The Odyssey ── 第3部 [ Sparta、漂流、Circe ]
第3部は、Spartaで語られる英雄の歌と、漂流の中で揺らぐ指揮権を並べる。Circeは魔法で兵を獣にするのではなく、兵の本性を指さす者として読み替えられている。
第3部 ── Sparta、漂流、Circe
場面09
Sparta ── MenelausとHelen、Trojan Horseの内側
Telemachusの旅+Troy回想
- Telemachus
- Mentor
- 執事
- Menelaus
- Helen
- Sinon
- 群衆
- Troy兵
- Odysseus
- Calypso
- 回想Trojan Horseの内部
- 現在へSpartaの宴へ戻る
- 転換Ogygia――Calypsoが記憶をさらに促す
TelemachusとMentorはSpartaの宴に迎えられる。Menelausは客として二人を座らせ、Troyで死んだ英雄たちの名を挙げ、木馬の中で何日も耐えた記憶を語る。回想の中で、Sinonの「Athenaへの贈り物」という声と、燃やせと叫ぶ群衆が聞こえる。Helenは戦争の「正義」に皮肉を差し挟み、Agamemnonの帰国とClytemnestraの話へ触れかけてMenelausに止められる。Menelausはどんな牢獄ならあの男を閉じ込めておけるのかと呟き、場面はOgygiaのCalypsoへ短く切り替わる。
場面10
漂流とLaestrygonians ── 指揮権の揺らぎ
Odysseusの記憶
- Odysseus
- Eurylochus
- 回想Poseidonの嵐の後、さらに航路を失う
- 回想未知の土地/Laestrygoniansとの遭遇
回想。Poseidonの嵐が次々に一行を航路から押し流し、兵たちはOdysseusが海の神を怒らせたと確信していく。未知の土地で出会った巨大な「子供」とその親から逃げる一方、Odysseusは当てもなく外海へ出られるほど食料がないとして上陸を続けようとする。Eurylochusは生き残った全員の総意として、Odysseusに船に残れと迫る。反乱かと問われ、「それを決めるのはあなただ」と返す。Odysseusは弓を渡して夕食の確保を約束する。
場面11
Circe ── 兵士たちの本性とHadesへの道
Odysseusの記憶
- Eurylochus
- 女
- Circe
- Odysseus
- Antiphates
- 転換上陸隊とCirceの接触
- 交差Odysseus側――帰らない上陸隊を探す
- 転換Odysseus、Circeの住まいへ
上陸隊を率いるEurylochusは、怯える女Circeに食事でもてなされ、武器と鎧を置いて食卓につく。帰らない上陸隊を探すOdysseusはCirceの住まいで彼女と腹を探り合い、カラスを人質に短剣を突きつける。Circeは兵を何にも変えていない、卑しく醜く本能のままというのが彼らの本性だと言い返し、兵たちが彼女を傷つけようとしたことが示される。Odysseusは謝罪し、帰る道を尋ねる。Circeは、道を知るのはHadesにいる盲目のTiresiasだけだと告げ、火の川と氷の川が出会う所で溝を掘り、生贄の血で死者を集めよと教える。Odysseusは神々に逆らうと言う。
原典・神話・歴史背景の詳細補足
ここからは台本本文そのものではありません。 原典比較・神話伝承・歴史考古学・翻訳上の注意を補うための解説です。台本に明示されない内容は、本文と区別して読めるようにしています。
注1 TelemachusのSparta訪問
原典でもTelemachusは父の消息を求め、MenelausとHelenのいるSpartaを訪れる。ただし『Odyssey』第3~4歌では、まずPylosでネストルを訪ね、その後Spartaへ向かう。映画はこの経路を圧縮している。
MenelausとHelenが若いTelemachusにOdysseusの才知を語る構造そのものは原典に強く由来する。
注2 「千隻の船を出航させた顔」
英語圏で極めて有名な “the face that launched a thousand ships” はHomer本文そのものの表現ではなく、16世紀末のクリストファー・マーロウ『フォースタス博士』によって有名になった言い回しである。
映画のMenelausが「今なら五百隻くらい」と続けるのは、長い戦争と年月によるHelenの老いを夫自身が皮肉る、かなり現代的で黒いユーモアになっている。
注3 「木馬の中から見た戦争」
Trojan Horseは『Iliad』本編には登場しない。『Odyssey』では木馬の功績が回想されるが、映画のように「何日も排泄物の中で耐え、満潮で死人が出る」という極端に物質的な描写は独自脚色である。
SinonがTroy人を欺く詳細な物語は、後世では特にVirgil『Aeneid』第2巻によって有名になった。本作は複数の古典伝承を混合している。
注4 Laestrygonians族
巨大な「子供」とその親から逃げる場面は、原典第10歌の Laestrygonians族(Laestrygonians) に相当する。原典では人食いの巨人たちが港に入った船を岩で破壊し、Odysseusの船一隻だけが逃げ延びる。
映画では具体的な種族名を台詞で説明せず、視覚的な恐怖と「またも補給地選びを誤った指揮官」という側面を重くしている。
注5 Circeの豚――「変身」から「本性の露呈」へ
原典第10歌では、Circeが薬を混ぜた食事と魔法によってOdysseusの部下を豚に変える。ヘルメスがOdysseusに魔法を防ぐ薬草 moly(魔法を防ぐ薬草) を与え、彼はCirceを屈服させて仲間を人間へ戻させる。
映画版は、この構図を大きく改変している。Circeは「私は彼らを何にも変えていない。これが本当の姿だ」と主張し、戦争中の強姦・略奪・集団暴力を「文明人という仮面の下の獣性」として可視化する。したがって豚化は単なる魔法ではなく、Odysseusの指揮責任を突きつける比喩として再解釈されている。
注6 Circeと冥府行
CirceがTiresiasの予言を求めて冥府へ行くよう指示する骨格は原典と一致する。ただし「火の川と氷の川の合流点」など映像的な地理描写は映画側の再構成が強い。
原典でも、死者を呼び寄せるため穴を掘り、供物と血を注ぎ、死者がその血を飲むことで語るという儀礼が描かれる。
訳語メモ
- Circe:Circe
- Tiresias:Tiresias
- Hades:文脈により「Hades/冥府」。台詞の “hell” は人物の感情を優先して「地獄」と訳した。
- Laestrygonians:Laestrygonians族(このPhaseでは台詞中に名称なし)