The Odyssey ── 第5部 [ Ithacaの陰謀、Sirens、Scylla、Thrinacia、Calypso ]
第5部は予言が一つずつ成就していく部である。Sirens、Scylla、Thrinaciaを経て、Odysseusは制御を手放すことを学び、Ogygiaでの七年がようやく明かされる。
第5部 ── Ithacaの陰謀、Sirens、Scylla、Thrinacia、Calypso
場面16
Ithaca ── PenelopeとAntinous、殺害計画
Ithaca現在
- Penelope
- Antinous
- Melantho
- Polybus
- Eumaeus
- Melanthius
- Irus
- 転換MelanthoがTelemachusの出航を暴露
- 転換EumaeusとMelanthius――盗み聞きと排除
宮殿で、Antinousが衝立越しにPenelopeへ言い寄る。彼は織物を毎晩ほどいていることを知っており、Melanthoが自分の側についていることをほのめかす。Odysseusは帰らない、Telemachusの王位は二人に子が生まれなければ守られる、と取引を持ちかける。Penelopeは息子は祖父に会いに内陸へ行ったと偽るが、Melanthoが海へ出たと暴露する。立ち聞きしていたEumaeusはMelanthiusに見つかり締め出される。AntinousとPolybusは、帰路のTelemachusを街道で殺す計画を立て、Irusの一味に目撃者を残さず始末させることにする。
場面17
Sparta ── Agamemnonの運命とTelemachusの決断
Telemachusの旅
- Menelaus
- Telemachus
- 転換Sparta――MenelausとTelemachus
Spartaで、MenelausはTelemachusの狩りの腕を褒め、豚飼いに教わったと聞いて感心する。Agamemnonは妻に裏切られて殺され、息子Orestesが二人とも殺して仇を討ったと明かされ、Telemachusは母殺しに愕然とする。王座を空けておくには悪い時代だという話から、Menelausは、客人を殺さずにZeus’s lawを破らずに求婚者を追い出す道を示唆する。Telemachusは自分が王位につくしかないと悟る。これは会ったこともない父のための話ではない、とMenelausは言う。
場面18
Ogygia ── Sirensの記憶が開く
Ogygia現在
- Calypso
- Odysseus
- 転換Ogygia――CalypsoがSirensの記憶を引き出す
Ogygia。Calypsoは思い出さなければならないと迫る。Odysseusは拒むが、Calypsoは彼が古い船の残骸を集めて筏を作っていることを指摘する。OdysseusはSirensと呟く。
場面19
Sirens ── 欲望と喪失の歌
Odysseusの記憶
- Odysseus
- Eurylochus
- 回想Sirensの海域へ
回想。Sirensの海域に入る前、Odysseusは兵の耳に蝋を詰めさせ、自分だけは歌を聞くために帆柱に縛らせる。生き残った者はいないという警告に、だから自分が最初になると答える。後にEurylochusがどんな歌だったかと尋ね、Odysseusは自分が望んでいたすべてだったと言う。歌が彼に何を言ったかが、ここで語られ始める。
場面20
CharybdisとScylla ── 六人を失う選択
Odysseusの記憶
- Polites
- Eurylochus
- Odysseus
- Antiphates
- 回想Charybdis
- 回想Scyllaの襲撃
回想。沖合の白波の正体は渦潮Charybdisだった。Odysseusは狭い峡谷を避けて渦を横切らせ、船は辛うじて抜けるが、Scyllaが兵を奪う。Odysseusがそれを知っていて黙っていたことが分かり、Eurylochusは言っていれば死なずに済んだと責める。Odysseusは言っていれば全員が死んでいたと答え、そう決める権利が自分にはあったと言い切る。Tiresiasが他に何を言ったのかと問われる。
場面21
Thrinacia ── Heliosの牛と乗組員の破滅
Odysseusの記憶
- Eurylochus
- Odysseus
- Calypso
- Athena
- 回想Thrinaciaへ上陸するかをめぐる対立
- 回想OgygiaのCalypsoの声が回想映像に重なる
- 回想飢餓の末、乗組員がHeliosの牛を殺したことが判明
- 展開Athenaとの対話
- 回想Eurylochusの声
- 回想海へ出た直後、嵐に襲われる
回想。修理と休息を求めるEurylochusに押され、一行は太陽神の島に入る。Odysseusは牛を屠れば全員死ぬと誓わせ、兵たちは長く約束を守るが、食料が尽きて牛を殺して食べる。問い詰めるOdysseusと、Athenaとの対話が重ねられ、Athenaは死が彼の失敗ではなく彼ら自身の失敗だとしたら、と問いかけ、なぜすべての責任を自分のものとするのかと迫る。凪に誘われて海へ出た直後、嵐が船を砕く。Odysseusは仲間がどうなったか分からない、と語りを結ぶ。
場面22
Ogygia ── 七年間の告白と「制御を手放す」教え
Ogygia現在
- Calypso
- Odysseus
- 現在へOgygiaの現在へ戻る
Ogygia。Calypsoは、彼が壊れた船の一部とともに一人で流れ着いたこと、自分を失ったままの彼を見ていたことを明かす。Odysseusは何年かを問い詰め、七年と聞いて、蓮で監禁していたのかと怒る。Calypsoは命を救ったのだと答える。流れ着いたとき彼が握りしめていたものが示され、OdysseusはPenelopeの名を口にする。Calypsoは、自分の運命を自分で支配しなければ気が済まない男だと言い、制御を手放して嵐に身を委ねよと教えて送り出す。
原典・神話・歴史背景の詳細補足
ここからは台本本文そのものではありません。 原典比較・神話伝承・歴史考古学・翻訳上の注意を補うための解説です。台本に明示されない内容は、本文と区別して読めるようにしています。
注1 Melantho
原典の Melantho(Melantho) は、Penelopeに育てられながら主人を裏切る侍女で、求婚者側につく人物である。原典では求婚者Eurymachusとの関係が示されるが、映画ではAntinousの愛人として再配置され、Penelopeの織物の秘密とTelemachusの不在を漏らす情報源になっている。
注2 Sirensの歌――原典と映画の決定的な違い
原典第12歌でも、Odysseusは部下の耳を蝋で塞ぎ、自分だけを帆柱に縛らせてSirensの歌を聞く。ここは映画が原典の行動をかなり忠実に残した部分である。
ただし、歌の内容は大きく異なる。HomerのSirensはOdysseusを名指しし、Troyでギリシア人とTroy人が経験した苦難を知っていること、さらに大地で起きるあらゆることを知っていることを餌に彼を誘う。つまり原典の誘惑の中心は「知識」と「自分の英雄物語を完全に理解してくれる声」である。
映画版ではそれが、より心理的・自己破壊的な誘惑へ変わる。歌は「最も欲しいもの=失ってしまったもの」を突きつけ、「守れなかった約束」を列挙し、最終的に 『本当は故郷へ帰りたくない』 とOdysseus自身に認めさせようとする。したがって本作のSirensは単なる魅惑ではなく、罪悪感・回避・自己破壊願望を言語化する存在として描かれている。
注3 「聞けば死にたくなる歌」なのか
この脚本本文に限れば、Sirensが直接「死ね」と歌うとは書かれていない。危険なのは、聞き手の最深部にある欲望と喪失を結びつけ、そこへ近づくこと以外に耐えられなくする点である。
Odysseusの比喩――「皮膚の下にあって掻けない痒み」――は、欲望が充足不能であること自体を苦痛へ変える。映像で彼が死にそうなほど苦しむ場合、それはこの 接近衝動と、取り戻せないものへの絶望 を身体化した演出と読むのが脚本には最も忠実である。
注4 ScyllaとCharybdis
原典でも、Charybdisを選べば船全体を失いかねず、Scyllaのそばを通れば六人を奪われる。Circeは実質的に「六人を失って全員を救え」と助言する。
さらに原典のOdysseusは、恐怖で漕げなくなることを避けるため、Scyllaについて部下に完全には説明しない。映画のEurylochusによる「知っていたのに言わなかったのか」という追及は、この原典の倫理的問題を正面から台詞化したものになっている。
注5 太陽神Heliosの牛
原典では、Thrinacia島の牛は Helios の所有物。部下たちは飢餓に耐えきれず、Odysseusがその場を離れている間にEurylochusの提案で牛を屠る。HeliosはZeusに処罰を要求し、船は雷撃で破壊され、Odysseusだけが生き残る。
映画は「上陸するな」という指揮官の命令と「飢えるくらいなら危険を選ぶ」という部下の集団意思を強調し、災厄を神罰であると同時に、指揮系統崩壊の結果として描いている。
注6 Calypsoの七年間
OdysseusがOgygia島でCalypsoに長期間留められること、そして最終的に筏で島を出ることは原典の主要設定である。映画はそこへロートスによる記憶障害を加え、関係を明確に「本人の意思に反する拘束」として描写する。
原典のCalypsoはOdysseusに不死まで提案するが、Odysseusは有限の人間であるPenelopeと故郷を選ぶ。本作でも「永遠は神々のものだ」という台詞に、この対立が圧縮されている。
注7 Odysseusの中心的欠点――「すべてを自分で支配したい」
この映画では、Odysseusの欠点が単なる傲慢さではなく、すべての結果を自分の責任として引き受け、すべてを知性と意志で制御しようとすることとして一貫して描かれる。
Athenaの「なぜ、すべての責任を自分のものだと主張するの?」と、Calypsoの「支配するのをやめて、嵐に身を委ねなさい」は同じ主題の表裏である。このため彼の最終的な帰還には、策略だけでなく「制御を放棄すること」が必要になる。