけい者しゃは、その仕事しごとによって幸福こうふくでありうるのか。
  4. 一度いちども会あわない相手あいてに感謝かんしゃを書かき残のこすことと、その相手あいてに裏切うらぎられていたことは、どちらが本当ほんとうなのか。
  5. 宇宙論うちゅうろんは、どこまで人ひとの自己じこ像ぞうになりうるのか。星ほしが自分じぶんを蔑さげすんで見みえるとき、それは誰だれの目めなのか。
  6. 自分じぶんで決きめられない人間にんげんに、選えらべと迫せまることは、自由じゆうの贈与ぞうよか、負担ふたんの押おし付つけか。
  7. 「頭あたまのいい人ひとたちが出だした事実じじつ」を信しんじることは、思考しこうの放棄ほうきなのか、それとも正ただしい認識にんしき戦略せんりゃくなのか。
  8. 私わたしが死しんでも世界せかいが続つづくという事実じじつは、慰なぐさめなのか、それとも侮辱ぶじょくなのか。
  9. 保証ほしょうのない相手あいてに託たくすことは、賭かけなのか、祈いのりなのか。
  10. 自みずから死しを選えらんで他人たにんを生いかす行為こういを、犠牲ぎせいと呼よぶか、逃避とうひと呼よぶか、その線せんはどこにあるのか。
  11. 死しを恐おそれていることは、まだ生いきるべき理由りゆうになりうるのか。
  12. 運命うんめいを、問といとして受うけ取とるのと、宣言せんげんとして引ひき受うけるのとでは、何なにが変かわるのか。

第だい4話よんわは「生いきられるか」を問とうた。第だい5話ごわは「渡わたせるか」を問とう。

十二じゅうにの問といは、すべて「読よめない」という一点いってんから生はえている。読よめないから信しんじるしかなく、読よめないから運はこぶしかなく、読よめないから託たくすしかない。その連鎖れんさを、八やっつの短みじかい言葉ことばから辿たどり直なおす。

Ⅲ

第だい3章さんしょう 名場面めいばめんの解剖かいぼう

結論けつろん:第だい5話ごわの台詞せりふは、知ちの伝達でんたつをめぐる三みっつの層そう──読よめること、渡わたすこと、続つづくこと──を順じゅんに掘ほり下さげていく。八やっつの短たん句くを解剖かいぼうする。

3-1

どうせヤツらは 文字もじ一ひとつ読よめんだろう
── 第だい5話ごわ ノヴァク 04:24

A作品さくひん世界せかい追跡ついせきを打うち切きる判断はんだんの根拠こんきょとして、ノヴァクは識字しきじを挙あげる。捕とらえるべきは異端いたん者もの本人ほんにんであり、残のこった二人ふたりは放ほうっておいても何なにもできはしない、と。

C史実しじつこの判断はんだんは、当時とうじの社会しゃかい構造こうぞうの正確せいかくな理解りかいに基もとづいている。 知ちの管理かんりにおいて、検閲けんえつは二次にじ的てきな装置そうちにすぎない。第一だいいちの関門かんもんは識字しきじであり、第だい二にの関門かんもんはラテン語ごであり、天文学てんもんがく書しょにはさらに数学すうがくが重かさなる。この三重さんじゅうの壁かべの外そとにいる者ものにとって、危険きけんな書物しょもつは物体ぶったいであって内容ないようではない有力ゆうりょく説せつ──識字しきじ率りつの推計すいけいは幅はばが大おおきいが、階層かいそうと識字しきじの強つよい相関そうかん自体じたいは定説ていせつ。

D現代げんだい評価ひょうかここに、知識ちしき社会学しゃかいがく(知识社会学/sociology of knowledge)的てきに重要じゅうような観察かんさつがある。最もっとも効果的こうかてきな検閲けんえつは、禁止きんしではなく、読解どっかい能力のうりょくの分配ぶんぱいである。 焚書ふんしょは目立めだち、抵抗ていこうを生うみ、しばしば失敗しっぱいする。だが読よめない人口じんこうを維持いじすることは、誰だれも抵抗ていこうできず、暴力ぼうりょくも要ようさず、統計とうけいとしてしか現あらわれない。第だい2話にわノート第だい10章じっしょうで「制度せいどは記述きじゅつを殺ころし切きれない」と述のべたが、第だい5話ごわはその補足ほそくを出だす──殺ころす必要ひつようがない。読よめなければ、記述きじゅつは沈黙ちんもくする。

D現代げんだい評価ひょうかそしてノヴァクの誤算ごさんはどこにあったか。彼かれは読解どっかいの経路けいろだけを見みていた。人ひとが人ひとに託たくすという経路けいろを勘定かんじょうに入いれていない。第だい5話ごわの全体ぜんたいが、この一点いってんの反証はんしょうとして構成こうせいされている。

二つの関門 ── 検閲より上流にあるもの 読めない人口の維持という第一の関門と、検閲という第二の関門。順序が効き目を決める。 第一の関門:読めない人口の維持 抵抗されない/暴力を要さない /統計にしか現れない 第二の関門:検閲・焚書・処罰 目立つ/抵抗を生む /しばしば失敗する 上流 第5話は、上流の関門を、下流の経路が迂回する話である
図ず 04二ふたつの関門かんもん。焚書ふんしょは目立めだち、抵抗ていこうを生うみ、しばしば失敗しっぱいする。読よめない人口じんこうの維持いじは、誰だれにも抵抗ていこうされない。

読よめない二人ふたりは、こうして生いき残のこった。生いき残のこった先さきで、一人ひとりが奇妙きみょうな謝あやまり方ほうをする。

3-2

この謝罪しゃざいは誠実せいじつさを欠かいている
── 第だい5話ごわ グラス 06:51

A作品さくひん世界せかい巻まき込こんだことを詫わびた直後ちょくご、彼かれは自みずから注釈ちゅうしゃくを加くわえる。やり直なおしたいかと問とわれればそうではなく、何度なんど繰くり返かえしても同おなじ選択せんたくをしただろうから、この謝罪しゃざいは誠実せいじつさを欠かいている──その点てんも申もうし訳わけない、と。

D現代げんだい評価ひょうか謝罪しゃざいの倫理学りんりがくから見みると、この一言ひとことは精密せいみつである。謝罪しゃざいが完全かんぜんであるためには、行為こういの否認ひにん・後悔こうかい・再発防止さいはつぼうしの約束やくそくが揃そろう必要ひつようがある。グラスにはそのいずれもない。彼かれは自分じぶんの行為こういを正ただしかったと考かんがえており、繰くり返かえすと明言めいげんしている。

だが彼かれは、謝罪しゃざいを取とり下さげない。謝罪しゃざいの不足ふそくを申告しんこくした上うえで、なお謝罪しゃざいする。 ここで起おきているのは、謝罪しゃざいの値引ねびきではなく、通貨つうかの切きり替かえである。彼かれが差さし出だしているのは後悔こうかいではなく、相手あいてを欺あざむかないという誠実せいじつさそのものである。第だい4話よんわでオクジーが自己じこ卑下ひげを対人たいじん技術ぎじゅつとして運用うんようしていたこと(E4 第だい6章ろくしょう)と、正確せいかくな対たいをなす。片方かたほうは嘘うそで場ばを収おさめ、片方かたほうは真実しんじつで場ばを悪わるくする。

大学院だいがくいん

D現代げんだい評価ひょうかなお、この態度たいどは第だい3話さんわのラファウの偽誓ぎせい(E3 3-2節にせつ)とも対照的たいしょうてきである。ラファウは言葉ことばを道具どうぐとして扱あつかい、グラスは言葉ことばに自分じぶんの限界げんかいを書かき込こむ。三者三様さんしゃさんようの言語げんご観かんが、この作品さくひんには並置へいちされている。

不誠実ふせいじつさを申告しんこくする男おとこが箱はこを開あけると、中なかには、名前なまえを書かかなかった男おとこの手紙てがみがあった。

3-3

この発見はっけんのおかげで 私わたしは幸福こうふくな命いのちだったと断言だんげんできる
── 第だい5話ごわ グラス(占星術せんせいじゅつ師しの手紙てがみ) 10:02

A作品さくひん世界せかい石箱いしばこに入はいっていた新あたらしい手紙てがみ。書かき手ては製作者せいさくしゃではなく発見者はっけんしゃであり、自分じぶんの名なも、その後ごも記しるしていない。彼かれは箱はこを見みつけ、中身なかみの重大じゅうだいさを理解りかいし、計算けいさん修正しゅうせいを加くわえて、また置おいた。

C史実しじつこの人物像じんぶつぞうは、科学史かがくしの実像じつぞうに忠実ちゅうじつである。 天文学てんもんがくの発展はってんは、名なを残のこした少数しょうすうと、名なを残のこさなかった多数たすうの共同きょうどう作業さぎょうである。観測かんそくを積つんだ者もの、写本しゃほんを作つくった者もの、誤あやまりを直なおした者もの──マラーガ学派がくはからコペルニクス(哥白尼/Copernicus)への経路けいろ(E1 第だい8章はっしょう)も、実際じっさいにはこうした無名むめいの中継ちゅうけいの連つらなりだった可能性かのうせいが高たかい有力ゆうりょく説せつ。加くわえて、彼かれが占星術せんせいじゅつ師しであることも考証こうしょうとして正確せいかくである。当時とうじ、天体てんたいを最もっとも精確せいかくに観測かんそくし計算けいさんしていた専門職せんもんしょくはしばしば占星術せんせいじゅつ師しであり、占星術せんせいじゅつと天文学てんもんがくは未分化みぶんかだった定説ていせつ。

D現代げんだい評価ひょうかそして「幸福こうふくな命いのちだった」という一語いちごに注目ちゅうもくしたい。第だい3話さんわでラファウが命いのちと引ひき換かえに残のこしたものは「感動かんどう」だった(E3 3-8節はっせつ)。第だい4話よんわでグラスが観測かんそくに見出みいだしたものも「感動かんどう」だった(E4 3-5節ごせつ)。第だい5話ごわの中継ちゅうけい者しゃは、それを「幸福こうふく」と呼よぶ。発見はっけんに立たち会あったこと自体じたいが、生せいの総決算そうけっさんとして計上けいじょうされている。 この会計かいけい方式ほうしきが、名なを残のこさない者ものたちに、名なを残のこす動機どうきとは別べつの動機どうきを与あたえてきた。系譜けいふが千八百年せんはっぴゃくねんもったのは、これが理由りゆうの一ひとつである。

D現代げんだい評価ひょうかもう一点いってん、見落みおとしてはならないのが「複数ふくすうの計算けいさん修正しゅうせいをさせてもらった」である。第だい3話さんわで、ポトツキがラファウの計算けいさんを黙だまって直なおしていた(E3 3-3節さんせつ)。同おなじ行為こういが、第だい5話ごわでも、別べつの人間にんげんの手てで反復はんぷくされている。未練みれんの最小単位さいしょうたんいは、一行いちぎょうの修正しゅうせいであるという第だい3話さんわの観察かんさつが、ここで系譜けいふの作法さほうとして確立かくりつする。

名を残さない中継 ── 系譜の大半は、無名でできている 五つのノードのうち二つには名がない。系譜は、名を残さなかった人々によって運ばれる。 製作者 発見者・計算修正 次の読み手 名前が残らなかった者たち 幸福な命だったと書き残し、その後は不明 実線の円 ── 記録に名または役割が残る  点線の円 ── 何も残らない
図ず 05名なを残のこさない中継ちゅうけい。発見はっけんに立たち会あったこと自体じたいを生せいの総決算そうけっさんとして計上けいじょうする会計かいけい方式ほうしきが、系譜けいふを千八百年せんはっぴゃくねんもたせてきた。

発見はっけんを幸福こうふくと呼よんだ手紙てがみの隣となりで、もう一通いっつうは開ひらかれないまま置おかれている。読よめる人ひとが、いないからだ。

3-4

文字もじ ちゃんと習ならってないので
── 第だい5話ごわ オクジー 10:32

A作品さくひん世界せかいオクジーは手紙てがみを読よめない。ただしタイトルだけなら何なにとか読よめる──「地ち」(10:42)。

D現代げんだい評価ひょうかこの場面ばめんの残酷ざんこくな巧たくみさは、彼かれが読よめた唯一ゆいいつの文字もじが、この物語ものがたりの全部ぜんぶを指さしていることである。第だい3話さんわの終幕しゅうまくで岩いわに刻きざまれていた一文字いちもじ(E3 第だい1章いっしょう)が、ここで初はじめて人間にんげんの口くちから読よみ上あげられる。系譜けいふは、最小さいしょうの単位たんいまで縮ちぢめられることで、最もっとも読よめない者ものにまで届とどいた。

C史実しじつ識字しきじの階層かいそう性せいについては「世よ」の章しょうに譲ゆずるが、一点いってんだけ補おぎなう。当時とうじの識字しきじは、現代げんだいのように「読よめる/読よめない」の二値にちではない。署名しょめいだけできる者もの、俗語ぞくごの短みじかい文ぶんを追おえる者もの、朗読ろうどくを聞きいて理解りかいできる者もの、ラテン語ごを読よめる者もの──連続的れんぞくてきな階梯かいていである定説ていせつ。オクジーはその階梯かいていの最さい下段げだんの一ひとつ上うえに立たっている。「タイトルだけなら何なにとか」という位置いちは、実在じつざいした位置いちである。

一文字いちもじだけ読よめた男おとこの代かわりに、もう一通いっつうを読よんだ男おとこが、十じゅう年前ねんまえの感謝かんしゃの言葉ことばに行いき当あたる。

3-5

彼かれの協力きょうりょくは心強こころづよかった
── 第だい5話ごわ グラス(ラファウの手紙てがみ) 11:52

A作品さくひん世界せかい十じゅう年前ねんまえの手紙てがみで、ラファウは利益りえきの一いち割わりをポトツキに贈与ぞうよするよう指示しじし、彼かれの協力きょうりょくは心強こころづよかったと記しるしている。

D現代げんだい評価ひょうか第だい5話ごわで最もっとも冷つめたい一節いっせつである。 読者どくしゃは知しっている──ポトツキが密告みっこく(告发/denunciation)したこと(E3 3-3節さんせつ)を。ラファウは知しらないまま死しんだ。この手紙てがみは、密告みっこくされる前まえに書かかれている。

劇的げきてきアイロニー(戏剧性反讽/dramatic irony)としても強烈きょうれつだが、それ以上いじょうに重おもいのは、ラファウの遺言ゆいごんが訂正ていせい不能ふのうであるという点てんだ。死者ししゃは情報じょうほうを更新こうしんできない。手紙てがみは、書かかれた瞬間しゅんかんの世界像せかいぞうを凍結とうけつして未来みらいへ運はこぶ。第だい2話にわでフベルト(胡贝尔特/Hubert)の手紙てがみが「返事へんじを読よめない手紙てがみ」だったように(E2 文学ぶんがく層そう)、ラファウの手紙てがみは「真実しんじつを知しらないまま送おくられた手紙てがみ」である。継承けいしょうとは、正ただしさごと渡わたすことではない。その人ひとが信しんじていたものを、誤解ごかいごと渡わたすことでもある。

C史実しじつこの構造こうぞうは史料しりょう批判ひはん(史料批判/source criticism)の基本きほんでもある。一次いちじ史料しりょう(第一手史料/primary source)は、書かき手てが知しり得とくた範囲はんいでの真実しんじつしか含ふくまない。私わたしたちが古文書こもんじょを読よむとき、書かき手てが知しらなかったことを知しっている──その非対称ひたいしょうの上うえに、歴史学れきしがくは立たっている定説ていせつ。

訂正されない手紙 ── 書き手の知識と、読み手の知識 手紙は、書かれた瞬間の世界像を凍結して未来へ運ぶ。 書き手が知っていたこと 読み手が知っていること 協力してくれた 感謝を残す 協力があった その後、密告があった 手紙が書かれた時点 手紙が読まれる時点 死者は、 情報を更新できない 継承とは、その人が信じていたものを、誤解ごと渡すことでもある
図ず 06訂正ていせいされない手紙てがみ。一次いちじ史料しりょうは、書かき手てが知しり得とくた範囲はんいでの真実しんじつしか含ふくまない。

死者ししゃは訂正ていせいできない。そして生者しょうじゃにも、自分じぶんでは訂正ていせいできない思おもい込こみがある。

3-6

大地だいちに生いきている人間にんげんを 蔑さげすむような目めに見みえて
── 第だい5話ごわ オクジー 14:49

A作品さくひん世界せかい空そらが見みられない理由りゆうを、彼かれは初はじめて明あかす。神父しんぷの教おしえ──夜空よぞらがきれいなのは汚よごれた底辺ていへんの地球ちきゅうから見上みあげているからだ──以来いらい、星ほしが人間にんげんを蔑さげすむ目めに見みえるようになった。それ以前いぜんは、多分たぶん、好すきだった(15:06)。

C史実しじつ第だい4話よんわの「世よ」の章しょうで扱あつかった宇宙論うちゅうろんが、ここで人格じんかくの内側うちがわに沈殿ちんでんしている。中心ちゅうしん=最さい下層かそうという宇宙うちゅうは、単たんなる天文学てんもんがくではなく、自分じぶんが何者なにものであるかの説明せつめいとして機能きのうしていた(E4 世よの章しょう)定説ていせつ。

D現代げんだい評価ひょうか心理学しんりがくの語彙ごいでは、内在ないざい化かされた恥はじ(internalized shame)に近ちかい。外部がいぶから与あたえられた序列じょれつが、自己評価じこひょうかの枠組わくぐみとして定着ていちゃくし、やがて世界せかいの側がわから自分じぶんを見みる視線しせんとして体験たいけんされる。星ほしが「目め」に見みえるという表現ひょうげんは、比喩ひゆではなく、この機序きじょの正確せいかくな記述きじゅつである。

大学院だいがくいん

D現代げんだい評価ひょうかそして重要じゅうようなのは、彼かれがかつては好すきだったという一点いってんである。宇宙論うちゅうろんは彼かれから星ほしを奪うばったが、星ほしへの愛あいを消けしてはいない。第だい4話よんわの異端いたん者ものが試こころみた「希望きぼうの預あずけ替かえ」(E4 3-8節はっせつ)は、ここで具体的ぐたいてきな目標もくひょうを得える──天上てんじょうに預あずけた希望きぼうを地上ちじょうへ戻もどすことと、奪うばわれた空そらを彼かれに返かえすことは、同おなじ一ひとつの作業さぎょうになる。グラスの遺言ゆいごんが「その目めで空そらを見みてくれ」であるのは、この理路りろの帰結きけつである。

星ほしが自分じぶんを蔑さげすんで見みえる男おとこの隣となりで、もう一人ひとりは、自分じぶんの死後しごに残のこるものを数かぞえ直なおしていた。

3-7

私わたしが死しんでも この世界せかいは続つづく
── 第だい5話ごわ グラス 20:39

A作品さくひん世界せかい蔓つるに掴つかまったまま、グラスは自分じぶんの推論すいろんを告つげる。この世界せかいは喪失そうしつであふれ、人ひとはいつか死しんで去さる。それでも、自分じぶんが死しんでも世界せかいは続つづく。だから、そこに何なにかを託たくせる。それが、喪失そうしつまみれのこの世界せかいから生うまれた、ある種しゅの希望きぼうだ(20:49)。

D現代げんだい評価ひょうかこれは、現代げんだい哲学てつがくの重要じゅうような議論ぎろんと正確せいかくに同おなじ場所ばしょを指さしている。 サミュエル・シェフラー(谢弗勒/Samuel Scheffler)は『死しと後世こうせい』(2013)で、私わたしたちは個人的こじんてきな死後しご生せいを信しんじていなくとも「集合的しゅうごうてき後世こうせい(the collective afterlife)」──自分じぶんの死後しごも人類じんるいが存続そんぞくすること──を当然とうぜんの前提ぜんていとしており、この前提ぜんていが現在げんざいの価値かちづけを支ささえていると論ろんじた。彼かれの思考しこう実験じっけんでは、自分じぶんの死しの三十日さんじゅうにち後ごに人類じんるいが滅ほろびると知しった場合ばあい、多おおくの活動かつどうが意味いみを失うしなう。自分じぶんの生存せいぞんより、見知みしらぬ他者たしゃが存在そんざいし続つづけることのほうを、私わたしたちは深ふかく必要ひつようとしているという結論けつろんである有力ゆうりょく説せつ──分析ぶんせき哲学てつがくにおける影響力えいきょうりょくの大おおきい議論ぎろん。批判ひはんもある。

グラスの推論すいろんは、この論証ろんしょうの順序じゅんじょを逆ぎゃくに辿たどっている。彼かれはまず絶望ぜつぼうから出発しゅっぱつする──死後しごに残のこるのは自分じぶん抜ぬきの世界せかいだけだ(17:59)。これは通常つうじょう、虚無きょむの根拠こんきょとして使つかわれる命題めいだいである。彼かれはそこで反転はんてんさせる。自分じぶん抜ぬきの世界せかいが残のこるということは、渡わたす先さきがあるということだ、と。

大学院だいがくいん

D現代げんだい評価ひょうか論理的ろんりてきには、同一どういつの事実じじつを、剥奪はくだつ(自分じぶんはいなくなる)から資源しげん(世界せかいは残のこる)へ読よみ替かえている。第だい4話よんわで確認かくにんした命題めいだい──同おなじデータが絶望ぜつぼうにも希望きぼうにもなり、分わけるのは受うけ取とる枠組わくぐみである(E4 第だい10章じっしょう)──の、二に度目どめの実演じつえんである。ただし今回こんかいは、枠組わくぐみを他人たにんから与あたえられたのではない。彼かれが自分じぶんで組くみ立たてた。 第だい4話よんわの彼かれは異端いたん者ものの言葉ことばに揺ゆさぶられる側がわだったが、第だい5話ごわの彼かれは自力じりきで結論けつろんに到達とうたつしている。

C史実しじつなお、この思想しそうは近代きんだいの発明はつめいではない。名なを残のこす(キリスト教きょう以前いぜんの栄光えいこうの観念かんねん)、子孫しそんに伝つたえる、共同体きょうどうたいに寄与きよする──死後しごの世界せかいの外側そとがわに意味いみを置おく形式けいしきは古代こだいから存在そんざいした。ただし十五じゅうご世紀せいきのキリスト教きょう社会しゃかいにおいて、救済きゅうさい(救赎/salvation)の外そとに希望きぼうを求もとめることは、教義きょうぎの枠わくを踏ふみ越こえる性格せいかくを帯おびる有力ゆうりょく説せつ。グラスの結論けつろんが異端いたん的てきに響ひびくのは、内容ないようが反はん宗教的しゅうきょうてきだからではなく、希望きぼうの宛先あてさきが変かわっているからである。

自分抜きの世界 ── 剥奪から資源へ 同じ一本の時間軸を、剥奪として読むか、渡す先として読むか。 私の生の終わり 私がいる時間 私がいない時間 託す先 通常の読み:ここで全部が終わる 反転した読み:ここが残っているから、渡せる
図ず 07自分じぶん抜ぬきの世界せかい。自分じぶんがいなくなることを、初はじめて資源しげんとして数かぞえた言葉ことばである。

世界せかいが続つづくと分わかったとき、彼かれの運命うんめいの語尾ごびから、疑問符ぎもんふが消きえた。

3-8

これが私わたしの運命うんめいだ
── 第だい5話ごわ グラス 21:25

A作品さくひん世界せかい蔓つるを自みずから断たつ直前ちょくぜんの一言ひとこと。

D現代げんだい評価ひょうか第だい4話よんわで彼かれは同おなじ語ごを使つかっていた。円環えんかんが破やぶれた直後ちょくごの「これが私わたしの運命うんめいか……」(E4 3-6節ろくせつ)である。疑問符ぎもんふが、断定だんていに変かわっている。 受うけ取とる運命うんめいから、引ひき受うける運命うんめいへ。同おなじ言葉ことばの語尾ごびだけが変かわることで、人物じんぶつの変化へんかの全部ぜんぶが表現ひょうげんされている。第だい3話さんわでフベルトの命題めいだいが弟子でしの丁寧形ていねいけいで反復はんぷくされたこと(E3 3-6節ろくせつ)と同おなじ技法ぎほうが、今回こんかいは同一どういつ人物じんぶつの内部ないぶで使つかわれている。

D現代げんだい評価ひょうか思想史しそうし的てきには、宿命しゅくめいへの態度たいどの転換てんかんとして位置いちづけられる。与あたえられた運命うんめいを嘆なげく態度たいどと、それを自みずからの選択せんたくとして引ひき受うける態度たいどの区別くべつは、ストア派はからニーチェ(尼采/Nietzsche)の運命うんめい愛あい(amor fati)まで反復はんぷくされてきた主題しゅだいである(時代錯誤じだいさくごであることを明記めいきした上うえでの比較ひかく)。ただし本ほんノートは、この転換てんかんを無条件むじょうけんに肯定的こうていてきなものとして評価ひょうかしない。次つぎの理由りゆうによる。

倫理的りんりてき留保りゅうほ:グラスには自死じし未遂みすいの過去かこがある(E4 第だい1章いっしょう11項じゅういちこう)。彼かれの最後さいごの行為こういが、託たくすための選択せんたくだったのか、三さん度目どめの絶望ぜつぼうの帰結きけつだったのか──作品さくひんは決定けっていしていない。「託たくしてる」(20:19)という彼かれ自身じしんの言葉ことばは前者ぜんしゃを支持しじするが、彼かれ自身じしんの言葉ことばが常つねに彼かれの内面ないめんと一致いっちする保証ほしょうはない。第だい8章はっしょうの反対はんたい解釈かいしゃくで、この両義性りょうぎせいを保存ほぞんする。

語尾が変わる ── 受け取る運命から、引き受ける運命へ 同じ言葉の語尾だけが変わることで、人物の変化の全部が表現されている。 これが 私の運命か…… 第4話 16:44 これが私の運命だ 第5話 21:25 受け取る運命から、 引き受ける運命へ
図ず 08語尾ごびが変かわる。疑問符ぎもんふが断定だんていに変かわることで、人物じんぶつの変化へんかの全部ぜんぶが言いい切きられている。

彼かれが読よめた唯一ゆいいつの文字もじが、この物語ものがたりの題名だいめいだった。

八やっつの言葉ことばが示しめしたのは、この回かいが知ちの伝達でんたつを三みっつの層そう──読よめること、渡わたすこと、続つづくこと──に分わけて掘ほっていることだった。では、その層そうはどこまで史実しじつに届とどいているのか。今回こんかいの測量そくりょうでは、識字しきじと写本しゃほんと占星術せんせいじゅつ師しの扱あつかいが、そろって高たかい妥当性だとうせいを示しめす。

Ⅳ

第だい4章よんしょう 作中さくちゅう×史実しじつ 照合表しょうごうひょう(第だい5話ごわ 新規しんき分ぶん)

結論けつろん:第だい5話ごわは、制度せいどと社会しゃかい条件じょうけんの考証こうしょうが精密せいみつであり、とりわけ識字しきじ・写本しゃほん・占星術せんせいじゅつ師しの扱あつかいが正確せいかくである。

作中さくちゅう表現ひょうげんA作品さくひん世界せかい 史実しじつC史実しじつ 妥当性だとうせい 補足ほそく
下層かそう民みんは文字もじが読よめないという前提ぜんてい 識字しきじは階層かいそうと強つよく相関そうかんし、日雇ひやとい層そうの識字しきじ率りつは極きわめて低ひくい 高高こう 数値すうち推計すいけいには幅はばがある有力ゆうりょく説せつ。相関そうかんそのものは定説ていせつ
「タイトルだけなら何なにとか」という中間的ちゅうかんてきな識字しきじ 当時とうじの識字しきじは連続的れんぞくてきな階梯かいていであり、断片的だんぺんてきな読解どっかい層そうが実在じつざいした 高高こう 定説ていせつ
学術書がくじゅつしょがラテン語ごと数式すうしきで書かかれ、俗語ぞくご話者わしゃに読よめない 学問がくもんと教会きょうかいの共通語きょうつうごはラテン語ご。天文学てんもんがく書しょはさらに数学すうがくを要求ようきゅう 高高こう 定説ていせつ
占星術せんせいじゅつ師しが天体てんたい観測かんそくと計算けいさんの専門家せんもんかである 占星術せんせいじゅつと天文学てんもんがくは未分化みぶんか。観測かんそく技術ぎじゅつの担にない手てはしばしば占星術せんせいじゅつ師し 高高こう 定説ていせつ
石箱いしばこに手紙てがみと資料しりょうを封ふうじ、目印めじるしを岩いわに刻きざむ 記録きろくの秘匿ひとくと目印めじるしの使用しようは普遍的ふへんてきな実践じっせん。ただし本件ほんけんの具体ぐたいは創作そうさく 中中なか 手法しゅほうの妥当性だとうせいは高たかいが、事例じれいとしては作品さくひん固有こゆう
遺言ゆいごんによる利益りえきの一いち割わり贈与ぞうよという指示しじ 遺言ゆいごん・贈与ぞうよの慣行かんこうは存在そんざい。ただし遠隔地えんかくちへの履行りこう強制きょうせいの仕組しくみは弱よわい 中中なか 制度せいどとしては存在そんざい、実効性じっこうせいは限定的げんていてき有力ゆうりょく説せつ
橋はしの崩落ほうらくと迂回うかいの困難こんなん 橋はしの維持いじは断続的だんぞくてきで、崩落ほうらくと長期ちょうき不通ふつうは常態じょうたい 高高こう 定説ていせつ
修道士しゅうどうしが素行そこう不良ふりょうと思想しそう上じょうの禁忌きんきで左遷させんされる 聖職者せいしょくしゃへの懲戒ちょうかいとして左遷させん・配転はいてんは実在じつざいの処置しょち 高高こう 定説ていせつ
副ふく助祭じょさいという職しょく 副ふく助祭じょさいは中世ちゅうせい教会きょうかいの聖職せいしょく位階いかい(圣秩/holy orders)の一ひとつ 高高こう 定説ていせつ
異端いたん審問しんもん官かんが民間みんかんの警備けいびを移送いそうに用もちいる 審問しんもん所しょが世俗せぞくの協力者きょうりょくしゃを用もちいた点てんは史実しじつ。常設じょうせつ組合くみあいへの委託いたくは作品さくひん固有こゆう 中中なか E4 と同種どうしゅの圧縮あっしゅく
交戦中こうせんちゅうの降参こうさんの扱あつかいが「各自かくじ判断はんだん」 該当がいとうデータなし──当時とうじの傭兵ようへい・警備けいび実務じつむの内規ないきを確認かくにんできず ── 劇的げきてき装置そうちとして評価ひょうか
十五じゅうご世紀せいきに地動説ちどうせつ(日心说/heliocentrism)の資料しりょうが石箱いしばこに隠かくされている 意図的いとてき仮構かこうの継続けいぞく 意図的虚構低てい(意図的いとてき虚構きょこう) シリーズの中核ちゅうかく設定せってい

一冊いっさつの写本しゃほんは、家畜かちくや土地とちに値あたいした。焼やかれるまでもなく、多おおくの人ひとには初はじめから白紙はくしだった。

考証こうしょうが正確せいかくであるほど、この回かいの構造こうぞうも鮮明せんめいになる。誰だれ一人ひとりとして、単独たんどくでは中身なかみに到達とうたつできない。だとすれば、そもそも知識ちしきとは、個人こじんの頭あたまのなかにあるものなのだろうか。

Ⅴ

第だい5章ごしょう 科学かがく哲学てつがく —— 認識にんしき的てき依存いぞんと、名なを残のこさない者ものたち

結論けつろん:第だい5話ごわは、科学かがくが個人こじんの営いとなみではなく分業ぶんぎょうと信頼しんらいの体系たいけいであることを、最もっとも貧まずしい条件じょうけんから描えがき出だす。読よめない者もの、翻訳ほんやくできない者もの、名なを残のこさない者ものが、それでも系譜けいふを運はこぶ。

基礎きそ
  • オクジーは書物しょもつを読よめない。グラスは俗語ぞくごなら読よめるがラテン語ごと数式すうしきは読よめない。占星術せんせいじゅつ師しは読よめたが、箱はこを開あけた最初さいしょの人ひとではなかった。誰だれ一人ひとりとして、単独たんどくでは内容ないように到達とうたつできない。
発展はってん
  • 認識にんしき的てき依存いぞん(epistemic dependence):現代げんだいの科学かがく哲学てつがくでは、専門せんもん知ちの大部分だいぶぶんを私わたしたちは自力じりきで検証けんしょうせず、他者たしゃの証言しょうげんに依拠いきょして受うけ入いれている。ジョン・ハードウィグ(哈德威格/John Hardwig)は、この依存いぞんが知識ちしきの欠陥けっかんではなく、複雑ふくざつな知識ちしき体系たいけいにおける合理的ごうりてきな構造こうぞうであると論ろんじた定説ていせつ(概念がいねんとして広ひろく受容じゅよう)。
  • この観点かんてんから見みると、オクジーの「歴史上れきしじょうの頭あたまのいい人ひとたちが出だした事実じじつです」(17:02)は、怠慢たいまんではない。検証けんしょう手段しゅだんを持もたない者ものにとって、権威けんいへの信頼しんらいは唯一ゆいいつ利用りよう可能かのうな認識にんしき戦略せんりゃくである。 問題もんだいは彼かれが信頼しんらいしたことではなく、信頼しんらい先さきが一ひとつしかなかったことである。複数ふくすうの独立どくりつした権威けんいが競合きょうごうする環境かんきょう(大学だいがく、異ことなる学派がくは、他ほか文明ぶんめいの文献ぶんけん)を持もつ者ものだけが、比較ひかくによる吟味ぎんみを行おこなえる。知的ちてき自由じゆうとは、疑うたがう能力のうりょくの前まえに、選えらべる権威けんいが複数ふくすうあることである。
  • 累積るいせき的てき文化ぶんか(累积性文化/cumulative culture):人類じんるいの知識ちしきが世代せだいを超こえて積つみ上あがるのは、各かく世代せだいがゼロから始はじめないからである。伝達でんたつの忠実ちゅうじつ性せいが一定いっていを超こえると、改良かいりょうが失うしなわれずに蓄積ちくせきする。第だい5話ごわが描えがくのは、その伝達でんたつが内容ないよう理解りかいを伴ともなわずに成立せいりつしうるという事実じじつである。オクジーは中身なかみを理解りかいしていない。それでも運はこべる。知ちの継承けいしょうは、理解りかいの継承けいしょうを必かならずしも必要ひつようとしない。
  • 大学院だいがくいん ここに、第だい3話さんわの命題めいだいとの緊張きんちょうがある。ラファウは「知性ちせいは宿主しゅくしゅさえ制御せいぎょ不能ふのうに増殖ぞうしょくする」と語かたった(E3 3-6節ろくせつ)。だが第だい5話ごわが示しめすのは、増殖ぞうしょくの主体しゅたいが知性ちせいそのものではなく、知性ちせいを運はこぶ関係かんけいであるということだ。異端いたん者ものからオクジーへ、オクジーからグラスへ、グラスから再ふたたびオクジーへ。運はこばれているのは思想しそうではなく、まだ読よまれていない紙束かみたばと、託たくすという行為こういの反復はんぷくである。
誰も単独では届かない ── 認識的依存の図 知識は、頭のなかではなく、人と人のあいだに架かる。 書物の本体 到達していない 表紙の一文字のみ 俗語は読めるが、 ラテン語と数式は読めない 箱を開けたが、 最初の一人ではない 知識は、頭のなかではなく、人と人のあいだに架かる 誰一人として、単独では内容に到達できない
図ず 09誰だれも単独たんどくでは届とどかない。読よめない者もの、翻訳ほんやくできない者もの、名なを残のこさない者ものが、それでも系譜けいふを運はこぶ。

誰だれ一人ひとりとして、単独たんどくでは中身なかみに届とどかない。知識ちしきとは、頭あたまのなかにあるものではなく、人ひとと人ひとのあいだに架かかるものである。

知ちは分業ぶんぎょうと信頼しんらいの体系たいけいである──そう言いい切きってしまうと、涼すずしい話はなしに聞きこえる。だが橋はしの上うえで起おきていたのは、体系たいけいではなく、一人ひとりの男おとこが別べつの一人ひとりに、拒否きょひできない形かたちで何なにかを押おしつける瞬間しゅんかんだった。その手てつきを、倫理りんりの側がわから見みる。

Ⅵ

第だい6章ろくしょう 倫理学りんりがく・心理学しんりがく —— 託たくすこと、決きめないこと、死しを恐おそれること

結論けつろん:第だい5話ごわの倫理的りんりてき中心ちゅうしんは「託たくす」という行為こういである。それは贈与ぞうよでありながら、同時どうじに、拒否きょひできない負債ふさいの押おし付つけでもある。

発展はってん
  • 世代せだい継承けいしょう性せい(generativity):次世代じせだいへの貢献こうけんに自己じこの意味いみを見み出だす発達はったつ段階だんかいを、エリク・エリクソン(埃里克森/Erik Erikson)はこう呼よんだ定説ていせつ(概念がいねんとして広ひろく受容じゅよう)。グラスの「託たくしてる」は、この語ごの最もっとも切迫せっぱくした形かたちである。ただし典型的てんけいてきな世代せだい継承けいしょう性せいが持続的じぞくてきな養育よういくを含ふくむのに対たいし、彼かれのそれは一回いっかいの投擲とうてきである。育そだてる時間じかんがない者ものの継承けいしょうは、賭かけの形かたちをとるほかない。
  • 保証ほしょうの不在ふざい:「俺おれがやる保証ほしょうなんてまったくない」(20:31付近さんじゅういちふきん)というオクジーの抗議こうぎに、グラスは「そのとおりだ」と認みとめた上うえで「だが 君きみはやる」と言いう。ここで彼かれが差さし出だしているのは予測よそくではなく、信頼しんらいという行為こういである。信頼しんらいは、根拠こんきょが十分じゅうぶんなら信頼しんらいと呼よばれない。根拠こんきょが足たりない場所ばしょでだけ、信頼しんらいは信頼しんらいになる。
  • 決定けっていの委譲いじょう:オクジーは「どっちがいいか決きめてくれますか」(13:45)と選択せんたくを明あけ渡わたす。第だい4話よんわで分析ぶんせきした学習性無力感がくしゅうせいむりょくかん(习得性无助/learned helplessness)と適応てきおう的てき選好せんこう形成けいせい(E4 第だい6章ろくしょう)の、行動こうどうレベルでの表あらわれである。だからこそ、グラスが最後さいごに「君きみに選えらんでほしい」と選択せんたく権けんを返かえす構図こうずが効きく。彼かれが渡わたしたのは書物しょもつではなく、選えらぶ立場たちばそのものである。 ただし──選えらばされる自由じゆうもまた、負担ふたんである。第だい8章はっしょうの反対はんたい解釈かいしゃくで扱あつかう。
  • 死しを恐おそれることの再評価さいひょうか:「君きみの顔かおは まだ死しを恐おそえてるからだ」(21:10、正確せいかくには「死しを恐おそれてるからだ」)という判定はんていは、第だい4話よんわでオクジーが天国てんごくを渇望かつぼうしていたこと(E4 第だい1章いっしょう5項ごこう)と正面しょうめんから衝突しょうとつする。彼かれは早はやく天国てんごくへ行いきたいと言いいながら、顔かおは死しを恐おそれている。言明げんめいと身体しんたいが食くい違ちがっている。 グラスは言明げんめいではなく身体しんたいのほうを採用さいようした。心理学しんりがく的てきには、表明ひょうめいされた選好せんこうと行動的こうどうてき指標しひょうの乖離かいりとして記述きじゅつできる。倫理的りんりてきには、他人たにんの自己申告じこしんこくを上書うわがきする判断はんだんであり、第だい4話よんわの異端いたん者ものがオクジーの信仰しんこうの揺ゆらぎを言いい当あてた場面ばめん(E4 第だい6章ろくしょう)と同おなじ危あやうさを共有きょうゆうしている。

省略しょうりゃくされた文脈ぶんみゃくの開示かいじ②——なぜオクジーは「天国てんごくに近ちかづく」という言いい方かたに反応はんのうするのか。教会きょうかいへの通報つうほうは、単たんに社会しゃかい復帰ふっきの手段しゅだんではない。異端いたんの告発こくはつは功徳くどくとして扱あつかわれうる行為こういであり、密告みっこく義務ぎむは制度せいど化かされていた(E3 3-3節さんせつ)。つまりグラスが提示ていじした一ひとつ目めの選択肢せんたくしは、現世げんせの利益りえきと来世らいせの利益りえきが同時どうじに得とくられるという、彼かれの価値かち体系たいけいにおける完全かんぜんな正解せいかいである。この一段いちだんを外はずすと、オクジーが二ふたつ目めを選えらぶ困難こんなんさが、単たんなる情じょうの問題もんだいに見みえてしまう。実際じっさいには、救済きゅうさいの計算けいさんを捨すてるという決断けつだんである。

信頼しんらいは、根拠こんきょが足たりない場所ばしょでだけ、信頼しんらいになる。

託たくすことは、贈おくることであり、負おわせることでもある。守まもることであり、決きめさせないことでもある。この両義りょうぎのなかでは、読よむ側がわの足あしも滑すべる。滑すべりやすい場所ばしょに、今回こんかいも印しるしをつけておく。

Ⅶ

第だい7章ななしょう 私わたしが見落みおとしやすい視点してん(第だい5話ごわ 新規しんき12項目じゅうにこうもく)

結論けつろん:以下いかを第だい1話いちわ16項目じゅうろくこうもく・第だい2話にわ12項目じゅうにこうもく・第だい3話さんわ12項目じゅうにこうもく・第だい4話よんわ12項目じゅうにこうもくに追加ついかする。

  1. 識字しきじを能力のうりょくの問題もんだいとして見みない。それは分配ぶんぱいの問題もんだいであり、階層かいそうそのものである。
  2. ノヴァクの判断はんだんを油断ゆだんと読よまない。彼かれは当時とうじ最もっとも確実かくじつな安全あんぜん装置そうちを正ただしく評価ひょうかした。
  3. 占星術せんせいじゅつ師しを迷信めいしん家かとして扱あつかわない。当時とうじ、観測かんそくと計算けいさんの技術ぎじゅつを担になっていた専門職せんもんしょくである。
  4. 中継ちゅうけい者しゃに名ながないことを見落みおとさない。系譜けいふの大半たいはんは、名なを残のこさなかった人々ひとびとでできている。
  5. ラファウの手紙てがみの誤解ごかいを修正しゅうせいしない。彼かれは感謝かんしゃしたまま死しんだ。その誤解ごかいごと、手紙てがみは運はこばれる。
  6. オクジーが読よめた一文字いちもじが「地ち」であること。作品さくひんの題名だいめいが、最もっとも読よめない者ものの口くちから出でる。
  7. グラスの謝罪しゃざいの構造こうぞう。不誠実ふせいじつさを申告しんこくすることで誠実せいじつさを担保たんぽするという、逆説的ぎゃくせつてきな形式けいしき。
  8. 「頭あたまのいい人ひとたち」への依拠いきょを愚おろかさと断だんじない。検証けんしょう手段しゅだんのない者ものには、それが合理的ごうりてきである。
  9. 問題もんだいは信頼しんらいしたことではなく、信頼しんらい先さきが一ひとつしかないこと。知的ちてき自由じゆうの条件じょうけんは、選えらべる権威けんいの複数ふくすう性せいである。
  10. グラスの最後さいごの行為こういを一義いちぎに読よまない。託たくすための選択せんたくとも、三さん度目どめの絶望ぜつぼうの帰結きけつとも読よめる。作品さくひんは決きめていない。
  11. 選択せんたく権けんを返かえすことも負担ふたんである。決きめられない者ものに決きめさせることは、贈与ぞうよであると同時どうじに重荷おもにである。
  12. 第だい5話ごわで内容ないようは一行いちぎょうも理解りかいされていない。それでも継承けいしょうは成立せいりつする。理解りかいなき継承けいしょうという形式けいしきを見落みおとさない。

問題もんだいは、彼かれが権威けんいを信しんじたことではない。信しんじられる権威けんいが、一ひとつしかなかったことである。

十二じゅうにの死角しかくのうち、最もっとも深ふかいものは十じゅう番目ばんめだろう──彼かれの最後さいごの行為こういを、一義いちぎに読よまないこと。作品さくひんは決きめていない。決きめていないものを決きめてしまわないために、反論はんろんを五いつつ育そだてておく。

Ⅷ

第だい8章はっしょう 反対はんたい解釈かいしゃく(第だい5話ごわ 新規しんき5つ)

結論けつろん:「継承けいしょうの感動的かんどうてきな回かい」という標準的ひょうじゅんてき読解どっかいに対たいし、以下いかが成立せいりつする。

  1. グラス=三さん度目どめの自死じし論ろん。彼かれは疫病えきびょう(瘟疫/plague/epidemic)で家族かぞくを失うしない、自死じしを試こころみ、円環えんかんの破やぶれで再ふたたび絶望ぜつぼうした人物じんぶつである。橋はしの上うえで彼かれが選えらんだ死しを、託たくすための犠牲ぎせいとして読よむことは、自死じしの意味いみづけによる美化びかになりうる。作品さくひんが「託たくしてる」と語かたらせていることは、この読よみを排除はいじょしない──当人とうにんによる意味いみづけこそ、しばしば最もっとも強つよい防衛ぼうえいであるからだ。
  2. 押おし付つけとしての継承けいしょう論ろん。オクジーは望のぞんでいない。保証ほしょうはないと自みずから言いい、それでも託たくされる。第だい2話にわノート第だい8章はっしょう1で見みた「継承けいしょう=危険きけんの転嫁てんか」の系譜けいふが、ここでは死しの直前ちょくぜんという拒否きょひ不能ふのうな状況じょうきょうで行おこなわれている。
  3. ノヴァク正ただしさ論ろん。彼かれの判断はんだんは、この時点じてんまでは正ただしい。二人ふたりは読よめず、内容ないように到達とうたつしていない。彼かれが誤あやまったのではなく、確率かくりつの低ひくい経路けいろが実現じつげんしただけである。第だい5話ごわを「傲慢ごうまんな権力者けんりょくしゃの失策しっさく」として読よむのは、結果けっかを知しる者ものの後あと知恵ちえである。
  4. 異端いたん者ものの死しの評価ひょうか。彼かれはオクジーを庇かばって死しぬが、その直前ちょくぜんに「歴史れきしが君きみを必要ひつようとしたからだ」と告つげる。個人こじんではなく歴史れきしを理由りゆうに挙あげることは、相手あいてを目的もくてきではなく手段しゅだんとして扱あつかう言いい方かたでもある。救出きゅうしゅつの言葉ことばが、同時どうじに道具どうぐ化かの言葉ことばでもありうる。
  5. 「幸福こうふくな命いのちだった」への懐疑かいぎ。占星術せんせいじゅつ師しの断言だんげんは美うつくしいが、彼かれがその後ごどうなったかを私わたしたちは知しらない。発見はっけんの高揚こうようのうちに書かかれた文章ぶんしょうを、生涯しょうがいの総括そうかつとして受うけ取とってよいのか。手紙てがみは、書かかれた瞬間しゅんかんしか保証ほしょうしない。

託たくすという言葉ことばは、贈与ぞうよの顔かおをしているが、拒否権きょひけんを持もたない者ものに渡わたされている。

五いつつの反対はんたい解釈かいしゃく、とりわけ一いち番目ばんめの重おもい読よみを携たずさえたまま、五ご冊さつのノートを重かさねる。第だい1話いちわで装填そうてんされ、第だい2話にわで発火はっかし、第だい3話さんわで石いしになり、第だい4話よんわで足元あしもとの呼よび名なになったものが、第だい5話ごわでどこへ運はこばれたのかを。

Ⅸ

第だい9章きゅうしょう 第だい1〜4話よんわノートとの接続せつぞく(差分さぶんマップ)

結論けつろん:第だい5話ごわは、前四話ぜんよんわが積つみ上あげた命題めいだいを、最もっとも貧まずしい条件下じょうけんかで試験しけんする。

前話ぜんわノートの箇所かしょ 第だい5話ごわでの試験しけん・着地ちゃくち
E1 第だい8章はっしょう:無名むめいの中継ちゅうけい者しゃによる系譜けいふ 占星術せんせいじゅつ師しとして実体化じったいか。名なも後日談ごじつだんもない
E2 3-6節ろくせつ:燃もやせなかった手紙てがみ ラファウの手紙てがみとして発見はっけんされる。真実しんじつを知しらないまま送おくられた手紙てがみ
E2 第だい10章じっしょう:制度せいどは記述きじゅつを殺ころし切きれない 補足ほそくが付つく──読よめなければ、殺ころす必要ひつようすらない
E3 3-3節さんせつ:ポトツキの計算けいさん修正しゅうせい 占星術せんせいじゅつ師しの計算けいさん修正しゅうせいとして反復はんぷく。系譜けいふの作法さほうとして確立かくりつ
E3 3-3節さんせつ:ポトツキの密告みっこく ラファウの感謝かんしゃの言葉ことばにより、劇的げきてきアイロニーとして回収かいしゅう
E3 3-6節ろくせつ:知性ちせいは制御せいぎょ不能ふのうに増殖ぞうしょくする 修正しゅうせいされる──増殖ぞうしょくの主体しゅたいは知性ちせいではなく、託たくす関係かんけいである
E3 終幕しゅうまく:石いしの一文字いちもじ 最もっとも読よめない者ものの口くちから読よみ上あげられる
E4 世よの章しょう:中心ちゅうしん=最さい下層かそうの宇宙論うちゅうろん オクジーの内在ないざい化かされた恥はじとして、人格じんかくの内側うちがわに発見はっけんされる
E4 3-6節ろくせつ:これが私わたしの運命うんめいか…… 断定形だんていけい「これが私わたしの運命うんめいだ」へ転換てんかん
E4 3-8節はっせつ:希望きぼうの預あずけ替かえ グラスが自力じりきで到達とうたつし、「託たくす」という具体的ぐたいてき形式けいしきを与あたえる
知の系譜(第5話版)── ラテン語を読める者まで 線の種類は史料の確度。最下部は作品世界で、色で峻別される。新しいノードは、いずれも匿名。 ギリシア ローマ イスラーム圏 ラテン西方 伝達経路は未確定 (数学的同一性は確立) ピタゴラス派・フィロラオス 「地球は中心でなくてよい」という発想 ヘラクレイデス 自転による日周運動の説明可能性 アリスタルコス 太陽中心・地球公転の明示的仮説 プトレマイオス 高精度予測装置と、内部のエカント問題 イブン・アル=ハイサム 『プトレマイオス疑義』── 批判の口火 マラーガ学派(トゥースィー、ウルディー) エカントなしで同精度を出す数学装置 イブン・アル=シャーティル 月・水星の高精度モデル ビュリダン 運動の相対性(船の例)、インペトゥス理論 オレーム 自転反対論の論駁 ── しかし結論は地球静止 レギオモンタヌス 『アルマゲスト梗概』── 理論天文学の刷新 コペルニクス 部品の統合と、太陽中心への配置転換 作品世界 フベルト 地動説の命名/観測記録 ラファウ 火中からの継承 ラファウ 宣言と封印 石箱の在りかを知る者 ── 岩の一文字を見つけた二人 発見者・計算修正 ── 名を残さず 代闘士A 空を見るのが苦手 代闘士B 火星を二年 ラテン語を 読める者 ── 対面が始まっただけ 史実の列とは結線しない 凡例 ── 実線=定説 破線=有力説 点線=議論あり 銀=作品世界
図ず 10作品さくひんの列れつに、名なを残のこさない中継ちゅうけい者しゃが一ひとつ加くわわる。最後さいごのノードにも名前なまえは入はいらない ── 第だい5話ごわの時点じてんで、始はじまったのは対面たいめんだけである。
大タイムライン(第5話版)── 壁の高さが下がり始めるまで 知識の年表は、無知の年表と対である。下段の副帯に、越えられる壁の枚数が並ぶ。 前399 ソクラテスの死(アテナイ) 知 ── 独房と哲学の系譜の起点 未 ── 死の先 前4世紀 アリストテレスの宇宙論 知 ── 球体地球、月食の影 未 ── 惑星距離、慣性 前3世紀 アリスタルコスの太陽中心説 知 ── 天体距離推定の方法 未 ── 視差検出の手段 2世紀 『アルマゲスト』 知 ── 惑星位置の高精度計算 未 ── 実在性の検証法 8–13世紀 イスラーム圏の翻訳・批判 知 ── エカントの理論的欠陥 未 ── 配置転換の動機 13世紀 スコラ学の成熟・1277年禁令 知 ── 理性と啓示の分業 未 ── 実験の制度化 14世紀 ビュリダン・オレーム 知 ── 運動の相対性 未 ── 主張し切る理由 15世紀 作品の想定世界 知 ── 部品はほぼ全部 未 ── 組み立てる者 1440頃 印刷術 知 ── 同一の版を大量に作る技術 未 ── その社会的帰結 1473 コペルニクス誕生 知 ── ─ 未 ── ─ 1543 『天球回転論』 知 ── 太陽中心の体系 未 ── 楕円軌道、観測的証拠 1609 ケプラー『新天文学』── 楕円の解答 知 ── 楕円と面積速度 未 ── その力学的理由 1610– ガリレオの望遠鏡観測 知 ── 金星の満ち欠け 未 ── 恒星視差 1633 ガリレオ裁判 知 ── ─ 未 ── ─ 1687 『プリンキピア』 知 ── 天地を貫く力学 未 ── 光速の意味 1729 光行差(ブラッドリー) 知 ── 地球公転の最初の直接的観測証拠 未 ── 公転速度の意味 1838 ベッセル、恒星視差を検出 知 ── 公転の直接証拠 未 ── 銀河の外の宇宙 1851 フーコーの振り子 知 ── 自転の直接実証 未 ── 慣性系の起源 20世紀 相対論・膨張宇宙 知 ── 中心なき宇宙 未 ── 暗黒物質・暗黒エネルギー 現在 現代宇宙論 知 ── 組成の約95%が未同定と知る 未 ── その95% 破れた円環の、答えの在りか ラファウの見積もり:30〜40年 史実:約300年 署名のみ 俗語の短文 ラテン語 数学 階層とは、越えられる壁の枚数だった 壁の高さが、ここから下がり始める 知 ── そのとき知っていたこと  未 ── まだ知らなかったこと
図ず 11識字しきじの階梯かいていが、年表ねんぴょうの下段げだんに入はいる。越こえられる壁かべの枚数まいすうが、そのまま階層かいそうだった時代じだいの目盛めもりである。

第だい1話いちわで装填そうてんされ、第だい3話さんわで石いしになった継承けいしょうが、第だい5話ごわでは、読よめない手てに運はこばれた。

対応表たいおうひょうの最後さいごの列れつを見みると、この回かいが前四話ぜんよんわの命題めいだいを、最もっとも貧まずしい条件じょうけんで試験しけんしていることが分わかる。読よめない、渡わたせない、理解りかいできない。それでも系譜けいふは途切とぎれなかった。なぜか。結論けつろんを書かく。

Ⅹ

第だい10章じっしょう 結論けつろん —— 読よめない手てが、運はこぶ

結論けつろん:第だい5話ごわは、継承けいしょうが理解りかいなしに成立せいりつすることを描えがいた。渡わたす者ものは死しに、受うけ取とる者ものは読よめない。それでも渡わたる。継承けいしょうとは、内容ないようの移動いどうではなく、行為こういの反復はんぷくだからである。

第だい5話ごわで、書物しょもつの中身なかみを理解りかいした者ものは一人ひとりもいない。

異端いたん者ものは箱はこの在ありかを教おしえて死しんだ。占星術せんせいじゅつ師しは計算けいさんを直なおして置おき去さった。ラファウの手紙てがみは、感謝かんしゃすべきでない相手あいてへの感謝かんしゃを凍結とうけつしたまま運はこばれた。グラスは俗語ぞくごを読よめたがラテン語ごを読よめず、オクジーは表紙ひょうしの一文字いちもじしか読よめない。

それでも、紙束かみたばは移動いどうしている。

ここに、この作品さくひんが五話ごわをかけて到達とうたつした継承けいしょうの定義ていぎがある。継承けいしょうとは、正ただしい内容ないようが正ただしく理解りかいされて次つぎへ渡わたることではない。誰だれかが、まだ読よめないものを、読よめるかもしれない誰だれかへ運はこぶという行為こういが、反復はんぷくされることである。理解りかいは後あとから来くる。来こないこともある。それでも運はこばれた分ぶんだけが、次つぎの世代せだいの出発点しゅっぱつてんになる。

そしてグラスは、その反復はんぷくに理由りゆうを与あたえた。私わたしが死しんでも、この世界せかいは続つづく。だから託たくせる、と。

これは慰なぐさめの言葉ことばではない。自分じぶんがいなくなることを、初はじめて資源しげんとして数かぞえた言葉ことばである。喪失そうしつに満みちた世界せかいで、彼かれが見みつけた唯一ゆいいつの余剰よじょうは、自分じぶんの不在ふざいの後あとにも残のこる時間じかんだった。彼かれはそれを希望きぼうと呼よんだ。喪失そうしつまみれのこの世界せかいから生うまれた、ある種しゅの希望きぼう、と。

異端いたん審問しんもん官かんは正ただしかった。彼かれらは読よめない。彼かれらには何なにもできない。

ただ一ひとつ、彼かれの計算けいさんになかったことがある。読よめない手てにも、運はこぶことはできる。

そして村むらの扉とびらが開ひらき、読よめる男おとこが、何なにの用ようかと問とう。

三重の壁(再掲) 結びで、もう一度おなじ図に戻る。
図ず 12壁かべは越こえられていない。越こえたのは、壁かべを越こえられる人ひとのところまで歩あるいた足あしである。
油彩の口絵。灯りのともる石の部屋で、ひげをたくわえた男が大判の書物を手にこちらを見ている。窓の向こうは夜である。

口絵くちえ ── 扉とびらが開ひらき、読よめる男おとこが、何なにの用ようかと問とう

継承けいしょうとは、内容ないようが渡わたることではない。渡わたすという行為こういが、反復はんぷくされることである。

最後さいごに、一文字いちもじの話はなしをしたい。

第だい3話さんわの終おわりに、岩いわに刻きざまれた文字もじがあった。誰だれが刻きざんだかも、何なにのためかも分わからないまま、山やまの中なかに残のこされていた。第だい5話ごわで、それは初はじめて人ひとの口くちから読よみ上あげられる。読よみ上あげたのは、この物語ものがたりでいちばん文字もじを知しらない男おとこである。

「地ち」

一文字いちもじだけなら、読よめた。彼かれが読よめたのは、それだけだった。中身なかみは白紙はくしと変かわらない。だが、彼かれはそれを持もって歩あるき出だす。

知ちの歴史れきしとは、たぶん、こういう形かたちをしている。全部ぜんぶを理解りかいした者ものが、次つぎの全部ぜんぶを理解りかいした者ものへ手渡てわたしていく──そんな整ととのった系譜けいふは、どこにもない。実際じっさいには、少すこししか分わからない人ひとが、もっと分わかるかもしれない誰だれかのところまで、重おもい紙束かみたばを運はこんでいる。運はこびながら、中身なかみを知しらない。知しらないまま、道みちが途切とぎれれば迂回うかいし、橋はしが落おちれば別べつの橋はしを探さがす。

その途中とちゅうで、一人ひとりが落おちた。

彼かれは落おちる前まえに、自分じぶんの死しを計算けいさんに入いれ直なおした。自分じぶんがいなくなったあと、世界せかいは続つづく。ふつう、この文ぶんは虚むなしさの証明しょうめいとして使つかわれる。私わたしが消きえても何なにも変かわらない、と。彼かれは同おなじ文ぶんを裏返うらがえした。世界せかいが続つづくなら、そこに置おいていけるものがある。

これは論理ろんりとしては単純たんじゅんである。だが、単純たんじゅんな反転はんてんを、絶望ぜつぼうの底そこで自力じりきで見みつけることは、たぶん、人生じんせいに何度なんどもない。

そして彼かれは、渡わたす相手あいてを選えらんだ。読よめない男おとこを。天国てんごくに行いきたいと言いい続つづけてきた男おとこを。保証ほしょうはないと自分じぶんで言いった男おとこを。理由りゆうは、その男おとこの顔かおがまだ死しを恐おそれていたからだという。

まだ怖こわがっている、ということが、まだ生いきられる、ということだった。

紙束かみたばは、山やまを越こえ、橋はしを越こえ、村むらに着ついた。扉とびらが叩たたかれる。中なかから出でてきたのは、ラテン語ごを読よめる男おとこである。

第だい5話ごわは、そこで終おわる。何なにも解決かいけつしていない。誰だれも中身なかみを知しらない。分わかったことは一ひとつだけ──読よめない手てにも、運はこぶことはできるということ。

私わたしたちも、たぶん、何なにかを運はこんでいる。読よめないまま、誰だれかから受うけ取とったものを。それが何なになのかは、渡わたす相手あいてに会あうまで、分わからないのかもしれない。

補遺ほい・問とい

問といの章しょう 答こたえのない問とい

ここから先さきは、答こたえの出でない六むっつの問といである。

第だい5話ごわを見み終おえて残のこるのは、たぶん、感動かんどうと、落おち着つかなさの混まざったものだろう。落おち着つかなさのほうを、消けさずに持もって帰かえってほしい。あの橋はしの上うえで起おきたことは、美うつくしかったと同時どうじに、一方的いっぽうてきだった。片方かたほうは死しに、片方かたほうは選えらばされた。

六むっつの問といには、十五じゅうご世紀せいきからの声こえと、現代げんだいからの声こえを置おいた。どちらも本気ほんきで答こたえている。そして、どちらも答こたえきれない。

答こたえきれずに残のこった部分ぶぶんを、最後さいごの一行いちぎょうで名指なざしてある。それを、あなたに渡わたす。

六むっつ。答こたえは出でない。出でないことを確認かくにんするために置おく。

問とい一いち 読よめない者ものに渡わたされた書物しょもつは、渡わたされたと言いえるのか

中世ちゅうせいからの声こえ書物しょもつは聖せいなる器うつわであり、読よめぬ者ものが携たずさえることに意味いみはない。理解りかいなき所持しょじは、宝たからを土つちに埋うめるに等ひとしい。知ちは、それを扱あつかう資格しかくと訓練くんれんを持もつ者ものの手てにあってこそ働はたらく。器うつわを運はこぶ役やくは、運はこぶ役やくでしかない。

現代げんだいからの声こえ伝達でんたつの忠実ちゅうじつ性せいさえ保たもたれれば、理解りかいは後続こうぞく世代せだいが担になえる。写本しゃほんを書かき写うつした無数むすうの書写しょしゃ生せい(抄写员/scribe)は内容ないようを理解りかいしていないことも多おおかったが、彼かれらなしに古典こてんは現存げんそんしない。運搬うんぱんは、理解りかいと同等どうとうの貢献こうけんである。

開ひらかれた問といでは、運はこんだだけの者ものは、その知識ちしきの歴史れきしにおいて何なにと呼よばれるべきなのか。名前なまえの残のこらない貢献こうけんに、私わたしたちはどんな敬意けいいの形式けいしきを用意よういできるのか。

問とい二に やり直なおしても同おなじ選択せんたくをする者ものの謝罪しゃざいは、謝罪しゃざいなのか

中世ちゅうせいからの声こえ悔悛かいしゅんなき謝罪しゃざいは空虚くうきょである。赦ゆるしの前提ぜんていは、罪つみの認識にんしきと、二に度どと繰くり返かえさぬという意志いしである。繰くり返かえすと言いいながら詫わびる者ものは、詫わびの形式けいしきを借かりて自分じぶんを正当化せいとうかしているにすぎない。

現代げんだいからの声こえ謝罪しゃざいの核心かくしんは後悔こうかいではなく、相手あいてが受うけた被害ひがいの承認しょうにんである。行為こういの正当性せいとうせいを確信かくしんしたまま、相手あいてに生しょうじた損害そんがいを認みとめることは、論理的ろんりてきに矛盾むじゅんしない。むしろ偽いつわりの後悔こうかいを演えんじるほうが、相手あいてを欺あざむいている。

開ひらかれた問といでは、詫わびられた側がわは、その謝罪しゃざいをどう扱あつかえばよいのか。受うけ取とることも、拒こばむことも、赦ゆるすことも──誠実せいじつな加害者かがいしゃに対たいして、被害者ひがいしゃにはどんな選択肢せんたくしが残のこされているのか。

問とい三さん 権威けんいを信しんじることは、思考しこうの放棄ほうきなのか

中世ちゅうせいからの声こえ然しかり、信しんじるべきである。真理しんりは個人こじんの思弁しべんからではなく、権威けんいある伝統でんとうから与あたえられる。自分じぶんの頭あたまで確たしかめようとすることこそ、傲慢ごうまんの始はじまりである。人ひとは、自みずからの分ぶんを知しらねばならない。

現代げんだいからの声こえ専門せんもん分化ぶんかした知識ちしき社会しゃかいでは、誰だれもが大半たいはんを他者たしゃの証言しょうげんに依拠いきょしている。信頼しんらいは認識にんしきの欠陥けっかんではなく構造こうぞうである。問題もんだいは信しんじることではなく、信しんじる先さきを比較ひかくできるかどうかにある。

開ひらかれた問といでは、比較ひかくできるほどの複数ふくすうの権威けんいに触ふれられない環境かんきょうに置おかれた人ひとは、自分じぶんの信念しんねんについて、どこまで責任せきにんを負おうべきなのか。

問とい四よん 自分じぶんの死後しごも世界せかいが続つづくことは、慰なぐさめなのか、侮辱ぶじょくなのか

中世ちゅうせいからの声こえこの世よが続つづくかどうかは本質的ほんしつてきな問題もんだいではない。重要じゅうようなのは、自分じぶんの魂たましいが救すくわれるかである。世界せかいの存続そんぞくに希望きぼうを託たくすのは、永遠えいえんを有限ゆうげんのもので代用だいようする誤あやまりであり、真しんの慰なぐさめは審判しんぱんの彼方かなたにしかない。

現代げんだいからの声こえ自分じぶんの死後しごも人類じんるいが存続そんぞくするという前提ぜんていは、現在げんざいの営いとなみが意味いみを持もつための静しずかな条件じょうけんである。それが崩くずれると、多おおくの活動かつどうから価値かちが抜ぬけ落おちる。私わたしたちは、見知みしらぬ未来みらいの他者たしゃを、自分じぶんが思おもう以上いじょうに必要ひつようとしている。

開ひらかれた問といでは、自分じぶんの死後しごの世界せかいを必要ひつようとしながら、その世界せかいのために何なにもしていないとき──私わたしたちは、まだそこに希望きぼうを託たくしていると言いえるのか。

問とい五ご 保証ほしょうのない相手あいてに託たくすことは、贈与ぞうよか、押おし付つけか

中世ちゅうせいからの声こえ託たくすとは、神かみの摂理せつりに委ゆだねることである。人ひとが人ひとに負おわせるのではなく、双方そうほうが神かみの計画けいかくの中なかで役割やくわりを受うけ取とる。受うけ手てが拒こばめぬのは重荷おもにではなく、召命しょうめいである。

現代げんだいからの声こえ同意どういなき負託ふたくは、自律じりつ(自主性/autonomy)への侵害しんがいでありうる。ただし、あらゆる継承けいしょうは本人ほんにんの同意どういなしに始はじまる──言語げんごも、文化ぶんかも、負債ふさいも。同意どういの有無うむで贈与ぞうよと押おし付つけを分わけきることは、そもそもできない。

開ひらかれた問といでは、拒こばめない状況じょうきょうで託たくされた者ものが、それでも拒こばんだとき──その拒否きょひを、私わたしたちは非難ひなんできるのか。できないとすれば、託たくした側がわの行為こういは何なにだったのか。

問とい六ろく 死しを恐おそれていることは、まだ生いきるべき理由りゆうになるのか

中世ちゅうせいからの声こえ死しの恐おそれは、魂たましいが救すくいを確信かくしんできていない徴しるしである。恐おそれは克服こくふくされるべきものであり、それを生せいの理由りゆうとするのは倒錯とうさくである。善よく死しぬ準備じゅんびができた者ものこそ、正ただしく生いきた者ものである。

現代げんだいからの声こえ死しへの恐おそれは生せいへの執着しゅうちゃくの裏面りめんであり、まだ手放てばなしていないものがある証拠しょうこでもある。ただしそれを他人たにんが判定はんていし、本人ほんにんの申告しんこくを上書うわがきすることには、慎重しんちょうさが要いる。

開ひらかれた問といでは、本人ほんにんが「早はやく死しにたい」と言いい、顔かおが「まだ死しにたくない」と言いっているとき──どちらを、その人ひとの意思いしとして扱あつかうべきなのか。決きめる権利けんりは、誰だれにあるのか。

六むっつとも、答こたえは出でなかった。

出でないまま、人ひとは誰だれかに何なにかを渡わたしてきた。読よめない相手あいてに、拒こばめない状況じょうきょうで、保証ほしょうもなしに。冷静れいせいに見みれば、無茶むちゃである。無茶むちゃだが、それ以外いがいに方法ほうほうがなかった。

言葉ことばも、技術ぎじゅつも、名前なまえも、借金しゃっきんも──私わたしたちが受うけ取とったもののうち、同意どういして受うけ取とったものが、いくつあるだろうか。

継承けいしょうとは、常つねに少すこし強引ごういんなものである。強引ごういんさを消けしたら、たぶん、何なにも渡わたらない。

人物じんぶつ帖ちょう

付録ふろく2 人物じんぶつカード(第だい5話ごわゲート)

オクジーの立ち姿のペン画

オクジー

日本語にほんご表記ひょうきオクジー

中文ちゅうぶん表記ひょうき訳語やくご未確定みかくてい

EnglishOczy(Seven Seas 版はん準拠じゅんきょ。出典しゅってん:https://sevenseasentertainment.com/series/orb-on-the-movements-of-the-earth-omnibus/ )

声優せいゆう小西こにし克幸かつゆき(出典しゅってん:https://www.oricon.co.jp/special/69228/ / https://www.behindthevoiceactors.com/tv-shows/Orb-On-the-Movements-of-the-Earth/ )

立場たちば元もと・民間みんかん警備けいび組合くみあいの代だい闘士とうし。第だい5話ごわ終了しゅうりょう時点じてんで街まちにも組合くみあいにも戻もどれない立場たちば

性格せいかく悲観的ひかんてき。降参こうさんと自己じこ卑下ひげを生存せいぞん技術ぎじゅつとして運用うんようする。決定けっていを他者たしゃへ委ゆだねる傾向けいこう

背景はいけい文字もじを十分じゅうぶんに習ならっていない。少年期しょうねんきに神父しんぷから宇宙論うちゅうろんを教おそわり、それ以来いらい、空そらを見みることができない。それ以前いぜんは空そらが好すきだった

思想しそう希望きぼうは天国てんごくにのみある。この世よで待まっているのは喪失そうしつだけである。それは歴史上れきしじょうの賢人けんじんたちが出だした事実じじつである

この話はなしまでに明あかされた事実じじつ・降参こうさんによりノヴァクの前まえで生いき延のびた
・異端いたん者しゃに庇かばわれ、「歴史れきしが君きみを必要ひつようとしたからだ」と告つげられた
・書物しょもつを読よめず、表紙ひょうしの「地ち」の一いち字じのみ読よめた
・異端いたん者しゃのペンダントを捨すてようとし、グラスが引ひき継ついだ
・空そらが見みられない理由りゆうを初はじめて語かたった(星ほしが人間にんげんを蔑さげすむ目めに見みえる)
・グラスから二ふたつの選択肢せんたくしを示しめされ、託たくされた
・グラスの死しを目撃もくげきし、一人ひとり残のこされた

グラスの立ち姿のペン画

グラス

日本語にほんご表記ひょうきグラス

中文ちゅうぶん表記ひょうき訳語やくご未確定みかくてい

EnglishGras(Seven Seas 版はん準拠じゅんきょ。出典しゅってん:同上どうじょう)

声優せいゆう白石しらいし稔みのる(出典しゅってん:https://www.behindthevoiceactors.com/tv-shows/Orb-On-the-Movements-of-the-Earth/ )

立場たちば元もと・民間みんかん警備けいび組合くみあいの代だい闘士とうし。移送いそう任務にんむを裏切うらぎり、異端いたん者しゃを逃にがした

性格せいかく礼儀れいぎ正ただしく、自分じぶんの言葉ことばの不足ふそくを自みずから申告しんこくする。俗語ぞくごの読よみ書かきができる

背景はいけい疫病えきびょうで家族かぞくを全員ぜんいん失うしない、自死じしを試こころみたが死しにきれず、教会きょうかいで赦ゆるされた。火星かせいの観測かんそくに希望きぼうを見出みいだしたが、逆行ぎゃっこうにより円環えんかんの前提ぜんていが破やぶれた

思想しそう家族かぞくと出会であえたのもこの世よであり、この世よを否定ひていしたくない。もう一度いちどこの世よを肯定こうていしたい。私わたしが死しんでもこの世界せかいは続つづく、だからそこに何なにかを託たくせる

この話はなしまでに明あかされた事実じじつ・不誠実ふせいじつさを自みずから申告しんこくする形かたちで謝罪しゃざいした
・石箱いしばこを発見はっけんし、二に通つうの手紙てがみを読よんだ
・書物しょもつ本体ほんたいはラテン語ごと数式すうしきで読よめなかった
・異端いたん者しゃのペンダントを引ひき継ついだ
・修道士しゅうどうしバデーニを当あてとして挙あげた(左遷させん理由りゆうは素行そこう不良ふりょうと思想しそう上じょうの禁忌きんき)
・オクジーに二ふたつの選択肢せんたくしを提示ていじし、「託たくしてる」と述のべた
・自みずから蔓つるを断たち、「これが私わたしの運命うんめいだ」と告つげて落下らっかした
・オクジーは「死しんだ」と述のべている

異端いたん者しゃ(第だい5話ごわでも固有名こゆうめいが明あかされない)

日本語にほんご表記ひょうき異端いたん者しゃ

中文ちゅうぶん表記ひょうき訳語やくご未確定みかくてい

EnglishHeretic(役名やくめい。出典しゅってん:https://www.behindthevoiceactors.com/tv-shows/Orb-On-the-Movements-of-the-Earth/ )

声優せいゆう三瓶さんぺい雄樹ゆうき(出典しゅってん:同上どうじょう)

立場たちば移送中いそうちゅうに逃亡とうぼうした異端いたん者しゃ。第だい5話ごわで死亡しぼう

性格せいかく挑発ちょうはつに動どうじず、相手あいての内面ないめんを言いい当あてる

背景はいけい石箱いしばこの所在しょざいを知しっていた。それ以上いじょうは第だい5話ごわ終了しゅうりょう時点じてんで明あかされない

思想しそうこの地球ちきゅうは天国てんごくよりも美うつくしい。悲劇ひげきは希望きぼうに転化てんかしうる

この話はなしまでに明あかされた事実じじつ・オクジーを庇かばって負傷ふしょうし、死亡しぼうした
・「歴史れきしが君きみを必要ひつようとしたからだ」「頼たのむ」と告つげた
・彼かれのペンダントがオクジーからグラスへ渡わたった

ノヴァクの立ち姿のペン画

ノヴァク

日本語にほんご表記ひょうきノヴァク

中文ちゅうぶん表記ひょうき訳語やくご未確定みかくてい

EnglishNowak(出典しゅってん:https://www.animenewsnetwork.com/seasonal/2023/fall/orb-on-the-movements-of-the-earth/.202241 )

声優せいゆう津田つだ健次郎けんじろう(出典しゅってん:https://www.animatetimes.com/tag/details.php?id=15920 )

立場たちば異端いたん審問しんもん官かん。移送いそう警備けいびに駆かり出だされた

性格せいかく職務しょくむに倦あぐむ様子ようすを見みせる一方いっぽう、戦闘せんとう技量ぎりょうは高たかい。手続てつづきと消耗品しょうもうひんに細こまかい

背景はいけい元もと傭兵ようへいであることを自みずから述のべる

思想しそう捕とらえるべき対象たいしょうを限定げんていし、読よみ書かきのできない者ものを脅威きょういと見みなさない

この話はなしまでに明あかされた事実じじつ・ダミアンに態度たいどを叱責しっせきされた
・武器ぶきの使用しよう許可きょかを問とわれつつ一射いっしゃした
・オクジーの降参こうさんの扱あつかいに迷まよい、規定きていが各自かくじ判断はんだんであることに困惑こんわくした
・追跡ついせきを打うち切きり、二人ふたりが文字もじを読よめないことを理由りゆうに挙あげた
・元もと傭兵ようへいであることを明あかした

ダミアン

日本語にほんご表記ひょうきダミアン

中文ちゅうぶん表記ひょうき訳語やくご未確定みかくてい

EnglishDamian(出典しゅってん:https://www.behindthevoiceactors.com/tv-shows/Orb-On-the-Movements-of-the-Earth/ )

声優せいゆう上田うえだ燿司ようじ(出典しゅってん:同上どうじょう)

立場たちば異端いたん審問しんもん官かん

性格せいかく職務しょくむに厳格げんかく。惰性だせいを許ゆるさないと述のべる

背景はいけい第だい5話ごわでは明あかされない

思想しそう我々われわれは神かみに仕つかえ、信仰しんこうの安定あんていを守まもるために働はたらいている

この話はなしまでに明あかされた事実じじつ・ノヴァクの態度たいどを叱責しっせきした
・武器ぶきを取とってくると申もうし出でて、断ことわられた

占星術せんせいじゅつ師し(手紙てがみの書かき手て。第だい5話ごわで氏名しめいは明あかされない)

日本語にほんご表記ひょうき占星術せんせいじゅつ師し(作中さくちゅうでは手紙てがみの書かき手てとして言及げんきゅうされるのみ)

中文ちゅうぶん表記ひょうき──

English──

声優せいゆう手紙てがみの朗読ろうどくはグラスの声こえで行おこなわれる(独立どくりつした配役はいやくの有無うむは未確認みかくにん)

立場たちば石箱いしばこの発見者はっけんしゃであり、製作者せいさくしゃではない

性格せいかく好奇心こうきしんに駆かられて未知みちの場所ばしょへ向むかう。自分じぶんの貢献こうけんを控ひかえめに記しるす

背景はいけい占星術せんせいじゅつ師しとして日頃ひごろから天体てんたい観測かんそくをしていた

思想しそうこの発見はっけんのおかげで自分じぶんは幸福こうふくな命いのちだったと断言だんげんできる

この話はなしまでに明あかされた事実じじつ・二ふたつの大岩おおいわに彫ほられたオリオンのベルトの印しるしから石箱いしばこを発見はっけんした
・中身なかみが人類じんるいの歴史れきしと運命うんめいを変かえるものだと判断はんだんした
・複数ふくすうの計算けいさん修正しゅうせいを加くわえた
・手紙てがみの日付ひづけは「最近さいきん」とされる

バデーニの立ち姿のペン画

バデーニ

日本語にほんご表記ひょうきバデーニ

中文ちゅうぶん表記ひょうき訳語やくご未確定みかくてい

EnglishBadeni(出典しゅってん:https://www.behindthevoiceactors.com/tv-shows/Orb-On-the-Movements-of-the-Earth/ )

声優せいゆう中村なかむら悠一ゆういち(出典しゅってん:同上どうじょう/ https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1728966634 )

立場たちば修道士しゅうどうし。村むらへ左遷させんされている。村むらの老人ろうじんの会話かいわでは、先頃さきごろやって来きた副ふく助祭じょさいが話題わだいに上のぼる

性格せいかく第だい5話ごわでは、来客らいきゃくの予定よていはないと応おうじる短みじかい応答おうとうのみ。村むらの老人ろうじんからは情じょうがないと評ひょうされる人物じんぶつとして言及げんきゅうされる

背景はいけいグラスの伝聞でんぶんによれば、少すこし前まえに左遷させんされた。理由りゆうは素行そこう不良ふりょうと思想しそう上じょうの禁忌きんき。グラスが惑星わくせいについて尋たずねた相手あいてである

思想しそう第だい5話ごわでは明あかされない

この話はなしまでに明あかされた事実じじつ・村むらに居住きょじゅうしており、扉越とびらごしに応対おうたいした
・「どちら様さま? 何なにの用ようで?」と問とうたところで第だい5話ごわは終おわる

クラボフスキ

日本語にほんご表記ひょうきクラボフスキ(字幕じまく表記ひょうき)

中文ちゅうぶん表記ひょうき訳語やくご未確定みかくてい

立場たちば村むらの聖職者せいしょくしゃと思おもわれる。老人ろうじんたちの話はなし相手あいてを務つとめている

性格せいかく親切しんせつ。老人ろうじんたちから慕したわれている

背景はいけい第だい5話ごわでは明あかされない

思想しそう第だい5話ごわでは明あかされない

この話はなしまでに明あかされた事実じじつ・老人ろうじんたちと談笑だんしょうしていた
・バデーニの部屋へやの扉とびらを叩たたき、来客らいきゃくを告つげた

肖像しょうぞうは提供ていきょう素材そざいのペン画が(背景はいけいは透過とうか処理しょり)。姿すがたが示しめされるのは第だい5話ごわに現あらわれた三人さんにんまでで、氏名しめいの明あかされない人物じんぶつには肖像しょうぞうを置おいていない。記載きさいは第だい5話ごわ終了しゅうりょう時点じてんの情報じょうほうに限かぎる。

付録ふろく1

学術がくじゅつ語彙ごい表ひょう ── 中文ちゅうぶん・English 対照たいしょう

日本語にほんご 中文ちゅうぶん English 分類ぶんるい
天動説てんどうせつ 地心说 geocentrism 天文てんもん
地動説ちどうせつ 日心说 heliocentrism 天文てんもん
惑星わくせい 行星 planet 天文てんもん
北極星ほっきょくせい 北极星 Polaris/the North Star 天文てんもん
星座せいざ 星座せいざ constellation 天文てんもん
オリオン座ざの三みつ星ぼし 猎户座腰带 Orion's Belt 天文てんもん
天体てんたい観測かんそく 天文观测 astronomical observation 天文てんもん
占星術せんせいじゅつ 占星术 astrology 天文てんもん
天文学てんもんがく 天文学てんもんがく astronomy 天文てんもん
暦こよみ 历法 calendar 天文てんもん
月下界げっかかい 月下げっか世界せかい sublunary realm 天文てんもん
月上界げつじょうかい 月つき上じょう世界せかい superlunary realm 天文てんもん
二に階かい建だての宇宙うちゅう 訳語やくご未確定みかくてい two-storey universe 天文てんもん
認識にんしき的てき依存いぞん 认知依赖 epistemic dependence 哲学てつがく・思想しそう
証言しょうげん(認識論にんしきろん的てき) 证言 testimony 哲学てつがく・思想しそう
累積るいせき的てき文化ぶんか 累积性文化 cumulative culture 哲学てつがく・思想しそう
集合的しゅうごうてき後世こうせい 訳語やくご未確定みかくてい the collective afterlife 哲学てつがく・思想しそう
世代せだい継承けいしょう性せい 繁衍感/传承性 generativity 哲学てつがく・思想しそう
運命うんめい愛あい 命运之爱 amor fati 哲学てつがく・思想しそう
劇的げきてきアイロニー 戏剧性反讽 dramatic irony 哲学てつがく・思想しそう
史料しりょう批判ひはん 史料しりょう批判ひはん source criticism 哲学てつがく・思想しそう
一次いちじ史料しりょう 第一だいいち手て史料しりょう primary source 哲学てつがく・思想しそう
学習性無力感がくしゅうせいむりょくかん 习得性无助 learned helplessness 哲学てつがく・思想しそう
適応てきおう的てき選好せんこう形成けいせい 适应性偏好 adaptive preference formation 哲学てつがく・思想しそう
内在ないざい化かされた恥はじ 内ない化か的てき羞耻しゅうち internalized shame 哲学てつがく・思想しそう
自律じりつ 自主性じしゅせい autonomy 哲学てつがく・思想しそう
知識ちしき社会学しゃかいがく 知识社会学 sociology of knowledge 哲学てつがく・思想しそう
権威けんいへの依拠いきょ 诉诸权威 appeal to authority 哲学てつがく・思想しそう
識字しきじ 识字 literacy 宗教しゅうきょう・制度せいど
俗語ぞくご 俗语/方言ほうげん vernacular 宗教しゅうきょう・制度せいど
ラテン語ご 拉丁语 Latin 宗教しゅうきょう・制度せいど
写本しゃほん 手抄しゅしょう本ほん manuscript 宗教しゅうきょう・制度せいど
羊皮紙ようひし 羊皮纸 parchment 宗教しゅうきょう・制度せいど
書写しょしゃ生せい 抄写员 scribe 宗教しゅうきょう・制度せいど
印刷いんさつ術じゅつ 印刷术 printing press 宗教しゅうきょう・制度せいど
検閲けんえつ 审查制度 censorship 宗教しゅうきょう・制度せいど
異端いたん 异端 heresy 宗教しゅうきょう・制度せいど
異端いたん審問しんもん 异端审判 the Inquisition 宗教しゅうきょう・制度せいど
密告みっこく 告发 denunciation 宗教しゅうきょう・制度せいど
改悛かいしゅん 悔改かいかい recantation/abjuration 宗教しゅうきょう・制度せいど
修道士しゅうどうし 修道士しゅうどうし monk/friar 宗教しゅうきょう・制度せいど
副ふく助祭じょさい 副ふく助祭じょさい subdeacon 宗教しゅうきょう・制度せいど
聖職せいしょく位階いかい 圣秩 holy orders 宗教しゅうきょう・制度せいど
左遷させん 贬谪 demotion/transfer as discipline 宗教しゅうきょう・制度せいど
遺言ゆいごん 遗嘱 will/testament 宗教しゅうきょう・制度せいど
贈与ぞうよ 赠与 donation/bequest 宗教しゅうきょう・制度せいど
救済きゅうさい 救赎 salvation 宗教しゅうきょう・制度せいど
天国てんごく 天堂てんどう Heaven 宗教しゅうきょう・制度せいど
現世げんせ軽蔑けいべつ 訳語やくご未確定みかくてい contemptus mundi 宗教しゅうきょう・制度せいど
代だい闘士とうし ── judicial champion(作中さくちゅう語ご) 宗教しゅうきょう・制度せいど
傭兵ようへい 雇佣兵 mercenary 宗教しゅうきょう・制度せいど
疫病えきびょう 瘟疫 plague/epidemic 宗教しゅうきょう・制度せいど

※訳語やくご未確定みかくてい:「二に階かい建だての宇宙うちゅう」「集合的しゅうごうてき後世こうせい」「現世げんせ軽蔑けいべつ」の中文ちゅうぶん訳やくは学術がくじゅつ上じょうの定訳ていやくを確認かくにんできなかった。組くみ手ては訳やくさないこと。頁ページ上じょうでは日本語にほんごと English のみを表示ひょうじする。

※「世代せだい継承けいしょう性せい」の中文ちゅうぶんは分野ぶんやにより「繁衍感」(心理学しんりがく)と「传承性」(一般いっぱん)が併用へいようされる。両方りょうほうを併記へいきのまま扱あつかうこと。

※作品さくひん固有こゆう語ご:「代だい闘士とうし」「民間みんかん警備けいび組合くみあい」にはマーカーを付ふさない。

付録ふろく3

引用いんよう行ぎょうと経過けいか時間じかんの対応表たいおうひょう

照合しょうごう方法ほうほう:字幕じまく書かき起おこし(SRT、全ぜん1577行ぎょう)と全ぜん行ぎょうを突つき合あわせ、語尾ごびまで一致いっちを確認かくにん済ずみ。

節せつ 引用いんよう行ぎょう 経過けいか時間じかん 話者わしゃ
1章いっしょう 歴史れきしが君きみを必要ひつようとしたからだ 03:24 異端いたん者しゃ
3-1 どうせヤツらは 文字もじ一ひとつ読よめんだろう 04:24 ノヴァク
3-1 異端いたんになる能のうもない 04:27 ノヴァク
3-1 ほっといても 何なにもできやしないさ 04:31 ノヴァク
3-2 この謝罪しゃざいは誠実せいじつさを欠かいている 06:51 グラス
3-3 この発見はっけんのおかげで 私わたしは幸福こうふくな命いのちだったと断言だんげんできる 10:02 グラス(占星術せんせいじゅつ師しの手紙てがみの朗読ろうどく)
3-4 よ… 読よめません 10:30 オクジー
3-4 文字もじ ちゃんと習ならってないので 10:32 オクジー
3-4 “地ち” 10:42 オクジー
1章いっしょう 私わたしが引ひき継つごう 11:20 グラス
3-5 この星空ほしぞらの秘密ひみつをささげる 11:42 グラス(ラファウの手紙てがみの朗読ろうどく)
3-5 その1割いちわりを ポトツキに贈与ぞうよすること 11:49 グラス(同上どうじょう)
3-5 彼かれの協力きょうりょくは心強こころづよかった 11:52 グラス(同上どうじょう)
6章ろくしょう グラスさんが決きめてくれますか? 13:45 オクジー
3-6 大地だいちに生いきている人間にんげんを 蔑さげすむような目めに見みえて 14:49 オクジー
3-6 多分たぶん 好すきでした 15:06 オクジー
1章いっしょう しかし 私わたしが失うしなったのは この世よに希望きぼうを感かんじる心こころだ 16:14 グラス
1章いっしょう いとしい家族かぞくと出会であえたのも この世よだ 16:30 グラス
1章いっしょう もう一度いちど この世よを肯定こうていしたいんだ 16:42 グラス
1章いっしょう 残酷ざんこくですが 無理むりですよ それは 16:47 オクジー
5章ごしょう 歴史上れきしじょうの頭あたまのいい人ひとたちが出だした 事実じじつです 17:02 オクジー
3-7 死後しごに残のこるのは 自分じぶん抜ぬきの世界せかいだけだ 17:59 グラス
1章いっしょう 2つ目めは 1つ目め全部ぜんぶ無視むしして この世界せかいに期待きたいすることだ 19:51 グラス
3-6 そして いつか 再ふたたび その目めで空そらを見みてくれ 19:57 グラス
6章ろくしょう 託たくしてる 20:19 グラス
6章ろくしょう あの異端いたんが命いのちを張はれたのは きっと 託たくす相手あいてがいたからだ 20:28 グラス
3-7 でも 私わたしが死しんでも この世界せかいは続つづく 20:39 グラス
3-7 だったら そこに何なにかを託たくせる 20:43 グラス
3-7 それが 喪失そうしつまみれの この世界せかいから生うまれた ある種しゅの希望きぼうだ 20:49 グラス
6章ろくしょう 君きみの顔かおは まだ 死しを恐おそれてるからだ 21:10 グラス
3-8 これが私わたしの運命うんめいだ 21:25 グラス
1章いっしょう どちら様さま? 何なにの用ようで? 23:15 バデーニ

※ルビ表記ひょうき:「迂回うかい」「同梱どうこん」「傭兵ようへい」は字幕じまく上じょうのルビ。頁ページではルビとして組くむこと。

※第だい4話よんわとの対比たいひ:「これが 私わたしの運命うんめいか…」(第だい4話よんわ 16:44)と「これが私わたしの運命うんめいだ」(第だい5話ごわ 21:25)は語尾ごびが異ことなる。SVG-E5-06 および第だい3-8節はっせつで対比たいひする際さい、両者りょうしゃを取とり違ちがえないこと。

※手紙てがみの朗読ろうどくはいずれもグラスの声こえで行おこなわれるため、話者わしゃ欄らんは朗読者ろうどくしゃを記しるし、括弧かっこ内ないに原著げんちょ者しゃを示しめした。

附ふ

付録ふろく4 出典しゅってん

このノートが立たっている土台どだいを、種類しゅるいごとに開ひらいておく。どの文献ぶんけんがどの章しょうを支ささえているかまで記しるすのは、読者どくしゃが検算けんざんできるようにするためである。

作品さくひん資料しりょう

資料しりょう 版はん・話はなし数すう・確認日かくにんび
アニメ『チ。―地球ちきゅうの運動うんどうについて―』第だい5話ごわ「私わたしが死しんでもこの世界せかいは続つづく」 NHK総合そうごう、2024年ねん10月じゅうがつ26日にじゅうろくにち放送ほうそう/字幕じまく書かき起おこし(SRT、全ぜん1577行ぎょう)を一次いちじ資料しりょうとして使用しよう。確認日かくにんび:2026年ねん8月はちがつ15日じゅうごにち
第だい5話ごわあらすじ(公式こうしき系けい媒体ばいたい) アニメイトタイムズ https://www.animatetimes.com/tag/details.php?id=15920 /確認日かくにんび:2026年ねん8月はちがつ15日じゅうごにち
Seven Seas Entertainment(英語えいご版はん)シリーズ頁ページ https://sevenseasentertainment.com/series/orb-on-the-movements-of-the-earth-omnibus/ /確認日かくにんび:2026年ねん8月はちがつ15日じゅうごにち
Behind The Voice Actors(英語えいご版はん役名やくめい・声優せいゆう) https://www.behindthevoiceactors.com/tv-shows/Orb-On-the-Movements-of-the-Earth/ /確認日かくにんび:2026年ねん8月はちがつ15日じゅうごにち

一次いちじ文献ぶんけん

文献ぶんけん どの章しょうのどの主張しゅちょうを支ささえるか
アリストテレス『天体てんたい論ろん』 第だい3-6節ろくせつ。月下界げっかかい/月上界げつじょうかいの序列じょれつ。オクジーの内在ないざい化かした宇宙うちゅう像ぞうの背景はいけい(確度かくど:定説ていせつ)
トマス・アクィナス『神学しんがく大全たいぜん』 第だい3-6節ろくせつおよび「世よ」の章しょう。地球ちきゅうを最もっとも物質的ぶっしつてきなものとする価値かち序列じょれつ(確度かくど:定説ていせつ)
プトレマイオス『アルマゲスト』 「世よ」の章しょう。学術書がくじゅつしょがラテン語ご訳やくと数学すうがくを要求ようきゅうしたことの代表だいひょう例れい(確度かくど:定説ていせつ)
中世ちゅうせいの遺言ゆいごん・贈与ぞうよ文書ぶんしょ(都市とし文書館ぶんしょかん所蔵しょぞうの遺言ゆいごん書しょ群ぐん) 第だい4章よんしょうの照合表しょうごうひょう。遺言ゆいごん・贈与ぞうよの慣行かんこうと、遠隔地えんかくちへの履行りこうの困難こんなん(確度かくど:定説ていせつ。ただし個別こべつ事例じれいの一般化いっぱんかには注意ちゅうい)

研究けんきゅう文献ぶんけん

文献ぶんけん どの章しょうのどの主張しゅちょうを支ささえるか/学界がっかいでの位置いち
Samuel Scheffler, Death and the Afterlife(Tanner Lectures, 2013)/書評しょひょう:https://ndpr.nd.edu/reviews/death-and-the-afterlife/ / https://www.nybooks.com/articles/2014/01/09/thomas-nagel-after-youve-gone/ 第だい3-7節ななせつおよび問とい四よんの中核ちゅうかく。「集合的しゅうごうてき後世こうせい」への暗黙あんもくの信頼しんらいが現在げんざいの価値かちづけを支ささえるという論ろん。ドゥームズデイ/不妊ふにんシナリオの二ふたつの思考しこう実験じっけん(確度かくど:有力ゆうりょく説せつ──分析ぶんせき哲学てつがくで影響力えいきょうりょくが大おおきく、Mark Johnston らの批判ひはんも存在そんざいする)
John Hardwig, "Epistemic Dependence", The Journal of Philosophy 82(7), 1985 第だい5章ごしょうおよび問とい三さん。専門せんもん知ちへの依拠いきょが合理的ごうりてきな認識にんしき構造こうぞうであるという論ろん(確度かくど:定説ていせつ──概念がいねんとして広ひろく受容じゅよう)
識字率しきじりつの歴史的れきしてき推計すいけい(署名しょめい能力のうりょくに基もとづく推計すいけい法ほう。フィレンツェ1480年ねんの就学率しゅうがくりつ、1500年代ねんだい末まつラングドックの職業別しょくぎょうべつ署名しょめい率りつなど)https://www.philiplaberge.com/FamilyHistory/LaBergeInfo/Literacy.pdf 「世よ」の章しょうの対比たいひ表ひょうおよび第だい3-1節いっせつ・第だい3-4節よんせつ。階層かいそうと識字しきじの相関そうかん(確度かくど:有力ゆうりょく説せつ──推計すいけい法ほうの限界げんかいと地域差ちいきさが大おおきい。相関そうかんの存在そんざい自体じたいは定説ていせつ)
M. T. Clanchy, From Memory to Written Record 「世よ」の章しょう。識字しきじが二値にちでなく連続的れんぞくてきな階梯かいていであること、口承こうしょうと文書ぶんしょの併存へいそん(確度かくど:定説ていせつ)
Erik H. Erikson, Childhood and Society(世代せだい継承けいしょう性せい) 第だい6章ろくしょう。次世代じせだいへの貢献こうけんに意味いみを見み出だす発達はったつ段階だんかい(確度かくど:定説ていせつ──概念がいねんとして広ひろく受容じゅよう)
Michael Tomasello 他ほかによる累積るいせき的てき文化ぶんかの研究けんきゅう 第だい5章ごしょう。伝達でんたつの忠実ちゅうじつ性せいが改良かいりょうの蓄積ちくせきを可能かのうにするという論ろん(確度かくど:有力ゆうりょく説せつ)
占星術せんせいじゅつと天文学てんもんがくの未分化みぶんかに関かんする科学史かがくし研究けんきゅう(中世ちゅうせい・ルネサンス期きの宮廷きゅうてい天文てんもん官かんの職能しょくのう研究けんきゅう) 第だい3-3節さんせつ・第だい4章よんしょう。占星術せんせいじゅつ師しが観測かんそくと計算けいさんの担にない手てであったこと(確度かくど:定説ていせつ)
Layer A–D 凡例(縮小再掲) 本文のバッジの色と、この四帯の色が対応する。 A 作品世界 C 史実 B 歴史イメージ D 現代の評価 四つの層を混ぜないこと ── 四冊のノートを貫く、この分析全体の作法 確度の札は 定説・有力説・議論あり・俗説 の四段
図ず 13Layer 凡例はんれいの再掲さいけい。読よみ終おえたあとで、もう一度いちどここに戻もどれるように。
難度なんど