The Odyssey ── 第6部 [ Ithaca帰還と父子の接触 ]
第6部は三本の線を並行に編み、Pylosの神殿で一つにする。父子はここで出会うが、Odysseusは「Sinon」を名乗り続け、息子は父と知らずに共同作戦を立てる。
第6部 ── Ithaca帰還と父子の接触
場面23
Ithaca到着 ── Athenaの確認
Ithaca現在
- 女の声
- Odysseus
- Athena
女の声に呼ばれて目を覚ましたOdysseusは、自分がどこにいるのか分からない。Athenaに自分の故郷も分からないのかと言われ、ここがIthacaだと知る。
場面24
Eumaeusの農場 ── Irus一味の襲撃
Ithaca現在
- Eumaeus
- Irus
- 転換Eumaeusの農場――Irus一味の襲撃
Eumaeusの農場にIrusの一味十二人が現れ、Zeusの名で迎えるEumaeusに、Pylosへ行くための食料と豚を要求する。巡礼者かと問われて嘲り、金は払わないと言う。
場面25
Sparta ── Telemachusの帰路
Telemachusの現在
- Telemachus
- Helen
- Menelaus
- 並行Sparta――Telemachusが帰路へ
Sparta。Telemachusは歓待と助言に礼を述べ、帰るべき場所は家だと言って発つ。Menelausは父の消息を伝えられなかったことを詫びるが、Telemachusは知らせはもらったと答える。いつか父に会いたい、という声が重なる。
場面26
OdysseusとEumaeus ── 正体を隠した再会
Ithaca現在
- Odysseus
- Eumaeus
- 転換Ithaca――Odysseusが襲撃後のEumaeusを訪ねる
物乞いの姿のOdysseusが、襲撃の後始末をするEumaeusを訪ねる。番犬の死体が焼かれ、Ithacaには闇が広がっていると語られる。主人の名を聞かれたEumaeusは、Trojan Warの英雄という呼び方を激しく遮る。Telemachusが帰路で待ち伏せされると聞き、Odysseusは食料をもらってPylosへ先回りすると言う。Eumaeusは厳しいが公正だった主人を息子のように愛していたと語り、Odysseusはもうすぐ帰る、何もかも携えて帰る、とだけ告げる。
場面27
Telemachusの帰還 ── 偽装身分の準備
Ithaca現在
- Mentor
- 船長
- Telemachus
- 並行Telemachus一行、Ithacaへ接近
Telemachusの船がIthacaへ近づく。Mentorは、海賊に積荷を奪われたことにして港へ入り、自分が話すと段取りを決める。Telemachusは護衛を連れてこないほうがよかったかと迷い、Mentorは街道で連れてきてよかったと思うはずだと答える。
場面28
Pylosの神殿 ── 待ち伏せ、Mentorの死、父子の共闘
Ithaca現在
- 物乞い
- Odysseus
- Telemachus
- 神官
- Irus
- 転換Pylos方面の神殿――待ち伏せの罠
- 展開TelemachusとOdysseus、脱出を急ぐ
Pylos方面の神殿。神官を装ったIrusの一味が、武器を置かせてTelemachusを迎え入れる。Eumaeusからの伝言を持つという物乞いが駆け込み、戦闘の末にTelemachusを救う。Mentorは死に、Telemachusは遺体を運ぼうとするが、物乞いは生き延びるために置いていけと言う。物乞いはMentorの名を知っており、Telemachusはまた「Athenaの目」を見るが、人間の中に神を探すなと返され、自分はSinonだと名乗られる。父は生きていて、すぐ近くにいる、母には言うな、再婚すべきだと伝えよ、と告げられ、二人は求婚者を宮殿の一か所に集める算段を立てる。
原典・神話・歴史背景の詳細補足
ここからは台本本文そのものではありません。 原典比較・神話伝承・歴史考古学・翻訳上の注意を補うための解説です。台本に明示されない内容は、本文と区別して読めるようにしています。
注1 原典の帰還経路を大幅に圧縮
Homer原典では、OdysseusはCalypsoの島を筏で脱出した後、Poseidonの嵐に遭い、パイエケス人の国スケリアへ漂着する。ナウシカアやアルキノオス王の歓待を受け、彼らの船によって眠ったままIthacaへ送り届けられる。
映画はこの大きなエピソード群をほぼ削除し、「嵐に身を委ねる」ことで直接Ithacaへ帰還させる。これにより、Calypsoが教えた「制御を手放せ」という課題が、そのまま帰還の条件になる。
注2 Athenaによる乞食への変装
原典でもIthacaへ帰ったOdysseusは、Athenaの力で老いた物乞いの姿に変えられる。敵味方を見極め、求婚者たちの振る舞いを自分の目で確かめるためである。
本作ではさらに、冥府でAgamemnonが「正面玄関から英雄として帰るな。変装し、まず状況を見ろ」と助言しているため、この変装が神の策略だけでなく、別の帰還英雄の失敗から学んだ戦術になっている。
注3 Eumaeusは原典では盲目ではない
原典のEumaeusは、Odysseusに極めて忠実な豚飼いであり、帰還後の最初の重要な味方になる。ただし盲目の老人ではない。
映画では彼を老齢・視覚障害のある人物に変更し、それでも音だけで戦闘を教え、主人への忠誠を守り続ける人物として造形している。
注4 Telemachusへの待ち伏せ
原典でも求婚者たちは、Sparta方面から戻るTelemachusを殺そうと待ち伏せを計画する。ただし主な舞台は海上であり、Pylosの神殿を占拠して偽神官として待つという展開ではない。
映画はこの暗殺計画を「Zeus’s lawを口にする者自身が聖域を冒涜する」という皮肉へ変えている。
注5 Mentor
原典の Mentor(Mentor) はOdysseusの旧友で、Odysseus不在時に家を託された人物。ただし物語上さらに重要なのは、AthenaがたびたびMentorの姿を借りてTelemachusを導くことである。
映画では「実在する師」と「Athenaだったのではないかという疑い」を重ね、その人物をここで死なせる。Mentorがこの場面で死亡するのは映画独自の展開である。
注6 父子の再会を意図的に遅らせる改変
原典では、OdysseusとTelemachusはEumaeusの小屋で再会し、Athenaが変装を解くことで父子として互いを認識し、その場で求婚者殺害の計画を立てる。
映画ではOdysseusが 「Sinon」 を名乗り続け、息子に「父は近くにいる」とだけ伝える。これによってTelemachusは、父そのものに従うのではなく、知らず知らず父と共同作戦を立てることになる。
注7 「人間を最もよく見られるのは、下から見上げた時だ」
「人間は下から見たときが一番よく見える」という台詞は、本作の変装の思想を端的に示す映画独自の表現である。権力者として命令しているときには見えない他人の本性が、最も弱く無価値に見える「物乞い」への態度によって露わになる、という意味になっている。
翻訳上の注記
- 訳注1 原文 “We burned his brothers first.” は指示対象がやや不明瞭。直前の「番犬たち」の死体を焼いている話から、犬たちの一部を指している可能性が高いが、台本だけでは断定できないため直訳寄りに残した。(場面 26・原本L1532 の発話への注)