Note 10 — 第だい7篇へん

The Odyssey ── 第だい6部ぶ [ Ithaca帰還きかんと父ちち子この接触せっしょく ]

第だい6部ぶは三本さんぼんの線せんを並行へいこうに編あみ、Pylosの神殿しんでんで一ひとつにする。父ちち子こはここで出会であうが、Odysseusは「Sinon」を名乗なのり続つづけ、息子むすこは父ちちと知しらずに共同きょうどう作戦さくせんを立たてる。

全ぜん 8 節せつ図版ずはん 2出典しゅってん 0初出しょしゅつ 2026-09-28更新こうしん 2026-09-28

第だい6部ぶ ── Ithaca帰還きかんと父ちち子この接触せっしょく

原本げんぽん L1480–L1732発話はつわ 127場面ばめん 23〜28

第6部の場面の並び場面23Ithacaの現在4発話場面24Ithacaの現在12発話場面25Telemachusの旅7発話場面26Ithacaの現在34発話場面27Ithacaの現在6発話場面28Ithacaの現在64発話色=主な時間層 幅=発話数 赤い刻み=場面の中の切り替わり(回想・現在・並行)の数
図ず 01第だい6部ぶの6場面ばめん。幅はばは発話はつわ数すう(この部ぶの合計ごうけい127)。
  1. 23Ithaca到着とうちゃく ── Athenaの確認かくにんIthacaの現在げんざい
  2. 24Eumaeusの農のう場ば ── Irus一いち味あじの襲撃しゅうげきIthacaの現在げんざい
  3. 25Sparta ── Telemachusの帰路きろTelemachusの旅たび
  4. 26OdysseusとEumaeus ── 正体しょうたいを隠かくした再会さいかいIthacaの現在げんざい
  5. 27Telemachusの帰還きかん ── 偽装ぎそう身分みぶんの準備じゅんびIthacaの現在げんざい
  6. 28Pylosの神殿しんでん ── 待まち伏ふせ、Mentorの死し、父ちち子この共闘きょうとうIthacaの現在げんざい

場面ばめん23

Ithaca到着とうちゃく ── Athenaの確認かくにん

Ithaca現在げんざい

原本げんぽん
L1480–L1486
発話はつわ
4
第だい6部ぶ
1/6
  • 女おんなの声こえ
  • Odysseus
  • Athena

女おんなの声こえに呼よばれて目めを覚さとしましたOdysseusは、自分じぶんがどこにいるのか分わからない。Athenaに自分じぶんの故郷こきょうも分わからないのかと言いわれ、ここがIthacaだと知しる。

  • 正体しょうたい
  • 目め

場面ばめん24

Eumaeusの農のう場ば ── Irus一いち味あじの襲撃しゅうげき

Ithaca現在げんざい

原本げんぽん
L1488–L1510
発話はつわ
12
第だい6部ぶ
2/6
  • Eumaeus
  • Irus
  1. 転換てんかんEumaeusの農のう場ば――Irus一いち味あじの襲撃しゅうげき

Eumaeusの農のう場ばにIrusの一いち味あじ十二じゅうに人ひとが現あらわれ、Zeusの名なで迎むかえるEumaeusに、Pylosへ行いくための食料しょくりょうと豚ぶたを要求ようきゅうする。巡じゅん礼れい者しゃかと問とわれて嘲あざけり、金かねは払はらわないと言いう。

  • Zeus’s law
  • 食事しょくじ

場面ばめん25

Sparta ── Telemachusの帰路きろ

Telemachusの現在げんざい

原本げんぽん
L1512–L1524
発話はつわ
7
第だい6部ぶ
3/6
  • Telemachus
  • Helen
  • Menelaus
  1. 並行へいこうSparta――Telemachusが帰路きろへ

Sparta。Telemachusは歓待かんたいと助言じょげんに礼れいを述のべ、帰かえるべき場所ばしょは家いえだと言いって発はつつ。Menelausは父ちちの消息しょうそくを伝つたえられなかったことを詫わびるが、Telemachusは知しらせはもらったと答こたえる。いつか父ちちに会あいたい、という声こえが重かさなる。

  • Zeus’s law
  • 正体しょうたい

場面ばめん26

OdysseusとEumaeus ── 正体しょうたいを隠かくした再会さいかい

Ithaca現在げんざい

原本げんぽん
L1526–L1592
発話はつわ
34
第だい6部ぶ
4/6
  • Odysseus
  • Eumaeus
  1. 転換てんかんIthaca――Odysseusが襲撃しゅうげき後ごのEumaeusを訪たずねる

物乞ものごいの姿すがたのOdysseusが、襲撃しゅうげきの後あと始し末まつをするEumaeusを訪たずねる。番ばん犬いぬの死し体からだが焼やかれ、Ithacaには闇やみが広ひろがっていると語かたられる。主人しゅじんの名なを聞きかれたEumaeusは、Trojan Warの英雄えいゆうという呼よび方かたを激はげしく遮さえぎる。Telemachusが帰路きろで待まち伏ふせされると聞きき、Odysseusは食料しょくりょうをもらってPylosへ先さき回まわりすると言いう。Eumaeusは厳きびしいが公正こうせいだった主人しゅじんを息子むすこのように愛あいしていたと語かたり、Odysseusはもうすぐ帰かえる、何なにもかも携たずさえて帰かえる、とだけ告つげる。

  • 正体しょうたい
  • 死者ししゃ
  • Zeus’s law

場面ばめん27

Telemachusの帰還きかん ── 偽装ぎそう身分みぶんの準備じゅんび

Ithaca現在げんざい

原本げんぽん
L1594–L1604
発話はつわ
6
第だい6部ぶ
5/6
  • Mentor
  • 船ふね長ちょう
  • Telemachus
  1. 並行へいこうTelemachus一行いちぎょう、Ithacaへ接近せっきん

Telemachusの船ふねがIthacaへ近ちかづく。Mentorは、海うみ賊ぞくに積せき荷にを奪うばわれたことにして港こうへ入はいり、自分じぶんが話はなすと段取だんどりを決きめる。Telemachusは護衛ごえいを連つれてこないほうがよかったかと迷まよい、Mentorは街まち道みちで連つれてきてよかったと思おもうはずだと答こたえる。

  • 正体しょうたい

場面ばめん28

Pylosの神殿しんでん ── 待まち伏ふせ、Mentorの死し、父ちち子この共闘きょうとう

Ithaca現在げんざい

原本げんぽん
L1606–L1732
発話はつわ
64
第だい6部ぶ
6/6
  • 物乞ものごい
  • Odysseus
  • Telemachus
  • 神官しんかん
  • Irus
  1. 転換てんかんPylos方ほう面めんの神殿しんでん――待まち伏ふせの罠わな
  2. 展開てんかいTelemachusとOdysseus、脱出だっしゅつを急いそぐ

Pylos方ほう面めんの神殿しんでん。神官しんかんを装よそおったIrusの一いち味あじが、武器ぶきを置おかせてTelemachusを迎むかえ入いれる。Eumaeusからの伝言でんごんを持もつという物乞ものごいが駆かけ込こみ、戦闘せんとうの末すえにTelemachusを救すくう。Mentorは死しに、Telemachusは遺体いたいを運はこぼうとするが、物乞ものごいは生いき延のびるために置おいていけと言いう。物乞ものごいはMentorの名なを知しっており、Telemachusはまた「Athenaの目め」を見みるが、人間にんげんの中なかに神かみを探さがすなと返かえされ、自分じぶんはSinonだと名な乗のられる。父ちちは生いきていて、すぐ近ちかくにいる、母ははには言いうな、再さい婚こんすべきだと伝つたえよ、と告つげられ、二人ふたりは求きゅう婚こん者しゃを宮殿きゅうでんの一いちか所しょに集あつめる算さん段だんを立たてる。

  • Zeus’s law
  • 正体しょうたい
  • 目め
  • 死者ししゃ
三本の線が神殿で交わるOdysseus浜で目覚める場面23Eumaeusの農場場面26神殿へ先回り場面28TelemachusSpartaを発つ場面25港へ(偽装)場面27神殿に招かれる場面28Irusの一味農場を襲う場面24神官に化ける場面28待ち伏せ場面28Pylosの神殿Mentorの死・父子の共闘Zeus’s lawを口にする者が聖域を冒涜する ── 映画の皮肉(第6部 注4)。
図ず 02第だい6部ぶは三本さんぼんの線せんを並行へいこうに編あみ、Pylosの神殿しんでんで一ひとつにする。原典げんてんの待まち伏ふせは海上かいじょうで、神殿しんでんは映画えいがの舞台ぶたい。

原典げんてん・神話しんわ・歴史れきし背景はいけいの詳細しょうさい補足ほそく

ここからは台だい本ほん本文ほんぶんそのものではありません。 原典げんてん比較ひかく・神話しんわ伝承でんしょう・歴史れきし考古学こうこがく・翻訳ほんやく上じょうの注意ちゅういを補おぎなうための解説かいせつです。台だい本ほんに明示めいじされない内容ないようは、本文ほんぶんと区別くべつして読よめるようにしています。

注ちゅう1 原典げんてんの帰還きかん経路けいろを大幅おおはばに圧縮あっしゅく

Homer原典げんてんでは、OdysseusはCalypsoの島しまを筏いかだで脱出だっしゅつした後あと、Poseidonの嵐あらしに遭あい、パイエケス人ひとの国くにスケリアへ漂ひょう着ちゃくする。ナウシカアやアルキノオス王おうの歓待かんたいを受うけ、彼かれらの船ふねによって眠ねむったままIthacaへ送おくり届とどけられる。

映画えいがはこの大おおきなエピソード群ぐんをほぼ削除さくじょし、「嵐あらしに身みを委ゆだねる」ことで直接ちょくせつIthacaへ帰還きかんさせる。これにより、Calypsoが教おしえた「制御せいぎょを手放てばなせ」という課題かだいが、そのまま帰還きかんの条件じょうけんになる。

注ちゅう2 Athenaによる乞食こじきへの変へん装そう

原典げんてんでもIthacaへ帰かえったOdysseusは、Athenaの力ちからで老おいた物乞ものごいの姿すがたに変かえられる。敵てき味方みかたを見極みきわめ、求きゅう婚こん者しゃたちの振ふる舞まいを自分じぶんの目めで確たしかめるためである。

本作ほんさくではさらに、冥府めいふでAgamemnonが「正面しょうめん玄関げんかんから英雄えいゆうとして帰かえるな。変へん装そうし、まず状況じょうきょうを見みろ」と助言じょげんしているため、この変へん装そうが神かみの策さく略りゃくだけでなく、別べつの帰還きかん英雄えいゆうの失敗しっぱいから学まなんだ戦せん術じゅつになっている。

注ちゅう3 Eumaeusは原典げんてんでは盲目もうもくではない

原典げんてんのEumaeusは、Odysseusに極きわめて忠実ちゅうじつな豚飼ぶたかいであり、帰還きかん後ごの最初さいしょの重要じゅうような味方みかたになる。ただし盲目もうもくの老人ろうじんではない。

映画えいがでは彼かれを老齢ろうれい・視覚しかく障害しょうがいのある人物じんぶつに変更へんこうし、それでも音おとだけで戦闘せんとうを教おしえ、主人しゅじんへの忠誠ちゅうせいを守まもり続つづける人物じんぶつとして造形ぞうけいしている。

注ちゅう4 Telemachusへの待まち伏ふせ

原典げんてんでも求きゅう婚こん者しゃたちは、Sparta方ほう面めんから戻もどるTelemachusを殺ころそうと待まち伏ふせを計画けいかくする。ただし主おもな舞台ぶたいは海上かいじょうであり、Pylosの神殿しんでんを占拠せんきょして偽にせ神官しんかんとして待まつという展開てんかいではない。

映画えいがはこの暗殺あんさつ計画けいかくを「Zeus’s lawを口くちにする者もの自身じしんが聖せい域いきを冒涜ぼうとくする」という皮肉ひにくへ変かえている。

注ちゅう5 Mentor

原典げんてんの Mentor(Mentor) はOdysseusの旧友きゅうゆうで、Odysseus不在ふざい時じに家いえを託たくされた人物じんぶつ。ただし物語ものがたり上じょうさらに重要じゅうようなのは、AthenaがたびたびMentorの姿すがたを借かりてTelemachusを導みちびくことである。

映画えいがでは「実在じつざいする師し」と「Athenaだったのではないかという疑うたがい」を重かさね、その人物じんぶつをここで死しなせる。Mentorがこの場面ばめんで死亡しぼうするのは映画えいが独自どくじの展開てんかいである。

注ちゅう6 父ちち子この再会さいかいを意図的いとてきに遅おくらせる改変かいへん

原典げんてんでは、OdysseusとTelemachusはEumaeusの小屋こやで再会さいかいし、Athenaが変へん装そうを解とくことで父ちち子ことして互たがいを認識にんしきし、その場ばで求きゅう婚こん者しゃ殺害さつがいの計画けいかくを立たてる。

映画えいがではOdysseusが 「Sinon」 を名乗なのり続つづけ、息子むすこに「父ちちは近ちかくにいる」とだけ伝つたえる。これによってTelemachusは、父ちちそのものに従したがうのではなく、知しらず知しらず父ちちと共同きょうどう作戦さくせんを立たてることになる。

注ちゅう7 「人間にんげんを最もっともよく見みられるのは、下したから見上みあげた時ときだ」

「人間にんげんは下したから見みたときが一番いちばんよく見みえる」という台詞せりふは、本作ほんさくの変へん装そうの思想しそうを端的たんてきに示しめす映画えいが独自どくじの表現ひょうげんである。権力者けんりょくしゃとして命令めいれいしているときには見みえない他人たにんの本性ほんしょうが、最もっとも弱よわく無価値むかちに見みえる「物乞ものごい」への態度たいどによって露あらわになる、という意味いみになっている。


翻訳ほんやく上じょうの注記ちゅうき

  1. 訳やく注ちゅう1 原文げんぶん “We burned his brothers first.” は指示しじ対象たいしょうがやや不ふ明瞭めいりょう。直前ちょくぜんの「番ばん犬いぬたち」の死し体からだを焼やいている話はなしから、犬いぬたちの一部いちぶを指さしている可能性かのうせいが高たかいが、台だい本ほんだけでは断定だんていできないため直訳ちょくやく寄よりに残のこした。(場面ばめん 26・原本げんぽんL1532 の発話はつわへの注ちゅう)