Note 10 — 第だい3篇へん

The Odyssey ── 第だい2部ぶ [ OgygiaとCyclops ]

第だい2部ぶで映画えいがは記憶きおくの中なかへ入はいる。Troyを出でた最初さいしょの選択せんたく(Agamemnonと別べつの航路こうろ)と、Cyclopsの洞窟どうくつでの「逃にげ切きることで死者ししゃを敬うやまえ」という判断はんだんが、以後いごの漂流ひょうりゅうと冥界めいかいの責せめの起点きてんになる。

全ぜん 6 節せつ図版ずはん 3出典しゅってん 0初出しょしゅつ 2026-09-28更新こうしん 2026-09-28

第だい2部ぶ ── OgygiaとCyclops

原本げんぽん L472–L724発話はつわ 127場面ばめん 05〜08

第2部の場面の並び場面05Ogygiaの現在25発話場面06Odysseusの記憶28発話場面07Odysseusの記憶67発話場面08Ogygiaの現在7発話色=主な時間層 幅=発話数 赤い刻み=場面の中の切り替わり(回想・現在・並行)の数
図ず 01第だい2部ぶの4場面ばめん。幅はばは発話はつわ数すう(この部ぶの合計ごうけい127)。
  1. 05Ogygia ── 記憶きおくを失うしなったOdysseusOgygiaの現在げんざい
  2. 06Troyを離はなれる ── 帰路きろの最初さいしょの選択せんたくOdysseusの記憶きおく
  3. 07Cyclops ── PolyphemusとPoseidonの怒いかりOdysseusの記憶きおく
  4. 08Ogygiaへ戻もどる ── 仲間なかま、故郷こきょう、息子むすこの断片だんぺんOgygiaの現在げんざい

場面ばめん05

Ogygia ── 記憶きおくを失うしなったOdysseus

Ogygia現在げんざい

原本げんぽん
L472–L520
発話はつわ
25
第だい2部ぶ
1/4
  • 女おんなの声こえ
  • Odysseus
  • Athena
  • Calypso

Ogygiaの浜はま。Odysseusは、暗くらい場所ばしょで男おとこたちが溺おぼれる夢ゆめの断片だんぺんしか思おもい出だせない。Athenaが現あらわれて思おもい出だせと促うながすが、Odysseusは神々かみがみが人間にんげんに分わかる言葉ことばで話はなさないことを責せめる。Calypsoは島しまにはすべてがあると言いい、蓮はすの花はなを勧すすめる。Odysseusは永遠えいえんは神々かみがみのものだと答こたえ、自分じぶんで手てに入いれたのでない幸福こうふくは本物ほんものではないと言いう。Calypsoに促うながされ、彼かれはTroyの後あとに何なにが起おきたかを語かたり始はじめる。

「永遠えいえんは神々かみがみのものだ」Odysseus
  • 記憶きおく
  • 食事しょくじ
  • 制御せいぎょ

場面ばめん06

Troyを離はなれる ── 帰路きろの最初さいしょの選択せんたく

Odysseusの記憶きおく

原本げんぽん
L522–L576
発話はつわ
28
第だい2部ぶ
2/4
  • Odysseus
  • Eurylochus
  • Antiphates
  • Polites
  • Elpenor
  • Calypso
  1. 回想かいそうTroy陥落かんらく後ご、Odysseus一行いちぎょうが帰路きろへ出でる
  2. 現在げんざいへCalypsoが記憶きおくを促うながす

回想かいそう。Troyの浜はまを離はなれるOdysseusは「この浜はまで十じゅう年ねん」と吐はき捨すてる。Agamemnonが補給地ほきゅうちの分わかったいつもの西にしの航路こうろを行いくのに対たいし、Odysseusは南みなみ寄よりの風かぜに乗のり、寄より道みちしても先さきに帰かえれると賭かける。食料しょくりょうが尽つきると、乞こい、交易こうえきし、奪うばうことを使つかい分わけた。ある村むらは一行いちぎょうを「海うみの民たみ」と思おもって逃にげ出だしており、Eurylochusはギリシア人じんだと言いい張はる。語かたりは「兵へいと故郷こきょうの間あいだに立たちはだかる者ものはいなかった、自分自身じぶんじしんでさえ」と結むすばれ、Calypsoが続つづきを促うながす。

  • 制御せいぎょ
  • 食事しょくじ
  • 記憶きおく
帰路の最初の分岐TroyAgamemnon ── 西へ漕ぐ。補給地の分かった、いつもの航路先に帰る → 家で殺される(場面13)Odysseus ── 南寄りの風に乗る。寄り道しても先に帰れるという賭け食料が尽き、乞い・交易・略奪へ「海の民」と間違われる村
図ず 02帰路きろの最初さいしょの選択せんたく。Odysseusは養やしなう口くちの少すくなさを理由りゆうにAgamemnonと別べつの航路こうろを取とる。スタディガイドの言いう「制御せいぎょ」の糸いとは、ここで航路こうろを自分じぶんで選えらぶところから始はじまる。

場面ばめん07

Cyclops ── PolyphemusとPoseidonの怒いかり

Odysseusの記憶きおく

原本げんぽん
L578–L710
発話はつわ
67
第だい2部ぶ
3/4
  • 船ふね員いん
  • Odysseus
  • Eurylochus
  • Cyclops
  • Polites
  • Elpenor
  • Antiphates
  • Laodamas
  • Menetus
  • Anchialus
  • Phemius
  • Perimedes
  1. 回想かいそう未知みちの島しまへの上陸じょうりく――Cyclopsの洞窟どうくつへ

回想かいそう。未知みちの島しまに上陸じょうりくした一行いちぎょうは羊ひつじの群ぐんれを追おって洞窟どうくつに入はいり、Zeus’s lawを当あてにして家いえ主しゅを待まつ。現あらわれたCyclopsは入口いりぐちを岩いわで塞ふさぎ、夜よるごとに兵へいを食くう。Odysseusは杭くいを焼やき、羊ひつじと縄なわで脱出だっしゅつの手順てじゅんを組くみ、誰だれが囮おとりになって外そとへ走はしるかを兵へいと議論ぎろんする。眠ねむらせたCyclopsの目めを潰つぶして逃にげる際さい、死しんだ仲間なかまを置おいていくことに兵へいが抗議こうぎするが、Odysseusは逃にげ切きることがその死しを敬うやまうことだと退しりぞける。Cyclopsは父ちちPoseidonに復讐ふくしゅうを祈いのり、Odysseusは去さり際ぎわに余計よけいな一矢いっしを射しゃる。兵へいたちは海うみそのものが敵てきになったと恐おそれ、Odysseusは埋葬まいそうできなかった者ものたちのしるしを身みにつけさせる。

  • Zeus’s law
  • 死者ししゃ
  • 食事しょくじ
  • 目め
  • 制御せいぎょ
Cyclopsの洞窟と脱出の段取り岩入口火(杭を焼く)細い丸太の杭眠らせたCyclops羊の群れ(二十数頭)群れに紛れて入口へ原典(第9歌)の「誰でもない」という偽名は出てこない。映画は、誰を囮に出すかという指揮官の判断を前に出す(第2部 注2)。
図ず 03Cyclopsの洞窟どうくつの模式図もしきず。入口いりぐちを塞ふさぐ岩いわ、杭くいを焼やく火ひ、眠ねむらせた巨人きょじん、羊ひつじの群ぐんれ。脱出だっしゅつは、群ぐんれを外そとへ出だす瞬間しゅんかんに賭かける。
段取だんどりの論点ろんてん台だい本ほんの中なかで出でた答こたえ
入口いりぐちの岩いわ動うごかせない。朝あさ、Cyclopsが羊ひつじを外そとへ出だすときに入口いりぐちへ走はしる
入口いりぐちに隙間すきまを残のこす丸まる太ふとを挟はさむ案あんは、気きづかれるとして退しりぞけられる
縄なわと羊ひつじの数かず全員ぜんいん分ぶんには足たりない。二人ふたりは囮おとりとして外そとへ走はしることになる
何人なんにんで走はしるか二人ふたりずつ二に組くみ、四人よにんで走はしるべきだという異論いろんが出でる
眠ねむらせる夜よるごと二人ふたりを食くう。眠ねむってもらわねば目めを潰つぶせない
死者ししゃの扱あつかい遺体いたいは置おいていく。逃にげ切きることで死しを敬うやまえ、とOdysseusは言いう

場面ばめん08

Ogygiaへ戻もどる ── 仲間なかま、故郷こきょう、息子むすこの断片だんぺん

Ogygia現在げんざい

原本げんぽん
L712–L724
発話はつわ
7
第だい2部ぶ
4/4
  • Odysseus
  • Calypso
  1. 現在げんざいへOgygiaの現在げんざいへ戻もどる

Ogygiaの現在げんざいへ戻もどる。Odysseusは仲間なかまはどこにいるのか、故郷こきょうはどこかと問とい、Troyより前まえのことを何なにも思おもい出だせないまま、妻つまと息子むすこがいたかもしれないと考かんがえ始はじめる。息子むすこがいるなら、いま何なに歳さいになっているだろう、という声こえで場面ばめんが閉とじる。

  • 記憶きおく

原典げんてん・神話しんわ・歴史れきし背景はいけいの詳細しょうさい補足ほそく

ここからは台だい本ほん本文ほんぶんそのものではありません。 原典げんてん比較ひかく・神話しんわ伝承でんしょう・歴史れきし考古学こうこがく・翻訳ほんやく上じょうの注意ちゅういを補おぎなうための解説かいせつです。台だい本ほんに明示めいじされない内容ないようは、本文ほんぶんと区別くべつして読よめるようにしています。

注ちゅう1 Calypsoと「蓮はすの花はな」は、原典げんてんでは別べつエピソード

Homer『Odyssey』では、CalypsoはOdysseusを Ogygia島しまに長年ながねん引ひき留とめる女神めがみ/ニンフ であり、帰郷ききょうを望のぞむ彼かれを最終的さいしゅうてきには神々かみがみの命令めいれいによって送おくり出だす。一方いっぽう、食たべると故郷こきょうへの意思いしを失うしなわせる 蓮はすの実み/蓮はすの花はな は別べつの土地とち「ロートパゴイ(蓮喰はすくい人びと)の国くに」のエピソードに登場とうじょうする。

本作ほんさくはこの二ふたつを意図的いとてきに融合ゆうごうし、Calypsoがロートスを与あたえてOdysseusの記憶きおくと帰還きかん意志いしを曇くもらせた、という独自どくじ設定せっていにしている。後あとの「七なな年間ねんかん」という告白こくはくと、この場面ばめんの「十じゅう年ねん」という発言はつげんのずれも含ふくめ、Odysseus自身じしんの記憶きおくが信用しんようできない状態じょうたいを演出えんしゅつしている可能性かのうせいがある。

注ちゅう2 CyclopsとPolyphemus

原典げんてん第だい9歌うたのCyclopsは Polyphemus。Poseidonの息子むすこで、Odysseus一行いちぎょうを洞窟どうくつに閉とじ込こめて複数ふくすうの仲間なかまを食たべる。

原典げんてんでは、OdysseusはPolyphemusを酒さけで酔よわせ、自分じぶんの名なを「誰だれでもない(Nobody)」と偽いつわり、焼やいた杭くいで一ひとつ目めを潰つぶす。その後ご、羊ひつじの腹はら側がわにつかまって洞窟どうくつから脱出だっしゅつする。映画えいが版はんは基本きほん骨格こっかくを残のこしつつ、集団しゅうだん戦せん術じゅつと犠牲ぎせい者しゃをめぐる軍事ぐんじ的てき判断はんだんを前面ぜんめんに出だし、「指揮官しきかんとして誰だれを犠牲ぎせいにするか」という倫理りんり問題もんだいへ組くみ替かえている。

注ちゅう3 Poseidonの怒いかり

原典げんてんでは、脱出だっしゅつ後ごにOdysseusが勝かち誇ほこって自分じぶんの正体しょうたいをPolyphemusに明あかしたことが決定的けっていてきで、Polyphemusは父ちちPoseidonに復讐ふくしゅうを祈いのる。これがOdysseusの長ながい漂流ひょうりゅうの主要しゅよう原因げんいんになる。

本ほん脚あし本ほんでは、Odysseusの「余計よけいな一矢いっし」と慈悲じひの欠如けつじょが強調きょうちょうされている。つまり単純たんじゅんな傲慢ごうまんさだけでなく、戦争せんそうで身みについた報復ほうふくの論理ろんりから抜ぬけ出だせないことが災さい厄やくの起点きてんとして描えがかれている。

注ちゅう4 「死者ししゃを葬ほうむる」こと

古代こだいギリシア叙事詩じょじしでは、適切てきせつな葬送そうそうを受うけることは死者ししゃの名誉めいよと深ふかく結むすびつく。ここでOdysseusが「逃にげることで彼かれを敬うやまえ」と命めいじるのは、軍事ぐんじ的てき合理性ごうりせいとしては理解りかいできる一方いっぽう、後あとの冥府めいふ場面ばめんで「埋葬まいそうできなかった仲間なかま」が彼かれを責せめる伏線ふくせんになっている。

注ちゅう5 「神かみは自みずから助すけくる者ものを助すけく」

この台詞せりふは英語えいごの有名ゆうめいな格言かくげん “God helps those who help themselves.” に近ちかいが、聖書せいしょの直接ちょくせつ引用いんようでもHomerの定型ていけい句くでもない。本作ほんさくではOdysseusの合理主義ごうりしゅぎ・自己じこ決定けってい志向しこうを端的たんてきに示しめす現代的げんだいてきな言葉ことばとして機能きのうしている。


翻訳ほんやく上じょうの注記ちゅうき

  1. 訳やく注ちゅう1 原文げんぶんは “Ten years on this fucking beach.”。後あとにCalypsoが滞在期間たいざいきかんを「七なな年ねん」と明示めいじするため、数字すうじは意図的いとてきな記憶きおく混乱こんらん、台詞せりふ上じょうの誇張こちょう、または書かき起おこしの齟齬そごのいずれかである可能性かのうせいがある。訳やくでは原文げんぶんを変更へんこうしていない。(場面ばめん 06・原本げんぽんL522 の発話はつわへの注ちゅう)