Note 10 — 第だい5篇へん

The Odyssey ── 第だい4部ぶ [ HadesとTiresias ]

第だい4部ぶの冥界めいかいは、過去かこ(Sinon)・教訓きょうくん(Agamemnon)・未来みらい(Tiresias)を一度いちどに突つきつける場所ばしょである。Odysseusはここで、全員ぜんいんを救すくうという誓ちかいを立たててしまう。

全ぜん 6 節せつ図版ずはん 3出典しゅってん 0初出しょしゅつ 2026-09-28更新こうしん 2026-09-28

第だい4部ぶ ── HadesとTiresias

原本げんぽん L998–L1154発話はつわ 79場面ばめん 12〜15

第4部の場面の並び場面12冥界42発話場面13冥界14発話場面14冥界18発話場面15Ogygiaの現在5発話色=主な時間層 幅=発話数 赤い刻み=場面の中の切り替わり(回想・現在・並行)の数
図ず 01第だい4部ぶの4場面ばめん。幅はばは発話はつわ数すう(この部ぶの合計ごうけい79)。
  1. 12Hades ── Sinonとの再会さいかい冥界めいかい
  2. 13Hades ── Agamemnonの失敗しっぱいした帰還きかん冥界めいかい
  3. 14Tiresiasの予言よげん ── 六ろく人ひとか、全員ぜんいんか冥界めいかい
  4. 15Ogygia ── 再ふたたび蓮はすの花はなへOgygiaの現在げんざい

場面ばめん12

Hades ── Sinonとの再会さいかい

冥界めいかい

原本げんぽん
L998–L1080
発話はつわ
42
第だい4部ぶ
1/4
  • Odysseus
  • 老人ろうじんの声こえ
  • Tiresias
  • Sinon

Hades。溝みぞに集あつまった死者ししゃの中なかにSinonがいる。Tiresiasの声こえに従したがって血ちを飲のませると、Sinonは語かたり出だす。Troyの前まえで、Odysseusは木き馬うまの嘘うそをSinon自身じしんに信しんじさせる必要ひつようがあったこと、Sinonが徴兵ちょうへいされたAntinousの身代みがわりになり、Antinousはその見返みかえりにSinonの家族かぞくへ金かねを払はらうと約束やくそくしたことが確たしかめられる。Sinonは嘘うそのために死しんだと責せめ、Antinousは約束やくそくを破やぶったはずだ、Ithacaの妻子さいしを守まもっているのは誰だれかと問とう。最後さいごに、埋葬まいそうしてくれた礼れいを言いい、籤くじをまだ持もっているかと尋たずね、帰かえれたらAntinousに彼かれ自身じしんの恥はじを返かえしてやれと頼たのむ。

  • 死者ししゃ
  • 籤くじ
  • Trojan Horse

場面ばめん13

Hades ── Agamemnonの失敗しっぱいした帰還きかん

冥界めいかい+Agamemnonの回想かいそう

原本げんぽん
L1082–L1110
発話はつわ
14
第だい4部ぶ
2/4
  • Odysseus
  • Agamemnon
  1. 転換てんかんAgamemnonの亡霊ぼうれいが現あらわれる
  2. 回想かいそう故郷こきょうでの帰還きかんと殺害さつがい

Agamemnonの亡霊ぼうれいが現あらわれる。海うみに流ながされたのではなく、帰き国こくして美うつくしい妻つまに迎むかえられ、洗あらわれ、油あぶらを塗ぬられ、警戒けいかいを解とかれたところで殺ころされたことが、回想かいそうと重かさねて語かたられる。彼かれは息子むすこOrestesの消息しょうそくを尋たずね、自分じぶんと同おなじ過かちを犯おかすなとOdysseusに言いい残のこす。

  • 死者ししゃ
  • 正体しょうたい
冥界の三つの出会い場面12Sinon過去の罪木馬の嘘のために死んだAntinousの身代わりだった籤を持っているか恥を返してやれ場面13Agamemnon帰還の教訓迎えられ、洗われ、殺されたOrestesの消息を問う同じ過ちは犯すな→ 終盤の変装へ(注4)場面14Tiresias未来の予言SirensCharybdisかScyllaか太陽神の牛の島神々からは救えても、自分自身からはこの冥界には、埋葬されなかった部下たちの亡霊も迫ってくる(場面14)。
図ず 02Hadesで出会であう三人さんにんは、それぞれ過去かこ・教訓きょうくん・未来みらいを担になう。原典げんてんの冥府めいふで最初さいしょに葬送そうそうを求もとめるのはElpenorで、Sinonは現あらわれない(第だい4部ぶ 注ちゅう2)。

場面ばめん14

Tiresiasの予言よげん ── 六ろく人ひとか、全員ぜんいんか

冥界めいかい

原本げんぽん
L1110–L1144
発話はつわ
18
第だい4部ぶ
3/4
  • Tiresias
  • Odysseus
  • 漕こぎ手てたち
  • Eurylochus
  1. 現在げんざいへTiresiasの予言よげん
  2. 展開てんかい埋葬まいそうされなかった乗組員のりくみいんの亡霊ぼうれいたちが迫せまる
  3. 展開てんかいOdysseus一行いちぎょうがHadesから漕こぎ去さる

Tiresiasが帰路きろの予言よげんを与あたえる。Sirens、CharybdisとScyllaの選択せんたく、そして飢うえと反はん乱らんの末すえに兵へいが太陽たいよう神かみの牛うしの島しまへ上陸じょうりくを求もとめること。Odysseusは耳みみを蝋ろうで塞ふさぐ、必要ひつようなことは何なにでもする、止とめると答こたえ続つづけるが、Tiresiasは、まだ生いきている者ものを神々かみがみからは救すくえても、彼かれら自身じしんからは救すくえないと突つき放はなす。そこへ埋葬まいそうされなかった部下ぶかたちの亡霊ぼうれいが迫せまり、一行いちぎょうはHadesから漕こぎ出だす。漕こぎ手てはSinonを見みたと叫さけぶ。

  • 死者ししゃ
  • 制御せいぎょ
Tiresiasの予言の分かれ道Sirens耳を蝋で塞ぐCharybdis渦潮 ── 船ごとScylla六人を奪われる太陽神の牛の島飢えと反乱牛を屠らない全員が帰れる道牛を屠る一人だけが帰る予言(場面14)最後に Tiresias は、帰ったあとの使命として「西へ行き、死者を敬え」を与える。原典の最終予言は「櫂を担いで内陸へ、Poseidonに供犠せよ」。映画はこれを西への旅に変えた(第4部 注6)。
図ず 03Tiresiasの予言よげんを分わかれ道みちとして描えがいた。Odysseusは「六ろく人ひとか、全員ぜんいんか」の問といに、どの分岐ぶんきでも全員ぜんいんを救すくうと答こたえ続つづける。

場面ばめん15

Ogygia ── 再ふたたび蓮はすの花はなへ

Ogygia現在げんざい

原本げんぽん
L1146–L1154
発話はつわ
5
第だい4部ぶ
4/4
  • Calypso
  • Odysseus
  1. 現在げんざいへOgygiaの現在げんざいへ戻もどる

Ogygia。Calypsoは眠ねむれるようにと蓮はすの花はなを勧すすめ、Odysseusは食たべるなと言いったはずだと抗こうう。家族かぞく、妻つまという言葉ことばが浮うかび、私わたしには妻つまがいるのかという声こえで場面ばめんが終おわる。

  • 記憶きおく
  • 食事しょくじ

原典げんてん・神話しんわ・歴史れきし背景はいけいの詳細しょうさい補足ほそく

ここからは台だい本ほん本文ほんぶんそのものではありません。 原典げんてん比較ひかく・神話しんわ伝承でんしょう・歴史れきし考古学こうこがく・翻訳ほんやく上じょうの注意ちゅういを補おぎなうための解説かいせつです。台だい本ほんに明示めいじされない内容ないようは、本文ほんぶんと区別くべつして読よめるようにしています。

注ちゅう1 『Odyssey』第だい11歌うた「冥府下めいふくだり」

原典げんてんでもOdysseusは死者ししゃの国くにへ赴おもむき、予言よげん者しゃTiresiasから帰還きかんについての助言じょげんを得える。死者ししゃに血ちを飲のませることで発話はつわさせる儀ぎ礼れいも原典げんてんの重要じゅうような要素ようそである。

ただし、映画えいがでは冥府めいふがOdysseusの 戦争せんそう責任せきにん・指揮しき責任せきにん・埋葬まいそうできなかった部下ぶかへの罪悪ざいあく感かんを裁さばく空間くうかん として大幅おおはばに再さい設計せっけいされている。

注ちゅう2 Sinonは原典げんてん『Odyssey』の冥府めいふには現あらわれない

Homer第だい11歌うたで最初さいしょに重要じゅうような役割やくわりを果はたす死者ししゃの一人ひとりは Elpenor である。彼かれはCirceの島しまで事故じこ死ししたのに埋葬まいそうされないままになっており、Odysseusに葬送そうそうを要求ようきゅうする。

映画えいがはこの「埋葬まいそうされない死者ししゃ」の主題しゅだいをSinonや多数たすうの戦せん死者ししゃへ拡大かくだいし、Odysseusが「勝利しょうりのために使つかい捨すてた者ものたち」と向むき合あう場面ばめんへ変かえている。

注ちゅう3 Agamemnonの帰還きかん

原典げんてん『Odyssey』でも、Agamemnonの悲惨ひさんな帰還きかんはOdysseusへの警告けいこくとして機能きのうする。Agamemnonは帰国後きこくごに殺ころされ、その息子むすこOrestesが復讐ふくしゅうを果はたす。

ただし殺害さつがいの細部さいぶは伝承でんしょうごとに異ことなる。Homerではアイギストスの役割やくわりが非常ひじょうに大おおきく、後代こうだいのAeschylus『Agamemnon』では妻つまClytemnestra自身じしんが夫おっとを殺ころす場面ばめんが中心ちゅうしん化かされる。映画えいがは後代こうだい悲劇ひげきのイメージを強つよく取とり込こんでいる。

注ちゅう4 「正面しょうめん玄関げんかんから帰かえるな」

映画えいがではAgamemnon自身じしんが、Odysseusに「変へん装そうして帰かえり、まず状況じょうきょうを見極みきわめろ」と助言じょげんする。これは終盤しゅうばんの乞食こじきへの変へん装そうを、単たんなるAthenaの策さく略りゃくではなく、失敗しっぱいした帰還きかん者しゃAgamemnonから成功せいこうする帰還きかん者しゃOdysseusへの教訓きょうくんとして因果いんが的てきにつないでいる。

注ちゅう5 Sirens、Scylla、Charybdis、太陽たいよう神かみの牛うし

この予言よげんは主おもに原典げんてん第だい12歌うたの航路こうろを先取さきどりしている。

  • Sirens:歌うたで船ふね乗のりを惹ひきつける。
  • Charybdis:すべてを呑のみ込こむ巨大きょだいな渦うず潮しお。
  • Scylla:通過つうかする船ふねから六ろく人ひとを奪うばう怪物かいぶつ。
  • Thrinacia島しま:太陽たいよう神かみの聖せいなる牛うしを部下ぶかが殺ころし、最終的さいしゅうてきに船ふね団だんが滅ほろびる。

映画えいがは「六ろく人ひとを犠牲ぎせいにすれば全体ぜんたいが助たすかる」という選択せんたくを明示めいじし、Odysseusの最大さいだいの欠点けってんを 犠牲ぎせいを受うけ入いれられないこと/すべてを自分じぶんの責任せきにんとして制御せいぎょしようとすること に設定せっていしている。

注ちゅう6 「西にしへ行いき、死者ししゃを敬うやまえ」――Tiresiasの最終さいしゅう予言よげんの改変かいへん

原典げんてんではTiresiasは、OdysseusがIthacaへ帰還きかんした後あと、櫂かいを肩かたに担にないで海うみを知しらない人々ひとびとの土地とちまで内陸ないりくへ旅たびし、Poseidonに供犠くぎせよと予言よげんする。

映画えいがはこれを「船ふねで未知みちの西にしへ向むかい、死しんだ仲間なかまを弔とむらえ」という別べつの使命しめいに変かえている。この改変かいへんはラストのPenelopeとの西行さいぎょうへ直接ちょくせつつながる。


翻訳ほんやく上じょうの注記ちゅうき

  1. 訳やく注ちゅう1 原文げんぶんは “They slaughter Apollo’s herd.”。ただしHomer原典げんてんでThrinacia島しまの聖せい牛うしを所有しょゆうするのは Helios(Helios/太陽たいよう神かみ) である。映画えいがのプロット要約ようやく部分ぶぶんも “sacred cattle of Helios” としており、この台詞せりふの “Apollo” は脚あし本ほん上じょうの意図的いとてき融合ゆうごう、あるいは書かき起おこし上うえの誤あやまりの可能性かのうせいがあるため、本文ほんぶんでは原文げんぶんに従じゅうい「Apollo」と訳やくした。(場面ばめん 14・原本げんぽんL1122 の発話はつわへの注ちゅう)