Note 10 — 第だい4篇へん

The Odyssey ── 第だい3部ぶ [ Sparta、漂流ひょうりゅう、Circe ]

第だい3部ぶは、Spartaで語かたられる英雄えいゆうの歌うたと、漂流ひょうりゅうの中なかで揺ゆらぐ指揮しき権けんを並ならべる。Circeは魔法まほうで兵へいを獣けものにするのではなく、兵へいの本性ほんしょうを指ささす者ものとして読よみ替かえられている。

全ぜん 5 節せつ図版ずはん 3出典しゅってん 0初出しょしゅつ 2026-09-28更新こうしん 2026-09-28

第だい3部ぶ ── Sparta、漂流ひょうりゅう、Circe

原本げんぽん L726–L996発話はつわ 136場面ばめん 09〜11

第3部の場面の並び場面09Telemachusの旅43発話場面10Odysseusの記憶22発話場面11Odysseusの記憶71発話色=主な時間層 幅=発話数 赤い刻み=場面の中の切り替わり(回想・現在・並行)の数
図ず 01第だい3部ぶの3場面ばめん。幅はばは発話はつわ数すう(この部ぶの合計ごうけい136)。
  1. 09Sparta ── MenelausとHelen、Trojan Horseの内側うちがわTelemachusの旅たび
  2. 10漂流ひょうりゅうとLaestrygonians ── 指揮しき権けんの揺ゆらぎOdysseusの記憶きおく
  3. 11Circe ── 兵士へいしたちの本性ほんしょうとHadesへの道みちOdysseusの記憶きおく

場面ばめん09

Sparta ── MenelausとHelen、Trojan Horseの内側うちがわ

Telemachusの旅たび+Troy回想かいそう

原本げんぽん
L726–L810
発話はつわ
43
第だい3部ぶ
1/3
  • Telemachus
  • Mentor
  • 執しつ事こと
  • Menelaus
  • Helen
  • Sinon
  • 群衆ぐんしゅう
  • Troy兵へい
  • Odysseus
  • Calypso
  1. 回想かいそうTrojan Horseの内部ないぶ
  2. 現在げんざいへSpartaの宴うたげへ戻もどる
  3. 転換てんかんOgygia――Calypsoが記憶きおくをさらに促うながす

TelemachusとMentorはSpartaの宴うたげに迎むかえられる。Menelausは客きゃくとして二人ふたりを座すわらせ、Troyで死しんだ英雄えいゆうたちの名なを挙あげ、木き馬うまの中なかで何なに日ひも耐たえた記憶きおくを語かたる。回想かいそうの中なかで、Sinonの「Athenaへの贈おくり物もの」という声こえと、燃もやせと叫さけぶ群衆ぐんしゅうが聞きこえる。Helenは戦争せんそうの「正義せいぎ」に皮肉ひにくを差さし挟はさみ、Agamemnonの帰き国こくとClytemnestraの話はなしへ触ふれかけてMenelausに止とめられる。Menelausはどんな牢獄ろうごくならあの男おとこを閉とじ込こめておけるのかと呟つぶやき、場面ばめんはOgygiaのCalypsoへ短みじかく切きり替かわる。

  • Trojan Horse
  • 歌うた
  • Zeus’s law
  • 記憶きおく

場面ばめん10

漂流ひょうりゅうとLaestrygonians ── 指揮しき権けんの揺ゆらぎ

Odysseusの記憶きおく

原本げんぽん
L812–L854
発話はつわ
22
第だい3部ぶ
2/3
  • Odysseus
  • Eurylochus
  1. 回想かいそうPoseidonの嵐あらしの後あと、さらに航路こうろを失うしなう
  2. 回想かいそう未知みちの土地とち/Laestrygoniansとの遭遇そうぐう

回想かいそう。Poseidonの嵐あらしが次々つぎつぎに一行いちぎょうを航路こうろから押おし流ながし、兵へいたちはOdysseusが海うみの神かみを怒おこらせたと確信かくしんしていく。未知みちの土地とちで出会であった巨大きょだいな「子供こども」とその親おやから逃にげる一方いっぽう、Odysseusは当あてもなく外そと海うみへ出でられるほど食料しょくりょうがないとして上陸じょうりくを続つづけようとする。Eurylochusは生いき残のこった全員ぜんいんの総そう意いとして、Odysseusに船ふねに残のこれと迫せまる。反はん乱らんかと問とわれ、「それを決きめるのはあなただ」と返かえす。Odysseusは弓ゆみを渡わたして夕ゆう食しょくの確保かくほを約束やくそくする。

  • 制御せいぎょ
  • 食事しょくじ
  • 弓ゆみ
Eurylochusの異議が強くなっていく強い弱い場面06食料は足りるか、危険では場面07なぜあの矢を射たのか場面10船に残れ ── 全員の総意だ場面11魔女を生かすのか場面20知っていて黙っていたのか場面21島へ入港する高さはこのノートでの読み(強さの目安)。台詞の内容は要約。
図ず 02副ふく官かんEurylochusの異議いぎは、問といかけから総そう意いの突つきつけ、そして命令めいれいへの反はん抗こうへと強つよくなる。最後さいごのThrinaciaで、指揮しき系統けいとうは崩くずれる(第だい5部ぶ 注ちゅう5)。

場面ばめん11

Circe ── 兵士へいしたちの本性ほんしょうとHadesへの道みち

Odysseusの記憶きおく

原本げんぽん
L856–L996
発話はつわ
71
第だい3部ぶ
3/3
  • Eurylochus
  • 女おんな
  • Circe
  • Odysseus
  • Antiphates
  1. 転換てんかん上陸じょうりく隊たいとCirceの接触せっしょく
  2. 交差こうさOdysseus側がわ――帰きらない上陸じょうりく隊たいを探さがす
  3. 転換てんかんOdysseus、Circeの住じゅうまいへ

上陸じょうりく隊たいを率ひきいるEurylochusは、怯おびえる女おんなCirceに食事しょくじでもてなされ、武器ぶきと鎧よろいを置おいて食卓しょくたくにつく。帰きらない上陸じょうりく隊たいを探さがすOdysseusはCirceの住じゅうまいで彼女かのじょと腹はらを探もとむり合あい、カラスを人ひと質しつに短たん剣けんを突つきつける。Circeは兵へいを何なんにも変かえていない、卑いやしく醜みにくく本ほん能のうのままというのが彼かれらの本性ほんしょうだと言いい返かえし、兵へいたちが彼女かのじょを傷きずつけようとしたことが示しめされる。Odysseusは謝罪しゃざいし、帰かえる道みちを尋たずねる。Circeは、道みちを知しるのはHadesにいる盲目もうもくのTiresiasだけだと告つげ、火ひの川かわと氷こおりの川かわが出会であう所しょで溝みぞを掘ほり、生贄いけにえの血ちで死者ししゃを集あつめよと教おしえる。Odysseusは神々かみがみに逆さからうと言いう。

  • 食事しょくじ
  • 制御せいぎょ
  • 死者ししゃ
Circeの場面の反転原典(第10歌)薬を混ぜた食事と魔法兵を豚に「変える」Hermesの薬草molyが魔法を防ぐCirceを屈服させ、人に戻させる映画食事でもてなす「何にも変えていない」と言う卑しく醜く本能のまま ── それが本性兵が彼女を傷つけようとしていたと示される豚化は魔法から、指揮官の責任を突きつける比喩へ(第3部 注5)。
図ず 03Circeの場面ばめんの反転はんてん。原典げんてんでは魔女まじょの力ちからが兵へいを獣けものにするが、映画えいがでは兵へいがもともと獣けものだった、という主張しゅちょうに置おき換かわる。

原典げんてん・神話しんわ・歴史れきし背景はいけいの詳細しょうさい補足ほそく

ここからは台だい本ほん本文ほんぶんそのものではありません。 原典げんてん比較ひかく・神話しんわ伝承でんしょう・歴史れきし考古学こうこがく・翻訳ほんやく上じょうの注意ちゅういを補おぎなうための解説かいせつです。台だい本ほんに明示めいじされない内容ないようは、本文ほんぶんと区別くべつして読よめるようにしています。

注ちゅう1 TelemachusのSparta訪問ほうもん

原典げんてんでもTelemachusは父ちちの消息しょうそくを求もとめ、MenelausとHelenのいるSpartaを訪おとずれる。ただし『Odyssey』第だい3~4歌うたでは、まずPylosでネストルを訪たずね、その後ごSpartaへ向むかう。映画えいがはこの経路けいろを圧縮あっしゅくしている。

MenelausとHelenが若わかいTelemachusにOdysseusの才さい知ちを語かたる構造こうぞうそのものは原典げんてんに強つよく由来ゆらいする。

注ちゅう2 「千隻せんせきの船ふねを出航しゅっこうさせた顔かお」

英語圏えいごけんで極きわめて有名ゆうめいな “the face that launched a thousand ships” はHomer本文ほんぶんそのものの表現ひょうげんではなく、16世紀末せいきまつのクリストファー・マーロウ『フォースタス博士はかせ』によって有名ゆうめいになった言いい回まわしである。

映画えいがのMenelausが「今いまなら五百隻ごひゃくせきくらい」と続つづけるのは、長ながい戦争せんそうと年月としつきによるHelenの老おいを夫おっと自身じしんが皮肉ひにくる、かなり現代的げんだいてきで黒くろいユーモアになっている。

注ちゅう3 「木き馬うまの中なかから見みた戦争せんそう」

Trojan Horseは『Iliad』本編ほんぺんには登場とうじょうしない。『Odyssey』では木き馬うまの功績こうせきが回想かいそうされるが、映画えいがのように「何なに日ひも排泄物はいせつぶつの中なかで耐たえ、満潮まんちょうで死人しにんが出でる」という極端きょくたんに物質的ぶっしつてきな描写びょうしゃは独自どくじ脚あし色いろである。

SinonがTroy人ひとを欺あざむく詳細しょうさいな物語ものがたりは、後世こうせいでは特とくにVirgil『Aeneid』第だい2巻にかんによって有名ゆうめいになった。本作ほんさくは複数ふくすうの古典こてん伝承でんしょうを混合こんごうしている。

注ちゅう4 Laestrygonians族ぞく

巨大きょだいな「子供こども」とその親おやから逃にげる場面ばめんは、原典げんてん第だい10歌うたの Laestrygonians族ぞく(Laestrygonians) に相当そうとうする。原典げんてんでは人ひと食しょくいの巨人きょじんたちが港こうに入はいった船ふねを岩いわで破壊はかいし、Odysseusの船ふね一隻いっせきだけが逃にげ延のびる。

映画えいがでは具体的ぐたいてきな種しゅ族ぞく名めいを台詞せりふで説明せつめいせず、視覚的しかくてきな恐怖きょうふと「またも補給地ほきゅうち選えらびを誤あやまった指揮官しきかん」という側面そくめんを重おもくしている。

注ちゅう5 Circeの豚ぶた――「変身へんしん」から「本性ほんしょうの露呈ろてい」へ

原典げんてん第だい10歌うたでは、Circeが薬くすりを混まぜた食事しょくじと魔法まほうによってOdysseusの部下ぶかを豚ぶたに変かえる。ヘルメスがOdysseusに魔法まほうを防ふせぐ薬くすり草くさ moly(魔法まほうを防ふせぐ薬くすり草くさ) を与あたえ、彼かれはCirceを屈服くっぷくさせて仲間なかまを人間にんげんへ戻もどさせる。

映画えいが版はんは、この構図こうずを大おおきく改変かいへんしている。Circeは「私わたしは彼かれらを何なんにも変かえていない。これが本当ほんとうの姿すがただ」と主張しゅちょうし、戦争せんそう中ちゅうの強姦ごうかん・略奪りゃくだつ・集団しゅうだん暴力ぼうりょくを「文明ぶんめい人ひとという仮面かめんの下したの獣けもの性せい」として可視化かしかする。したがって豚ぶた化かは単たんなる魔法まほうではなく、Odysseusの指揮しき責任せきにんを突つきつける比喩ひゆとして再さい解釈かいしゃくされている。

注ちゅう6 Circeと冥府行めいふこう

CirceがTiresiasの予言よげんを求もとめて冥府めいふへ行いくよう指示しじする骨格こっかくは原典げんてんと一致いっちする。ただし「火ひの川かわと氷こおりの川かわの合流ごうりゅう点てん」など映像えいぞう的てきな地理ちり描写びょうしゃは映画えいが側がわの再構成さいこうせいが強つよい。

原典げんてんでも、死者ししゃを呼よび寄よせるため穴あなを掘ほり、供物くもつと血ちを注ちゅうぎ、死者ししゃがその血ちを飲のむことで語かたるという儀ぎ礼れいが描えがかれる。


訳語やくごメモ

  • Circe:Circe
  • Tiresias:Tiresias
  • Hades:文脈ぶんみゃくにより「Hades/冥府めいふ」。台詞せりふの “hell” は人物じんぶつの感情かんじょうを優先ゆうせんして「地獄じごく」と訳やくした。
  • Laestrygonians:Laestrygonians族ぞく(このPhaseでは台詞せりふ中ちゅうに名称めいしょうなし)