The Odyssey ── 第4部 [ HadesとTiresias ]
第4部の冥界は、過去(Sinon)・教訓(Agamemnon)・未来(Tiresias)を一度に突きつける場所である。Odysseusはここで、全員を救うという誓いを立ててしまう。
第4部 ── HadesとTiresias
場面12
Hades ── Sinonとの再会
冥界
- Odysseus
- 老人の声
- Tiresias
- Sinon
Hades。溝に集まった死者の中にSinonがいる。Tiresiasの声に従って血を飲ませると、Sinonは語り出す。Troyの前で、Odysseusは木馬の嘘をSinon自身に信じさせる必要があったこと、Sinonが徴兵されたAntinousの身代わりになり、Antinousはその見返りにSinonの家族へ金を払うと約束したことが確かめられる。Sinonは嘘のために死んだと責め、Antinousは約束を破ったはずだ、Ithacaの妻子を守っているのは誰かと問う。最後に、埋葬してくれた礼を言い、籤をまだ持っているかと尋ね、帰れたらAntinousに彼自身の恥を返してやれと頼む。
場面13
Hades ── Agamemnonの失敗した帰還
冥界+Agamemnonの回想
- Odysseus
- Agamemnon
- 転換Agamemnonの亡霊が現れる
- 回想故郷での帰還と殺害
Agamemnonの亡霊が現れる。海に流されたのではなく、帰国して美しい妻に迎えられ、洗われ、油を塗られ、警戒を解かれたところで殺されたことが、回想と重ねて語られる。彼は息子Orestesの消息を尋ね、自分と同じ過ちを犯すなとOdysseusに言い残す。
場面14
Tiresiasの予言 ── 六人か、全員か
冥界
- Tiresias
- Odysseus
- 漕ぎ手たち
- Eurylochus
- 現在へTiresiasの予言
- 展開埋葬されなかった乗組員の亡霊たちが迫る
- 展開Odysseus一行がHadesから漕ぎ去る
Tiresiasが帰路の予言を与える。Sirens、CharybdisとScyllaの選択、そして飢えと反乱の末に兵が太陽神の牛の島へ上陸を求めること。Odysseusは耳を蝋で塞ぐ、必要なことは何でもする、止めると答え続けるが、Tiresiasは、まだ生きている者を神々からは救えても、彼ら自身からは救えないと突き放す。そこへ埋葬されなかった部下たちの亡霊が迫り、一行はHadesから漕ぎ出す。漕ぎ手はSinonを見たと叫ぶ。
場面15
Ogygia ── 再び蓮の花へ
Ogygia現在
- Calypso
- Odysseus
- 現在へOgygiaの現在へ戻る
Ogygia。Calypsoは眠れるようにと蓮の花を勧め、Odysseusは食べるなと言ったはずだと抗う。家族、妻という言葉が浮かび、私には妻がいるのかという声で場面が終わる。
原典・神話・歴史背景の詳細補足
ここからは台本本文そのものではありません。 原典比較・神話伝承・歴史考古学・翻訳上の注意を補うための解説です。台本に明示されない内容は、本文と区別して読めるようにしています。
注1 『Odyssey』第11歌「冥府下り」
原典でもOdysseusは死者の国へ赴き、予言者Tiresiasから帰還についての助言を得る。死者に血を飲ませることで発話させる儀礼も原典の重要な要素である。
ただし、映画では冥府がOdysseusの 戦争責任・指揮責任・埋葬できなかった部下への罪悪感を裁く空間 として大幅に再設計されている。
注2 Sinonは原典『Odyssey』の冥府には現れない
Homer第11歌で最初に重要な役割を果たす死者の一人は Elpenor である。彼はCirceの島で事故死したのに埋葬されないままになっており、Odysseusに葬送を要求する。
映画はこの「埋葬されない死者」の主題をSinonや多数の戦死者へ拡大し、Odysseusが「勝利のために使い捨てた者たち」と向き合う場面へ変えている。
注3 Agamemnonの帰還
原典『Odyssey』でも、Agamemnonの悲惨な帰還はOdysseusへの警告として機能する。Agamemnonは帰国後に殺され、その息子Orestesが復讐を果たす。
ただし殺害の細部は伝承ごとに異なる。Homerではアイギストスの役割が非常に大きく、後代のAeschylus『Agamemnon』では妻Clytemnestra自身が夫を殺す場面が中心化される。映画は後代悲劇のイメージを強く取り込んでいる。
注4 「正面玄関から帰るな」
映画ではAgamemnon自身が、Odysseusに「変装して帰り、まず状況を見極めろ」と助言する。これは終盤の乞食への変装を、単なるAthenaの策略ではなく、失敗した帰還者Agamemnonから成功する帰還者Odysseusへの教訓として因果的につないでいる。
注5 Sirens、Scylla、Charybdis、太陽神の牛
この予言は主に原典第12歌の航路を先取りしている。
- Sirens:歌で船乗りを惹きつける。
- Charybdis:すべてを呑み込む巨大な渦潮。
- Scylla:通過する船から六人を奪う怪物。
- Thrinacia島:太陽神の聖なる牛を部下が殺し、最終的に船団が滅びる。
映画は「六人を犠牲にすれば全体が助かる」という選択を明示し、Odysseusの最大の欠点を 犠牲を受け入れられないこと/すべてを自分の責任として制御しようとすること に設定している。
注6 「西へ行き、死者を敬え」――Tiresiasの最終予言の改変
原典ではTiresiasは、OdysseusがIthacaへ帰還した後、櫂を肩に担いで海を知らない人々の土地まで内陸へ旅し、Poseidonに供犠せよと予言する。
映画はこれを「船で未知の西へ向かい、死んだ仲間を弔え」という別の使命に変えている。この改変はラストのPenelopeとの西行へ直接つながる。
翻訳上の注記
- 訳注1 原文は “They slaughter Apollo’s herd.”。ただしHomer原典でThrinacia島の聖牛を所有するのは Helios(Helios/太陽神) である。映画のプロット要約部分も “sacred cattle of Helios” としており、この台詞の “Apollo” は脚本上の意図的融合、あるいは書き起こし上の誤りの可能性があるため、本文では原文に従い「Apollo」と訳した。(場面 14・原本L1122 の発話への注)